ガトランティスVSゼントラーディ 作:増えることに飽きたプラナリア
メルトランディ軍 第997基幹艦隊…通称デメテーラ艦隊の司令中枢ユニットたる「デメテーラ・ラプラミズ」は、目の前で意味不明な行動をとり始めたゼントラーディ艦隊を相手に未知の不安を感じていた
[司令官閣下 敵艦隊は以前として我らの艦隊との距離を離そうとしております]
副官の報告を聞きながら、彼女は目の前でゆっくりと後退を続けるゼントラーディ艦隊を険しい顔で睨んでいた
[しかし、敵艦隊のあの模様は、一体なんなのでしょうか?]
副官の1人が疑問を口にする。彼女が見つめるスクリーン上にはゼントラーディ艦隊の前衛が映し出されているのだが。その艦のどれにも、特徴的な…ただの一つとして同じものがないペイントが外装に施されていた
[迷彩としてすら機能はしておりません。あれでは戦術的優位性は皆無でしょう]
[皆無どころか…あれでは有視界の視認性を高めてしまっている。どう考えても−にしかならないでしょうに]
と、皆が口々に意見を述べる中、デメテーラは違うところに目をつけていた。それは戦うのではなく、距離を取るためにゆっくりと下がり続けるゼントラーディ艦隊の行動そのものだった
戦闘のために生まれた我らに後退は存在しない。にも関わらず目の前の敵はそれを行なっている。気味が悪いとしか形容できないその行為の意図を計り兼ねながらも、自らのカールチューンに刻まれた遺伝子に従って命令を下す
[全艦全速前進、射程に入り次第直ちに攻撃開始]
命令を受け、艦隊は速度を上げてゼントラーディ艦隊へと向かう。少しずつ艦隊の距離が狭まり始める
[前衛艦隊がまもなく敵艦隊を射程におさめます]
副官がそう報告を上げる。スクリーン上には可視化された双方の艦隊の射程が表示され、もうじき両者が射撃できると言うタイミングで、突如として副官が声を上げた
[わ、我が艦隊のフォールド通信ネットワークに敵艦隊が侵入しました!]
それにデメテーラが反応するよりも早く、突如として男の声が響き渡った
【敵艦隊のネットワークに侵入しました】
【敵前衛艦隊、間もなく前衛艦隊の射程内に入ります】
【記憶データの選出完了しました】
次々に副官達が己の仕事を果たしていく、私は深呼吸を一つしてから!意を決して命令を下した
【通信開始】
その言葉と共にスクリーン上に目の前のデメテーラ艦隊が通信不可を示す赤から、通信可能を示す緑に全て切り替わる
【この通信を聞く全てのメルトランディに告げる、私は群れを率いる長、カイザ・ボドルザーである。我が群れはメルトランディに対して即時の停戦を申し入れる】
決意を込めて通信を始める、しかしその通信に対しての返答は、無慈悲な艦砲だった
【くっ…! メルトランディに告げる! 直ちに戦闘を停止せよ!】
再度の要請にもメルトランディは言葉ではなく砲火を持って答える
【前衛艦隊の損耗率が1%を超えました】
【全艦艦列を維持せよ、隊列を整えて装甲の厚い戦艦を前面に展開し小型艦を後列に後退】
【全艦載機は引き続き待機せよ】
副官達は全力で艦隊の統制を取り、少しでも被害を減らそうと懸命に指揮をとり続ける
しかし仲間の死は積み上がっていく。すでに戦闘が始まってから2時間を越え、損害は一万隻に届こうとしていた
手段を選んでいる場合ではない。まずは対話の土台に相手を立たさねばならないのだと理解した私は、意を決して命令を下した
【カルチャー・アタックを開始せよ】
[で、デカルチャー……]
[これは、いったいなんなの……?]
[懐かしい…いったいなんなの、この胸の気持ちは……]
デメテーラが率いる艦隊は突如として通信回線から流された、聴いたことのない音と声…かつて私がゼントラーディたちに聞かせたのと同じ歌による影響を受けて、急速にその戦闘能力を喪失し始めていた
[くっ…! 一体なんだと言うのだ、この得体の知れない音と声は…!?]
デメテーラはこの歌を流し続けるボドルザー要塞を忌々しげに睨む
デメテーラ自身にも歌に触れたことによる変化が始まっていたが、メルトランディの司令中枢ユニットと言う立場と、その在り方がその変化を否定しようと暴れ回り、彼女の思考と感情は混乱の極みの中にあった
[ッ……! ただちに艦列を整えよ! 男どもを前に無様な混乱を見せるな!]
自分でも訳がわからないままのデメテーラの叱責が艦隊に伝えられるが。それだけで衝撃と混乱から立ち直ることはできず、一部の艦隊が攻撃しようとするも乱れた味方の艦列により誤射を恐れて攻撃できず、その間にゼントラーディ艦隊が前進を開始する
そのような体たらくを晒した味方に対し、デメテーラは再び叱責しようと口を開いたそのとき、スクリーン上にカイザの姿が映し出された
【メルトランディ艦隊に告げる。この歌が聞こえるだろう、ただちに戦闘行為を停止してくれ】
現れたカイザはデメテーラを見つめながらそうお願いする。それに対して、デメテーラはカイザを睨み上げると、激しい口調で彼を責め立てる
[ふざけるな! 我らを未知の兵器で攻撃しておきながらそのような妄言を……!!]
【これは攻撃などでは断してない、ただ我らの文化に触れてほしかっただけだ】
デメテーラの言葉を遮る形でカイザが説明するも、デメテーラは
[文化だと……?]
と、怪訝な表情で聞き返した後、続けて
[…はははっ! 自らがプロトカルチャーになったとでも言うつもりか? 全く…愚かな男らしい傲慢だな!]
と、激しくカイザを罵る。しかしカイザはそれに対して何も言うことはなく、ただ一言
【貴女も感じたはずだ、あの胸の高鳴りを】
と告げる。それを受けたデメテーラの目が見開かれ、本人も気づかないうちに自分の心を触ろうとしているかのように胸に手を当てる
【我らと同じように……文化の持つ力に触れた驚きを……あるいは、そう恐怖を感じたかもしれん。だが、それ以上に素晴らしい力を感じたはずだ】
[何が言いたいのだ!?]
カイザの何かを諭すような物言いに苛立ちを覚えたデメテーラが吠える。それを受け止めたカイザは、彼女のことをまっすぐに見つめながら
【我らの遺伝子にもカールチューンが存在すると言うことだ。それ即ち、我らもまた、文化を持つことのできる存在だと言う証左なのだ】
と、カイザは答えをデメテーラに告げる。それは彼女にとって最大の衝撃となった。まるで経験したことのない何かが胸の内側をかけずり回る感覚に恐怖を感じたデメテーラは、しかし次の瞬間スクリーン上に映し出された光景に、さらなる驚愕を受けることとなった
[わ、私たちを殺さないのか?]
【殺すわけがないだろう? 俺達は戦うための道具や機械なんかじゃない。俺たちは命だ】
そう言ってゼントラーディのヌージャデルガーが差し出した手を、メルトランディのクァドラン・ローが握り返す
[こ、これ以外にも、歌というものは聞けるのか!?]
【あぁ、そうだ…我らはこの歌以外にも多くの文化を持っている。例えばこの……】
と、分艦隊の司令官同士が艦を隣接させて文化についての勉強が行われている
【中々やるじゃないか! 女のくせに!】
[お前こそ! 男のくせにやるじゃないか!]
互いの戦闘ポッド…またはバトルスーツに身を包んだ両軍の兵士たちが、まるで親睦を深めあうように互いの力量を称え合いながら戦っていた
他にも多くの…そして様々な光景が両軍の混在するあらゆる場所で行われていた
[なん、と……]
その光景にデメテーラは絶句し、カイザは嬉しそうに目を細めて笑うと、立ち尽くすデメテーラへと向き直り
【どうかこの光景を見てほしい、デメテーラよ。我の言葉に嘘偽りなどないことを、目の前の光景が何よりも雄弁に語っている。どうかお前もこの輪に加わってはくれないだろうか?】
と、そう願うカイザを、デメテーラは無言のまま見上げ、そして両者に沈黙が訪れる
[…………分かった。お前の元に下ろう]
と、デメテーラは敗北を認めて膝を折ろうとする
【なっ!? やめろデメテーラ!!】
と、その行為をカイザの怒号のような声が止める。それにわけがわからないと体を震わせたデメテーラに対して、カイザはこう言った
【我らは共に文化に触れたもの。そこに違いなどなく。差もありはしない……我らは共に立つ命だ。どうか同じ地平に立ち。同じ宇宙を見てほしい】
と、勝者であるという態度を微塵も見せることなくそう願うカイザの姿に、デメテーラは毒気を抜かれたように薄く微笑むと、折ろうとした膝を伸ばして真っ直ぐに立ち
[我らデメテーラ・ラブラミズ艦隊は、これよりカイザ・ボドルザー艦隊に合流する!!]
その宣言は両軍の時を止めた。誰もがデメテーラの次の言葉を待ち望む中、彼女はこう続けた
[共に文化を取り戻した命として! 我らの共生が銀河に新たな風となることを願わん!!]
と、高らかに拳を振り上げ、堂々とした姿のデメテーラの言葉に対し、人々は万雷の喝采と力強い雄叫びを持ってそれを肯定するのだった
序章もうちょっと伸ばしてもいいですか?
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いいよ!
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だめに決まってんだろ!