残響と青春と楽団の協奏   作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!

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脳内アルガリアは疲れて帰りました


狂人同士、テント、数時間、何も起きないはずがなく…

夜のゲヘナの一角。

湿った空気が石畳を這い、遠くの街灯が雨粒を鈍く反射する。

その光はかすかに揺れ、まるで呼吸するかのように明滅していた。

 

路地の奥――黒い布を何重にも重ねたような大きなテントが、仄暗い光を放っている。

隙間から漏れる橙色の光は、夜の闇に滲み、甘い香りと焦げた匂いを運んでくる。

中からは音楽と笑い声、拍手の音が絶え間なく流れ出し、その熱気は布越しにも肌を押し返してくるほどだった。

 

ステージ中央――道化、オズワルドが華やかな演目を締めくくる。

銀のナイフが宙で回転し、刃先が一瞬だけ白く光を返すと、するりと彼の指の間に吸い込まれるように収まった。

オズワルドは深々と腰を折り、帽子を胸に当てる。観客は沸き立ち、惜しみない拍手と歓声が波のように押し寄せた。

 

やがて幕が下り、観客の足音が遠ざかると、舞台裏に静けさが訪れた――その時。

 

――コツ、コツ、コツ。

重くも規則正しい足音が、木の床を踏み締めながら近づいてくる。

そのリズムは、軍靴の行進のように揺るぎなく、耳の奥をくすぐる不穏な低音を帯びていた。

 

青いマントを翻し、一人の女が現れる。

長身の影がランタンの光を裂くように伸び、冷たい青の瞳が闇を切り裂いた。――アルガリア。

 

「あぁ素晴らしいショーだった。

観客の心を掴み、離さない……その素晴らしい技術、気に入った」

 

その声は低く、しかし舞台全体を抱き込むような響き。

微笑すら含まれているのに、背筋に氷を滑らせるような冷ややかさが混じっていた。

 

オズワルドはぱっと顔を上げ、目を見開き、大袈裟に両手を広げる。

 

「あらっ!驚きました、もう、驚かさないで下さいよ〜、喉から目玉かドドド〜ンと飛び出すところでしたよ、観客ですか?お客さん?あるいはショーをお手伝いに来てくれた道化師さん!?お一人で勇気がありますねぇ〜おっ見て下さいライオンさんがたてがみをわさわさしていますよぉ、コレはねぇ〜とっってもご機嫌なときにしかやらないんですよ?」

 

彼が指差す先――檻の中で、黄金色の毛並みと継ぎ接ぎの身体を持つライオンがたてがみをゆったりと揺らしていた。

ランタンの光を受け、その毛は炎のように輝き、低く喉を鳴らす音が微かに響く。

 

アルガリア

「あぁ、すまない驚かしてしまったか、気をつけるよ、この子がライオンさんかい?へぇ、そうなのか、それならきっと俺は運が良いんだろうね。あぁそうだ、自己紹介をしないとね、俺は観客じゃない。舞台を作る側の人間だ。

――キヴォトス全体を舞台に変える“残響楽団”の団長、アルガリアだ」

 

アルガリアは片手を胸に当て、薄く笑む。

その瞳は、笑顔の裏で檻の奥まで見通すような冷徹さを宿していた。

 

オズワルド

「おお〜そうなんですか!?それなら道化師と道化師の道化師同士、手首の匂いでも嗅いで見ましょうか?

今日は柑橘の優しい匂いを付けて来たんですよ!」

 

彼はくるりと軽やかに回転し、袖口をまくって手首を差し出す。

ふわりと甘く爽やかな香りが舞台に溶け込むように広がった。

 

アルガリア

「へぇそうなのかい?うん、確かに良い香りだね、タンゼロ系かな。あぁ俺は」

 

アルガリアが言いかけた瞬間、オズワルドは鼻をひくつかせ、唇を弓なりに吊り上げた。

 

オズワルド

「ウッディな香りでとても上品ですね~打ったら響く森の様な人なんですね、あまり分かる人は居ないのでとっても嬉しいですね~」

 

湿った夜気の中に、深い森を思わせる香りが漂う。

鉄の匂い、檻の金属臭と絡み合い、舞台の熱気を静かに押し下げていく。

 

アルガリア

「君のサーカスは素晴らしい。だが……狭くはないかい?。

この街ゲヘナの隅の一角で話にもならず一瞬笑わせるだけじゃ、君の芸は勿体ない」

 

その言葉は穏やかに聞こえるのに、足元から冷気を這わせるような重さを孕んでいた。

 

オズワルド

「勿体ないぃ〜? ふふ、それは誰が決めたことなんでしょう?そうでしょう?皆が誰しも大口を開けて幸せな顔をしているそれが私のサーカスですよ?もしかして馬鹿にしてます?」

 

笑いながらも、オズワルドの瞳は鋭くアルガリアを射抜く。

道化の仮面の下で、獣の勘が確かに息づいていた。

 

アルガリア

「いいや侮辱じゃない。評価だ。

――君の舞台を、もっと血と絶望と歓声で満たせる場所がある、どうだい?共に残響楽団としてキヴォトス全土を響かせる素晴らしい演奏を…オズワルド君と共にしたいんだ」

 

「う〜ん、そうですね、ええ良いでしょう!一緒に公演をしましか」

 

その返事に、アルガリアの口元がわずかに持ち上がる。

ほんの数ミリの変化――だが、その笑みは周囲の空気を重く変える力を持っていた。

 

アルガリアはゆっくりと歩み寄る。

マントの裾が床を擦る音が、舞台裏の静けさにひたりと溶ける。

距離が縮まるにつれ、あのウッディな香りが濃くなり、檻の奥のライオンが低く唸った。

その唸りは、獣が自分よりも危険な捕食者の接近を察した時の音だった。

 

オズワルドは唇をにぃっと吊り上げ、片足をひらりと後ろに引く。

踊るように身体を傾け、舞台袖の小さな机から黒い羽根ペンと古びた書類を取り出した。

紙の縁は黄ばみ、インクの跡がかすかに浮かんでいる。

それは契約書にも見えたし、台本にも見えた。

 

「おっと、道化の契約はいつだって演目の一部ですよぉ〜」

そう言いながら、オズワルドは片膝を床につき、紙を胸の高さで掲げる。

羽根ペンの先からは、インクではなく深紅の液体が一滴、舞台の板に落ちた。

乾きかけたその色は、どう見ても血の赤に近かった。

 

アルガリアはそれをじっと見つめ、ゆっくりと指先でペンを受け取る。

彼の指は硬く、骨ばっており、握られた瞬間にまるで鉄の枷を嵌められたような感覚が走る。

「ふむ、サインを求められるのは久しぶりだ」

低く笑い、彼は紙に一文字――『A』――を書き始める。

 

その瞬間、テント全体がわずかに軋み、ランタンの炎が揺れた。

外の雨が強くなり、屋根を叩く音が細かなドラムロールのように響く。

舞台袖の暗がりから、他の団員らしき影がいくつも覗き、好奇と警戒が入り混じった目を向けていた。

 

オズワルドはその視線を気にも留めず、アルガリアの書く手元をじっと見つめている。

その目は獲物を追う猛禽のように鋭く、しかし笑みは道化らしく柔らかい。

 

サインが終わると、アルガリアはペンを置き、契約書をオズワルドに差し出した。

だがその手は離れず、二人の指が紙越しに触れ合ったまま、互いの視線が絡み合う。

 

「――共犯者になった気分はどうだい?」

アルガリアの声は、炎の下で囁かれる刃のようだった。

 

オズワルドはその言葉に、口角をさらに吊り上げる。

「共犯者ぁ〜? ふふっ、それなら私はもっと派手にやらないとですねぇ〜。血と絶望と歓声ですって?いやぁ〜楽しみで指が震えますよぉ〜」

 

その瞬間、檻の中のライオンが立ち上がり、低く咆哮を放つ。

まるで新たな主を歓迎するかのように。

 

アルガリアはマントを翻し、檻の方へと視線を向けた。

「よし、では早速だ。次の舞台はここじゃない。もっと広い……そうだな、まずはミレニアムの大広間だ」

 

オズワルドは肩をすくめ、両手をひらひらと振る。

「おやおやぁ〜急なお引っ越しですか?まぁ、退屈しないのは良いことですけどねぇ〜」

 

二人の会話を聞きながら、舞台袖の暗がりに潜んでいた団員たちは息を潜める。

まるで二つの猛獣が檻を越えて握手を交わしたのを目撃してしまったかのように、誰も声を発せられなかった。

 

やがて、アルガリアは片手を差し出す。

その手は握手を求めるための形――だが、掌には冷たい硬さが宿っていた。

オズワルドは一拍置き、その手を握る。

瞬間、互いの指がぎゅうと食い込み、骨が軋む感触が伝わる。

 

「――契約成立、ですねぇ」

オズワルドの声は笑っていたが、その奥底には得体の知れない熱が潜んでいた。

 

アルガリアは短く頷き、マントを翻すとテントの出口へ向かう。

その背中は、嵐に向かって歩く航海者のように揺るぎなかった。

 

オズワルドは契約書を胸に抱え、舞台中央へと歩み出る。

まだ客席は空っぽだが、彼は深々とお辞儀をし、虚空に向かって囁いた。

 

「――さて、次の幕はどれほど賑やかになりますかねぇ……?」

 

そして、ランタンの光がひときわ揺れた瞬間、舞台の闇がゆっくりと彼を包み込んだ。

 

 




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