「腰のあたりにあるだろ、ポケット」
言われる通りに場所を探ると、何かが手に当たった。
「手袋…?」
「ちゃんと握れる為にだ。勿論俺もやるが、下手にやると肩イカレるぞ」
そうか、ここで捌かないのなら、拠点に持って帰えらなきゃ。
狩った亀みたいな竜―
杖から槍に、そして槍から銛に。渡された最初から、なるほどこの想定だったのか。
「
何語!?多分現地の言葉だとは思うけど、その意味は多分とっさに判断できるようなものではなかった。
「うぉぉぉ!?」意味は判らなかったが、何かの合図だと思い綱引きのように銛を引っ張る。
すると一瞬とはいえ
「《
だから急げ、という事か。何にしても、今いるのは溶岩洞だ。長居に適している場所なんて言えない。
氷の効果はあって、流石に完全に軽減というわけではないにしても、壊れかけの車輪がついた程度には
そこそこ楽にはなった。けど自分の身は自分がよく知ってるという理屈で言うと、これでもまだ不安ではある。
なんせ溶岩が近くで流れてるんだ、岩が溶け、そして詰まらずに流れ続けている。その温度はどれほどだろうか? きっと尋常じゃない。数百…ひょっとしたら数千度? わかってもしょうがない事だが、今俺のいるこの場はその影響を存分に受けた―蒸し風呂と形容するのも生温い。その生温さが今肌に伝うのなら、きっと存外快適なものになるだろうと―この汗すら蒸発する場においては。
早く、一刻も早く、一秒でも惜しい、早くこの場から離れなければ。
そう急ごうとしても足はふらつく。ふらつく足を律するように地面を見れば、ダンボール程は厚かった氷塊はクリームにでもなったかのように滑る度に磨り減り、既にほぼ雑誌一冊分程度まで薄くなっていた。
「…!…っ…んっ…」
危機感を覚え、動かない突き刺さった枝のようになった腕を引く。初めて汗が手袋の中に溜まり、水風船のようで、銛の柄すら掴めず、度々手が離れる。
「…っ!…だぁクソッ!」
また滑る。今度こそはと銛から片手を離して、その手に着けた手袋を歯で噛んで掴み、外す。
土や埃を舌で舐め、思っていたほどの汗すら溜まっていなかった怒りを噛む。反対も例外はなかった。
「ちっ…あぁ!…」
もうほぼ自暴自棄気味に再び腕を引き寄せるように肩に力を入れる。
すると「待て」とフルトーさんの声がかかる。
「はぁあ…?」自分でも驚くほど応える声は怒りを連れてきた。「…なんです…?…早く、早く行かないと!」こう、"普通"と思っても自然と怒号のようになってしまう。
それに対するフルトーさんの口調は冷ややかなもので「行ってどうするつもりだ?」と訊いてきた。
「どう?…どうって…」"普通"でも戸惑うだろう質問に、熱さで暴走している脳がうまく噛み砕けるわけもなく、なくなっていた思考の余裕に無暗にその問いに対するものだけが膨張する。
「このままやたらに力を入れて急げば、お前は確実に腕を
「…でも」
「生きるってのは今を頑張るって意味じゃねぇ、一秒先でも―常に未来を考えて行動する事だ」
彼が俺の醜い弁明を許すわけもなく、鋭く言葉を遮る。
大人しく認めればいいものの、今はそんな事すら判断できない。
「…じゃあ、ずっといつもそんな後ろ向きに生きろって言うんですか!? 何が良いんです!それで!」
「人生が希望だけ詰められたものだと誰が言った? 人生なんてただ時間と理不尽があるだけだ、それを最善に近づける必要がある。自分の手でな」そう言って彼は扉をノックするように俺の胸のあたりを小突く。
作業着にあたるポンと軽い音の聞こえた後、ほどなくして体中に薄い"冷たい膜"が形成された気がした。
「お前は知ってるだろ?ちゅーた。『魔法は
体の小さいちゅーたはその冷気の回りが早かったのか、俺より早く活力を取り戻し、俺の肩の上で調子よく「ちゅー!」と鳴いてみせた。
彼自身も両手それぞれの人差し指で首の横を三回叩くと、"冷たい膜"を造った。
「だから後悔しろ、改善点を見つけろ。そしてそれを消せるように努力しろ。その時には誰かの手を借りてもいい。受け身になって『どうにもならない』と叫ぶだけなのはやめろ、せめて能動的に『どうにもならない』と愚痴りながら手を動かせ」
自身にも凍結魔法を使い鎧を冷やすと、再び銛を掴み、目指す先を向いた。
「俺も何度も叫んでるよ、既にな」
物理的に頭が冷えたからなのか、今度は彼の言葉をちゃんと噛み砕けた気がする。
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