外は危険なのでダンジョンにコモります!   作:雨傘音 無咲

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【第三話】頼む前からやってくれ!

 「…量が足りないな」

「…ですね」

元はフルトーさんだけの食事なので二人分にしては量が少ないのは当然ちゃ当然の事だ。にして鍋半分しかないのは最初から数が少ないからか?

「採ってきますよ。何が要りますか?」

「お前が行くのか?…そうだな。香草類は充分だし、肉か?いや、今から血抜きするのは時間がな。だが…やっぱ肉だな」

肉か…初っ端狩りは厳しいか。いやでもここは俺の抵抗感の問題だろうな、フルトーさんの慣れた感じなら今更何の肉とかで抵抗感があるとは思えないし。…となると俺の我慢で済む話だ。カエルのニ・三匹でもいれば良いんだが。あれ、鶏肉に似てるって聞くし。

「それじゃあ、行ってきます」

「どこに行くつもりだ?」

「えっ?だから外に」

「そのドア開かないぞ」

「…」

言われてみればここは部屋ではあるけど、この人は完全にドアを無視している。さっきからドアに背を向けて彼が陣取って、完璧に壁の一部としか扱ってない事からもそれは判断できる事だった。

「そこから下に行け。まだ崩落していない筈だ」

彼が指差した先にあるのは、なんてことない空の古びた棚だった。いや、だけど何も置いてないってことは仕掛けがあるって事か?崩落って言葉からして何かしらここ以外の空間を指してる筈だし。

「…どうするんだ」棚その物を調べても一向に動く感じがしない。

「…横のレバーだ」

…そりゃ棚調べても動かないわけだ。

「うぉッ!」

棚の横の壁にあるレバーを動かすと、多少動きが鈍い感じはしたがすぐに歯車の力強い音がして、棚が引き上げられて階段が姿を現した。

 劣化こそ見られるが、石造りの綺麗な階段だった。彼の話からここが地下だとは判っていたが、結構深そうな感じで―まさにダンジョンって有り様だった。

「…」

埃が舞ってる暗い場所ってわけじゃない。所々燃える石の載せられた器が置いてあるのでそんなに暗くはない。足元は見える。けどずっと石が燃えてるからか、空気が薄い感じがする。

階段には所々小石なり気を付けないと転んでしまいそうな物があるので、足元をしっかりと確認しながら、着実に一歩ずつ進む。

 やっと一番下、外への扉まで来た。の徒歩一分以上は確実にかかったが、何せ暗いので漠然としか距離が解らなかったから感覚として何秒何分とかははっきりしない。

「やっぱ暗いな、ここも」

けれどさっきとは違って、仄暗い程度で、月明かりくらいの光はあるらしい。

「…火の音って安心するんだな」

完全な無音じゃないけど、これと言ってはっきりとした判る音がない。何者かの足音とかぶつかる音、割れる音…()()が。

「ウェボッ」

「えっ!」

いた!カエル!

「デッカ…」

ウシガエルくらいのを予想してたというか期待してたが、目の前にいたのは俺の膝まではあろうかと言う巨大なやつだった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」冗談みたいな絶叫をしながらさっきまでのは何だったのかと思えるような速度で階段を駆け上がって、フルトーさんに助けを求めた。

「やっぱりか…そもそも武器もなしにどうするつもりだったんだよ?市にでも買いに行くつもりだったのか?」

「今初めて気付きました…」

呆れて溜息をつきながら、彼は立て掛けたいた斧を手に立ち上がった。

「どうする、鍋でも見てるか…いや、これからの事を考えるとお前も来た方がいいな。ついてこい、少し教える」

今の俺は多分完全に腰が引けてる。怖い物を見たから怖いというか、未知の物を―知ってる物と多少似ているからこそちゃんと怖い。だから…なんか…()()って感じじゃないからこそ、言い出せない。

「怖いんだろ。冒険者じゃなかったとしても、迷宮(ダンジョン)潜りならこんな浅い《帯》でなら何が起きてもビビっちゃなんない。それが鉄則、守れて当然のもんだ」

「…判るんですね」

「なぁに、俺の槍衾の前にビビった事もある。慣れるさ、いつか守れるようになる」

励まそうとでも言うんだろうか、激励しているんだろうか…

「だから今は俺から離れろ。歩き辛い」

「…でしょうね」

俺自身みっともなく彼に身を寄せるのは嫌だと思ってた。

 心なしか一つ音の出どころが判るだけでかなり不気味さや不安もなくなるものだと感心していたら、早くも先程大蛙がいた場所に辿り着いていた。

「何だ、泡沸大蛙(ウェボロック)。いい獲物じゃないか。よく見ろ、こいつは比較的無害だ」

「…まぁ、そうですけど」

よくよく観察してみれば、ただデカいだけでこれといって攻撃や被害と言えるものがあったわけじゃない―ただ俺がビビって逃げただけだ。

泡沸大蛙(ウェボロック)、別名沸泡大蛙。その名の通り沸騰しているような泡を生み出す液を出す。液や泡には消毒効果があって、捕らえた獲物を泡で包んで消毒してから捕食する。液を上手く使えば石鹸の代わりになるが、それだけを出すのは難しい」

「食べられるんですか?」

「淡白な味わいでここ辺りのやつにしては美味い」

俺に一通り解説を終えると、フルトーさんは腰に携えている短剣を手に取り、強く握りしめた。

「《爪羽追虫(ノガサバリ)》、《炸血凍(ロジリザ)》」彼がそんな呪文のような言葉を口にすると、短剣には霜が張り付き、回転するエネルギーを(まと)った。

「それは…」

「だからよく見ろ、よく見てろ」

フルトーさんは見えやすいように斧を持つ手を下げて、バットを構えるような仕草で短剣を持つ方を前にした。

「オラッ!」

利き手じゃない事もあっただろうけど、彼の投げた短剣は勢いこそあったが暴投といった感じで…違うな、()()()()がないんだ。

「グウェボォ…」

螺旋を描きながらも投げ出された短剣は意思があるように泡沸大蛙(ウェボロック)の額に向かって綺麗な一直線で突き刺さった。

「今のが魔法鍍金(エンチャント)で、物体に魔法を付与する拡張的な技術だ。今使ったのは自動追尾と連鎖凍結の魔法 ―この組み合わせだと殺傷力さえ確保できればかなり便利になる。それらの魔法自体も基礎的なものだから、機会があれば教えてやる」

フルトーさんは泡沸大蛙(ウェボロック)の死亡を確認すると短剣を引き抜き、血を拭き取って再び腰のベルトに差した。

「しっかり持て、重いぞ」

「はい…」

 フルトーさんは殿をするから俺一人でこの大蛙を持つ事になった。こんな思いをするのなら前世でもっと鍛えておけば良かったと後悔したが、こんな考えに至るくらいなら多分有言実行しなかったんだろうなと深く思った。

「中々上手に出来た」

連鎖凍結魔法ってやつによって泡沸大蛙(ウェボロック)の特徴的な泡の元になる液は凍っていて、除去し易かった。もうこうなってしまえばただの大きな蛙だ。

「結局何使ったんですか?」

「…泡沸大蛙(ウェボロック)とゴブリン、それと香草として使える水樽草(グウグ)。味付けは塩と…」

「ゴブリン!」

「…最初はそれだけのつもりだった。処理を誤るとひどい匂いがするからゴブリンの肉は―」

「…食べられるんですか?」

「雑味があるからメインにするべきじゃないがな」

人型に抵抗がないんだとしたら、言葉が通じなければ俺、本当に食われてたんじゃ…




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