一応程度の軽い現状説明をしておく。
俺は
―つまり
運が良かった事と言えば、偶然出会った(というか気が付けば捕まってた)現地民であるフルトーさんがなんかサバイバル生活とかのベテランっぽい事だった。まぁそれ以外は特になくて、今は
―さぁ、一日の始まりだ。
瞼越しの生まれながらの薄い暗幕すら通り抜けられない儚い明りだけしか解るものがない。一秒、二秒と経つごとにそれに情報量が増え、解像度があがっていく。
仄かな明かり、それに袖を覆うような温かさ、そして火の粉が加わってやっと思い出す。
ああ、ここは地下だったのか、と。これが夢だとは思わない。こんな惨めな夢を見るくらいなら、それこそ俺はこの眠気を認め、その袖を引くだろうと…
「おはようございます…」
「おう、起きたか」
目の前の鹿の頭骨のような仮面をした男がさっき言ったフルトーさん。
「…なんか入念な準備ですね」
昨日は仮面の他は軽いプロテクター程度の鎧だけだったが、膝から下辺りのグリーブ?とか肘から下辺りのガントレット?って部分に加えて、首の前あたりで止め金でまとめたマントみたいなものまで着けてる。見るからに尋常なマントという様子ではなく、顎の輪郭が隠れるくらいの首を覆う装甲と、肩の羽みたいな飾りなんて豪華な物までついてる。勝負服って感じの装備をしてるのは間違いない。
「鍋を新調したいからな。今日は第十九層…二階層下に降りる必要があるし、軽い気持ちじゃ命取りだ」
買いに行くんですかなんて冗談を言う暇すらなかったが、鍋だと?…そういえば昨日見た鍋は何か彼の仮面のように生物の何かを利用した物に見えたし、きっと亀か何かの甲羅だろうか?
「お前もとっとと準備を…ってなんも持ってなかったな」
そう、異世界生活二日目に気付かれた事だが、俺は武器の類なんて一つも持っていないのだ。服装もシャツにパーカーに適当なズボンだし。
「お前が漂流者じゃなかったら舐め腐るにも程があるが…まぁしょうがない。ついてこい」
「えっ…はいッ!」
部屋全体が薄暗くて中々見え辛いが、どうやらここは元々は倉庫かなにからしく薬品らしい瓶の置かれたガラス戸の付いた棚がごつごつとして岩壁に沿うように置かれていた。
「これが
この世界の公用語らしい
「フルトーさんこれ!」
「あ゛?なんだよただに解毒薬がそんな珍しいか?」
なるほど解毒薬か…解るような判らないような変な感覚だな。
「そんなもんよりこれだ、これ」
山のように置かれた剣や杖などの武器に、傷は多いが駄目にはなっていない防具の数々がそこにはあった。
「まさか…」
「死者だって死んでほしくない筈だろうさ」
そりゃ何とか擁護しようと彼の予備の防具とかかと思ったけど、一瞬見ただけでそんな訳はないと判る量だったので驚いた。ふつうは兜を四つなんて要らない筈だしな。
「…思っ」試しに自分の脚くらいの大きさの剣を手に持ったら、予想外に重くて背中と腰に入った一本線が折れたかのように痛くなった。
「…だと思った。元に戻すのも気を付けろよ」
あきれたようにそう言うと彼は壁に立てかけてあった棒のような物と服一式が入っているという箱を渡して来た。
「その箱は蝶番の仕掛けがあるから、取っ手を持って上に引けば開く」
「…そんな事も分からないと思われてるの?」
「じゃあこれは何だと思う?」そして彼は例の棒を指さした。
「…杖でしょう?」さも当然と言うように俺はそう答えた。
だがその反応は素っ気ないというか、引き続きあきれたような雰囲気を醸し出しながら棒を手に持って筒を開けるように上下に引いた。すると変形して少し長くなると、シャーペンからシャー芯が姿をのぞかせるように槍の穂先が現れた。
「杖だが槍と兼用な」傲慢な子供に間違いを指摘する教師のようにそう俺の言葉を訂正した。
…ってか初見じゃ判んないって。
「不服そうな顔してないでさっさと着替えろ」
「見ないで下さいね!」
「男の着替えにロマンどころか興味すら湧かん」
一応冗談のつもりだったが予想以上に軽くあしらわれたので必要以上の時間をかけるのはやめてすぐに着替えた。どうやら箱の中身は何か違和感こそあるが綿で出来た灰色っぽい薄いインナーのようなものと僅かに蒼色の入っている黒めの作業着だったようだ。変な着方じゃなくて普通にインナーからズボンとベルトとかでどうこうなる物で良かった。
「終わりました」
「…後ろの紐、結べてないぞ」
「えっ!」そんな剣道着みたいなめんどくさいやつなのかよ…
「手のかかる奴だな…」
無知だからと割り切っているのか、それともこれから俺は死んでしまいそうだから念入りに面倒を見ているのか、何が理由にしても今日のフルトーさんはどこか面倒見がいい。
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