外は危険なのでダンジョンにコモります!   作:雨傘音 無咲

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【第七話】無貌な勇気、無謀な蛮勇

 まぁさっきので用事はなくなったので、それに伴って寄り道の機会も同じようになくなった。とうとう道は獣道みたいな感じじゃなくなって、ある程度ならされた道になって文明を感じるようになってきた。

「…近々()()するな」

「変化?なんのですか」

「この迷宮(ダンジョン)が変化するんだ。岩肌や空気の様子からして、直近の変化からは大分時間が経ってる。もうすぐ迷宮(ダンジョン)内が変化して魔物・魔獣が復活してまた湧くようになってり、構造自体が変化する事がある」

なるほど、迷宮(ダンジョン)の変化ってのはつまり"リポップ"みたいな感じか。―ならこの迷宮(ダンジョン)というのは根本的にランダム生成なのか?…腑に落ちないな。そうなら昨日寝たあの部屋はランダム生成の範囲に及んでない感じがするし、この道が整備されてる理由も分からない。

「…その変化には範囲とか対象の概念ってあるんですか?そうじゃないと昨日寝た倉庫みたいな場所は日が経ちすぎてる気がして」

「勘が良いな。その通り、変化とはいっても階層全体が変化するってわけじゃない。そもそも迷宮(ダンジョン)内の変化ってのは、階層のまとまりである《帯》ごとに起きるが、とはいっても《帯》全てが一から変化するってわけじゃなくて、階層ごとに『どれが変化して、どれが変化しない』ってのが定まってる。しかもそれは具体的に"なにが"と決まっていない、変化しないなら『絶対変化しない場所』ってのが必ずどこの階層にもある」

ボス前の固定セーブポイントとかスタート地点みたいな、そういうは変化しないわけね。なるほど。

「だが、あれは変化しても必ずどこかにはある」

そうして彼の視線を追うと大きな石扉のようなものがあった。

「あれは界門(アガイド)と言って、下りると必ず階層を跨げる階段に通じる扉だ。他にも階層を上下に移動できるが、まず移動した先がどうなってるかも不安定だし、必ず移動できるとも限らない。たとえば大穴とかで下に落ちてもその先は魔物の巣になってるかもしれないから、自信があってもこの扉を通りな」

 その界門(アガイド)ってやつは閉じてる訳じゃなくて多分常に開いているタイプのやつだったので今も開かれていて、その先にある階段には何気なく進めた。

まるで何か塔の中みたいな螺旋階段で、地下の筈なのに月明りのような光で明るかった。

「…不思議なもんですね。地下なのに明るいって」

「分かるぞ、しかも異様に落ち着くんだ。偶に月も登るし、昔から何の意味もないのに半日ここでぼーっと無心でいた事がある」

なんか彼の言葉も理解出来る気がする。他聞ではあるけどゴブリンで死者が出てるとか聞いた後だから、尚更そんな場所での神秘的で穏やかな光が特に心地よく思える。闇が深いからこそ、光は一際人に行先を示す…のか?この世界に北斗七星とか北極星的なものってあるのかな?

 よくある学校なら二階分くらいの階段を降りて、拠点になった十七階層の下である十八階層に辿り着いた。けど目的地はここじゃなくて、更にもう一階下の十九階層だ。

いざ十八階層に足を踏み入れると、それは月明りではなく、松明の火の方が頼りになるようになるくらいの暗さだった。だが、そんな暗闇の中で一瞬目にしただけでも異様と判るものがあった。

「…フルトーさん、これ…」

()()がいるみたいだな」

ゴブリンは勿論、天井ぎりぎりくらい背の高い類人猿っぽいやつや、苔の生えた頭の形をした動く土器みたいなやつまで魔物・魔獣が切り裂かれ、しかも()()()()()()()。よく見れば三匹いるゴブリンの内一匹は凍ったのは半分だけで、今も生きていて暗闇に石を投げているし、類人猿っぽいやつは今も時々血を噴き出している…まさかトドメをさしていない?そしてそれらの下には広い血溜まりが出来ているが、何故だか漁られた形跡がないのだ…

「…妙だな。素材どころか魔石も回収されてない…素材集めでも魔石集めでもないなら、少し怪しいな」

多分素材集めは知っての通りの―倒したモンスターから皮とか鱗、牙とかを剥ぐ感じなんだろう。んで魔石集めは差し詰め金策的な?

「追うんですか?」

「…どうも怪しいしな」

起きた時には、今日は予定が案外きつきつな感じがしたが、()()()()()はどうやらそういうのを撤回するようなものらしかった。

生殺しにされたゴブリンが石を投げている先に向かえばそうした者がいると踏んで、尚暗い本筋を逸れたような道へと進んでいった。念の為足元を照らすと、血溜まりを踏んでついた血液の朱印による印のように靴跡がついていた。大きくて判りやすいやつだった。

 ―まだ赤い、そして濡れている。大丈夫、こっちであっているらしい。

追うのは分かったけど、選んだ道は細く、洞窟の様相に相応しい程歩き辛い。

…けど寧ろこれは幸いか?だって普通そんな場所を好んで進むやつなんていないだろうし、相手もそう想定しているからこんな道を選んだ筈―予想されているとはいえ、相手次第では不意打ちも視野に入れられる道じゃないのか?

「…変な気は起こすなよ」

「……分かってます」

早速釘を刺されて、さっきまでの考えが馬鹿みたいだったと自省した。すいませんでした…

 不意打ちとかなんとかさっきまでの無駄な考えは忘れて、音を立てないように、忍者や暗殺者みたいに静かに。…忍者や暗殺者なんて見た事もないけど。

 道は暗い。相手の危険性の事を考えてフルトーさんが先に行ってるから、俺自身が道を見失う事はないと思いたい。持っている松明の明かりは確かに照らすが、彼の背中だけ…しかも相手に気づかれないように松明の位置を低くしてるから、尚一寸先は闇って感じが強まる。

 段々と彼の背中に頼もしさを感じ始めた頃に、何かが聞こえてきた。フルトーさんも聞こえたのか、俺達は足を止めた。

 それは俺の感じる緊張感をほぐすような意外なもの―鼻歌が聞こえてきたのだ。

けれどその音律は想像するような暢気な歌のそれではなく、高らかに自分達の功績を謳う―実に厳めしくも強者を鼓舞するようなそんな音律で、まるで軍で歌われるような士気を高めるような歌なのだろうと想像がついた。

…以前耳にした『イングランドの歌』ってやつが感覚としては近いのかもしれない。

「なんの歌なんだ…?」

「『ボラニヤ侵攻歌』…軍事国家《エーロヴァニア》の兵士に歌われる軍歌ってやつだ」

「…なら、相手は兵士崩れの?」

「…どうだろうな、にしちゃ不用心な気はするがな…」

 ―鼻歌を取り除くように、より多くを知る為に貪欲なまで感覚を研ぎ澄ませ、より耳を澄ます。

 大きな男のものと思える足音が一つ。どかどかずさずさと…音だけでもガサツな男なんだろうと判る大きく、そして強い。音の大きさから考えると、多分そいつがさっきの殺すだけ殺したやつだろう。そうでもなきゃ、自分から血溜まりなんて踏むやつなんていないだろう。…しかし勝手な決めつけだけど、そんなやつが魔法なんて使うか?そもそも使えるのか…?

 それに比べて小さな…多分女のものと思える足音が一つ。少し妙なのは足音が不規則というか、千鳥足みたいな心もとない感じの歩き方なのを感じる。けど消去法だとこいつがあの凍結魔法を使ったんだろうから、油断できる相手じゃない。

…にしても何だか人数分の足音がしない感じがするな…

「…フルトーさん、もしかして魔法使ってます?」

沈歩落(ニァガッタ)って魔法で声以外の音を消してる…後で教えて―」

言葉の途中だが彼は何かを感じ取ったのか自分と俺の口を塞ぎ、俺を後ろの方に押し込んだ。

『ふんッ!』 そんな獣の雄叫びのようなものが、唖然として動けない無防備な俺の耳を直撃した。

俺が「なんだ」と疑問を口に出す時間もなく、フルトーさんの声を遮るように俺達の追っている人物と思われる男による力の入った声と共に、地響きのような大きな音がそいつと俺達を隔てる岩壁を貫いて響き渡る。

 ―相手は近い。そう思って少し欲を出してその衝撃音の方に近寄れば、今度は会話が聞こえた。

「見たか見たかアェイラ!俺の言った通りだろ!あの通り、迷宮(ダンジョン)とはいえ魔物は魔物ォ…俺の敵じゃない!俺に膝つかしたきゃアンクシャスでも連れてきなァ!」

「流石ヨアレス様ですわ!さっきの男らしい一撃!アェイラはもう惚れ惚れしてしまいましたわ!」

声だけの判断で言えば、俺の予想は概ね正解っぽい。男らしいなんて形容詞で満更でもない雰囲気ってことは、多分かなり仲は良い。情報を更新すると、男の性格は傲岸不遜な感じで、女の方がその腰巾着的な?どっちにしても最悪戦わなきゃいけないのなら、情報量が少ないと言わざるを得ない。

…直接戦うのは俺じゃないんだけど。

「連中は軟弱すぎる!俺がこうして簡単に両断できる奴相手に何を手間取り、死ぬんだよッ!ウルギもローリルも!何故ああもなっちまったかねぇ?」

「それもあるでしょうけど、ヨアレス様がずば抜けて強いだけじゃないでしょうか?それにウルギはともかく、ローリルの愚か者なんてただ自滅したですし~」

「そうだ、そうだろうなッ!にしたってこの調子じゃ、奴等根本がダメだったんだろうなァ! 俺とあいつらじゃあれだよ、才能が違うのさ! 俺に言わせれば外の連中の言葉なんて所詮は力のないモグリの戯れ言なんだよ!」

「やっぱりヨアレス様こそ()()()()の英雄に違いませんわ!」

「当然ッ!あの英雄は俺の事だよッ!」

 彼らの会話も一区切りしたと同時に、俺はもういい加減こんな自慢話を聞くのはウンザリしてきた。それはフルトーさんも同じというか、この場合はしびれを切らして、って表現が相応しい雰囲気を放っていた。あと少しでも言葉が続いていたのなら、とうとう彼すら大きな溜め息を吐いていただろう。

 まだ様子を見るのかと思い、フルトーさんに声を掛けようとした瞬間、彼は動いた。岩に当たらないように低くしていた姿勢を元に戻し、歪みの無い綺麗な立ち姿になった。当然暗い上に狭い―それに今日は特に重武装だからさっきまでひそひそやってたのが嘘みたいに岩に当たり、当たった岩は脆く砕けていく。けれど彼は物ともせず、寧ろわざと自分の存在感を示すように自ら当たりに行っているようにも見える。

「なんだァ…てめぇ?」

フルトーさんは堂々と、まるでそれが当然かのように真正面から奴らの前に出た。




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