ルビコンエンジョイ空力トリオ   作:小糠雨

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 この物語を書いた人間は、ちょっと長くなるんで早く本編読ませろやって人は飛ばしてくれていいんですが、

☆頭空力。

☆ウォルターのことはキャラクターとしては嫌いではないけど、みんなみたいに恩人とかパパとかごすずんとかとは思えない。雇用主としては優良だけどウォルターのために惑星も友達も焼こうって気にはなれない。正直に言うと彼の人間性が苦手。

☆カーラのことはキャラクターとしては嫌いではないけど、みんなみたいに恩人とは思えない。常連の取引先くらいの認識なので友達焼いてまで味方する気にもなれない。
 というか恩人度で天秤にかけていいならウォッチポイント・デルタでエアも命救ってくれてるうえに普段のミッションでも助けられっぱなしなのにそれは無視されがちなのはなんで?????

☆一番好きなエンディングは賽投げ。解放者もかなり好き。

☆逆にレイヴンの火は、本当に全く、自分も焼かれる可能性が高い状況で住民ごと惑星全部焼くに足る理由が主観的にも客観的にも見出せなかったのであまり好きじゃない。
 私と621を切り離して考えると強化人間C4-621の物語としては綺麗だと思うけど、621が知り得ないシーンを排除した視点で考えるとそんなにまでウォルターに殉じようカーラに味方しようごすずんのためにー! ってなるかなあ……と思う。

☆オールマインドを過剰にポンコツ扱いするネタはあまり好きではない。傭兵支援の充実っぷり、そしてアーキバスを秘密裏に支援して勝たせることは当のアーキバス自身にすら全くバレていないことからもわかるように、(こと)「支援する」という役割においてはとても優秀であることをみんな忘れてないか?

☆エアのイメージは黒髪ロングに赤インナーカラー、赤い瞳。

☆オールマインドのイメージは白髪セミロングで緑の瞳。集団幻覚? あれもかわいいとは思うよ、私のイメージとは全然違うけど。

 という人間です。これらが相容れないと思う場合も読まない方が良いと思います。重ねて申し上げますが、そういう人に読んで文句言われても対応しかねます。
 あと、後書きに長々と言い訳と設定を書いてるので、読んでて「ん?」と思ったことがあったらそっちに答えがあるかもしれません。無いかもしれません。

 ではどうぞ。世に空力のあらんことを。
 
 


ルビコンエンジョイ空力トリオ

 

 ウォッチポイント・デルタ。

 惑星ルビコン3、ベリウス地方北部にほど近い海上にあるその施設の最奥、円盤形の巨大建造物。その入り口前に立つ、白と黄色で塗られた軽量二脚型ACの背後。

 海上を通る連絡橋の中程で停止した鈍色の探査用ACが、彼女の言っていた〝彼〟の、現在の飼い犬であろう。

 

『ウォッチポイント襲撃……単騎で敢行するからには、私たちとは〝違う〟のでしょう』

 

 白と黄色のACの足元。赤白黒のトリコロールで塗られたACの残骸に、鈍色のACのオペレーターを務める男は見覚えがあった。

 

『邪魔者はどけておきました。どうぞ先へ、ハンドラー・ウォルター。そして今の猟犬(ハウンド)

 

 白と黄色のACは鈍色のACへと振り向き、語りかける。

 

『お前は……』

 

 聞き覚えのある少女のような声を受け、ハンドラー・ウォルターは声を震わせた。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 コーラルと呼ばれる物質がある。

 辺境の開拓惑星ルビコンで発見されたそれは、新時代のエネルギー資源および情報導体として人類社会に飛躍的発展をもたらすと嘱望された。

 

 ――アイビスの火。

 

 その炎と嵐は周辺星系をも巻き込み、致命的な汚染を残し、元凶たる新物質もまた跡形もなく焼失したかに思われた。

 だが――コーラルはいまだルビコンに燻っていた。

 やがて人々は気付くことになる。

 その火種に。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ルビコンにおいて、ACを駆る独立傭兵とはすなわち鉄砲玉(テキトーに突っ込ませる捨て駒)である。

 AC――人型兵器アーマード・コアというもの自体、名状しがたい中途半端な立ち位置にある。

 その最たる強みと言えるのが「量産機でありながら専用機たりうる」という点。あらゆるメーカーが共通の規格で各パーツや武器を生産するため、パイロットに合った機体を容易に組み立てられる。同じく量産機動兵器である、機体一式決まった仕様のMT――マッスルトレーサー――と比べると値は張るものの、それとは比べ物にならない機動力と豊富な選択肢が一人〜数人規模で仕事をする傭兵たちにウケたのか、彼らはこぞってACを使いたがった。

 そして最たる弱点と言えるのも「量産機でありながら専用機たりうる」という点だ。つまり役割や強さがパイロット自身のセンスや技量、機体構成等に左右されすぎるために、複数集めての部隊運用がしづらいのである。

 共通の機体構成で揃えたACを部隊運用するよりもMTのほうが安価で慣熟も楽。数を揃えやすく、性能が揃っているので連携もしやすく、それはつまり部隊としての戦果もあげやすい。耐久力も機動力も、そして搭載できる武器の種類もMTよりACの方が遥かに上だが、戦いとは基本的には数であるからして。大規模な傭兵団や、政府または企業の正規軍は、ACよりもMTを多く揃える傾向にあった。ACはエース専用機とでも言うべき位置づけだ。

 故にACは単騎、あるいは多くとも一度に五機程度まででの作戦投入になるのが慣例なのだが。

 そんな少数で戦果をあげられる程の技量を持つパイロットが稀すぎる。多くのパイロットが数の暴力を前に沈んでいく。

 

 そもそも機動力の高さが売りのACの、その機動力を発揮できない場合が多い。

 例えばクイックブースト。これはACの機能ではなく、()()()()()()()()だ。ブースターを一瞬だけ、限界値で噴かすことで機体を前後左右に急激に移動させる。このとき地上であれば跳躍の操作も混ぜることでより距離を稼ぐことが出来る。

 これが出来るパイロットが少ない。

 また、戦闘モードにおいては飛行し続けられる程エネルギー効率が良くない。宇宙空間ならばともかく、重力圏では接地していないとエネルギーを消費し続ける。

 そのためACらしい高機動を維持したまま戦闘するには相応の慣れと技術が求められる。

 

 であるから、多くの場合、数を揃えたMTに囲んで滅多打ちにされる。

 あるいはルビコンを封鎖する惑星封鎖機構の、ACよりも高性能な機体に蹂躙されることもある。

 そうした理由や、雇われ故の忠誠心の無さも相まって、独立傭兵というものは常に使い捨てられる立場にあった。

 雇用側としても依頼を受ける傭兵が居なくなっては困るので、投入した傭兵を背後から撃つとか、提示していた報酬を出し渋るとか、そういうことはしない。だがそれはそれとして、依頼内容としては使い捨て前提であることが多く、そしてそういう仕事であっても自らの判断で受けたからには傭兵自身の責任である。

 

 だだし、何事にも例外はある。

 

 主にルビコン星系で活動するAC乗りを支援する傭兵支援システム《オールマインド》。それによる評価において上位の、俗にランカーと呼ばれる者たちも、その例外に当たる。

 無論一位と下位ランカーでは天と地ほどの差はあるものの、ランカーたちは上澄み中の上澄み。時に単騎で戦況を左右し得る彼らは、単に鉄砲玉としての配役に収まらない。

 無人機による戦争を、再び人の手の中に押し込めたACは。

 その戦力の個体依存性の高さ故に、極まった個人が乗ることによって一個の機動兵器としてはあり得ざる程の戦果をあげ。

 使い易い駒として以外にもそうした極まった個人の出現を期待されて、ACは今も生産され戦場を走るのである。

 

『来たぞ! 企業のACだ!』

 

 ベリウス地方、グリッド135。

 ルビコンの至る所に屹立するグリッド――七〇〇〇メートル以上の高さを誇る、かつて物資輸送網を構築していたメガストラクチャー群――のうちのひとつの麓には、アイビスの火で汚染された市街地跡がある。かの災厄以降の気候や地形の変動、貯水タンクの破損等で道路が浅く水没した廃墟群だ。

 ルビコン解放戦線――企業の侵攻や惑星封鎖機構の抑圧に抵抗するルビコニアン(現 地 住 民)の組織――が拠点のひとつとして利用しているそこは今、地獄と化していた。

 AC三機による襲撃。

 一機はルビコンに進駐する企業のひとつ、ベイラムグループの専属AC部隊《レッドガン》の末席。オールマインドの設定する傭兵ランクではナンバー二二のランクD。G(ガンズ)7(セブン)ハークラーが駆る重量二脚型。

 一機はナンバー二六、ランクEの独立傭兵、トーマス・カークが駆る旧式の中量二脚型。

 一機はランク圏外の独立傭兵、モンキー・ゴードが駆る軽量寄りの中量二脚型。

 

『クソったれのカークめ、散々世話してやったってのに! これだから独立傭兵は!』

 

『企業の犬に成り下がりやがって!』

 

 トーマス・カークのACはルビコンの土着企業、BELIUS APPLIED WEAPON SYSTEMS――通称BAWSが生産している旧式フレーム。武装は両腕にBAWS製のバーストマシンガン、右肩にはファーロン製四連装ミサイル。

 BAWSのパーツは旧式で安価なことに加え、ルビコニアンである彼には解放戦線からの依頼が来やすく、また彼らを通じてのパーツ入手もしやすかったことから機体構成の大部分をBAWS製品が占める。報酬として金銭のかわりにパーツを融通してもらったことさえある。

 が、だからといって解放戦線との仲間意識があるかといえば、少なくとも彼には無い。

 

『あいにく俺は傭兵だ。()()い方につく』

 

『ルビコニアンの面汚しが!』

 

 生まれた土地だからといって好きとは限らない。彼にとって惑星封鎖が為されたここは鳥籠であり、星外への移住が叶うだけの資金を稼ぐために傭兵をしているに過ぎない。金払いの良い方の味方をするのは当然と言えた。

 

『じゃあな、俺は勝手にやらせてもらう』

 

『俺もだ! 稼ぐぜぇ〜!』

 

『好きにしろ』

 

 AC三機だけでMTも連れずに乗り込んできた彼らは、しかし特に連携を取るでもなく散開した。

 これにはいくつか理由がある。

 まず、今回の襲撃にあたって急遽雇ったトーマス・カークとモンキー・ゴードはレッドガンとは無関係であり、連携の訓練など当然行なったことがないこと。

 次に、今回二人に出された依頼は基本報酬に加えて撃破報酬が設定されており、両者とも獲物を横取りされたくないこと。

 さらに、G7ハークラー、ひいてはレッドガンが、この独立傭兵たちに背中を任せようと思うほど信用していないこと。

 最後に、これは特にレッドガンの飼い主であるベイラム本社や、ランカーであるハークラーとトーマス・カークがそうなのだが、解放戦線を「所詮は金も物も人も足りない弱小」と侮っていること。その点で言えばレッドガン総長、G1ミシガンは特にハークラーに気を引き締めろと言い含めてはいるのだが、彼は現在別の作戦の指揮を執っているため現場の判断はハークラーに任されている。

 以上のことからバラバラのほうが効率が良いと三人の間で合意が取れたために、彼らは好き勝手暴れているのである。

 

 ただ、これが解放戦線にとっては少々都合がよろしくない。

 

 汚染市街全域に戦力を展開している彼らだが、懐事情が厳しく十分な数を揃えられているとは言い難い。

 言うなれば高級MTであるACを、通常のMTで相手取るには数で囲んで叩くのが常道となる。よほど腕の悪いパイロットのACでもない限り、いくらなんでも性能で勝るACを二脚MT単騎ではそうそう倒せない。

 この汚染市街は重要拠点というわけではないので、比較的強力な戦力であるACや大型の四脚MTはもっと価値のある拠点にまわされている。

 故に、二機程度ずつで各所に配置し、ACと接敵した機があれば他の地点の同志が駆けつけるまで足止めに徹する。そして十分な増援が到着してから狩る。それがこの場所における対ACの基本の戦術――苦肉の策とも言う――だった。

 ところがこれが三ヶ所同時となると、戦力を均等に向かわせる必要がある。一ヶ所ずつ倒していては足止めする同志がもたない。

 結果的に戦力の著しい分散と逐次投入を招いていた。

 

『お前らを金に換えて俺はもっと良いパーツを買うんだよ』

 

 トーマス・カークの乗機も旧式とはいえACだ。それもMTから派生してACが生まれた頃の、コア理論から派生した近接格闘主義に忠実なフレーム。見た目通りの頑丈さに反して重量はありすぎず、飛行や三次元的な機動は苦手だが地上での動きはそれなり以上に軽快。

 彼に近接格闘戦の適性が無く射撃武器しか持っていないが、MTは価格と量産性を重視するあまりACと比べて極端に装甲が薄い。MTにとっての脅威度は格闘武器の有無ではそれほど変わらない。

 二機のMTに両手のバーストマシンガンを向けながら水びたしの地上を滑るように近づく、塗装も満足にされていないACは、正しく二機にとっての死神だった。

 

『やってやる! 俺たちだってコーラルの戦士だ! 灰被りて、我らあり!』

 

『裏切り者を粛清するぞ! コーラルよ、ルビコンと共に在れ!』

 

『いや裏切りとか知らんが』

 

 トーマス・カークにとって解放戦線は別に仲間ではない。ルビコン生まれルビコン育ちのルビコニアンだからといってコーラルに生活の糧以上の意味を見出さなかったし、だから星外企業が封鎖を破って密航してきた今となっては「あるだけ外に売って物資なりなんなり企業から買ったほうがルビコニアン全員が良い暮らしになる」とさえ思っている。

 だから彼としては解放戦線は仕事の標的ならば敵で、依頼主ならば味方。それ以外の感情は持ち合わせない。

 引き金は、驚くほど、軽い。

 MT二機を正面に捉えたままブーストで横に滑り、弧を描くようにしてそれらの射線から外れながら弾丸を垂れ流す。それだけでそれらは沈黙し、爆散した。

 そして彼は汚染市街の端、頭上に聳えるグリッドの一部が老朽化して崩れ落ちてきたことで出来た瓦礫の山の上に別の二機を見つけた。次の獲物だ。

 そちらへ機体を向けたとき、広域の通信が入った。解放戦線のものではない。

 

『聞こえますか解放戦線。こちらは独立傭兵ルクス、ACスクヴェイダー。並びに独立傭兵エミュー、ACエントトイシュング。

 ミドル・フラットウェルより依頼を受けて、本日より一週間、そちらの防衛戦力として滞在する予定でした。少々間が悪かったようですが、これより襲撃者を排除します』

 

 年齢のわかりにくい男の声。老年ではないだろうが、若者かというと断言しづらい。

 

『二機だけか!? 他には!?』

 

『あいにく今回はこれだけでして。ですが必ずお役に立てるでしょう』

 

『ぐぅ……文句を言っても仕方ないか。頼む!』

 

 トーマス・カークにはその声の名乗りに聞き覚えがあった。

 二人とも半年程前にランクFに上がった独立傭兵。噂によると二年前にルビコン入りした密航者。まだ上位の三十人には入っていないが、オールマインドの公開しているデータによると現在のところ依頼達成率は驚異の九割。

 自分の仕事を奪う、あるいは敵として立ち塞がるかもしれない新進気鋭の傭兵として気にしてはいた名前だった。

 彼の記憶にあるデータでは、スクヴェイダーのフレーム構成は腕以外はアーキバス系列シュナイダー製、腕はルビコン土着企業のエルカノ製。

 エントトイシュングのフレーム構成は全身シュナイダー製。

 スクヴェイダーの頭部とエントトイシュングの脚部はカタログに載っていないものだったが、シュナイダーの試作パーツらしいのであそこと関わりが深い傭兵なのかもしれない。

 

 それにしたって、と彼は思う

 

 この場に襲来したACは彼を含めて三機。モンキー・ゴードを除いてはランカー、それも番号付きの二二と二六。いかに最近勢いのある傭兵といえど、下位ランカーが数的不利で飛び込んでくるのは自殺行為だ。仮にモンキー・ゴードを素早く処理して同数となったとしても、よほど機体の相性が良くない限り、一対一(タイマン)で番号のつかない傭兵が番号付きのランカーに勝てることは少ない。

 トーマス・カークは自信家だ。そして野心家でもある。

 飛び込んできた下位の独立傭兵を、飛んで火に入る夏の虫と見た。もしも自分のところに来たなら撃墜して、使えそうなパーツはもらってやろうとさえ思った。

 そして彼の望みは半分は叶う。

 瓦礫の山の上、盾を構えるMT二機に向かって跳び上がり、それらがバーストマシンガンの射程に入ったとき。レーザーが背部を直撃した。太いそれは着弾と共に爆発を起こし、青い爆風が機体背部に剥き出しになっているブースターや装甲の無い関節の裏等を蹂躙する。

 モニターディスプレイに表示されるAP(耐久値)がごっそりと減少した。この数値はACの頑丈さと現在の損傷度を計算して便宜的に数値化したものであるため、例えば「ライフルの弾を一発受けたら必ず10減る」といったような定量化が出来ない。BASHOフレームは堅牢な造りから旧式ながらもAPが高めだが、今のように重要な部分を損傷した際には一気に減ってしまうのだ。

 損傷した部位によってはAPはまだまだ残っていても機体が動かないであるとか、その逆の事象も発生し得るため絶対的な数値ではなくあくまで目安だが、それでも減らないに越したことはない。

 

『クソがっ! 俺のせいかよ!』

 

 新手の存在を認識していながら、そしてそれがこちらに来ることを望みながら、目の前の敵に気を取られてレーダーを見るのを怠った。トーマス・カークは瞬時にそう理解し、慌てて振り向いて――その瞬間に実弾とレーザー、ふたつの散弾が機体を襲い。

 一拍置いて、凄まじい衝撃が機体を襲った。正面やや下からのその衝撃は彼の機体を吹き飛ばして、MTを飛び越えさせて、大きな瓦礫に叩きつけた。

 それが下手人たる軽量逆関節ACのブーストキック――アサルトブーストの速度を乗せての蹴りで、逆関節によるそれは猛禽類めいた両脚蹴り――によるものだと気づいたときには、彼の旧式ACは姿勢制御と駆動系がイカレていた。立ち上がることさえ出来ず、瓦礫に背を預けるようにして座り込む姿勢となったそのACの眼前に、マゼンタと紺の逆関節ACが着地して、そして――。

 

『良いな、その機体。いったい幾らしたんだ?』

 

『さて、覚えていませんね』

 

『羨ましいねぇ。俺もそれくらい金がありゃあなァ』

 

 右手の大型ショットガンが火を噴き、散弾が装甲を穿ち、内部を蹂躙し――そこでトーマス・カークの意識は消えた。ACの左腕は丁度関節に散弾が当たったのかちぎれ飛び、背部のミサイルは瓦礫に叩きつけられたときにマウントが外れたのかどこかへ消えていた。

 

 一方マゼンタと濃紺の逆関節、スクヴェイダーを駆るルクスは、ランカーをすぐに処理できた幸運に感謝しつつも、撃墜の余韻に浸るでもなく通信を繋いだ。

 

『ミュール、他は?』

 

『その区域の丁度反対側、崖際の辺りにランク圏外の独立傭兵が居ます。

 もう片方はナンバー二二、ランクD。レッドガンの正規メンバーのようです』

 

 返ってきたのは酷く淡々とした、少女と言って差し支えないだろう女性の声。今回はオペレーター役となった彼の仲間、ミュール。

 

『あっ、あたしランカーやりたい。ルクスは今ランカー殺ったんでしょ? 次はあたしに譲ってよ』

 

 さらに別の女性の声が通信に乗った。快活そうな彼女はエミュー。ルクスと共に来た独立傭兵だ。

 

『構いませんよ』

 

『やったね!』

 

『ルクスは外周を通ってください。遠回りですがレッドガンとは接敵しません』

 

『了解しました』

 

『エミューは真ん中を突っ切ってください。街区のほぼ中央でレッドガンが暴れています』

 

『おっけー』

 

 スクヴェイダーを反転させ、来た道をアサルトブーストで戻る。

 市街の外壁沿いに機体を飛ばし、エネルギーが切れては着地して暫く通常ブースト、回復したらアサルトブーストと繰り返し――標的が見えた。

 青で塗られた軽量寄りの中量フレーム。頭部とコアはシュナイダーのNACHTREIHER、腕と脚はアーキバスのVP-46SとVP-422。なかなか高価なパーツで揃えている。

 そして武器は何故か右腕にレーザーライフルVP-66LRが一本きり。

 ランク圏外の傭兵がありつけるのはたいていが報酬の低いバラ撒き依頼だ。最近ランクF入りしたにしては高いパーツを使っているルクスが言えたことではないが、全身アーキバス系ともなればフレームや内装に金がかかりすぎて武器を用意出来なかったのだろうか。

 まあ、なんにせよ。敵の装備が貧弱で困ることなどひとつもない。

 

『敵機捕捉。エンゲージ』

 

『なんだぁ!? ご同業かぁ!?』

 

 ビルの上からMTにレーザを撃っていたモンキー・ゴードは機体をスクヴェイダーに向け、慌ててトリガーを引いた。レーダー上の表示は赤、つまり敵味方識別信号のうえでは敵。ならば自分の知らないレッドガン陣営の増援ではあり得ない。

 そのレーザーをルクスは逆関節特有の高いジャンプで躱し、さらにビルの壁を蹴って高度を稼ぐ。完全にモンキー・ゴードの上を取り、大型ショットガンとレーザーショットガンを一発ずつ。頭上から降り注ぐ散弾が装甲を穿ち、足元にも穴を空ける。

 

『こんにちはご同業、死んでください』

 

『てめっ、こんなっ……!』

 

 モンキー・ゴードのACと同じビルに着地し背後を取ったスクヴェイダーは右肩のパルスキャノンを撃ちつつ、左手のレーザーショットガンをハンガーユニットの武器と持ち替えた。ゆるやかに弧を描く、長く鋭いシルエットのそれはACの左手首にある近接格闘武装用コネクタに接続され、さながら巨大な一本の爪のよう。

 クイックブーストを習得していないモンキー・ゴードが通常ブーストで退避しようとするも緑の光はすぐに止み、〝爪〟に赤い光が灯る。レーザーともプラズマともパルスとも違う、しかし確かにそうした類の高エネルギーであると見て取れる輝き。

 

 ――コーラルの、光。

 

 退避も振り向きも間に合わないモンキー・ゴードを、赤い光の弧が襲う。スクヴェイダーが左腕を二度振るのに合わせてふたつ飛んだそれはコーラルの刃。エネルギーのブレードを飛ばすという、およそ企業では未だ実現していないはずのそれ。

 背後から直撃したそれはACの装甲材質を無視して蹂躙した。モンキー・ゴードの視界の端ではAPの数値が大きく減少し、コクピットには警告音が鳴り響く。

 姿勢制御システム(Attitude Control System)――通称ACSの負荷限界。スタッガーと呼ばれるその状態ではシステム再起動のため機体がそのときの姿勢で硬直し、ACSによる被弾角度調節も行われなくなる。

 俗っぽく言えば敵にとっての《ボーナスタイム》である。

 焦るモンキー・ゴード。操縦桿を動かし、フットペダルを踏み、とにかく機体を動かそうとする。

 機動兵器として脚が止まることの危険性はシステムを作る側も理解しているのか、被弾角度調節よりも通常の姿勢制御のほうが早く復旧する。しかしそれにも秒単位の時間はかかる。

 戦場でそれだけ止まっているのを見逃してくれる敵は、少ない。

 瞬時に接近してくるマゼンタの逆関節。衝突するかという距離に来たとき、そのコアの背部が展開した。

 緑の輝き――パルスの奔流。

 

 ――アサルトアーマー。

 

 機体を中心にパルスアーマーを一瞬展開し、即座にそれを外側に向けて爆発させる機構。そのパルス爆発の範囲は狭いながらも強力で、特に半径六〇メートル圏内は威力・衝撃共に酷く暴力的だ。

 その球形の力の嵐が消え去ったとき、モンキー・ゴードの機体はうつ伏せで転がっていた。余程まともに食らったらしく、左腕と右脚が大破して離れている。

 

『敵機撃墜』

 

『確認しました。レーダーに他の反応はありません。エミューがレッドガンを倒せばひとまず戦闘は終了です』

 

『了解。念の為彼女の近くで待機しています』

 

『そうしてください。……ああ、危なくなるまで介入しないようにしてください。後で煩いので』

 

『心得ていますよ』

 

 ルクスはスクヴェイダーを市街中央の方向へ向けた。と同時に、バズーカと思しき爆発が見えた。

 

『やってるようですね』

 

 呟いて、まあ彼女から通信が来ないということは問題ないのだろうと、彼はゆっくりと機体を歩かせてそちらへ向かうことにした。

 

 一方、時は少し戻って。

 オレンジの四脚ACが汚染市街上空を飛んでいく。全フレームをシュナイダーのパーツで揃えたそれは、左右非対称の形状をした頭部、そのスリット状になったセンサーで猛禽のように眼下を捉えている。

 アサルトブーストで市街のど真ん中を突っ切っていくエミューはやがて、広めの道路――やはり水没しているが――でMTにバズーカやミサイルを撃ちまくっている重量二脚ACを目視した。

 

『目標発見! いくぞいくぞいくぞー!』

 

 通常ブーストに移行。接地し、両手の軽量型リニアライフルをチャージ。

 

『おりゃ!』

 

 射程に入るや否や順番にぶっ放した。

 コクピットに響いた警告音でそれを察知したハークラーは咄嗟にクイックブーストを噴かしたが、二挺目のそれを回避するにはブースターの冷却が間に合わない。

 電磁加速された弾丸がACの装甲に刺さる。重装甲のハークラー機にとってダメージはさほどでもないが、衝撃によるACS負荷の蓄積はバカにならない。

 

『貴様、俺が誰だかわかって撃っているんだろうな?』

 

『ナンバー二二、ランクDのG7殿でしょ? もちろん知ってるよ!』

 

 通信を交わす間もエミューの攻撃は止まない。中距離を維持したまま、チャージしない通常射撃で左右のリニアライフルの引鉄を交互に引く。対するハークラーは左腕のアサルトライフルの弾をバラ撒き応戦する。

 それを、四脚であるにもかかわらずホバー機構を使わずに跳ねたりクイックブーストしたりして避けながら、エミューは両肩の兵装を、タイミングを少しずらして起動した。

 

『やっぱさあ、どうせやるんなら強い方が楽しいよね!』

 

『チッ、狂犬の類いか』

 

 左右のラックから離れてエントトイシュングの頭上に浮遊したそれらは、機体に追従しながらレーザーを撃つ。

 オールマインドが独自に開発したレーザーオービットと呼ばれる兵装で、オールマインドに一定の戦果を認められた傭兵だけが入手出来るそれは、装備しているだけでその傭兵の腕の証明ともなる。

 幾条もの青いレーザーがハークラーを灼く。

 足が遅いことに加えて、ベイラム系列の機体の装甲は実弾に対しては堅牢だがレーザーに弱い。無論回避行動は取るが、重量機の宿命として全ては避けられない。レーザーだけでなく弾速の速いリニアライフルによるACS負荷の蓄積もバカにならず、ハークラーは焦燥に駆られつつも必殺の機会を窺う。

 

『ナンバーのつかぬFランクに! レッドガンをどうこうできると思うな!』

 

 エントトイシュングが地上でクイックブーストを噴かしたあとの、噴射終わりのタイミング。そこを狙ってハークラーは、マニュアルエイム――FCS(火器管制システム)の予測機能を使わない手動照準――で右腕のバズーカを撃った。

 木っ端の傭兵であれば必中のタイミングだ。あわせて、構えが終わるとすぐに両肩、八連装垂直ミサイルと二連装六分裂ミサイルも発射する。

 軽量機は姿勢の安定性が低く、通常の姿勢制御だけでもACSに常に高い負荷がかかっている。このため重量のある機体と比べて負荷限界に陥りやすい傾向がある。

 やけに細くて薄い四脚は見たことが無いパーツだが、安定性の高いカテゴリーである四脚であっても軽量である以上その例には漏れぬはずで、ならばこの、ベイラム同盟企業たる大豊(ダーフォン)核心工業集団(コアインダストリーカンパニー)製のバズーカを受けてスタッガーに陥らない道理はない。そして必中のタイミングで放ったのだから外れることなど無い。外れないのだからスタッガーするし、そこにミサイルの雨を浴びせてやればそれで終わり。

 ハークラーの脳内ではそう算段がついていたし、それはたいていのFランク傭兵が相手ならば現実となっただろう。事実、今まではそうなっていた。

 

『あんたわかりやすいね?』

 

 ハークラーの不幸は、エミューの腕を下に見たことと、地上で跳ね回る四脚などというパーツの特性をまるっと無視した存在の相手をしたことが無かったこと、エントトイシュングの脚部LAMMERGEIER/42Fを知らなかったことだ。

 この脚部は四脚としてもぶっちぎりで水平跳躍性能が低い。すなわち、地上クイックブースト時特有のステップの距離が短く、すぐに着地する。

 ハークラーが狙ったブースター冷却の間隙(かんげき)はしかし、即座の上方への跳躍によって帳消しにされた。四脚にしては高い垂直跳躍性能がエントトイシュングを高く跳び上がらせ、砲弾はその真下を通過していく。

 そうとなればミサイルも話が変わってくる。

 スタッガー状態にならなかった機体をエミューは巧みに動かして、誘導弾の雨を回避していく。その間に両手のリニアライフルをリロード――余談だがACは大抵の場合両手が武器で塞がるうえ予備弾倉を積むスペースも無いため、弾倉の交換には星間航行の発展に伴って成長してきた物質転送の技術が応用されている――を済ませ、左手のそれをチャージ。

 右手では通常射撃を連射し、両肩の上に浮遊するレーザーオービットは三発の連射を一セットとする射撃を繰り返す。

 それをハークラーは、リニアライフルの被弾は割り切ってレーザーの回避に注力する。

 そして彼が何度目かのクイックブーストでレーザーを避けたとき、エミューはハークラーと同じことをした。ブースターの冷却中を狙った射撃。

 モニターディスプレイに表示されるHUDにはロック中の敵のAPと、そしてACS負荷の蓄積度、それぞれのゲージが含まれる。頭部のセンサーが読み取ったそれを誤魔化すことができる機動兵器は今のところ存在しない。

 電磁加速された弾丸、それが与えるであろう衝撃でスタッガーに陥るほどの負荷が通常射撃で溜まったタイミングを狙って、彼女は撃ったのである。

 

 ハークラーは曲がりなりにもランクDのパイロットだ。ブースターの冷却が間に合わないと瞬時に判断し、重量二脚であるが故のステップの短さ――つまり接地の早さを利用して跳躍することは出来た。

 攻守が入れ替わっているが先ほどの焼き直しのような戦況。だが重量二脚であるが故の動きの鈍重さ――つまりはクイックブーストの移動距離の短さと跳躍の低さはどうにもならなかった。

 脚の装甲に弾丸がぶつかる。エミューの狙い通り、ハークラーのACはスタッガー状態となった。

 

『チャ〜ンス! まあ狙い通りなんだけどっ!』

 

 リニアライフルの連射速度の早さを活かしての追撃。両手のそれから次々と吐き出される弾が嵐となってハークラーを襲う。

 レーザーオービットは肩のラックに戻って冷却に入っているが、そもそもレーザーは直撃か否かで威力が左右されづらい。ここに至るまでの削りとACS負荷の維持で十分に役目を果たしている。

 実弾に強い装甲とはいえ被弾角度調節の無い直撃弾に対して強固であり続けることはできない。ハークラー機のAPは急速に減っていく。

 さらにダメ押しとばかりにエミューはアサルトブーストを起動し急速接近していく。ハークラー機のACSが再起動するタイミングを狙ったそれは、

 

『凡百の傭兵め! この俺が……レッドガンが、貴様ごときに……!!』

 

 動き出そうとしたACに、エントトイシュングのブーストキックがトドメを刺した。

 四脚特有のキックモーション。腰から下、脚部全体を一回転させてのそれはハークラー機のAPを削りきり、ACSもブースターも一切の機能を停止したそれは脱力したように飛ばされて。

 トーマス・カークのそれと同じように、崩落して山になっていたグリッドの残骸に背をぶつけて停止した。

 

 

『こちらエミュー。ミュール、レッドガン倒したよー』

 

『お疲れ様でしたエミュー。周辺に敵影無し。戦闘終了です。

 今後のことについて解放戦線と話し合います、しばらく待ってください』

 

『はーい』

 

 エミューは通信を切って脱力し、コクピットのシートに背を預けた。目を閉じて戦闘後の心地良い高揚感に浸る。

 一方、オペレーターを務めていたミュールはこの汚染市街に駐留している解放戦線の指揮官に通信を繋いだ。

 

『こちらはACスクヴェイダー及びACエントトイシュングのオペレーターです。今後についてですが――』

 

 その後、ルクスら三人は当初受けた依頼通り、防衛戦力として汚染市街に一週間滞在した。AC用のガレージコンテナを吊るせるように改造したヘリ二機を市街近くに駐機し、その中の簡易の生活スペースで出撃に備える日々。

 その間に起きたことといえば特筆すべきことは無い。最終日の前日に警告を無視して上空を通過しようとしたAC輸送ヘリを、吊るしていたACごと解放戦線のMTが撃墜したくらいだ。どこかの勢力に襲撃されることも無く、彼らはほとんどの時間を自分のACの(そば)で待機して過ごした。

 そうして契約期間を終えて帰還する途中。もう汚染市街が見えるかどうかという程に離れたとき。ふとミュールが、自身と繋いだヘリのコンソールから送られてくる映像――外部センサーによるもの――で上空を確認すると。

 何か小さなものが、おそらく大気圏外から落下してグリッド135に着地……否、着弾したのが見えた。

 

「……あれは」

 

「どうかしましたかミュール」

 

「…………。いえ、特には。少なくとも今の私たちには関係の無いことです」

 

「そうですか?」

 

 目を閉じたまま、膝まであるウェーブのかかった金髪を揺らして首を振るミュールを、ルクスは追及しない。

 彼女がそう言うのならば本当に関係無いのだろうと、ただ信頼しているが故に。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ルビコン3において、地表とは基本的に不毛の地と同義である。

 アイビスの火で焼き払われ、それによる寒冷化や余燼の不活性コーラルによる地表汚染が深刻だから――というわけでは、実のところない。

 記録によるとアイビスの火以前、ルビコン3がまだ普通の開発惑星であった頃から、土地が痩せて作物の育ちにくい惑星であったようだ。

 そんな惑星であるから、地下から湧いてくるコーラルを餌として成長できるミールワームは救世主だった。

 元々は恒星間航行のために遺伝子操作で生み出され、星々を渡る人類の食料として広く普及していたミールワームは、当然ルビコンにも入植時に持ち込まれていた。コーラルを栄養源にできることがわかったのは偶然だったが、なにしろ餌の用意がある意味では無尽蔵になったとあって、ミールワームのおかげで食料事情はかなり良かったと言って良い。

 だがそれも、あの災厄が起こるまでだ。

 アイビスの火によって殆どを焼失したコーラル。湧出量はそれ以前とは比較にならない程に少なくなり、さらに近年では星外企業が奪いに来る始末。コーラルをナマでイッて脳みそパチパチしているドーザーの存在もあって、ミールワームにまわすコーラルは減少するばかり。

 そのうえ作物は汚染によって半世紀前と比べてもさらに育ちにくくなっているという、ルビコニアンにとっては踏んだり蹴ったりな状況だ。

 だがそんな状況でも。ルビコンに生きる人々――密航者も含むが――は、日々食い繋いでいる。

 

【指定の時刻に到達。脳深部コーラル管理デバイス起動。強化人間C4-618覚醒しました】

 

 女性の合成音声がそう告げた瞬間の、照明のスイッチが入ったかのような、パチンと意識が切り替わる目覚め。差し込む朝日で薄ぼんやりと照らされる天井が――彼女には見えない。目を閉じたままだからではない。その目が機能を失っているからだ。

 真っ暗な世界の中、脳深部コーラル管理デバイスによって視覚情報として直接認識させられているバイタルの表示が正常であることを確認して、強化人間C4-618、今はミュールと名乗る女性は身を起こした。身体を覆っていたシーツが滑り落ち、華奢な裸体が顕になる。右腕が二の腕の半ばから無いその姿は、少女のような姿と相俟って痛々しい。これでも肉体の年齢はとっくに成人しているのだが。

 身体に絡んでいたウェーブのかかった長い金髪を左手で雑に払い除けてベッドから降り、手探りで服を探し当てて身につける。片手で着やすい、頭から被るだけで良いオーバーサイズのTシャツだ。

 光を映さない目を開く。蒼い瞳でベッドの方を振り返り、そこに居るはずの男の姿を思い浮かべてから、再び目を閉じてミュールは部屋を出た。

 

 旧世代型の強化人間はコーラルによって知覚を強化されている。その恩恵で、ACとの接続によって脳に叩き込まれる情報を正確かつ高速に処理することが出来るが、それだけではない。

 戦場で鳴るあらゆる音。物と物との距離。残された弾痕や移動の跡。遠くで光るマズルフラッシュ。ACのセンサーが拾う空気の流れ。機体(第二の身体)の状態や動きの癖。そういったものを常人よりも鋭く知覚し、深く理解し、適切に処理して、戦場を正確に把握出来る。

 それは日常生活においてもそうで、今の彼女は目が見えない代わりに音や肌の感覚で周囲を正確に認識出来る。

 数あるグリッドの一つを勝手に占拠して確保しているこのセーフハウスの中を、彼女は目が見えているかのようにスイスイと進んで、洗面所にたどり着く。

 やはり淀み無い動きで顔を洗い口を濯いで、次の目的地へ向かった。

 

「おっ、ミュールじゃん。おはよ」

 

「おはようございます、エミュー」

 

 ダイニングキッチンに入ると先客が居た。腰までの真っ直ぐな黒髪をうなじでまとめて尻尾のようにした、長身で細身の女性。タンクトップとショートパンツの上にエプロンを身に着け、薄青の瞳を細めて笑いかけるその姿はミュールには見えないものの、声の調子から機嫌が良さそうなことは窺えた。

 

「ゆうべはお楽しみでしたね?」

 

「楽しんでいません。知っているでしょう」

 

 IHヒーターの上のフライパンの中の物をヘラでひっくり返しながらそう言うエミューに、ミュールは無表情ながら呆れが滲んだ雰囲気で返す。昨夜はミュールの番だったが、ルクスが夜間の依頼に出ていて帰還が遅かったため添い寝にとどまったのだ。

 

「本日の朝食は何ですか?」

 

「ミールワームのベーコンと目玉焼きだよ」

 

 先に述べたように現在のルビコンの食料事情は最悪だ。

 惑星封鎖機構はルビコニアンに対して「退去させたい」という立場であるため、封鎖した惑星内への人道支援などはしない。また、仮に人道支援であったり、星内でコーラル関係なく商売したいであったりといった目的での誰かの入星も原則認めていない。

 封鎖機構にとってルビコニアンとは「退去勧告はするものの居るだけならわざわざ排除はしない、しかし出ていかないで飢えて死んでくれるならいろんな手間が省けて良い」程度の存在でしかない。

 ミールワームはコーラルしか食べないわけではないが、ではコーラル以外に何かエサになるものがあるかといえば、そんなものがあるなら自分たちが食べるという程度には物資が何も無い。

 ルビコニアンたちの食料はいつまで経っても不足しているのが現実であった。

 

 ルビコニアンはそういった状況であるが、では進駐してきた星外企業はどうかといえば、やはり星外に伝手があるというのは大きい。

 封鎖に綻びは出たとはいえ、封鎖機構が目を光らせている以上どうしても十分な補給が行えるとは言いづらい側面はある。特に顕著なのがMT等のある程度数を揃えなければならないうえに嵩張る兵器で、星外から必要数送り込むのは無理なので土着企業のBAWSからの購入にほぼ一〇〇パーセント依存している形だ。

 しかし食料や生活物資等は星外からある程度輸送して来られる。多少は封鎖機構に撃墜されるという前提で大量に輸送してくることができるからただ。

 基本的なミールワーム肉の加工品はもちろんとして、嗜好品や、ある程度傷みにくいものなら生鮮食品さえも一定の供給を得られているのが星外企業勢力の強みである。

 解放戦線と比べて生活の質が良いことがそのまま戦力に表れているという面は確かにあった。

 そして、そうやって手に入った物資を、

 

「いやー、こんな環境でも卵が食べられるってんだから企業様々だよねえ。足元見られるけど」

 

「商魂たくましいですよね」

 

 自分たちの分を確保した余剰ではあるが、ルビコニアンや独立傭兵に対して販売もしていた。かなりお高いが。

 企業たちは侵略者ではあるが、その本質は営利団体なのだ。それが儲けになるのならば売るのである。例えそれが敵である解放戦線を利するとしても、そのうえで勝てると判断しているし、事実それだけの戦力差がある。被害よりも販売による利が上回るという判断だ。

 とはいえ解放戦線にもプライドや内部の反発もあるので、少なくとも直接は買わない。買うのは解放戦線に属さない――ことになっている――BAWSやエルカノの社員であるとか、ドーザーであるとか、自由勝手な独立傭兵であるとかだ。そうしたところからさらに解放戦線に横流しされている可能性は否定できないが。

 

「よっし完成。ミュール、あいつ起こしてくれる?」

 

「はい」

 

 ターンオーバーの目玉焼きとベーコンが皿に盛られるのを気配で感じながら、ミュールは脳深部コーラル管理デバイスの機能で黒い視界に表示されるUIを操作し、いまだ寝室で寝ている男に通信を飛ばした。正確にはその男の脳内にある脳深部コーラル管理デバイスに、だが。

 

【信号受信。デバイス起動。C0-066、覚醒】

 

 最初期のデバイスであるが故の酷く機械的な、かろうじて女性と認識できる音声と共に、男――試作型強化人間C0-066、ルクスは目覚めた。

 瞼を開く。橙色の瞳が天井を数秒見つめ、ゆっくりと身体を起こす。長くも短くもない、耳にかかる程度の長さの茶髪はボサボサで、まあひとまず今すぐ出かける用も無いからとそのまま放置して服だけ身につけ、洗面所に寄ってからダイニングキッチンへ向かう。

 

「おはようございます、二人とも」

 

「はいおはよう。ご飯できてるよ」

 

「おはようございます」

 

 のっそりと入ってきたルクスはエミューと比べて頭一つ分ほど大きい。しかしそれはエミューが小さいのではなく、ルクスが二メートル近い長身であるからだ。エミューよりさらに頭一つ小さいミュールに至っては彼の胸の下あたりまでしかない。

 鍛えられた身体はゴリゴリのマッチョではないが、細マッチョというほど細くもない。総じて「体格が良い」と表現できるだろうか。

 

 三人で食卓について朝食を頂きながら、今日の予定や諸々の報告について話し合う。

 全て食べ終わり、話し合いも一段落ついたとき、エミューが真剣な()()で切り出した。

 

「スッラの動向が掴めたよ」

 

 空気が少し張り詰める。それは彼らが四年間探していた男の名であった。

 

「情報通りこの()()に来てはいたみたい。

 けどオールマインドの登録傭兵のデータベースに書いてあった通り、個人を狙った『狩り』の依頼ばっかりやってるみたいでさ。そんな依頼、そう数が多くはないでしょ? だから尻尾掴むのにこんなにかかっちゃった」

 

「……それは仕方ありません。ですがそれでも尻尾が掴めたということは」

 

 一拍置いて、笑顔を作ってからの、ルクスの指摘。彼をよく知らぬ者であればあまりにもあからさまな作り笑い、あるいは何か後ろめたいことでもあるかのように感じるだろうが、エミューもミュールも慣れているので気にしない。ミュールは見えてはいないが。

 それに対してエミューはニヤリと笑って、

 

「そ。どういう風の吹き回しか知らないけど、ここんとこ狩り以外の仕事をいくつかやってる。(おも)に封鎖機構の基地を襲撃してるみたいだよ。壊滅とか全滅とかまではさせてなくて、ある程度MTやヘリを壊したら帰ってるみたいだけど。

 で、その基地の場所が――」

 

 エミューは携帯端末を取り出して全員のそれに画面共有をし、ベリウス地方の地図を表示した。そこに次々と赤い点が灯っていく。

 ミュールも自身の携帯端末を体に接続し、同じものを見ている。

 

「こんな感じ。そんでもってこの襲撃場所が全部入るように円を描くと半分くらいが海にはみ出すんだけど――」

 

 地図上に描かれる赤い円。確かに彼女の言う通り、それは半分程が海上を囲っていた。

 

「この範囲の中で襲撃されてない封鎖機構の施設が一つだけある。それがここ、最近陥落した《壁》やBAWSの第二工廠の近くの海上にある、ウォッチポイント・デルタ」

 

「ウォッチポイントというと……何をウォッチしているのかはよく知りませんが、強力な大型レーザー砲台複数で守られていてどこの勢力も手出ししていないというアレですか」

 

 ルクスもまともな情報は持っていない。

 何しろ何のための施設なのかの情報がどこにも無いのである。そのうえ防備も普通のMTやACでは甚大な被害が免れないほどで、さらにはここのSG部隊は滅多によそに行かず防衛に専念しているとあって、襲う旨味が無いと認識されている。

 封鎖機構がそこまでして守るからには何かあるとは思われている。誰かが実際に行って施設を調べれば各勢力に情報も出回るかもしれないが、現状それをする馬鹿は居なかった。

 少なくとも今までは。

 

「スッラ、もしくはその雇い主の目的はたぶんここ、ウォッチポイントにある何か。周辺の基地襲撃は増援を減らしたり遅らせたりするためだと考えると辻褄が合う。

 もちろん、そんなことは無くてこれで襲撃は終わりって可能性もある。その場合スッラはここには現れないけど……どうするミュール?」

 

 問われたミュールは、

 

「行きます」

 

 即答した。その表情にも声にも揺らぎは無い。

 

「オッケー、じゃあ行こう。

 今までの襲撃は夜だったみたいだから、今回もたぶん夜だと思う。それに今夜は壁や工廠周辺は雨が降るって予測が出てるから、ウォッチポイントも降ると思うんだ。視界が悪くなって襲撃にはうってつけだから、今夜来る可能性は十分ある」

 

「では、すぐに準備してきます」

 

「うん。オペレーターは私がやるから、気の済むようにやって来るんだよ」

 

「ありがとうございます」

 

 ガレージへ向かうミュールを見送って、エミューはルクスを見あげた。互いに座っていてもかなり目線が違うのだ。

 

「で、ルクスはどーすんの?」

 

「出ますよ。邪魔はしませんしミュールなら負けは無いと踏んでもいますが、保険は要るでしょう?」

 

「そりゃそう。だって、ねえ?」

 

「ええ、だって」

 

 互いにニッコリ笑って――またもルクスはワンテンポ遅れたが――顔を見合わせて、

 

『負けるのは楽しくない』

 

 二人の声も気持ちも完璧に重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガレージを吊るしたヘリを二機、自動操縦でウォッチポイント付近まで飛ばして、感知範囲に入らないポイントでACを投下。

 通常モードのACで海面スレスレを飛んで行き、水深がACの足首ほどになるところで着地。このあたりの海は遠浅と言ってよく、特にウォッチポイント・デルタの敷地と言える範囲の水深は非常に浅い。

 

【戦闘システム、起動】

 

【メインシステム、戦闘モード起動】

 

 脳深部コーラル管理デバイスが代行する、本来ならばACのCOMが告げるシステム音声を聞き、ルクスとミュールは意識を切り替える。ここからは命のやり取りだ。

 

『ミッション開始。ウォッチポイント・デルタでスッラを待ち受けるよ。

 まずは警備部隊を排除しよう』

 

 彼らの目的はスッラだけだ。

 しかしこのウォッチポイント付近でACによる戦闘が満足に出来るのは敷地内だけだ。遠浅とは言っても敷地から外れると海が深すぎて着地が出来ず、戦闘モードのACのEN消費にジェネレーターが追いつかない。

 よって邪魔の入らない状態で戦うにはウォッチポイントを警備するSG部隊を排除する必要がある。

 降りしきる大雨の中、二人は二手に分かれて海上、建物の影を進む。

 

『……ん? この反応は……コード1(ワン)5(ファイブ)! 侵入者だ! 海上!』

 

 警備部隊が気付いたようだが、遅い。彼らが海上へとMTを差し向けるよりも早く、二人は二基ある大型レーザー砲台の足元にそれぞれ辿り着いた。

 二人は同時にほぼ真上へ向かってアサルトブーストを起動し、瞬時にレーザー砲台の背後へと躍り出た。砲台自体の高さだけでもACの倍以上の大きさがあるそれはその巨体に見合った威力だが、同時にその巨体に見合った旋回の鈍重さを持つ。

 コーラルの赤い輝きと、レーザーの青い輝き。

 コーラルオシレーター《IA-C01W7:ML-REDSHIFT》が射出するふたつのコーラルの刃と、レーザーダガー《VP-67LD》によるレーザー刃の三連撃。それぞれがレーザー砲台を蹂躙し、引き裂き、たちまちのうちに沈黙させた。

 

『砲台が……!』

 

『ACが二機……どこの所属だ?』

 

『詮索は後にしろ。奴ら手際が良い。確実に迎撃する』

 

 二人はそのまま各個で封鎖機構のMTを攻撃し始めた。

 ミュールの機体は軽量の二脚ACだ。白と黄色で塗られたそれはコアと脚がシュナイダーの正規品、腕部はシュナイダーの試作パーツ。そして頭部はかつての乗機の残骸の中で唯一無事だったRaDの探査AC用パーツをそのまま使っている。

 そんな彼女の乗機サイレントカナリーは、三人の機体の中で一番軽快な動きをする。

 ショットガンとシュナイダーのレーザーショットガン、そしてシュナイダーのパルスキャノンを巧みに取り回し、時にレーザーダガーも交えて、彼女は淡々とMTを処理していく。かつてルビコン調査技研が作ったコーラル内燃型ジェネレーターがもたらす赤い噴炎が夜闇に鮮烈に輝く。

 強化人間はACと直結することで、本来モニターディスプレイに表示される映像を直接脳に送り、自分の目で見ているように感じられる。

 ミュールは今、失った視力と右腕を取り戻しているに等しい。その動きは普段の身体の鬱憤を晴らすかのように激しく、それでいて正確だった。

 

『コード7(セブン)8(エイト)。応援を要請』

 

『これは……本部と繋がりません!』

 

 自分たちだけでは抑えられないと判断したSGがあげるSOSは誰の耳にも届かない。

 

『付近の通信は妨害してる。近距離じゃないと通信は届かない。

 とはいえ二人とも早めにね。あたしはそういうのは専門じゃないから長くはもたないよ』

 

『了解。速やかに処理します』

 

『………………』

 

 ルクスは(いら)えるが、ミュールは無言。

 彼女は戦闘モードのACと接続している間、思考が戦闘へと極端に引っ張られ、そのため普段に輪をかけて静かになる。特に戦闘中はそれが顕著で、全く喋らないことも珍しくない。

 それをわかっているのでルクスもエミューも特に追及はしない。それぞれが役割を淡々と為していく。

 やがてその場のMTを殲滅し、奥へ。

 建物の影から飛び出した二人は、広場を撃ち下ろせる位置に新たに二基のレーザー砲台を確認し、即座に再び二手に分かれた。アサルトブーストを起動し、砲台の起動前に射程に捉える。

 

『なんだこのACは……!? 歩哨部隊は何をしていた!』

 

『コード1(ワン)8(エイト)、総員戦闘配備!』

 

 ここの部隊には油断があったのだろう。先程二人が殲滅してきた部隊、あれらが先に侵入者に当たるのが常で、ここには必ず事前に報告があると。

 故に、突如現れた襲撃者への対応が遅れる。

 先に壊された二基と同様の末路を砲台が辿り、その段になってようやくMTが動き出した。それをまた同じように処理しながら、ルクスは考える。

 自分たちの目標、スッラは、果たして来るだろうか。そして、来るならばいつ、どこからだろうか。

 ウォッチポイントへの侵入経路は限られる。輸送ヘリ等を使うとしてもベリウス地方側とは全く逆方向の海上からの侵入は非常に難しい、というか手間がかかる。そちらから来ようと思うと一度海上のグリッドまで行ってからACで落下するように飛んで来るか、輸送ヘリを使うのであれば陸地からかなり大回りをしてウォッチポイントを迂回してからACを投下するかになる。

 さすがに通常モードのACであってもヘリで迂回するのと同じルートを単独で移動は出来ない。戦闘モードとは段違いの燃費の良さではあるがさすがにガス欠になり、コンデンサーを再び満たすことができないまま海中へ没してしまう。

 一番現実的なのがルクスたちが来たのと同じ方向、ベリウス地方から真っ直ぐギリギリまでヘリで輸送してからの侵入だ。となると待ち受けるのならそこが一番良いだろうが――。

 

『コード3(スリー)1(ワン)C! 被害甚だ――』

 

 などと考えている間に、最後のMTを撃墜した。と同時にエミューから通信が入った。

 

『ルクス、ミュール。海上にACの反応がある。最奥の円形の建物のもっと向こうだよ』

 

 驚く二人――ミュールは表情も変わらなければ声もあげないが。

 タイミングが良すぎるというのもある。それ以上に一番無いと思っていたところからの反応だ。。

 

『識別信号は?』

 

『今オールマインドに照会中……っと、来た。ACエンタングル。識別名スッラ。目標がお出ましだね』

 

『ふむ……まああちらの方がこっちより広いですから、そういう意味では好都合ですか』

 

『それからもうひとつ。ベリウス地方沿岸を輸送ヘリが単独で飛行中。経路からしてそっちに来る』

 

『なんですって?』

 

 朝の話し合いで確認した通り、ウォッチポイントはどこの勢力にとっても襲撃する理由の無い施設だ。

 そんな場所に、目的不明のスッラとそれを狙う自分たちの他に来訪者が現れるというのは、(にわか)には信じがたいことだった。

 

『素性はわかりますか?』

 

『えーっと……おっ出た出た。

 積まれているACはLOADER 4。識別名はレイヴン。機体構成は……RaDの探査フレーム一式? 武装はデータベースにある限りはアサルトライフルにパルスブレード、四連装ミサイルに、左ハンガーにもアサルトライフル。色は特に塗ってないみたい。なーんか既視感あるんだけど……』

 

 その言葉にミュールが反応した。

 

『ハンドラー・ウォルター』

 

『えっ?』

 

『ハンドラー・ウォルターの猟犬でしょう。つまり私の後輩に当たると思われます』

 

 証拠は無い。しかし、強化人間にそんなものがあるかはミュール自身疑問に思っているが、直感がそれをハンドラー・ウォルターの猟犬であると示している。

 

『ならば手早く済ませてさっさと帰りましょう。鉢合わせしてもお互いに良いことはありません』

 

 目的はスッラだけだ。ウォッチポイント自体をどうこうしようというつもりは一切無い。

 そしてスッラの目的は不明で、レイヴンの目的も不明。だが両者は自分たちと違って少なくともウォッチポイント自体に何か用があるはずだ。

 ならば無用なリスクを背負い込むことはない。そしてレイヴンにスッラを譲ってやる必要も無い。何故なら、スッラとレイヴンは鉢合わせればおそらく戦うが、それはお互いが目的の邪魔だからついでに、だろうからだ。互いを主目的としない以上、こちらの目的を優先して良いだろう。

 それに自分たちと遭遇したレイヴンがどういう反応をするのかが読めない。

 ルクスの言う通り、手早く目的を達してトンズラするのが一番だ。

 

『マーカー情報を送ったよ。そっちにスッラが来る』

 

 視界に表示された印を頼りに施設を奥へと進んでいく。

 やがて海が見えた。

 ACの高度計によると今立っている建物の高さは海抜およそ三〇〇メートル。そこから見下ろす海面を真っ直ぐな連絡橋が走り、その先に巨大な円盤形の建物が見える。

 

『あれが最奥ですか。いったい何の施設なのやら』

 

『なんでもあたしらには関係ないっしょ。さ、行った行った』

 

 そうして、連絡橋の先。円盤形の建物の広い屋上へ移動し、待つこと暫し。

 赤白黒のトリコロールの中量二脚型ACが、そこへ降り立った。

 

『ウォッチポイントを襲撃するとは。ハンドラー・ウォルター……ではないな。あれの猟犬はまだ海上か』

 

 その通信を聞いた瞬間、サイレントカナリーが飛びかかった。レーザーダガーの刃が敵ACエンタングルに迫る。

 と同時に、ルクスはスクヴェイダーを退がらせた。屋上の外縁ギリギリに立って戦闘を見守る心算だ。

 スッラはひらりと躱し、レーザーダガーを振り切った直後のサイレントカナリーへとデトネーティングバズーカを向けた。

 コクピットに鳴り響く警告音。クイックブーストで無理矢理に避けて、レーザーダガーをハンガーのショットガンと入れ替える。

 至近距離でエンタングルの周囲を回るサテライト軌道を取りながら、ショットガンとレーザーショットガンで攻め立て、背のパルスキャノンも交え、敵の反撃の隙間を縫ってレーザーダガーで踏み込んでいく。この苛烈な攻めが彼女の得意とするところだった。

 対するスッラは長年戦場に身を置いた強化人間の勘か、受けるとまずい攻撃は的確に避け、そうでないものはある程度割り切って装甲で受けている。そしてパルスガンで牽制、デトネーティングミサイルとプラズマミサイルで追い立ててくる。もしデトネーティングミサイルをまともに受けて固まれば、あるいは気を抜いた機動で隙を晒せば、すぐさまデトネーティングバズーカが飛んでくるだろう。

 

『威勢がいいじゃないか。だがその動き、覚えがあるな。それにこの感じは第四世代か。やはりハンドラー・ウォルターの猟犬か?』

 

『………………』

 

『思い出したぞ。おいお前、619と20はどうした? 死んだか? 私がやり損ねたのは617だったか?』

 

『………………』

 

『ふん、やはり(だんま)りか。ならば復讐など企てる程の感情はまだ無いのだろう? それにハンドラー・ウォルターの首輪も外れているようだ。 何をしに来た? そこのACの指示か?』

 

『………………』

 

 スッラの挑発的な発言の全てを無視して、ミュールはひたすら攻める。

 だが守りを捨てているわけではない。近接信管でプラズマ爆発をまき散らすプラズマミサイルはある程度受けてしまうが、他は全て躱している。

 シュナイダー製軽量二脚NACHTREIHER/42Eの性能、ひいては現在のサイレントカナリーの構成そのものが、かつてのミュール――強化人間C4-618の乗機とは比べ物にならないほど彼女に合っている。それはかつてスッラと戦ったときの彼女よりも強くなっていることを意味する。

 軽量ACの真髄は回避だ。軽さ故に些細なことで崩れそうになる姿勢を制御するためにACS負荷の余裕が少なく、すぐにスタッガー状態となる軽量機で生き延びるのなら、攻撃を全て回避するくらいの気概で集中して動かさなければならない。

 そして強化人間C4-618は至近距離で攻めるのと同じくらい回避も得意だった。それも軽さとブースター出力に物を言わせての、相手を翻弄するような回避が。

 かつての乗機も軽かったが、それは中量二脚型にしては、だ。ブースターの性能が低かったのも合わさって、彼女の焼けた脳が算出する理想の回避と現実の機体(身体)の回避性能には大きな隔たりがあった。戦闘のみに特化した強化人間として当然そのズレを修正しながら戦うことは出来る。だが常にそれを修正するということは、その分だけ脳のリソースをそれに割くということ。他の演算に影響が全く無いわけではないのだ。

 だから――それだけと言うには経験の不足もあったが――彼女はスッラに敗北し、死に直面した。

 今の彼女には四年近い戦闘経験と、自身に最も合う構成のACがある。

 そしてなにより、スッラ――第一世代強化人間との、性能差がある。

 

『お前、危険だな。ここで死んでもらうのが上策のようだが……ふん』

 

 スッラは半世紀以上も傭兵を続けるベテラン中のベテランだ。

 そんな老兵の経験と勘、目の前の敵の動き、この戦闘の流れから、彼は悟る。

 勝てない。

 今のエンタングルの武装構成はこの後の〝本来の仕事〟を見据えている。目的を達した後、しばらく動けなくなるだろうスッラを仕留めるべく飛来する可能性のある、封鎖機構の無人機。これまで封鎖機構の拠点をいくつも襲撃してきてなお排除しきれていないそれが来たときのための武器を持っているため、対AC戦においては少なくともスッラにとっての最適な武装になっていない。

 加えて、四年前よりも敵の動きが良い。この犬――否、雇用主からの情報によると今は鳥だったか――は純粋な腕だけならばまだスッラに及ばないが、彼より三世代も進んだ強化人間である故の性能と、強化手術で一度人格を失ってなお手中にある生来の戦闘の才、四年間で積んだ経験、そして自身に最適化された機体(身体)を手に入れているというアドバンテージがその差を埋めて余りある。

 この瞬間もそう。脚部の持つ縦横の跳躍性能の高さを活かしてパルスガンを避け、それでいてデトネーティングミサイルの軌跡と重ならぬよう立ち回り、プラズマミサイルのプラズマ爆発も最低限のダメージで範囲外に離脱して。パルスガンの冷却とミサイルのリロードが重なったタイミングを逃さずレーザーダガーで斬り込んでくる――そこに合わせて撃ったデトネーティングバズーカをクイックブーストで躱し、それによってキャンセルされたレーザーダガーを再度起動して斬りかかってくる。

 並の傭兵ならば確殺できる、包囲網とも呼ぶべき攻撃をあまりに鮮やかに回避され、隙をついた反撃まで。これは無理だ。

 

『スッラ、対処を』

 

 雇用主からの無茶振りを聞いてスッラは苦笑する。どう対処しろというのか。

 

『無理だな。これは避けられん』

 

『何を馬鹿な、あなたほどの傭兵が。それでは我々の計画が――』

 

 雇用主が何か言っているようだが、もうどうにもならない。

 構え射撃で脚の止まったエンタングルの装甲をレーザーダガーが斬り刻む――ことはなく。

 近接攻撃のモーションとしてプログラムされた踏み込みの終わり際、今まさにレーザーダガーを振り始めんとしたタイミングでモーションがキャンセルされて。

 サイレントカナリーの背部が開いた。放熱フィンが露出し、赤い光が収束し、一瞬だけ球を形成して――炸裂。

 コーラル内燃型ジェネレーターを搭載していることでコーラル爆発となったアサルトアーマーが、ブレードホーミングによってほとんど密着していたエンタングルを襲った。

 爆発によるダメージと、強烈な衝撃によるACS負荷。両方をまともに受けたエンタングルはスタッガー状態に陥り、一切の操作を受け付けない。

 その間に再度レーザーダガーを起動したサイレントカナリーは、今度こそ規定の三連撃をエンタングルに浴びせる。短いレーザー刃は深手にこそなりにくいものの確実に装甲を斬り刻み、ダメージを蓄積させていく。

 そしてその連撃が終わった瞬間。エンタングルがようやくACSを再起動する、その直前。

 まだ動けない機体を、杭にも似たレーザーの一撃が刺し貫いた。

 短剣のような形をしたシュナイダー製レーザーショットガン。そのチャージショットは俗にレーザーパイルとも形容され、至近距離で高い威力を発揮する一撃となる。

 コアを穿つそれをエンタングルはACSの補助無く直撃させられ、それがトドメとなった。

 衝撃で屋上から落下したエンタングルは、偶然にも丁度この円盤形の施設の入り口の目の前に背中から叩きつけられ、炎上する。その傍らに、連絡橋を背にするように降り立って、サイレントカナリーのアイカメラがエンタングルを睥睨した。

 

『満足か……鳥……』

 

 ノイズ混じりの通信。それを受けてミュールは、四年前も含めて初めての返事をした。その声は戦闘を経てなお淡々として感情は窺えない。

 

『肯定します。私は満足しました。ですがあなたの言った通りです、強化人間C1-249スッラ。これは復讐ではありません』

 

『何……?』

 

『強化人間C1-249スッラ。私は単に、既に終わった仕事を、よりスッキリと片付けたかったに過ぎません。喉に刺さった小骨を取るように』

 

『……なるほど……哀れなことだ……ハンドラー・ウォルター……』

 

 その言葉を最後に通信は切れ、エンタングルの各所にあるセンサーが光を失う。脱出装置は作動していない。パイロット――スッラは生きてはいないだろう。

 

『目標の撃破を確認。ミッション完了――と言いたいところだけど、悪い知らせ。来たよ、ハンドラーの猟犬が』

 

 サイレントカナリーの後ろにのびる連絡橋。その上にACが一機。

 確証は無い。けれどわかる。機体構成に覚えがある。かつて同じものに乗っていたのだから。

 

『ウォッチポイント襲撃。単騎で敢行するからには、私たちとは〝違う〟のでしょう』

 

 振り向いたサイレントカナリーのカメラが捉えるその姿。肩に鳥の白いシルエットのエンブレムを貼り付けたそれは。

 

『邪魔者はどけておきました。どうぞ先へ、ハンドラー・ウォルター。そして今の猟犬(ハウンド)

 

 二度と道が交わらぬ、かつての飼い主(ハンドラー)。その猟犬に違いなかった。

 

 

 

 

 

 ハンドラー・ウォルターの指示でウォッチポイント・デルタへと赴いた独立傭兵レイヴン――強化人間C4-621は、己の飼い主の困惑の声を聞いた。

 

『証拠は残すな。目撃者は全て――いや待て。何かおかしい』

 

 AC、LOADER 4のカメラを通して戦場を見る。そこは既に何者かによって蹂躙されていた。

 残骸となって転がる一〇機のMT。もはやレーザーを吐くことの無いふたつの大型砲台。

 この場は既に全てが終わっているようだった。

 

『どういうことだ……? 俺たちの他にここを攻める勢力があるとは思えん……。

 それにこれは……微かだが空気中にコーラルが残留している……? 621、慎重に進め。何が居るかわからん』

 

 その指示を受けて、レイヴンはいつものブースト移動ではなく、LOADER 4を歩かせて施設の奥を目指した。MTの残骸はまだ炎や煙をあげていて、ここで行われた戦闘――あるいは蹂躙――からまだそれほど時間が経っていないことを彼に伝えている。

 やがて建物に挟まれて通路状になった場所を抜け、ふたつ目の広場。

 ここもまた既に全てが終わっている。ふたつの砲台は骸を晒し、MTももはや動くことはない。

 

『621。マーカー情報を更新した。

 目的の施設はそちらにある。そしてどうやら、ここを襲った何かもそこだ』

 

 新たなマーカーは一際高い建物の上だ。さらに高いふたつの建物に挟まれてまるで門のよう。

 ブースターを起動し、一息にそこへ飛んでいく。その先は海へと開かれており、眼下の真っ直ぐな橋の先に円盤形の施設。

 その施設の屋上で、真っ赤な光が弾けた。

 

『あれはコーラル爆発……!?』

 

 ウォルターの驚愕をよそに事態は動く。爆発の直後、青い光が4度閃いた。

 レーザーによる攻撃。どうやら赤い光と同じくACによるもののようで、それを受けた物もまたACであるようだ。円盤形の施設の入り口正面に落下したそれを追って、ACらしきものが着地したのが見える。そしてそれはその場に留まって動く気配が無い。

 

『621、お前の仕事はあの施設内部にあるセンシングバルブの破壊だ。接触は避けられん』

 

 その通りだ、とレイヴンはコーラルに焼けた脳で計算する。

 同時に、仕事の邪魔であれば消さなければならない、とも。

 通常ブースト起動。いざという時のためENは消費しないようにしながら近づいていく。

 そして、相手が動いても即座に対応可能な距離で停止したとき、そのACから通信が入った。

 

『ウォッチポイント襲撃。単騎で敢行するからには、私たちとは〝違う〟のでしょう』

 

 振り向いたAC。聞こえるのは少女のような、しかし感情の乗らない声。

 

『邪魔者はどけておきました。どうぞ先へ、ハンドラー・ウォルター。そして今の猟犬(ハウンド)

 

 それを聞いたウォルターが息を呑むのがレイヴンにはわかった。

 

『お前は……』

 

 ウォルターの震える声。

 しかしレイヴンはそれを意に介さない。

 目の前のACは道を開けるかのように入り口脇へと歩いていく。あれがまだ攻撃してこない以上、そしてウォルターから攻撃の指示が無い以上、まだあれは敵ではない。

 しかし、再びこちらを向いて佇むACを警戒しないわけにもいかない。さらにウォルターからは施設突入の指示も無い。

 結果として、レイヴンはサイレントカナリーを警戒したまま立ち尽くしていた。

 

『…………どうかしましたかハンドラー・ウォルター? 何故進まないのです?』

 

 その様子に、ミュールはコクピット内で首を傾げた。連動してサイレントカナリーの頭部も傾く。

 

『618……なのか。生きていたとは……ならば何故戻らなかった……!?』

 

 ウォルターが取り乱すのをミュールは不可思議に思いながら、しかし律儀に返事をする。

 

『肯定します。私は強化人間C4-618です。スッラに撃墜された(のち)、死亡寸前だった私は通りかかった独立傭兵に拾われました。

 特にハンドラー・ウォルターの元へ戻る理由もありませんでしたので、治療後は彼らと行動し、独立傭兵として活動しています。またこの四年程はとても刺激的でしたので、幾分かは感情も回復したと自覚しています』

 

『戻る理由が、無い……?』

 

 それはウォルターにとっては心を抉る言葉だった。

 確かに彼は旧世代型強化人間を死地へと放り込む。買っては死なせ、買っては死なせと繰り返してきた彼は、強化人間を使い潰して利益を得る極悪人として悪名が知れ渡っている。

 しかし彼としては、買った強化人間を無碍に扱ったことは一度として無かった。目的のため、心を殺して危険な作戦を遂行させはするものの、死んで良いなどと思ったことは一度もないし、買った強化人間のことは尊厳ある個として扱っていたつもりだ。

 そんな彼にとって、自身の元へ戻る理由が無いと、他ならぬその強化人間本人に言われるとは思ってもみないことだった。

 

『……………………? 何か不明な点がありましたか、ハンドラー・ウォルター?』

 

 しかしミュール、否、強化人間C4-618にとって、そんなことは自明であったらしい。

 

『私は強化人間ですから、オーナーに与えられた仕事をします。そしてあの日の私の仕事は、殿(しんがり)としてハウンズを逃がすこと。それは完了しています。その後の仕事は与えられていませんでしたし、私は撃墜――つまりデータ上は死んだでしょう。

 私は役目を終えて壊れて廃棄された備品でした。そしてそれを拾ってレストアした者が居る。それだけの話です』

 

 事実、誰かが回収に来ればわかるように二日ほど、彼女のACの残骸があった場所をドローンで監視していたとミュールは聞いている。そして誰も来なかったとも。

 であれば、彼女が戻る(返却される)道理は無い。

 

『備品などと……俺は……!』

 

 思ったことは一度も無い。

 しかしそれが相手に伝わっていると思うのは、普通の人間であるウォルターの傲慢に他ならない。彼は旧世代型強化人間がどういうものであるかの知識はあっても、実際にそうなったときの人格を自身が体験したことが無い。

 

『ハンドラー・ウォルター。あなたの猟犬は今日、単騎でここに来た。つまり他は死んだのでしょう?』

 

 ウォルターは言葉に詰まった。確かに現在、生き残っているハウンズはレイヴンだけだ。ミュールの同期も皆死んだ。

 

『彼らが――私を含めてですが――命をかけて仕事をした理由。それは仕事だからです。

 あなたが私たちを尊厳ある存在として扱った、というのは、多少人間になった今の私だからわかることでしかありません。

 買われてすぐに死んでいったという私の前任たち、そして少なくとも私が()()()時点での私含む同期たち……外部の刺激を十分に受けていない第四世代は尊厳を認識する機能がまだ無い』

 

 ウォルターがいくら普通に接しても、強化人間たちからの反応はほぼ無い。販売時点で戦闘に関わる機能以外が死んでいる彼らにそんなものを期待はできない。

 それでもウォルターには出来なかった。自身の父の狂った成果でそうなってしまった被害者を、さらに自分の都合で物として扱うなどということは。そしてそれは、反応は無くとも伝わっているのだと思いたかった。彼らは人の姿をしているから。

 それは自己満足でしかなかったのだと、今まさに彼は突き付けられている。

 

『ですからハンドラー・ウォルター。あなたに忠実で、あなたの指示で死ぬ理由は、あなたへの忠誠心や恩義や情ではなく。死ぬような作戦に出て死んで来るという仕事だからでしかないのです。

 つまり、ハンドラー・ウォルター。「生きて(あるじ)の元へ戻りたい」という感情を当時の私は持ち得なかった――そして多少は感情の戻った今、自らの意思でなくあなたの都合で死にに行く環境へ戻りたいとは思っていない。それが全てです』

 

 珍しく饒舌なミュールに、ウォルターを言い負かしてやろうとか凹ませてやろうとか、そういう気持ちは一切無い。

 ただ()()()困惑している彼に事実を説明しているに過ぎない。

 そうとわかる淡々とした口調だからこそ、ウォルターの心をパイルで()ち抜いているのだが。

 

『ですが、そう――あの日乗っていたACを弁償しろと言うのなら払います。それくらい端金な程度には稼いでいるので』

 

『……必要ない。618……お前は今……独立傭兵なのだな』

 

『はい、ハンドラー・ウォルター。楽しくやっています。人間なのです私は、おそらくあなたの元へ戻るよりもずっと』

 

 およそ楽しそうには聞こえない平坦な声だが、嘘ではないとウォルターは感じた。

 

『話は終わりましたかミュール?』

 

『はいルクス。彼は襲ってこないようですし、帰りましょう』

 

 突如割り込んだ男性の声。レイヴンが機体のカメラを上に向けると、施設入り口の真上にあたる位置に新たにACが現れている。

 

『お前が618の仲間か』

 

『はじめましてハンドラー・ウォルター。私は強化人間C0-066、今はルクスと名乗っています』

 

 心臓を握りつぶされたようにウォルターは感じた。

 C0の型番が表すのは試作世代。コーラルを用いた強化技術を確立するための、つまり()()()()()()()()()

 

『私から特にあなたに思うところは無かったのですが、先ほどひとつできました。

 今の彼女はミュールという名を持っています。そう名乗らなかった彼女も彼女ですが、ハンドラー・ウォルター。あなたはあなたで、離れて四年も経ち、独立傭兵として登録している彼女に今の名を尋ねなかった』

 

『それは……』

 

『必要無いと思いましたか? それとも、我々強化人間は自分から名を持とうとはしないとでも?

 どちらでも構いませんが、やはりあなたはハンドラーなのです。私たちを人とは見ていない。犬に名を聞いても名乗れませんから聞く発想にならなかったのでしょう。……ああですが、そういえば犬は地球の法では器物でしたか? ならばやはりあなたにとっては物でしょうか。

 偶然の一致とは思いますが、同名なだけあって私たちを生贄にしたあのウォルター第一助手にそっくりですね。あの男は私たちを物としてすら見ていなかったと思いますが』

 

 ルクスに強化前の記憶は無い。

 だが、強化手術の後。奇跡的に生き残って見せた彼にあの男は狂喜乱舞して、様々なデータを取った。時に苦痛を伴った――と思うのだがいかんせん当時は感情が死んでいた――数々の検査や実験を行うあの男の、目だけははっきり覚えている。

 あの目はルクスを、興味深い数値の集合体として見ていた。

 

『………………』

 

 そして知らずとはいえ自身の父の所業を改めて認識させられたウォルターは、通信の向こうで頭を抱えた。

 ミュールには彼を責める意思は無かった。だがルクスにはある。

 

『まあ、ですが良いでしょう。そこのACはミュールが撃破しました、つまり今度こそあなたと彼女を繋ぐものは何も無い。少なくともプライベートではね』

 

 大型の輸送ヘリが二機飛来した。レイヴンが用いているのと同型のそれは、やはりレイヴンのそれと同じAC用のガレージコンテナを搭載している。

 

『今回はさようならです、ハンドラー・ウォルター。そして独立傭兵レイヴン。

 お互い傭兵、戦場で会うこともあるでしょう。その時には敵なら敵、味方なら味方として、傭兵らしく過ごしましょう』

 

 ルクスはそう言い残して、スクヴェイダーをヘリに格納した。続いてミュールも、こちらは無言でサイレントカナリーをもう一機に乗り込ませる。

 そうして二機がベリウス地方へ向かって飛んでいくのを、レイヴンとウォルターは黙って見送った。

 

『……621、奴らのことは気にするな。

 仕事を続けるぞ。センター内部に侵入しろ』

 

 ウォルターの声は心なしか重い。

 だがそれをレイヴンは感じ取れなかったし――ウォルターの言う通り、今去っていった二機のACのことは全く気にしていなかった。

 当然だ。気にする機能がまだ無いのだから。

 

『……これは、スッラか』

 

 転がっているACの残骸の横をLOADER 4が通り抜けるとき、ウォルターが沈痛な声でこぼした。

 彼にとっては因縁のある相手だ。そしてスッラを618、いや、ミュールが今日撃破したという事実は、彼の心にさらなる影を落とした。

 レイヴンは今の探査AC用パーツが性に合っているようで、オールマインドが提供するシミュレーターで試したどんな構成よりも良い動きをする。今後内装は変えるかもしれないが、それ以外はこのままがベストだろう。

 だが、ミュール。そして今までにウォルターが殺した強化人間たち。

 彼らにとってこのフレームは、重荷だったのかもしれない。特に先程のミュールの機体構成はかなりの軽量だった。

 資金面の問題と部隊運用のしやすさを考えて統一していたORBITERフレーム。機体数を確保したうえで役割に合った武器を揃え、さらに修理や交換を十全とすることに資金を優先して回し、内装はコストを抑えた型落ち品。だがもし、多少無理をしてでももっと個々に合った構成をさせてやっていれば、あるいはミュールはあのときスッラに負けなかっただろうか。他の強化人間たちは死ななかっただろうか。

 後悔が彼を苛む。

 それでも。

 彼は彼の目的のために、それらを気にしている時間は、無いのだ。

 

 

 

 

 

 このすぐ後、ベリウス地方北西ベイエリアが、コーラルの局所爆発によって消滅する。

 それはルビコンに住まう者、侵略者、その全てを新たな戦場へ(いざな)うことになった。

 

 が、少なくともその要因や、各陣営の思惑は、ルクスたちには関係のない話。

 

「ルクス、アーキバスから依頼が来ています。中央氷原に建設中のベイラムの拠点を破壊して欲しいとのことです」

 

「ベイラムからも依頼来てんよ〜。中央氷原に拠点作りたい解放戦線がボナ・デア砂丘の端にそれ用の物資集めてるから、壊すか奪うかしてこいって」

 

「あのカラスが海を渡ってからというもの、どうも慌ただしいですね。解放戦線からも来ていますよ。中央氷原から戻って来るアーキバスの輸送機を破壊して欲しいんだそうです。アーレア海を渡れる輸送機は今まさにBAWSがじゃんじゃか造って売ってる最中で、どこもまだ貴重ですからね。減らせば影響は大きいでしょう」

 

 今日も彼らは朝食を摂りながら方針について話し合う。

 

「ひとつひとつはあまり面白そうではありません」

 

「でもさー、どれも一人でやれそうじゃん?」

 

「となると、全部いっぺんにやった方が楽しそうですね」

 

 彼らの判断基準はたったのふたつ。儲かるかどうか、そして楽しそうかどうか。

 

「そんじゃ平等に全方位苦しんでもらいますか! くじ引きでどこ行くか決めよ〜ぜ〜」

 

「負けません」

 

「勝ち負けとかありませんよミュール」

 

 企業の勝敗。ルビコンの行く末。コーラルの利権。

 そんなものを考えるためにわざわざ密航してきたのではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――やがて、全てが終わり、新たな闘争の時代が始まるとき。

 

『こんにちはV.(ヴェスパー)IV(フォー)。ご気分は?』

 

『もう私はヴェスパーではないよ。だが、そうだな……悪くない』

 

『それは結構。解放戦線には連絡しておきました、じき迎えが来るでしょう』

 

『……ずいぶんと楽しそうだな?』

 

『当然。これからまた企業や封鎖機構……それにあなたたちともドンパチやるのですから』

 

 墜ちゆく方舟を見上げて、彼らは新たな玩具の到来を確信し、笑うのだ。

 

 

 




 
 
 よく読んでくれた。残念だが、読後の余韻など始めから無い。騙して悪いがクソ長後書きなんでな、読んでもらう。

※本当に誇張抜きでクソ長くてほぼ後書きの文字数上限くらいあるので、興味無かったら読まないでいいです。また、以下に書いてある内容のうちゲーム内に描写が無いことは全て私の解釈と考察です。それに基づいて本作を書きましたというだけであって、皆さんにこれが正しいと押し付ける気はありません。



☆主人公まわりのアレコレ。

識別名:ルクス(Luchs)
AC:スクヴェイダー(SKVADER)

 強化人間C0-066。アイビスの火以前にコーラル使用型強化人間の試作として実験体となった彼は、その数少ない成功例である。彼らから得られた知見は強化手術の改良に繋がり、正規品である第一世代強化人間は手術成功率約一割という「破格の高確率」となった。
 技術が劣悪どころか理論を確立していく段階の、死ぬ前提での実験だったこともあり、それ以前の記憶は全て失われている。
 第一世代がロールアウトしたことで彼は不用品となり、コールドスリープ処置を施されベリウス地方のとある市街地の地下にて保管されていた。アイビスの火から二〇年の後、廃墟漁りをしていたジャンカーの手で解凍されこれを殺害。ジャンカーの乗っていたACと、自分の寝ていた施設に残されていた技研製ACパーツを用いて傭兵となる。
 ある程度稼いだ後、既に荒されきって何も残っていないと言われている廃墟に、持ち出せなさそうなコーラル系パーツを隠してから星外へ脱出。紆余曲折ありシュナイダーのテストパイロットに。
 アーキバスがルビコン3へ進駐したのを機に「あっちでドンパチしたほうが楽しそうだ」と里帰りを決意し、テストパイロットを辞して傭兵活動を再開。シュナイダーで交流のあったエミューが同行を申し出てきたため了承し、以後共に活動する。
 ルビコン星系の中継惑星にて強化人間C4-618を拾い、シュナイダーによる物資輸送に相乗りしてルビコン3に密航。隠していたパーツは丸々残っていたので回収した。
 こうした経緯からシュナイダーに太いパイプがあり、同社の製品を入手しやすいなど恩恵があるものの、機密を知りうる立場には無く、故にシュナイダーとルビコン解放戦線の関係は知らない。
 丁寧で物腰柔らかな態度だが、それはそうすることが対人関係を円滑にするために有効であるという知識を「自分という筐体を操縦して」実践しているにすぎない。強化手術の影響で失った感情は数十年のうちに戻っているものの、意識して自分を操縦しなければそれが表情や言動に反映されない。
 彼にとって自己とは「肉体に搭乗して操縦している脳」なのである。このためワンテンポ遅れて反応することや表情が自然体とは言い難いことが多々あり「胡散臭い」という印象を抱かれやすい。
 薄茶色で耳にかかる程度の長さの髪にオレンジ色の瞳の、よく鍛えられた長身の男。二メートル近いので、小柄なミュールと並ぶとかなり犯罪的。
 試作としていろいろと弄られた結果少しだけ老化が遅くなっているようで、コールドスリープ期間を除けば五〇歳程だが三〇代程に見える。もし天寿を全うすればおそらく一二〇歳か一三〇歳くらいで老衰で死ぬ。
 ルビコンエンジョイ勢の一人。
 所持している技研パーツは、それが本人のスタイルに合うならば仲間にも惜しみなく使わせている。ルクス自身はIA-C01W7:ML-REDSHIFTを使っているが、星外ではIA-C01W2:MOONLIGHTを使っていた。

 エンブレムは、白で縁取られた円形のピンクのクレストの中に白い線で図案化されたスクヴェイダー(有翼のウサギ)が描かれている。

 名前はドイツ語でオオヤマネコ。私が一番遊んだACがfAであり、リンクスと自認していることから。彼のキャラ造形は私とはかなりかけ離れているんですが、小説書くんならやっぱり少しは主人公に自己を投影してちょっとくらいいい気分になりたいよね。

機体構成は
UNIT
R-ARM UNIT:SG-027 ZIMMERMAN
L-ARM UNIT:VP-66LS
R-BACK UNIT:KRANICH/60Z
L-BACK UNIT:IA-C01W7:ML-REDSHIFT

FRAME
HEAD:LAMMERGEIER/44F
CORE:NACHTREIHER/40E
ARMS:EL-TA-10 FIRMEZA
LEGS:KASUAR/42Z

INNER
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FC-006 ABBOT
GENERATOR:VP-20D

EXPANSION
ASSAULT ARMOR

【挿絵表示】

 私がゲーム中で愛用している機体。世界一かっこいい(確信)。
 よろしければ皆さんも組んで使ってみてください、良い機体ですよ。出力の問題でジェネレーターはこれかNGI 000しか積めませんけども。
 私の機体の組み方って昔から「見た目がかっこいい組み合わせでフレームを、次にそのフレームで持つとかっこいい武器を選び、最後にそれを実現できる内装を選んで、例えそれが使いにくい組み合わせでも練習でどうにかする」なので、EN負荷はたいてい死にます。今作ではジェネレーターによる噴射炎の違いも機体のビジュアルに含めて考えてしまうので余計に。

 愛機が活躍する話を書きたいけれど、この子は赤月光を装備している。それに世界観的な説得力を持たせるためにルクスくんは試作強化人間になり、技研パーツたちと共にコールドスリープしました。捏造した試作世代にするか作中全く登場しなくてなんぼでも捏造設定盛れそうな第六世代あたりにするかだいぶ悩んだけど、第五第六あたりはルビコン星系外に持ち出されていたコーラルを用いてアイビスの火より後に生まれたものという可能性が否定できないので試作世代に。



識別名:ミュール(Mule)
AC:サイレントカナリー(SILENT CANARY)

 強化人間C4-618。不良在庫として闇医者の元で保管されていたところハンドラー・ウォルターに617から620までの連番で買われ、以降彼に従っていた。
 ルビコン星系外縁の中継惑星にてミッション中に独立傭兵スッラの襲撃を受け、殿(しんがり)として617たちを撤退させたが自身は撃墜された。動かないACのコクピットで死を待つばかりだった彼女はしかし、仕事の帰りに通りすがったルクスに救助され生き延びる。
 撃墜されたことでウォルターとの仕事は終わったと判断し、身体が癒えた後はルクスたちと共に行動している。ウォルターの元に居たときは〝猟犬〟であった彼女は、ハンドラーとして振る舞わないルクスの下では〝仕事の間だけ籠から出て自由に飛べる鳥〟であると自己を定義し、傭兵としての名義をミュール――飼育用の鳥の一代雑種――とした。
 手術後すぐに在庫となってコールドスリープしていたため、第四世代の例に漏れず感情の起伏に乏しい。ルクスとエミューの影響でマシにはなっている。
 膝まであるウェーブのかかった金糸の髪にサファイアのような蒼い瞳。華奢で儚げな容姿の、人形のように整った美少女。
 見た目は幼いが強化手術を受けた時点で成人している。強化前の記憶はほとんど保持しているものの、人格が断絶しているため他人の記録のようにしか感じられていないうえ現状特に必要な情報ではないことから言及することは無い。
 スッラとの戦闘で右腕と視力を失った。
 か弱そうな容姿に反して戦闘では苛烈に前に出てのインファイトを好む。また、元々口数が少ないが、AC搭乗中は輪をかけて無口になる。
 ルクスとエミューがルビコンエンジョイ勢であるため、彼女もまた毒されつつある。
 最近オペレーターの勉強も始めた。強化人間の特性としてACや端末等と接続することで脳に直接映像を送れる(ゲーム中のブリーフィング等の描写からそういう解釈を本作ではしている)ため、オペレート中はコンソールと繋いでいる。

 エンブレムは鳥籠に入ったカナリア。喉のあたりに赤でバッテンが書かれている。

 名前は上述の通り、カナリアを他の鳥と交雑させることで生み出される飼育用一代雑種から。ラバでもなければ履物でもないし、RaD製ブースターとも関係ない。
 繁殖能力を持たないことと鳴き鳥としての需要からオスしか出回らないらしいが、別に618が男の娘というわけではない。

機体構成は
UNIT
R-ARM UNIT:WUERGER/66E
L-ARM UNIT:VP-67LD
R-BACK UNIT:KRANICH/60Z
L-BACK UNIT:SG-026 HALDEMAN

FRAME
HEAD:HC-2000 FINDER EYE
CORE:NACHTREIHER/40E
ARMS:LAMMERGEIER/46F
LEGS:NACHTREIHER/42E

INNER
BOOSTER:FLUEGEL/21Z
FCS:FC-006 ABBOT
GENERATOR:IB-C03G:NGI 000

EXPANSION
ASSAULT ARMOR

【挿絵表示】

 ハウンズ時代は他のハウンズ同様のORBITERフレームに両手HALDEMAN、両ハンガーLUDLOW、エキスパンションはアサルトアーマーのscav618SGに乗っていた。
 なお本作においてはORBITERとWRECKERはカーラがRaD入りする前から製造されているものとしています。理由は廃材の寄せ集めとはいえフルコースだけが「戦闘用」のおそらくワンオフとして作られていることと、あのふたつには探査用・土建用として変なところは見当たらないから。カーラ製ならもうちょっとこうなんか変なとこあるやろたぶん。

 あとストーリートレーラーがルビコンではない惑星の出来事であるという考察は多くの人がしていますし私もそう思うので本作でもそうなんですが、そうするとRaD製のORBITERフレームが星外で売られていることになります。
 ウォルターがカーラの伝手で手に入れただけで外じゃ売ってないという可能性もありますが、ORBITERフレームの各部位の説明からしてルビコンの星内だけで売る製品でするような設計ではないでしょう。宇宙船外活動なんて封鎖中のルビコンじゃあ出来ませんし、ルビコンの地表を探査するだけなら「天体表面探査」とは言わないと思いますし。
 まだ自由に出入り出来たアイビスの火以前に開発されたという可能性は……無くはないですが個人的にはあんまり無さそうかなあという気持ちです。古いなら古いって書きそうじゃないですか?
 なので本作では、RaDが何らかの方法で輸出しているのか、星外にRaDの息のかかった工場でもあるのか、はたまた外の誰かが勝手にコピーして製造販売しているのか――ちょっと厳密には決めていませんが、外でも流通している設定でやっています。
 これはエルカノやBAWSの製品も同様です。
 ただ、単独ではフレームと武器しか作っていないうえそれなりの技術力がありそうなエルカノはともかく、内装の説明からして外部の技術の流入が無さすぎて発展が遅れていると解釈できるBAWSは外に伝手は無さそうなのでコピー品かなあ……。
 ウォルターが星外のおそらく封鎖機構に感知されない距離から通信飛ばせてるあたりデータのやり取りなら外とも出来そうなので、フラットウェルやラスティのように星外へ出たBAWSやエルカノの職員が製造設備を確保して販売し稼いだ金で星外企業の製品を購入して解析してデータを本社に送って――みたいなのは出来そうではあるんですが。このあたりちょっと詰め切れません。でもYABAとHOKUSHI作った時にはそういうのやってんのかな。よくわかりません。



識別名:エミュー(Emu)
AC:エントトイシュング(ENTTAEUSCHUNG)

 元シュナイダー社員。製品開発、特に技術実証に関わっていた。LAMMERGEIERの開発者の一人。本名はユリアーナ・リンデマンだが、古巣とやり取りする以外で呼ばれる機会は無い。何故ならルクスもミュールも彼女の本名を知らないから。
 人生エンジョイ勢。面白いかどうかと空力が判断基準。テストパイロットだったルクスと交流があり、彼がルビコンへ行くと聞いて「そっちのほうが楽しそう」と考え同行することにした。シュナイダーとルビコン解放戦線の関係を知っているが、解放戦線に肩入れしようという気は全く無い。
 基本的にシュナイダーとのやり取りやルクスたちのACの整備・調整を担当している。しかしそこは人生エンジョイ勢、ルビコンもエンジョイするために当然のようにACに乗って傭兵稼業もするし、オペレーターもやる。
 ……が、パイロットとしての彼女は空とは絶望的に相性が悪かった。ジャンプ、通常ブーストによる飛行、アサルトブーストは問題なかったが、四脚のホバーを用いての空中戦の適性が何故か全く無かったのである。
 しかしそこは頭空力の元シュナイダー社員。ホバーができねえならその空力特性を地上で発揮すればよいのだ! とばかりにフルシュナイダーフレーム、それも脚部はLAMMERGEIERで地上を跳ね回りクイックブーストし、今日も元気にルビコンを楽しんでいる。
 ただやっぱり飛びたかったのは飛びたかったらしい。機体名を「失望」にするあたりにそれが滲み出ている。
 薄青の瞳で、腰までの真っ直ぐで艷やかな黒髪をうなじでまとめて尻尾のようにしたギリギリ二〇代の美女。女性としては身長が高く一七五センチほど。細身だが、胸部は大きくはないもののしっかりある。
 ルクスの人格的な性質を理解しており、自身の肉体的な損害を軽視しかねないことを危惧しているため、ミュールにいろいろと吹き込んで「二人で身体で誑し込めばちょっとは自分の身体に執着するかも計画」を進行中。

 エンブレムは主翼の無い戦闘機。彼女の無念の証。

 名前は四脚使いなのに飛べないということで飛べない鳥から。けっこう素早い鳥らしいので軽量機にもピッタリだと思う。

機体構成は
UNIT
R-ARM UNIT:LR-036 CURTIS
L-ARM UNIT:LR-036 CURTIS
R-BACK UNIT:45-091 ORBT
L-BACK UNIT:45-091 ORBT

FRAME
HEAD:KASUAR/44Z
CORE:NACHTREIHER/40E
ARMS:NACHTREIHER/46E
LEGS:LAMMERGEIER/42F

INNER
BOOSTER:ALULA/21E
FCS:IB-C03F:WLT 001
GENERATOR:VP-20D

EXPANSION
TERMINAL ARMOR

【挿絵表示】

 なおver.1.09.1現在、実際にゲームでこれを組むとEN出力4031に対してEN負荷4030になる。当然他のジェネレーターでは出力不足になる。
 また本作においてはオールマインド製パーツは「オールマインドの登録傭兵ならログハントプログラムをやれば誰でも手に入るもの」として扱っているので、エミューは別にリリース計画に与する立場とかではない一般ルビコンエンジョイ勢である。

 シュナイダー製試作パーツLAMMERGEIERを手に入れられる理由付けとして生まれたキャラ。シュナイダーとのコネをフルに使ってパーツを買うし密航もする。
 私が解放戦線という組織のことを好きでも嫌いでも無いので、エミューも解放戦線に特別思うことは無いスタンスになってもらいました。依頼があって報酬がその内容に見合っていれば解放戦線につきますが、そうでないなら別に味方しようとはしません。もうシュナイダー社員ではないですからね。
 これは彼女だけではなく三人ともですが、過去作のように一般ルビコニアンをいっぱい殺す感じの依頼が来たとしたら報酬次第で特に躊躇わずにやると思います。
 なお私が創作する女性キャラクターにしては背が高いですが、これは体格差萌えの私がルクスとミュールの身長差をエグいことにするべくルクスの身長をだいぶ盛ったからです。エグい体格差も好きですが頭ひとつ分くらい違うのも癖なのでエミューにはそれくらいになってもらいました。





☆以下本作について。ウォルターの悪口とか、他の作者さんのAC6二次を読んで首を傾げた内容とかがけっこう書いてあるので、そういうのダメだったら読まないほうがいいです。
 また、もう一度言いますが本作で捏造した設定について私の解釈や考察を交えて書いています。それらに興味がない場合も読まなくても何も困りません。何度も言いますがクソ長いです。

 それから先に言っておきますが、私は登場キャラクターに対する好き嫌いと物語に感じる面白さは連動しないタイプです。AC6の物語もとても楽しみました。私の中では歴代ACシリーズでは6とfAが同率一位です。



 概要にもある通り、数あるAC6二次小説を読んでて「なんか……面白いけどなんか違ぇんだよな……一番読みたい感じのやつ……」ってなったので本作を書きました。細かい違和感は多々ありますが、言語化できる中で大きなものはふたつです。



 ひとつは、近接、特にパイルを担いでるオリAC(オリ主とか生存ハウンズとか、アセンを初期とは変えてる621とか)の腕が私の観測範囲ではほとんどBASHOだった――という印象が自分の中に強烈に残ったことです。これは事実がどうかはわかりません、完全に私の主観なので。
 自由に組み替えられるゲームの、自由に書いていい二次小説で、ゲーム的に一番近接の火力出るからってBASHOばっかりだとさあ……なんかさあ……。
 という思いが強すぎて事実を捻じ曲がって認識している可能性のほうが高いのでしょう。私自身の「ゲームで一番火力や効率が出るやり方をするのはつまらん」というひねくれた嗜好がフィルターになってしまっているのも否定できません。でもそう思っちゃったのでね、仕方ないね。
 もちろんBASHOにするのは自由ですし、自分の愛機を活躍させただけという場合も多いだろうとも思います。本作も愛機を動かしていて、私は見た目が好きで重ショ積んでますけど、他人から「強いから積んでる」という風に見られても仕方ありません。でもどういうアセンにするかと同様にどういう感想を持つかも自由ですからね。

 そう思うだろ、あんたも。
 ……思ってるんだろ?
 …………思わないのか?

 まあ、なので本作では、私のアセンの癖も相俟って、BASHO腕でもやれんことはなさそうな構成のサイレントカナリーとスクヴェイダーはBASHO腕ではありません。
 また五〇〇〇兆分の一くらいの確率で続きが出たとしても、貧乏傭兵やルビコニアン、あるいは超ベテランといったキャラクター以外が乗るオリ機体――が登場する予定も続きが出る予定と同じくらい無いんですが――には近接を積んでる積んでないに関わらずBASHOを使わない縛りでやりたいなあと思っています。腕だけでなく全身。
 これは私の心情の問題だけでなく私が考えた世界観上の理由もあって、BASHOが旧式オブ旧式だからです。
 堅牢で無骨な作りがオールドファンに人気とは描写されていますが、ではオールドファン以外はどうかというと……。
 現実的に考えて、旧式も旧式のAC黎明期の設計であるBASHOを、他のもっと新しい製品を買える環境にある傭兵がわざわざ買って命を預けはしないんじゃあないか。
 少なくとも私だったらしません、死にたくないので。ゲームではアプデでコアがやたら強くなったり脚も割と優秀になったりしましたが……それでもちょっと……。特に腕は買いたくない、射撃が終わりすぎてる。
 逆に、よくネタにされるダナムとツィイーのアセンはルビコニアンとしては非常に自然なアセンだと思います。ラミー? あれは知らん。
 選択肢があるなら私ならBASHOは買わない、とは言いましたが、ではBASHOかFIRMEZAかの二択しか無い状況では? 近接武器を使ったり軽量機体による高速戦闘をこなしたりするほどの腕や才能が無い者ほど中量級で堅牢で安くて操作負荷が低そうなBASHO一式を使うのではないかなと思います。ゲームをやっている私たちは「BASHOなら近接使えよwwwww」とか「お前らFIRMEZAのほうがいいよwwwww」とか気楽に言えますけど、彼らは死んだらそこで終わりですからね。



 ふたつめは――これは二次小説だけじゃなくて界隈全般なんですが――なんかウォルターとカーラが持ち上げられ過ぎじゃねえかなっていうところです。
 もちろんこれも私の観測範囲と認知が偏っている可能性は大いにあります。でもこっちは腕の件と違って事実としてそんな感じだと思う。
 でもさあ……ウォルターもカーラも生存! それが正解ハッピーエンド! ばっかり言われると「こいつらそんなわっしょいわっしょいされるような人かなあ……」って。そういう感想は否定しませんし、そういう二次はそういうもんとして好きで楽しく読んでますけど、自分の感性にドンピシャな感じなのは見つけられなかったなあ。

 技研の生んだ狂った成果だとウォルター自身も思っている技術で強化された旧世代型強化人間を、技研の関係者っぽいウォルターが使い潰して(本人の心情はともかく事実としてそう)、技研のナガイ教授の遺志やおそらく父であろう第一助手の贖罪っぽい動機で監視と焼却をするの、すごいグロテスクでは? 旧世代型をこれ以上技研の事情に巻き込まないで真人間だけでやってくれない?
 とか考えてしまって、「パパ!」「ごすずん!」て尻尾振るのは私は無理でした。
 真人間だけでは達成できないという判断かもしれませんが、強化人間使わなきゃ出来ねえならやるなよ。ウォルターが買わなかったら在庫処分でどのみち死んでるかもしれませんけど、だからといってウォルターに使い潰されて結局すぐ死ぬのでは変わらないし、何より筋が通らない……というのが私の価値観ですね。
 しかも技研の被害者を散々技研の都合で死地に送って殺しといて言うことが「(友人たちの意思に背くことになっても)あいつ自身が選ぶべき」「これはハンドラーとしての指示ではない」ですよ。
 それお前らの都合で死んでった強化人間の前で胸張って言えるか? 俺たちの目的のためにお前らを死なせたけど、今の犬がやらねえって言ったからそれを尊重しました! って言えるか? いや散ってった強化人間たちはそれで何かを感じる感性を残したり取り戻したりしてたかはわかんないですし、私としてはそんな感性無いとは思いますけど。せめてハンドラーとしてやれって命令しろよって思いませんか? 私は思った。
 コーラルを手に入れれば人生を買い戻せる金が手に入るって言われたのが嘘で、621が騙されてるのも引っかかるんですよね。621が仕事で稼いだ金で人生買い戻させる気なので騙してない、と言われたことがあるんですが、金を手に入れる過程は嘘なんだから騙してるでしょう。火ルートの621はお前が稼いだ金云々を聞く機会も無いし。
 てな感じで、私もこうして言語化してみて初めて気付いた部分もあるんですが、けっこう苦手なんですよねウォルターのこと。多分AC6プレイヤーの中では少数派なんでしょうけど。

 カーラにもウォルターと同じグロテスクさを感じます。強化人間を使うのはやめて真人間だけでやろうとか、621を最後まで付き合わせないと死んでいった強化人間に筋が通らないとか、そういうことを言わないあたりに。だから彼らの言う「友人たち」にこれまでウォルターに買われた強化人間たちが含まれているとは私には感じられませんでした。
 こいつらスネイルの駄犬扱いに怒ったり技研のこと狂ってるって言ったりしながらも、結局は強化人間なんて使い捨ての駒だと思ってる頭技研の連中じゃねえか! と思いました。

 オーバーシアー自体もなんかなあ……って思ってますが、ただでさえクソ長あとがきなのにさらに長くなるので詳しくは書きません。大枠としては、人類が入植するまで宇宙になんか出ないでルビコン3のおそらく地下に留まっていたコーラルをそこまで性急に焼却する必要があるんですかね? という感じです。結局ウォルターまわりは徹頭徹尾技研の都合でルビコン振り回してる迷惑千万な奴らでしかないなって思います。

 と、こうしたことから本作は……まあカーラは出番無かったですけど……ウォルターにはかなり塩対応となっております。
 界隈ではハウンズについて「大好きなウォルターのために命がけでミッションを遂行した」という解釈が主流だと思いますが、そういうのも本作は無いです。彼らは第四世代の強化人間なので。
 スッラやイグアス等、様々な経験や刺激によって旧世代型強化人間も感情を取り戻せることを匂わせる描写はありました。また、感情の起伏に乏しいことは「第四世代は」とウォルターが言っていたことから第四世代強化人間に共通のことと考えられますが、「機能以外は死んでいる」については具体的にどういう状態なのかや他の強化人間にも共通することなのかなどは不明です。
 しかしなんぼウォルターが尊厳ある存在として接しても「ごすずんのために命がけで頑張る!」って感じになるほど感情や機能が戻るところが想像できない。戻る前に戦場で死ぬでしょうし。
 でも仮に死ななかったとしても、ウォルターの元に何年居てもあんまり戻らないんじゃないでしょうか。強化人間のこと気遣ってはいますけど、第一助手関連の負い目があるのか、なんか壁ありますよねウォルター。その環境で情緒が育ちそうな気がしません。
 彼らがああいう結末を迎えたのは、単に入力された命令をACの制御パーツとしてその通りに実行したから。それ以外の理由は無い。私の解釈ではこうです。

あと解放者エンドに進む世界線として設定しているので、無いとは思いますが続きを書くことがあれば最後にはウォルターもカーラも死にます。





 次に本作自体の設定まわりの言い訳。

 本作で想定している時系列――これは本作で書いてない部分のことですが、かなりスパンが長めです。

 ラストレイヴンは作中時間で二四時間の物語という気が狂った出撃ペースだったので論外として。私としてはACシリーズは、プレイヤー視点だと連続して出撃するので短期の物語のように見えますがけっこう作中時間は経過していると思っています。
 AC6も例外ではなく、私の中では作中時間がわりと経過していると思っているわけなんですが、それに加えて本編前に、コーラル再湧出のリークを起点として時間がかなり経過しているイメージです。

 本編前の根拠としてはツィイーの両親ですね。コーラル採掘で人生ウッハウハを夢見て乳児だったツィイーを連れて密航したということは、その頃にはコーラル再湧出のリークがされていたはずです。ツィイーの年齢をいくつと見るかにもよりますが、まあ最低でも一五年は前ではないかなと。
 それからカーラが本編の三年前にRaD入りしたということ。仮にツィイーの両親が「コーラルがまだあるかどうかは知らねえけどもし掘れたらウハウハだぜ!」と考えて特にリークとか無いけど密航したのだとしても、三年前には既にオーバーシアーがリークを認知していてカーラを送り込む準備が整っている。つまり準備が出来るだけの時間が三年前の時点で経っているということです。

 本編中の時間経過の根拠としてはウォルターがよく言う「戻って休め」であるとか、各企業や解放戦線がアーレア海を渡る算段をつけて安全なルートを確立して臨時であっても拠点を築いて……などの時間が必要なこと等でしょうか。ネタにされがちなグリッド086侵入前の「ウォルターは休め言うてるのにエアが働かす」も、エアは「依頼を確認してみてはどうでしょう」としか言ってないので、実は出撃時までには数日〜数週間の休息を取っていると思っています。
 気の狂ったラストレイヴンと違って補給や修理、パーツ購入からの納品にも時間は必要でしょうからそれもですね。
 バスキュラープラントの件も、621が再教育されてる間に再建されて大気圏外まで伸びてるのでけっこうな時間が流れていそうです。あの世界の建築技術はすごそうなので現実と比べたら短期ではあるでしょうけれど。
 チャプター2と4はだいぶ駆け足な感はありますが、それを差し引いたとして少なくとも作中時間で一年は経っていると考えています。

 で、本作ではツィイーを一九歳と想定して、コーラル再湧出のリークは二〇年前と設定しています。
 じゃあリークしたほんものレイヴンの年齢はどうなるんだって? 知らんけど過去作主人公、ひいてはプレイヤーのオマージュというメタい話も含めて考えて四〇代じゃないっすかね。あるいはリーク後に代替わりしていてもいいですけど、正直あんまり決めてません。
 そこそこ歳いってそうなキングはともかく画稿で若そうに見えたオペレーターちゃんとシャルトルーズ姐さんはステーション31襲撃の少し前にブランチ入りしている想定です。
 ……ところでこれずっと思ってるんですけど、キングとシャルトルーズって名前継いで入れ替わるっていう言及はゲーム中に無いですよね。それどころか『キングは「今の1人目」』『シャルトルーズは「今の2人目」』という書き方からして「入れ替わり続けるブランチの今の構成員はキングとシャルトルーズっていう名前の人たちです」っていう文脈だと思うんですよ。
 なので二次見てて「今代のキング」とか「先代のシャルトルーズ」みたいなのが登場すると「ブランチってそういうのか……?」って一回首捻っちゃうんですよね。その作品ではそういうもんとして納得しますけど。
 三代前はレイヴン、エメラ・ントゥカ、ニンキナンカ、インカニヤンバの四人でしたみたいなの全然あると思います。資料集とか出て全員名前継いでるよとか言われたら認識を改めます。

 閑話休題。

 二〇年前のリークでオーバーシアーは動き出します。企業も、まあ営利団体ですからルビコン行くこと以外にもやることが多くて木星戦争なんてやったりもしますが、本当に行くかどうかの検討等含めて準備をします。
 ウォルターは旧世代型強化人間を買っては傭兵部隊ハウンズとして戦場に送って資金を稼ぎつつルビコンに投入する個体を選別し、密航の機会を待ちます。ゲーム中では散々でしたけど封鎖機構は宇宙政府所属のかなりしっかりした組織なので、この時点の密航は不可能ではないが困難といったところでしょう。ツィイーペアレンツも死んでるし。
 逆に、ゲーム本編中で本気出したシーンでもまずは退去勧告をしているところから、コーラルを持って出さえしなければ出るのはうるさく言われないイメージがあります。
 そして起こったステーション31襲撃。これを本作ではゲーム本編の五年前と設定し、それによる封鎖の綻びを好機にウォルターとカーラは手はずを整え、オーバーシアーの技術者たちを引き連れて行動開始。企業も密航を開始。
 ウォルターはルビコン星系外縁の中継惑星で新たに強化人間を連番で購入。しばらく運用した後カーラの密航の陽動として彼らを動かしたため一旦居残り。この陽動作戦でスッラの襲撃を受け618を喪失。
 補充として新たに621を購入したウォルターはその慣らしも兼ねて、カーラがルビコンでの基盤を整えるのを待つ間に中継惑星にてハウンズを傭兵として運用し、621の突出した強さから彼を計画の中核に据えることを決定。約四年後、カーラの連絡を受けハウンズをルビコンに送り届けることとするが、そのためにはルビコン3方面への航路を取ろうとする船を地上から狙撃する封鎖機構の大型レーザー砲台を破壊する必要があり、そちらに617、619、620を投入し全て喪失。結果621だけをルビコンへと送り込み、ゲーム本編開始。

 こういう設定でやっておりますので、本作においては618がスッラにやられたのはゲーム本編の四年前です。そのときルクスに拾われて、二年後にルビコン入り。その二年後が本編、つまり本作という時系列です。
 本作においてはハークラーたち、つまりミッション「密航」の残骸たちは同じ日に撃墜されました。ならばライセンスの期限がバラバラなのはおかしい、と思うかもしれませんが、本作では「依頼を成功させた記録がある最後の日時」を起点にライセンスの有効期限が設定されていることにしています。

 中継惑星って何だよって? ストーリートレーラーのミッションはどこで何のためにやったのかと考えた結果、文字通り宇宙航行を中継する惑星として独自に設定したものですね。補給とかを目的とした惑星です。
 星系外縁の惑星なのでハビタブルゾーンでは当然なく、テラフォーミングされてけっこう無理やり人が住めるようにしているので環境がそんなに良くない惑星、みたいなイメージです。
 とはいえアイビスの火より前からの土着の住民は普通に居て経済活動も住民同士のドンパチも普通に行われています。
 ですから封鎖機構のルビコン3駐留部隊のための補給船が寄港するだけではなくて、外の星系からの商人の往来や、見るべきところがあるかどうかはともかく観光も許されています。さらには単に通り道としてルビコン星系を経由して行くのが一番近いという星系もあり、そういった諸々の理由で来星した人たちも補給も受けます。しかしルビコン3方面へ針路を取ろうとすれば封鎖機構に警告され、無視すれば容赦なく撃墜される――みたいなのを想定しています。

 それからウォッチポイントについて。
 ゲーム中で企業がウォッチポイントやセンシングバルブのことに言及するのは(記憶が正しければ)坑道破壊工作が初です。記憶が正しくないとしても、少なくとも本作を書いている時点の私の記憶ではそうです。
 このことから、本作では「ウォッチポイントと呼ばれる場所があるのは知られているが、それが何のための施設かは知られていない」と設定しました。
 惑星封鎖機構はコーラルが危険と見做したからこそ惑星封鎖をしているわけですから、とにかくコーラルを星内に留めたい。持ち出されては困るので、密航者たちに集積コーラルの場所がバレないように情報の統制や隠蔽もしているように見受けられます。
 序盤の戦場がベリウス地方であったのも、
「広大なアーレア海を越えなければならないほど集積コーラルが遠い」
「ルビコニアンの現在の主要な生活圏である」
「ルビコニアンの生活を不十分とはいえ支えられる程度にはコーラルが湧いているため密航した企業勢力を誘引しやすく、そのまま彼らに争奪させて押し込めておける」
「湧出量が少ないためコーラルがどれほど企業に渡ったかの把握と対策が楽で、仮に持ち出されてしまってもそれほどの量にはならない」
 等の理由から封鎖機構が意図して誘導していたと考えています。
 であれば――デルタ襲撃のブリーフィングにおいてのウォルターの言葉からするとウォッチポイント自体はアイビスの火以前から存在した技研の施設だと私は思うのですが――封鎖機構はその用途を外部に知られないようにしているのではないか。そう私は考えました。
 つまりは技研都市に存在するあらゆる資料の接収。あるいは宇宙政府所属であることを活かして星外も含むあらゆるデータベースからのウォッチポイント関連情報の抹消。
 とにかくウォッチポイントのことを人類全体の記録から消し、封鎖機構内でのみ共有する。ルビコニアンたちの中に知っている者が居たとしても戦力差から何が出来るわけでもなく、そのため重要視されなくなっていき、徐々にそれを知らない世代に交代して人々の記憶から薄れていって……という寸法です。
 でないと、コーラル不足に喘ぐ解放戦線――は戦力的に躊躇しそうですが、捕虜を拷問の末に死なせてまで井戸をさがしているうえ戦力も本来以下とはいえそれなりにある企業が、ウォッチポイントを襲撃しない理由が思いつかないのですよね。特にベイラムなんて真っ先に押しかけそうです。
 ウォルターとカーラは技研関係者と思われるのでそもそも知っていたか、あるいはカーラが頑張って調べたか……。とにかく621の襲撃、そしてセンシングバルブ破壊からのベリウス地方北西ベイエリア消失を経てその役割は知れ渡った、という風に本作ではしています。
 花火会場がウォッチポイント・デルタなので、おそらく封鎖機構は奪還とか修理とかしてないと思うのですよね。なので企業は621の襲撃の後にあそこを調べていて、しかし中央氷原に集積コーラルがあると目星がつけられたためもはや占拠する意味も修復する意味も殆ど無いので放置、その後花火会場に……という感じでしょうか。企業勢力が拠点として使うには不便そうですしね。



 本作でのクイックブーストの扱いについても言い訳しておきます。
 AC6の考察で「MT数機倒した程度で当たりを引いたとか言われるほどACの地位が低い理由はクイックブーストを使えない傭兵が多いからではないか?」というのを見たことがあります。そしてそれについて「強化人間でないとクイックブーストのGに身体が耐えられないのではないか」という理由付けがされていました。
 私は説自体には同意しますが理由は違うと思っています。単にクイックブーストはACに標準搭載された機能ではないと思っているんですね。

 というわけで、以下は「一般的な傭兵はクイックブーストを使えない」という説が本当である場合の世界線の話です。本作はそういう設定で書いたので。

 さて、理由がGではないとする根拠が何かあんのかって言われると、AC6の作中には特に無いです。強いて言えばフロイトやレッドガンたち、解放戦線、一部の独立傭兵、といった特に強化人間であると言及の無いキャラクターたちがクイックブーストを使っていることでしょうか。
 ヴェスパーの面々やスッラ、そしてレッドガンで唯一言及のあるイグアス等、強化人間であることにわざわざ触れているキャラクターが居る一方、そうでないキャラクターも居る。となれば、触れられてない方は強化人間ではない――と私は思うのです。だから強化人間でないとGに耐えられないということは無いでしょう。
 そのうえでGが理由だとすると、それに耐えられる真人間と耐えられない真人間が居ることになります。まあ多少個人差はあるでしょうが、一般的な傭兵が耐えられない=大多数が耐えられないほど強いGが個人差でどうにかなる気は私はしません。ランカーになると急に身体がGに耐えられる作りになったりしたらそれはもはやギャグですから、G云々ではないと思います。

 私が根拠としているのは過去作、ACVの設定資料集『the FACT』です。ああやめて石を投げないで!
 この資料集けっこうすごくてですね。ACのコクピットハッチの開き方、中の座席やモニター配置といった構造、コクピット正面のメインモニターに表示される映像は自機後方からの視点であることの理屈つきの解説(つまり私たちが見ているゲーム画面はコクピット内のメインモニターに出るものと同じであるということ)、属性ごとの弾丸の構造等々、設定まわりを知るのに快感を覚える私のようなタイプにとっては垂涎の一冊なのです。
 で、この資料集から引用します。

 ――一部の優秀なパイロットは、ブースタを一瞬だけ強く吹かして短距離を高速移動する「ハイブースト」や、建物などの壁面を蹴った勢いを利用して移動する「ブーストドライブ」と呼ばれる技術を使いこなし、より複雑な動きを実現している。(『アーマード・コアV公式設定資料集 - the FACT -』53ページより)

 というわけで、V系の世界においてはハイブースト(名前が違いますがクイックブーストです)は機能ではなく技術であると取れる解説がされています。VDの資料集を当時入手できないまま今に至るのでそっちで解説が変わっている可能性は私には否定できませんが、まあ無いでしょう多分。
 つってもオメェそれ過去作だろォ? それに6じゃブースターのパラメーターでクイックブースト関連があるんだから製品として搭載された機能だろォ?
 と思うかもしれませんが、V系のこれを6に流用できると思う理由がありましてですね。
 技術であると取れるV系でも、6と同じくブースターにはハイブースト関係の数値が設定されていて、アセンブルにおいてパーツパラメーターとして閲覧できます。ハイブースト出力、ハイブースト燃焼効率、ハイブースト消費EN、加速時間初期出力最大チャージ時間最大出力タイミング……とまあ6と比べるとハイブーストだけでもパラメーターめちゃめちゃ多いんですが、とにかくゲーム的にはパラメーターが見られます。当時の私はこのへんを理解するのがめんどくさくてテキトーにブースター積んでました。
 このことから、ゲーム的にパラメーターが設定されていて数値としてプレイヤーにはっきり示されているとしても、それは標準搭載された機能であることの根拠にはならないのではないかと考えました。
 そして「もし一般的な傭兵はクイックブーストを使えないとしたら、という前提のうえでは」クイックブーストは機能ではなく技術であろう、と「私は思いました」。
 もう一度言います。「一般的な傭兵はクイックブーストを使えないという結論ありきで考えるとACの機能ではなくパイロットの技術だろう」と。わ! た! し! は! 思いました。
 これが正しい解釈なんだとか言う気はありません。私はそう思ったので自分の二次小説に反映しましたという話です。



 以下、捏造したリロードとアサルトアーマーの表現、ミールワームについてをまとめて。

 個人的にですが実弾武器のリロードをただ「リロードした」と書いて済ますのではなく、何らかの理屈をつけないと書いてて気持ちが悪いのです。読む分には全く気にしないのですが自分が書くとなると非常に据わりが悪い。
 昔エースコンバットで何か書こうとしたときもミサイルと機関銃の弾数に悩んで結局やめました。ストレンジリアルの正史として単騎でとんでもねえ戦果あげてることになってるリボンつきは実際どうしたんだろうね、弾……。
 というわけで、恒星間航行が出来る世界なら非生物を瞬間移動させる感じの転送が出来てもまあええやろと思って捏造しています。ミシガンやレッドくんの経歴と年齢考えると恒星間航行でたぶんワープとかできますしね。次元連結システムのちょっとした応用ですよたぶん。
 本文よりもうちょっと具体的な話をすると、弾を入れたマガジン、ショットシェル、ミサイル等をあらかじめ転送しておいて、武器側で受け取ります。このとき既に弾が入っていると余剰分は「転送元には既に無いが転送先にも出現していない」という状態を保持します。これを保持できる限界数が武器ごとに異なり、それが総弾数の違いとなるわけですね。実際の科学では永遠に不可能そうですが、これは創作なのでなんぼファンタジーでもとりあえずそれらしい理屈がつけばいいのです。
 この捏造設定では、マガジンがある武器は弾ではなくマガジンを転送するため、まだ弾の入っているマガジンを捨ててリロードした場合その分総弾数が減る。つまり例えばまだマガジンに二発残っているCURTISで初のリロードをするとゲームでは残り四一〇発ですが本作では四〇八発になります。

 またアサルトアーマーですが、どうしても気になって仕方ないんですよ……コアの展開したとこから直接パルス爆発が出ると自機も巻き込まれるだろ……。
 というわけで、アサルトアーマーという名前、そして「プライマルアーマーを外側に向けてコジマ爆発させる」という元祖アサルトアーマー(ACfA)の仕組みから、本作においては「視認が困難なほどの短い間だけパルスアーマーを展開してから、それを外側への指向性を持たせて爆発させている」ということにしています。

 ミールワームについては、よくルビコン3の原生生物扱いされているのを見ます。しかし「人間の食料となり得る生物」という観点から見てルビコンの原生生物であるとは考えにくい、というのが私の意見です。
 仮に原生生物だとした場合、ミールワームは「辺境の開発惑星にたまたま生息していて、たまたま人体にとって有害なものを一切含まず、たまたま人体が栄養として利用できる化合物を必要量含んでいる、たまたま飼育しやすく食い出もあって加工や調理も容易な生命体」ということになります。
 可能性はゼロとは言いませんが、とんでもなく都合の良い話だとは思いませんか? 私は思いました。
 なので本作では人類が品種改良あるいは創造した食用生物が入植時に持ち込まれた、としています。





 こんなところか。





 ちなみにトレーラーとゲーム本編を見ての私の中のハウンズのイメージは、

617:茶髪翠眼。寡黙そうな男。二〇代前半。
618:金髪碧眼。華奢な美少女。二〇代後半だがどう見ても一〇代(なか)ば。
619:赤毛茶眼。巌のような大男。四〇歳前後。
620:金髪黒眼。軽薄そうな男。三〇代前半。
621:黒髪黒眼。印象に残りにくい男。二〇代後半。

 です。寡黙そうとか軽薄そうとかは外見がそうというだけで、第四世代らしく感情の起伏は薄いし表情もあんまり無いと思います。
 ハウンズ銀髪美少女概念は大好きですけど、現実的に考えて五人ともそうはならんやろ。いや二次創作だから現実的に考える必要は無いんですが。
 617はチャンスタイムの近接格闘も想定した中距離寄りの近距離、618はインファイトでACSに負荷をかけ、619が中〜遠距離でミサイル支援をして、620が中距離で削る。そういうチームをイメージしています。
 なに? 618はトレーラーに出てねえし618だけ癖が滲んでる?
 当たり前だろヒロインだぞ。それに出てねえから好きに癖を盛れるんじゃないですか。
 
 
 
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