追放令嬢のスローライフ〜主目的生存戦略〜   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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一方その頃、ミディアが抜けた魔王軍は?

「ミディアの馬鹿やろぉぉぉぉ!」

 

 絶叫しているのはフレックス王子その人であった。

 

 まぁ叫びたい気持ちは分かる。

 

 ミディア嬢が追放されたことで兵站部門の忙しさは天元突破。

 

 いや、兵站部門だけではない。

 

 農業部門、産業部門、研究部門といった箇所でも悲鳴が上がっていた。

 

 馬鹿な第一王子はわかってなかったが、ミディア嬢の天才的な手腕で魔王軍の後方は成り立っていた。

 

 彼女のすごい部分は緻密に計画された輸送網である。

 

 何処にどれほどの物資を正確に運搬する。

 

 当たり前のことであるが、戦争状態になったことでこれがぐちゃぐちゃになっていた。

 

 それを是正したのがミディア嬢であり、その影響力は輸送に関わる部門なら全てに及ぶ。

 

 そのせいか、ミディア様の権限は最初は兵站部門だけであったのに、権限が雪だるま式に拡大していき、最終的には内政系のどの部署にも口を出すことが出来る食料及び産業再生部門長と四天王の人々でも内政部門では口出し出来ない絶対な権力を掌握していた。

 

 後方で働いている我々はいかに彼女が天才で超人だったのか知っていたので、彼女に権力を集中させて、少しでも崩壊している国家基盤の回復をしようと働いていた。

 

 ただそれは前線の下っ端や脳筋と言われる人々には分からないもので、特に下っ端から成り上がってきた者が多い第一王子の親衛隊の面々は彼女の莫大な権力を危険に感じていたのだろう。

 

 結果の婚約破棄からの中央からの追放劇。

 

 後方の人々だけでなく貴族と呼ばれるミディア嬢の支持基盤も今回のことは寝耳に水だったらしく、激しい動揺が広がっていた。

 

 馬鹿王子はミディア嬢が居なくても巨大な組織である後方全般は回ると思っているが、確かに回ることは回るが回転率が段違いである。

 

 今までミディア嬢に通せばその日のうちに返答が来ていたのが、1週間経っても返答が来ないことはざら、権力を集中していた人物が引き継ぎも無く飛ばされてしまったのだから上層部は大混乱である。

 

 幸いミディア嬢が構築したシステムが生きていたお陰で補給網の崩壊は防ぐことが出来たが、この状態で反撃にでも出たら遠からず補給はパンクする。

 

 国内では魔法による無理やりな食料の増産で土地がどんどん痩せてきていると言う話も聞いていたので遠からず限界を迎えるだろう。

 

 これで人類側との講和……せめて停戦をと望むのが後方の人員の総意であったが、意見を唯一言うことが出来たミディア嬢ですら失脚させられるのを見て、我々が絶望するには十分だった。

 

「クソ、俺にもっと能力があれば!」

 

 フレックス王子も頑張ってはくれているが、ミディア嬢に比べると絶対的に能力が足りてない。

 

 そもそもフレックス王子は戦下手と言う力で優劣が決まる魔王軍において致命的なレッテルを貼られてしまっている。

 

 ただ実情を知っているこちらとしたら不運だっただけである。

 

 フレックス王子が前線指揮をしていた時に相手した人類側の将軍が常勝不敗と呼ばれていた人物であり、負けを繰り返したが、軍が崩壊するのだけは防いでいた。

 

 これだけでフレックス王子が無能では無いのが分かるが、フレックス王子を後方に下げた後に親衛隊が投入されて、親衛隊長がその将軍を討ち取ったことでフレックス王子は戦下手であると言う評価を受けてしまったのである。

 

 そして親衛隊長の成り上がりのユリールは軍神と呼ばれる様になった。

 

 それからフレックス王子は後方勤務となり、ミディア嬢の下で働いていた。

 

 本人もそれで満足していたのに、いきなり後釜として身の丈に合ってない職務を与えられてパンク寸前である。

 

「フレックス王子がいつも通り叫んでおられる」

 

「仕方がなかろう。我々も叫びたい気持ちは一緒だ」

 

「ロロス王子は戦線を縮小して防御体制に移行したが、時期が来れば反攻作戦を計画しているのだとか」

 

「なぜその計画が我々に真っ先に回ってこない! 兵を揃えるのも食料や武器を前線に送るのも我々が行うのだぞ」

 

「ミディア様に権限を与え過ぎた反動で親衛隊が各部門にメスを入れて権限の縮小、大きい部門の解体をしているのだとか」

 

「何がミディア様の行為が腐敗しているだ! 親衛隊の方が敗退行為をしているでは無いか!」

 

「お、おいあまり大きな声で言うな。何処に親衛隊の耳があるか分からんぞ。ロロス王子は親衛隊の権限を拡大して督戦隊と秘密警察部門を作る可能性が高いらしいからな」

 

「督戦隊だと! そこまでするのか!」

 

 督戦隊……前線からの逃走兵等を背後から攻撃する部隊であり、仲間を見せしめにすることで前線の士気を維持する部隊である。

 

 秘密警察は言わずもがな……。

 

「王子の権限がどんどん強化されていく……ミディア嬢はあくまで大臣クラスの権限であったが、王子のやっていることは独裁ではないか!」

 

「四天王の皆さんは! こういうのを抑えるのが貴族派閥ではないのか!」

 

「四天王側は配下の多くを前線に送り出していて中央で動ける人員が不足し始めている。王子が統率する中央と各方面軍の対立が深刻化してまた魔王様が魔族を統一する前の戦国時代になる可能性すらある」

 

「「「そうなったら」」」

 

 魔王軍が内部分裂する事態になれば一致団結している人類軍に敗北し、良くて魔族の奴隷化、悪ければ魔族の族滅すらあり得る。

 

 そうなれば生きていくことは不可能だ。

 

「我々がやるべきことは少しでも補給を改善し、王子の反攻作戦で人類軍を殲滅し、大陸統一を行うことである。それに失敗したら……魔族の未来は無い」

 

「「「……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、どんな魔法を使えばミディアはこの絶望的な兵站を維持していたのだ!?」

 

 俺ことフレックスはミディアから引き継いた仕事に悪態をつきながら仕事を進める。

 

「ロロスの馬鹿のせいで後方はヒッチャカメッチャカだ。親衛隊の権限強化も酷い。内側にもう一つ国を作るつもりか!」

 

 それに人類側の回復が想像以上に早い。

 

 魔族は人類のエルフを除くと繁殖力が劣る。

 

 それをモンスターや魔族とモンスターのハーフである下級魔族で補ってはいるが、年々魔王軍の質が低下しているのに、人類側は一定水準以上の兵士を送り出し続けている。

 

 これ以上の長期戦になった場合先に音を上げるのは魔王軍であるのはミディアから戦略的視点を習った俺からは見えていた。

 

「失礼します!」

 

 俺の執務室に部下が入ってきた。

 

「何事だ!」

 

「モンスター学の権威であるルル·ドッペル氏が失踪いたしました」

 

「な! 効率的なモンスターの従属法を確立した彼女は四天王の娘だぞ! 四天王のご子女が立て続けに中央から居なくなるだと!」

 

「ルル氏はミディア様が資金提供して研究を行なっていたので、パトロンの失脚で粛清を恐れて身を隠した可能性があります……彼女は人工魔族培養と言う論文を出してロロス王子と敵対した過去がありましたし」

 

「四天王のドッペル氏はなんと」

 

「放任主義なので今回の件も彼女の意思を尊重すると表明を出しただけで……」

 

「……四天王はもしや中央を捨てるつもりでいるのか?」

 

「流石にそれは飛躍過ぎるのでは?」

 

「四天王の子息子女の動きに注意しておけ。中央から居なくなる様だったら魔王への忠誠を捨てて、独自に動き出した可能性すらある」

 

「もしそうなれば……」

 

「魔王軍は四天王の私兵が半数だ。そうなれば魔王軍は崩壊する!」

 

 魔王軍は次の局面に入っているのであった。

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