追放令嬢のスローライフ〜主目的生存戦略〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
私が追放されて2週間。
とりあえず馬車に乗るだけの回復薬を準備し、ジョンとハンスに物資輸送をお願いし、リリンとルビーは相変わらず黄金スライム狩りをしてもらっている。
私も黄金スライム狩りをしてレベリングを続けているが、やっぱり3匹、4匹倒すと肉体的に限界を迎えて、回復の泉で肉体を回復させても、精神的な疲労により休憩を挟まないといけない。
「えいにゃ!」
「ほいっす!」
リリンとルビーもだいぶ慣れてきたらしくナイフで黄金スライムを突いて、倒して回復の泉に飛び込んで身体を冷やしている。
「強くなった感覚ある?」
「めちゃくちゃあるっす! 見てくださいっす! この腹筋を」
リリンはお腹を張ると綺麗に割れた腹筋が見える。
「ルビーも割れたもんね」
「そうだにゃ!」
ルビーの腹筋も割れていた。
「でもすごいっすね! トレーニングするよりも筋肉がつくっすよ」
トレーニングしても筋肉は付くが、やっぱりレベルアップした方が肉体は成長していく。
しかもゲームと同じではなく、衰えによる劣化もあるみたいで、魔王様なんかは魔法に関しては未だに一級品であるが、老衰により動くことが難しくなっていた。
まぁだから軍権を息子のロロス王子に譲ったり、四天王に大きめの権限を与えたりしていたのだが……。
なので、レベルアップをしても衰える時は衰える。
ただ筋トレより身体能力はモンスターや生命体を倒した時に得られる経験値によりレベルアップした方が上がりやすいと思われる。
まぁゲームとして認識しているのが私しか居ないし、結局はそういう世界と納得するしか無いが。
「よいしょっと」
攻撃的魔法が使えなくても、黄金スライムを倒すことくらいは私でも出来る……というより、ゼリーを切る感覚でスライムを倒せる為、モンスターを倒すというより遊び感覚である。
だから元地球の人間でも忌避感が全く無い。
これが人型のゴブリンとかオークを倒すってなったら忌避感半端なかっただろうが……。
そうそう、ジョンとハンスが居ないし、私達も2階層に降りてみようということになり、ホブゴブリンやホブオークと出会うことに成功した。
ジョンとハンスが行っては行けないと言っていたミミックが生息している場所には近づかず、ホブゴブリンとオークの生息地だけに絞ったが、ホブゴブリン達は私が芋を渡すと、代わりに鉱石だったり、宝石だったりをくれるので物々交換をすることに成功していた。
ホブゴブリン達も私が来ると交換をする物を持ってきてくれるため良き隣人みたいな扱いである。
そもそもホブって善いて意味なので強化種という意味では無い。
社会性を有し、魔族とでも意思疎通が通用する知性の高さこそホブゴブリンという種族なのである。
ホブオークの方は芋を試しに渡したところ、地面に転がっている宝石やら魔力の種の実の残骸は好きに扱えとジェスチャーで教えてくれたので、私は有り難く魔力の種を大量に回収することに成功し、挽いて粉にしてパンに混ぜたり、麦粥の中に混ぜたりして食べている。
私にとっては微量の増加だが、リリンやルビーは魔力総量が体感でも分かるくらい急激に上がったと喜んでいた。
「じゃあリリン、ルビー。魔法の訓練始めるよ」
「「はいっす」にゃ!」
そして空いた時間にはリリンとルビーを呼んで色々な魔法を教えていた。
例えば最近教えたのだと治癒の魔法。
ヒールという一言で済んでしまう魔法だが、込める魔力の量と精度によって効果が大きく変わる。
例えばかすり傷なら微量の魔力かつ多少雑な精度でも治す事が出来るが、腕が吹き飛んだとか臓物が潰れたとかだと結構な魔力と精度を要求される。
練習台として怪我したホブゴブリン達を見てあげたりすると、彼らも喜ぶし、私達は良い練習になるのでwin-winの関係を築いていたり……。
ただ今日やるのはもっと基礎的な魔法である。
生活で活用する魔法の応用である。
例えば火を燃やす時に魔法使う時、着火の際に炎の魔法を使うことがあるが、それを燃やし続けるとなると結構魔力が必要になるのである。
で、そんな生活で使う魔法として活用が多いのが火を生み出す、水を生み出す、そして物を浮かせるの3つである。
「じゃあ私が手本を見せるね」
私がそう言うと、まず水の玉と火の玉を生み出し、火の玉を下に水の玉を上に設置して、それを浮かせた状態で空中に固定する。
私が考えた魔法の練習方法である。
魔王軍だと魔法は実戦で使って学べ、練習に魔力を消耗するくらいだったら、極力魔力の消耗は抑えて、攻撃魔法に注ぎ込めと教えられるが、私に言わせてもらえばそんな非効率な事をしているから魔法の才能に優れている人は伸びるが、それ以外の人は魔法を上手く使えずに屍を晒すことになるのである。
魔力もしっかり食べて寝たら回復するんだからガンガン使って習熟度を上げた方が良いに決まってる。
ゲームでも魔法の習熟度は練度として表示されていたし……。
「魔力の総量が少ないうちは小さくて良いの。慣れてきたら水の玉を大きくしたり、火の火力を上げたりして、水を沸騰させたら今度は風の魔法を使って冷やして温度を下げる。これの繰り返しで魔法の習熟度は上がっていくから」
「攻撃魔法を連射するとかじゃないっすか?」
「結局ところ攻撃魔法って基礎的な魔法の延長線でしか無いからね。私は攻撃の意思を向けるのが苦手だけど……でも、だから攻撃魔法を連射するよりも効率的に鍛えられる方法を見つけたんだけど」
私はバランスボールくらいの大きさの水の玉を生み出し、その下に焚き火に当てるように火球を生み出し、熱し始めた。
それを並列して10個、20個、30個と作っていく。
「魔法って本来生活を豊かにするために使うものだと私は思ってるんだ。それを敵を殺すためだけに使うって……魔法の可能性を狭めていて勿体ないって思わない?」
「そういう考え方もあるんにゃね」
ルビーとリリンも納得してくれたらしく、私の真似をして野球ボールくらいの大きさの水の玉と火球をそれぞれ空中に浮かせて魔法の練習をしてみる。
「これ、結構難しいっすね」
「複数の魔法を並列で処理しているから頭がこんがらかってくるにゃ……」
「でしょ……でも戦闘において複数の魔法を並列に出来ると勝敗は変わってくるとはおもわない?」
「確かにそうっすね」
喋っていると、私が最初に生み出した水の玉が沸騰し始めたので、風の魔法で温度を下げて冷却する。
「冷却するのは何の意味があるにゃ?」
「色んな魔法を満遍なく使えた方が良いでしょ。特に温度の上げ下げは過酷な環境で生き抜くのに必要不可欠だよ。まぁ私のメイドとして最前線に行くって事は無いだろうけど」
私は水の玉を凍らせると、再び熱して溶かして水を温め始める。
「でも流石ミディア様っす! これだけの数の魔法を並列で発動させているのに、平然としているなんて!」
「私達1個でも辛いのにゃ」
「そりゃ年季が違うからね」
最も前世の記憶が混ざってからはやってなかったけど……ちゃんと出来て良かった良かった。
というより、前世の記憶が混じったお陰で前よりも並列思考がやりやすくなったかも?
私も成長しているのかな?
私達が魔法の鍛錬をしていると、遠くの方に人影が見えた。
「ジョンとハンスかな?」
「見てくるっす」
リリンとルビーが見てくると行って、人影に近づいていくと、人影はいきなり倒れて地面に転がった。
「ちょ、大丈夫なの?」
私も人影に近づくのであった。