追放令嬢のスローライフ〜主目的生存戦略〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
さて、私自身……いや、私の前世の話をしよう。
正直に言うと私の前世は男だった。
20代後半……社会人として会社の戦力にはなっていたと自覚している。
で、俺の趣味はゲームをすることであり、色々なゲームを遊んできたが、FPSゲームは苦手だったから、主にシミュレーションゲームや戦略ストラテジーゲーム、RPGも含めて遊んでいた。
それでなんの因果かゲームの世界に飛ばされて、私と混ざり合い、今に至る。
女としての私も居るが、男としての私も居る。
不思議な感覚である。
鏡を見てみると今の私が写っている。
目立つのは青い肌、それにたわわに実った胸。
鼻が高く、西洋風の顔立ちで、そばかすも無い綺麗な肌をしている。
髪型はツインドリルと呼ばれるツインテールをドリル状にした髪型で色は赤色。
目もパッチリ大きく普通に美人に分類される顔をしていると思う。
「うーん、こんな美人を婚約者にしていたのに手を出さなかったなんて……前世の私なら凄く興奮するだろうに」
鏡で自分の容姿を確認したことで落ち着きを取り戻してきた。
「幸い、現世の記憶と前世の記憶が混濁したことで、片方を塗りつぶすみたいにはならなかったから良かった良かった。前世の私だけだったら言動がおかしくなっていたことでしょうし」
コンコンと寝室のドアがノックされる。
はいと返事をすると扉が開かれてメイドが入ってきた。
「旦那様がお呼びです」
どうやら父親であるギレッド·デモンも屋敷に戻ってきたらしい。
私は服装を整えると、父親が待つ部屋に入っていった。
「失礼します」
「おう、顔色は……多少はマシになったな」
私の顔を見た父親は少し安堵の表情を浮かべる。
ギレッド·デモン。
魔王軍四天王と呼ばれる大貴族でありながら膨大な力を持つ存在……それが彼である。
四天王が投入される……戦略兵器の投入と同じくらいの武力を誇り、彼自身も魔王軍として戦い抜いた歴戦の猛者である。
見た目はハゲた大仏みたいな容姿をしているけど……。
「お父様は今回の婚約破棄の事は知っていたのですか?」
「寝耳に水だ。知っていたらもっと穏便なやり方で軟着陸させていた」
「正直に言うと、私は王子に報復は望んでいませんわ」
私がそう言うと、父親はだろうなという顔をする
「だろうな、お前の性格だと報復は望まないのは分かっているし、今の緊迫した戦局で四天王である俺と王子が対立するのは望ましくはない……まあ、今回の件は他の四天王も聞いていなかったらしく、全員が出し抜かれた形だ」
「王子の権限強化が狙いでしょうか」
「恐らくはな……魔王様より軍権を近々譲られるという話もある。人類軍との戦争も大きな転換期を迎えるだろう」
力の強さが尊いとされる魔王軍において、今回の件は四天王達の面子を潰すのには十分な出来事であり、普通の貴族社会であれば、面子を潰されたから殺すという風になるが、魔王軍の場合、出し抜く力もそれもまた力であるという考えが根付いており、それを理由に反逆するとまではいかなかった。
逆にあの場で掴みかからなかった私は軟弱者として非難される対象でしか無く、人間の価値観とはだいぶズレが生じている。
父親からも目では何故あの場で掴みかからなかったのかと訴えているが、それをやれば戦闘能力が乏しい私は殺されていたので……不名誉は受け入れよう。
命の方が私には尊い。
「ミディアは今後どうしたいかあるか?」
「中央に居るわけにはいきませんし、実家に帰れば、私を溺愛する兄様が暴走する可能性もあります。なので僻地の領主にでもなり、事実上の謹慎にでもするのが良いかと」
「ふむ……」
ここまでは私の考えていた通りの流れである。
さて父親はどう出るか。
「今回の件、正直俺は王子に怒っているが、防ぐ事が出来なかったミディアに若干失望している。お前の知略であればこの程度渡り合えたのではないのかと……まぁ過ぎてしまった事はどうでもいい。僻地にある要塞とその周囲の管理を任せよう。戦局が落ち着けば、デモン家の為に働いてもらうぞ」
「は!」
私と父親の話はこれで終わり、後は身支度を整えてこの屋敷から出ていくだけだが……屋敷の外が騒がしい。
何かあったか?
「旦那様、第二王子のフレックス様の来訪です。ミディア様に会わせろと」
「フレックス様が? 通せ」
「は!」
中に入ってきたのは第二王子のフレックス様とその取り巻き達であり、父親に挨拶して早々に、私に対して話しかけてきた。
「ミディア! 何故罪に反論しなかった! 横領なんてでっち上げだろ! お前がそんな事をするはず無いのに」
このフレックス王子は私と共に後方の補給計画を話し合った仲であり、フレックス王子と一緒に来ている面々は後方部隊の参謀や将校達であった。
「力の弱い私があの場で反論すれば、それを口実に殺される危険性が高かったので……まぁ逃げですね……はい」
「クソ、バカな兄貴だと思っていたが、ミディアの後方の処理能力をみすみす手放すとは……ミディアの能力は1つの方面軍に匹敵するんだぞ」
フレックス王子達は盛り上がっているが、私は今中央に居るのは政治的にまずいので、落ち着かせた後に私が居なくても組織は回るはずですと説得した。
彼らは私が立ち上がるのを期待したらしいが、私はロロス王子や親衛隊の居る中央だと命の危険があるので早く田舎に逃げたかった。
「ならば!」
フレックス王子はせめてもの餞別としてダンジョンのコアを渡してきた。
「だ、ダンジョンのコアじゃないですか! こんな貴重な品受け取れませんよ!」
「いや、ミディアの働きに見合う品はこれくらいしか無い。君になら使いこなせるだろうし」
「あ、ありがとうございます」
とんでもない物を頂いてしまった……。
その後、身支度を整えた私は馬車に乗り込み、父親の手筈で、父親の領地でも僻地の要塞に向かうのであった。
「ミディア様! ミディア様! 私ミディア様とならどんな場所に行っても頑張れるっすよ!」
馬車に乗っているのはメイド2人と騎士2人。
今私となら何処でも頑張れると言ったのはメイドのリリンというサキュバス族の魔族である。
「わ、私もしっかり頑張りますにゃ!」
もう一人のメイドは化け猫の魔族であるルビー。
「もうすぐ到着しますよ〜」
馬車の中で警護をしているのがデュラハンのハンス。
馬車を操作しているのもデュラハンのジョンである。
4人共に私との付き合いが長く、実質左遷であるが立候補して付いてきてくれた。
「ミディア様、戦うの苦手だから俺らが護衛しないとやられちゃいますからね」
「ミディア様の不備が無いようにちゃんと護衛しますから」
「ミディア様の身の回りのお世話は私がするっすよ!」
「わ、私も頑張りますにゃ!」
頼もしい限りである。
「ハンス、私が住むことになる砦ってどんな所なの?」
対面に座っているハンスに聞く。
「そうですね……塔みたいな場所と聞いています。大昔、まだ魔族が各種族に分かれて戦争をしていた頃に作られたらしく……特に周囲に何かあるような土地でも無いですね」
「そう」
ゲームで見たことがある土地か、そうでない土地か……行ってみないとわからないか。