プレイリストの中の艦娘   作:青色3号

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last fortune/fripSide -如月-

お気に入りの髪飾りがそよ風に揺れる。紺のパーカーが秋風を受けはらむ。睦月型駆逐艦二番艦・如月。その彼女が、鎮守府本館の中庭で提督の背中を見つける。

 

 

「しれいかーん」

 

 

呼びながら駆け寄る。提督が振り向き笑顔見せる。その傍で立ち止まり微笑んで見上げる。

 

 

言葉はない。それでも通じ合うものがある。ふたり、同じ方向に並んで歩き出す。

 

 

おつきあいを始めておよそ半年、ふたりの間の空気もだいぶ優しく柔らかくふたりに馴染むようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いたところで提督が如月に声をかける。

 

 

「如月」

 

「はい?」

 

「今夜、仕事が終わったら俺の部屋に来ないか?」

 

 

鼓動がひとつ大きく跳ね上がる。殿方の部屋に呼ばれる意味、そのくらいは如月にも分かる。言葉の代わりにひとつ頷き、如月は身体を揺らすような心拍の上昇を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、如月は提督私室の客となる。上着を脱いでYシャツ姿になった提督に迎えられ、奥のリビングのソファに座る。

 

 

「なにがいいかな?冷たいものの方がいいかな?」

 

「あ、気を使わなくてもいいから……」

 

 

答える自分の声が上ずっているのが分かる。物の少ない簡素な提督私室のソファの上で如月は身を小さく縮こませる。

 

 

やがて提督がアイスティーの入ったグラスをふたつ手にして如月の隣に腰を下ろす。どくん、と如月の心臓が鳴る。提督からアイスティーを受け取り、身体を冷やすようにひと口こくんと飲む。

 

 

「おいしい……」

 

 

砂糖もミルクも入っていない分だけ紅茶の香りが強い。その香りに気持ちを落ち着かせて如月は思う。今まで怖くて一線を踏み越えることを自分からは避けていた。でも大丈夫、この人のためならどんな痛みも越えてゆける。自分を捧げることができる。

 

 

提督が、口を開く。

 

 

「俺たちがつきあって、半年くらいか?」

 

「そうね」

 

 

くすり、と如月が笑う。

 

 

「どうした?」

 

「ううん、嬉しくて」

 

 

グラスを下げ、天井に目線を向けて如月は声を紡ぐ。

 

 

「如月は、前の大戦ではすぐに沈んじゃったから……こうして、今この時代で日々を重ねていけることが嬉しいの。今の如月には、守るものがあるから」

 

 

そうか、と司令官が応える。そのまま、無言の時間が流れる。高まっていく緊張感に少し如月が慣れたころ、司令官が身をソファから起こし如月に告げる。

 

 

「そろそろ、部屋に帰りなさい。もうだいぶ遅い時間だから」

 

「え?……はい」

 

 

拍子抜けして如月は提督を見上げる。その横顔からは、提督が何を考えているかは伺い知れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、フタフタマルマル。提督執務室の扉の前に如月の姿があった。今度は、誘われてではなく自分の意志で。しばらく躊躇するように如月は扉の前に立ち尽くしていたが、何かを決心すると扉をノックした。

 

 

慣れぬ鼓動の高鳴りを感じながら如月は提督の勧めるままにソファに座る。身を小さくして提督がアイスティーを運んでくるのを待つ。グラスを両手で受け取り、口にする。隣に腰を下ろす提督が如月に告げる。

 

 

「それを飲んだら、部屋に帰りなさい」

 

 

提督の言葉に、頭を殴られたような感覚を覚える。涙が滲み、アイスティーのグラスを支える手に落ちる。グラスを持つ手が視界の中で霞むのを感じながら如月は掠れた声を出す。

 

 

「……どうして?」

 

 

しゃくりあげながら如月は身を折り呟く。

 

 

「如月は、そんなに子供?」

 

 

声を大きくして如月は提督の顔は見ないままに想いをぶちまける。

 

 

「昨日も、今日も……!如月は、決心してここにいるのに!司令官にとって、如月はそんなに魅力がない!?」

 

 

分かっている。これは自分のわがままだと。わかっている。こんな風に、傷つけても傷ついても思い通りになんかならないと。わかっていても止まらない。溢れる涙が、止まらない。

 

 

この人のいない場所では、ひとりでは感じられない想い。その行き場のない想いを持て余すかのように如月はしゃくりあげる。そんな如月を無言で提督は見つめていたが、やがてぽつりと言葉漏らす。

 

 

「……本当は、如月を昨日は帰さないつもりだったんだ」

 

 

その言葉に如月が目を開く。俯いたままの如月に向けてか、それとも自分に向けてか、提督は言葉続ける。

 

 

「でも、昨日の如月の言葉を聞いたら……『ああ、この子はまだ命を生き直している最中なんだ』って思って。まだ、少女のままで知るべきことがたくさんあるのかな、って。……今、如月の全てを自分のものにするのは俺の勝手かなって」

 

 

そこまで言葉を選ぶように呟くと提督は如月のことは見ないまま頭を下げる。

 

 

「結果として如月を傷つけた。ごめん」

 

 

提督の伏せた横顔を涙で濡れた瞳を見開き見つめながら如月は思う。

 

 

迷いながらも、この人を信じた。この人の言葉を、求めていた。ひたすら、この人の姿を見つめていた。だから、自分を捧げようと思った。

 

 

でも、この人は自分のことをじぶんが思っていたよりずっとずっと大切にしてくれている。それこそ、自分の浅薄な覚悟など意味を失くすくらいに。

 

 

顔を正面に戻し、少し伏せ気味にして如月は提督に応える。

 

 

「……如月こそ、ごめんなさい」

 

 

もっと、自分を大切にしよう。この人が、大切にしてくれる自分を。大丈夫、この人と身も心も結ばれる日はそんなに遠くない。だって、この人がこんなに愛おしい。

 

 

「じゃあ、今夜は帰ります。……おやすみなさい、また明日」

 

「うん、おやすみ」

 

 

この人の選ぶ未来へと、寄り添うことが自分の夢。この人の未来に、必ず自分はいる。

 

 

この人の想いの深さを知ることが怖くて、自分を投げ出すようなことをした。だけど今はどんな痛みも越えてこの人を信じて進んでいける。

 

 

 

 

 

鎮守府本館を離れて、月の照らす道を如月は歩く。提督への想い、深まるのを感じながら。いつか、きちんとこの身を提督に捧げる。ぞれは、自分との約束。ずっと望んでいた明日を迎えるために。

 

 

 

 

 

ふたり、もう離れることのないように。

 

 

 

 

 

 

 

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