プレイリストの中の艦娘   作:青色3号

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アレセイア/eufonius -阿賀野-

窓から差し込む朝の光が少女の白い背中に広がる長い黒髪を照らしている。うつぶせに眠りに落ちていた阿賀野がゆっくりと目を開く。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

既に着替えをほとんど終えている提督が上着のボタンを止めながら阿賀野に声をかける。シーツで胸元を隠しながらゆっくりと身を起こし阿賀野はうにゃうにゃと声をあげる。

 

 

「なんで朝になるのよ〜……夜が来ればまた眠るのに〜……」

 

「ダメ人間の極地みたいなセリフだな」

 

 

苦笑しながら提督は阿賀野の背中にそっと手を添える。

 

 

「ほれ、しゃきっとして寮で朝メシ食ってこい。今日の午前は演習だろ?」

 

「うにゅ〜……」

 

 

まぶたを擦り擦り阿賀野は情けない声を出す。平和な朝の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

桟橋に提督は姿を表す。演習を終えた艦娘たちが次々と桟橋に上がってくる。

 

 

「みんな、ご苦労」

 

「提督さん、見に来てくれたんだ」

 

 

いち早く阿賀野が提督に歩み寄り微笑み見せる。精悍な表情、その身に纏う禍々しくも見える艤装。その立ち姿からは昨夜自分の腕の中で嬌声を上げていた少女の姿は連想できない。今の阿賀野の姿に近づき難いものを感じながら提督はそれでも阿賀野たちに笑いかける。

 

 

「とりあえず正午までは自由行動だ。みんな、ゆっくりしてくれ」

 

 

阿賀野たちが提督とすれ違い桟橋を渡り埠頭を目指す。その後姿を提督は見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

岸壁を歩いていると、海を見つめる阿賀野の姿に気がついた。近づきながら提督は阿賀野に声を向ける。

 

 

「阿賀野」

 

「提督さん」

 

 

「休憩中か?」との提督の問いに阿賀野は頷きで応える。阿賀野の眼の前まで近づきながら提督は改めて阿賀野を見つめる。

 

 

こちらを見つめる大きな瞳、微笑み浮かべた薄紅の唇。その華奢な立ち姿からは先程桟橋で感じた鋭いような威圧感は感じられない。そのこと改めて不思議に思いながら提督はその気持ち素直に口にする。

 

 

「お前ら艦娘は、艤装を背負っていないと雰囲気が変わるな」

 

「そう?そうかもね」

 

 

悪戯っぽく笑う阿賀野が言葉続ける。

 

 

「艤装を纏うと、心うちも変わるからね。戦おう、って気持ちになったり怖いと思う気持ちが減ったり……」

 

 

艤装の及ぼす精神作用、それを阿賀野は口にする。黙っていればただの少女の艦娘たちが、そこまでして戦わなければならない現実。そのこと残酷に感じながら提督は問いを発する。

 

 

「阿賀野は、なんで戦うんだ?」

 

「ん?」

 

 

なぜ、そこまでして戦うのか。なぜ、そこまでして戦おうとするのか。提督の改めての問いに阿賀野は微笑み浮かべたまま答える。

 

 

「約束だから、かな」

 

「約束?」

 

「そう、約束」

 

 

身体を捻って海の方を向き、水平線を見つめながら阿賀野は言葉紡ぐ。

 

 

「遠い、忘れられない約束。阿賀野と、阿賀野に乗り込んだ人たちの約束。この国を、この国の人達を護るって」

 

 

水平線をまっすぐ見つめながら阿賀野は言葉続ける。

 

 

「だから、阿賀野は戦うの。それが、阿賀野の記憶だから」

 

 

凛としたその横顔を見つめながら提督は阿賀野に言葉向ける。

 

 

「記憶の中の約束、か」

 

「そう。今度こそ、全ての人を護るって」

 

「全ての人を、か……奇跡を掴むような話だな」

 

「奇跡、か」

 

 

舞うように身体を回して提督に向かい合い、腕を後ろ手に阿賀野は笑う。

 

 

「奇跡ならもうここにあるよ。またこの世界に出会えたから。提督さんに、出会えたから」

 

 

阿賀野の笑顔が広がる。つられるように、提督も笑う。その提督の眼差しまっすぐに見つめ返しながら阿賀野は言葉差し出す。

 

 

「阿賀野が艦だった頃の記憶は消えてゆくけれど……その記憶が、阿賀野を導いてくれる。この国の人達のために戦え、って。負けるな、って」

 

 

提督を見上げながら放たれる阿賀野のまっすぐな言葉。その言葉受け止めながら提督は応える。

 

 

「そうか。それは、頑張らなきゃな」

 

「うん。……でも」

 

 

そこで阿賀野は不安げに目を伏せ、睫毛を微かに震わせる。

 

 

「戦いが終わったら、阿賀野、どうなっちゃうんだろう。戦いしか知らないのに。他になにも、知らないのに」

 

 

艦娘としての本能的な不安、未来へ向けた避けがたい不安。それを阿賀野から感じ取り提督はそっと阿賀野の髪に手を添える。

 

 

「心配するな。阿賀野は、ずっと俺のそばにいればいい」

 

「え?」

 

「それでいい。阿賀野が生きていく理由なら、俺がいつまでも見つけ続けてやる」

 

 

阿賀野が満開の笑顔の花咲かせる。その笑顔に向けてひとつ頷く。過去からの約束、未来への約束。それが、ふたりを導いてくれると信じて。そうすれば、いつか辿り着ける。ふたりだけの真理に、アレセイアに。

 

 

 

 

輝く絆を、ふたりいつまでも繋いで。

 

 

 

 

空を舞うカモメから羽根が一枚舞い落ちた。阿賀野の伸ばした指先が、その白い羽根にそっと触れた。

 

 

 

 

 

 

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