情報提供は拒否させていただきます   作:犀来菊

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前世って、信じる? いわゆる転生とか。

昔の私は、そんな話をあまり信じていなかった。
でも、今ならはっきり言える。信じてる。
……だって、私は“前世の記憶”を思い出してしまったから。

きっかけは、高校最後の柔道の試合中だった。受け身に失敗して、頭を強く打ち、そのまま意識を失いかけたとき。
そのときだった。
まるで堰を切ったように、ドバッと何かが頭の中に流れ込んできた。
一瞬、ああ、これが走馬灯ってやつか……なんて、妙に冷静に思っていたのを覚えてる。

でも、ただの走馬灯なんかじゃなかった。
それは、前世の記憶だった。

すべてを思い出した私は、気づいてしまった。
とんでもない“真実”に。

この世界が、あの有名なミステリー漫画『名探偵コナン』の世界だったなんて。
それに気づいたとき、私は心の底から絶望した。

最初は、まさかそんなはずないと思ってた。
高校生探偵の工藤新一の噂も聞かないし、キッドキラーなんて言葉も聞いたことがなかったから。

でも、「東都」なんて地名、前世では一度も聞いたことがなかった。
米花町、杯戸町……次々に目にする名前は、どれもコナンの世界にしか存在しないはずの場所ばかりだった。

私は絶望した。
事件に巻き込まれるかも、とか、殺されたらどうしよう、なんて生ぬるい話じゃない。

だって、私は黒ずくめの組織に関わっていたから。
正確には、両親がその一員だった。そして私は、彼らに養子として迎え入れられた。

最初のうちは、組織に私を関わらせるつもりはなかったらしい。
でも、私には残念ながら才能があった。

幼い頃から異常なほど頭が良くて、運動能力も抜群。
気配を消すのも得意だし、顔立ちも悪くない。
もう、どう考えてもスカウトされる未来しかなかった。自分で言うのもなんだけど。

そして私は、数えきれないほどの罪を犯してきた。あげていったらキリがない。
コードネームまで与えられてしまった。

でも、物心ついたときからそれが“日常”だった。
だから、怖いとも思わなかった。罪の意識も、ほとんどなかった。

だからこそ、前世を思い出せてよかったと、心の底から思う。

ちなみに。
こんなことを私にさせていた両親は、さぞ冷酷で恐ろしい人間だと思われるかもしれないけど、
実は全然そんなことない。

二人とも私を普通の学校に通わせ、とても大事にしてくれるし、不自由のない生活を与えてくれた。
むしろ、愛情深くて優しいくらいだ。

しかも父は大手IT企業の社長。母は国民的女優。
……いや、ほんとに謎。なんでそんな二人が、よりによってあの組織に所属してるのか。

理解不能すぎて、笑えてくる。


転生先はあの名探偵がいる世界

そんなこんなで、前世を思い出したところで特に生活が激変することもなく。

私はそのまま高校を卒業して、両親と組織に指定された大学へ進学した。

 

大学生活もそろそろ終わりに差しかかって、

これからはいよいよ本格的に組織の仕事か……なんて、気が重くなっていたある日。

 

ボスから直々の命令が下された。

 

内容はシンプル。

日本の警察、正確には“公安”に潜入して、内部情報を組織に流せ。

 

それを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。あまりにも衝撃的すぎて。

なんで私が??って。

 

……まあ、正直、組織の仕事オンリーはキツかったし、精神的にも限界だったから、ある意味で助かったけども。

 

それに、私はそのとき心の中で決めた。

流す情報は最低限に抑えて、いずれは公安の味方をして、組織を裏切ろうと。

 

そうして私は警察官採用試験に合格し、ついに警察学校への入学日を迎えた。

 

校門をくぐると、敷地内には立派な桜の木がたくさんあって、花びらが風に舞っていた。

ひらひらと落ちてくる桜の花。思わず足を止めたくなるほど、綺麗だった。

 

たとえ潜入という名目であっても、この場所に足を踏み入れられたことを嬉しく思う。

 

……そろそろ移動しなきゃ。入学式に遅れたら、さすがにマズい。

 

私は少し小走りで会場へ向かう。

その途中、すれ違った誰かと、肩がぶつかってしまった。

 

「あっ、 すみません!」

 

「いえ、こちらこ…そ……」

 

そう言いかけたその人が、ふと顔を上げた瞬間。

 

私は思わず息を飲んだ。

 

私と、そっくりだった。その人の顔が。

 

でも、よく見ると髪型は私と違って短いし、私より背も低い。

体型も細いけど、なんだかガッチリしている。……というか、男?

 

「……に、ニ知華?」

 

「………え?」

 

その人は、男性にしては少し高めの声で、そう呟いた。

私の名前を、知ってる?

 

どこかで会ったことがあったっけ……?

いや、思い出せない。全然、思い出せない。

 

ふたりの間に微妙な沈黙が流れていると、遠くから女性の声が響いてきた。

 

「一知華! 早くしないと遅れるよ!!」

 

「え、ちょ、ちょっと待って! こっちに来れるかー?」

 

え、こっちに呼んじゃうの?なんか怖いんだけど。

 

しかし、向こうにはあまり聞こえないようでこちらには来ない。

 

何だか気まずい空気が流れる。よし、ここは…

 

「……えー…失礼します!」

 

よくわからないけど逃げるが勝ちだ!またあったら話そう!

今日は入学式だから下手なトラブルは避けたい。

教官に目つけられたら困るし。

 

無事に式が始まり、進行は滞りなく進んでいく。

そして、いよいよ総代の挨拶へ。

 

総代、誰になったんだろ。実をいうと、私も総代候補に選ばれていたけど、目立ちたくなかったから丁重にお断りした。そう言うのめっちゃ緊張するから苦手だし。

それに、スパイという立場で表に出るなんて、絶対に避けるべきだ。

だから、結局誰が総代になったのかも知らないまま今日を迎えていた。

 

そんな中、舞台に上がったのは、金髪で褐色肌の、いかにも目立つ見た目の男性。

警察学校にしてはあまりにも異色。

あれ、髪、染めてない? 指導されないってことは地毛?

ハーフなのかな。

……なんか見覚えがあるんだよね。

 

そのとき、場内に響いた声。

 

「総代、降谷零!」

 

……え、うそ。気のせいであってほしい。

……でも、気のせいなわけがない。

 

降谷零。将来公安警察。降谷がいるなら警察学校組も必ずいるはず。

 

バレたら終わる。スパイだって気づかれたら、私の人生マジで詰む。

ぜっっったいに、関わっちゃいけない相手。

 

全力で、距離を取らせていただきます!!!

 

____

 

入学式が終わったあと。

私は、ある二人に呼び止められた。

 

「「ちょっと話そ!!」」

 

勢いすごいな!

しかも、後ろから肩をガッと掴まれて、心臓飛びそうになった。ほんとびっくりした!

 

声をかけてきたのは、さっきのそっくりさんと、そのそっくりさんを呼んでいた人物。

胸の下までありそうな綺麗な長い髪を後ろで団子にまとめた、美人な女性。

初対面のはずなのに……なぜか懐かしさを感じる。不思議。

 

そのまま連れて行かれたのは、校内の談話室。

テーブルを挟んで、私と二人は向かい合って座った。

 

「えーと……俺のこと、覚えてる?」

 

「いえ、ちょっと……」

 

気まずい。地味に気まずい。

沈黙が落ちかけたその時、空気を変えるように美人さんが声をあげた。

 

「とりあえず、まずは自己紹介しよ!

櫻井紫月(さくらい しづき)です!」

 

「俺は、咲良 一知華(さくら いちか)!」

 

「えー、小野寺 ニ知華(おのでら にちか)です。よろしくお願いします…」

 

……一知華にニ知華。

名前まで似てるってどういうこと。親戚……なのかな?

 

と思っていたら、いきなり爆弾発言が飛んできた。

 

「すごい唐突なんだけど、君はたぶん……俺の双子の妹だと思う」

 

「……………へ?」

 

予想してた……うん、正直ちょっとは思ってた。

でも、こうして面と向かってハッキリ言われると、頭がまっ白になる。

 

ていうか、心が追いつかない。

 

「こんなこと、急に言われたらびっくりするよな!ごめん!

とりあえず順を追って説明するから」

 

咲良さんはそう言って、話し始めた。

 

まず、彼は両親がいなくて、施設で育ったらしい。

小学校に入学するまでは、双子の妹がいた記憶があるって。

 

そして櫻井さんも同じ施設育ちで、私と友達でよく遊んでいたことを、はっきり覚えているって言った。

……不思議と、私にもその言葉にひっかかるものがあった。

 

思い返してみれば、うちにあった私の写真って、小学生以上のものしかなかった気がする。

辻褄は……確かに、合ってる。

 

それに2人は、私を引き取った相手を知りたくても、施設のルールでそういう情報は教えてもらえなかったらしい。

だから今まで、ずっと探しても見つけられなかった、と。

 

……っていうか、ちょっと待って?

 

双子の兄がいたなんて、聞いてないんだけど?!?

なんで教えてくれなかったの、父さん!母さん!

 

今日中に即電話だな。絶対、知らないわけないし。

 

 

そんな感じで、3人で色々と話していたとき。

ふと、咲良さんが口を開いた。

 

「あ、同い年なんだし、タメ口でよろしく!」

 

「分かりまし……オッケー、分かった」

 

うっかり敬語を使いそうになったけど、ぐっと堪えた。

ちょっとずつ、慣れていこう。

 

「下の名前で呼んでいい?そっちも、呼んでくれていいからさ」

 

「全然いいよ!よろしくね、紫月ちゃん」

 

「……っ!」

 

ちゃん付けしたとき、紫月ちゃんが、ほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をした気がした。

……もしかして、昔は呼び捨てで呼んでたのかな。

記憶にはないけど、なんとなくそんな気がした。

 

「咲良くんのこと、兄さんって呼んでもいい?

双子なのに“くん”って、ちょっと変な感じするし」

 

「ほんとか!?是非そう呼んでくれると嬉しい!」

 

兄さん……兄さんか……

嬉しさをかみしめてるのか、小さく「へへっ」って独り言が漏れてた。かわいいかよ。

 

そんな兄さんを見て、紫月ちゃんが「耳まで真っ赤じゃん」とからかう。

「ちょっ、見るな!四葉!」と返してるのがまた微笑ましくて、ついこっちも笑ってしまう。

 

ほんと、仲いいなこの2人。

 

 

 

「……あとは女子だけで話したいから、ちょっと出てもらっていい?」

 

「え?別にいいけど……なんで2人だけで?」

 

紫月ちゃんの提案に、兄さんはちょっと引っかかってたけど、

「なんでもだから!」って勢いで押し切られて、部屋から追い出された。

 

扉が閉まって、談話室に静寂が戻った。

 

そして――

 

「………久しぶり、――――」

 

紫月ちゃんがそう言って、口にしたのは、

 

私の、“前世の名前”だった。

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