野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~ 作:風見ひなた(TS団大首領)
「よくもここまで入りこんだわね、最後の勇者ども! 貴方たちを根絶やしにして、この戦争を終わりにしてやるわ!」
フードの奥から
その声色は十代後半の年若い少女のように可憐なものだったが、決して油断はするまいと4人の勇者たちは手にした武器を固く握り直した。
ここは魔王が座する王城。
四柱の神によって天地が生まれたときから、人間たち『白の種族』と生存闘争を繰り広げてきた天敵……『黒の種族』こと魔族、その統率者たる魔王の城。
その居室に続く大広間で勇者たちを迎え撃ったのは、魔王
これまで幾度となく刃を交わしてきた勇者たちは、彼女がその可憐な外見にそぐわない恐るべき魔力を秘めていることを知っている。甘く見ていい相手ではない。
今だって……ほら。全高数十メートルはある魔王城の大広間を、巨人や大魔族がダンスパーティーを開いてもびくともしないような巨大な空間を、彼女の指揮する忠実なゴーレムたちが埋め尽くしている。
素材はルビー、サファイア、
軍事の心得がある者が見たら、この布陣でいったいどれだけの大都市を攻め滅ぼせることかと身震いを止められまい。
魔術の心得がある者が見たら、この布陣を揃えるのにいったいどれだけの予算をぶち込んだのかと頭痛を禁じえまい。
白と黒の二種族の戦争の最終局面、最後に残った勇者パーティーを大魔導様が迎え撃つという名目がなければ、こんなコスト度外視の馬鹿げた布陣など絶対通るわけがなかった。
しかし事実として、魔王の寝首を獲りにきた勇者たちは魔王城の最奥までたどり着いてしまっている。
よって、魔王城に詰めていた四天王である大魔導は、渋る魔王の部下たちを「魔王様の御命に万が一のことがあってもいいのか!」と脅迫まがいの説得で押し切り、予算のありったけを叩きつけた乾坤一擲のゴーレム軍団を急造して、勇者一行を迎え撃ったのである。
数十メートルもある大広間の天井近くまでもある巨大な人型ゴーレムの肩で腕組みをしながら、大魔導は意気高く勇者たちを見下ろした。
「念のために一応訊いてあげるけど、ここで投降するつもりはある? 女神から与えられた『不死』を捨てるっていうなら、慈悲をかけてあげてもいいわよ」
「あるわけがないだろう……!」
今更の降伏勧告を斬って捨てたのは、勇者パーティーのリーダー。数々の吟遊詩人にその美貌と勇敢さを謳われ、積み重ねた戦功は女神に選ばれし百人の勇者の中で並ぶものなし。英雄の中の英雄と呼ばれる勇者アルベールだった。
「お前たち魔族の蛮行の前に、どれだけの命が失われたと思っている! 僕たちはここにいない96人の勇者たちの無念を背負ってここに立っているんだ! 降伏などするわけがないだろう! 君こそが女神様の威光の前に逃げ去るがいい!」
「あら、そう」
とんでもなくつまらない発言を聞いた、という風に大魔導は肩を竦めた。
「いかにも勇者様らしいお言葉ね。話にならないわ。……貴方はどうかしら、グレン?」
「……うん? 俺?」
意外そうな表情を浮かべて、大柄な青年が自分の顔を指さす。
全身これ肉の鎧と言わんばかりにムキムキに鍛え抜かれた巨躯を飾り気のない皮鎧に包み、これまた装飾のひとつもない無骨なブロードソードを肩に背負っている。
その堂々とした……あるいは血生臭さが染みついた立ち姿は見る人に思わず畏怖の念を抱かせるほどだが、それが勇者アルベールの華やかな容姿の隣にあれば、さすが当代一の勇者は良き戦士を供につけていると誰もが膝を打つだろう。
輝かんばかりの武功譚の数々を勇者アルベールと共に駆け抜け、常にその傍らで大剣を振るって戦った『勇者の
女神に選ばれた百人の勇者の一人でありながら、親友のためのただ一本の剣として戦い続けてきた彼は、ある意味で勇者という称号に不釣り合いなほど“地味”な存在だった。
そんな彼に、どういうわけか大魔導が興味を向けている。
「そうよ。貴方はどう? 投降するつもりはある? ここで貴方たちが剣を引いて女神の走狗であることを辞めれば、戦争は終わるのよ。貴方だって、こんな消耗戦は無益だと思わない?」
「俺は『勇者の剣』だ。剣は何も考えねえよ」
「何も考えないようにしているのと、思うのは別でしょう? もう何度となく戦場でぶつかってきたよしみで、貴方の気持ちを聞かせてくれないかしら」
グレンは少しだけ息を吐くと、まるで独り言のように呟いた。
「……戦争が終わるのはいいことだ。こんな戦争が続くことは、誰も望んじゃいねえだろうな」
「グレン!? 何バカなこと言ってるのよ!!」
鋭い声で叱咤したのは、彼の後ろに控えているエルフの少女だった。警戒心も露わな目つきで弓を携え、大魔導のゴーレムがいつ動き出してもいいように身構えている。
アルベールのパーティーの一人、“緑の
十代半ばの少女に見えるが、長寿で知られるエルフは見た目で年齢を判別しづらい。ただ、彼女は現在150歳で、種族全体としてみれば多感な少女と言える年頃だった。
「そうです! 和解などありえません、騙されないでください! 魔族の甘言でどれだけの民間人や勇者が命を散らしたことか……。
リンネアに追従して声を上げたのはパーティーの一人、聖女シルヴィアだ。
アルベールのパーティーに入る前から慈愛の聖女と名高い存在だった彼女は、旅の中でも必死に力なき人々を救おうと手を伸ばし続けてきた。
その掌をすり抜けていった命たちを……アルベールやグレンは彼女のすぐ横で見続けてきた。命を救えなかった悔しさに身を震わせたのは、グレンだって同じだ。
妹のように可愛がっている年上のエルフと、敬愛してやまない聖女の叱咤を受けて、グレンは困ったようにポリポリと頬を掻いた。
「この戦争は要するに、俺たち勇者が全滅するか、魔王が死ぬかしないと終わらんのだろう? 俺個人としては戦争が終わるならどっちでもいい。わざわざそう提案するということは、投降した後の身の安全も保障するつもりもあるんだろう」
「もちろん」
「……だが、俺たちの安全は保障されたとしても、人間全体はどうかな」
長年の訓練と死闘で岩のように固くなった指先で、グレンは目の下を掻いた。その目つきは鋭く底冷えして、大魔導のフードの奥を刺し貫かんばかりだ。
「戦争で負けた側がどうなるかなんて、言うまでもないよな。俺は少なくとも、人間が魔族に好きに虐げられる世界をよしとするつもりはない。だから投降はできない」
「貴方たちが勝利した先に待つのが、魔族が人間に虐げられる世界だとしても?」
「それは気の毒だと思う。悲しいことだとも思う。しかし、俺は人間として生まれ、人間の側に立って戦ってきた。魔族をもう何百
「……何を諦めるの?」
「俺たちは手をつないで仲良しこよしにはなれないってことだ」
大魔導は深いため息を吐いた。
「残念だわ。私たちを『匹』と数えない勇者に会えたと思ったのに」
「此処はそんな結末が許される世界じゃないからな。ところで、ずっと思っていたのだが……」
「何かしら?」
「君はいつもゴーレムを率いて一人で立ち向かってくるが、友達はいないのか?」
「……うるっさいわね!」
大魔導は顔を真っ赤に染めて吠えた。
「邪魔だから連れてこないだけだけど!? せっかく思い通りに動かせるゴーレムで盤面揃えたのに、いちいち命令しないと動かない味方なんていらないでしょ!!」
「そいつはよかった。銃口を突き付けて降参しろと脅迫することが種族の友好に繋がると本気で思っているようなサイコパスだから友達がいないのかと疑ったじゃないか」
「……棍棒外交でもしないと耳を貸すつもりもないくせに!!」
「そうだよ。それはお互い様だろう? だから
グレンは唇をペロリと舐め、獰猛な笑みを浮かべながら大剣を握り直した。
「さあ、指示をくれアルベール! 俺はお前の剣だ、お前が命じるままに何だってぶった切ってやる!」
初めましての方は初めまして。大首領です。
拙作『貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く』の書籍化作業が
ひと段落ついたので、あちらの更新再開まで没にしていた作品の供養をしようと思います。
お盆も近いですしね。
3話までは転生前のプロローグみたいな感じなので、早くドスケベTSサキュバスが見たい方もしばらくお付き合いいただければ。
初日4話まで一挙公開です。
『鋼メンタル』もしっかり更新していきますので、ぜひそちらもよろしくお願いいたします。