野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第12話「茜川春夢、前世の宿敵とデートを楽しむ」

「それで、どんなものを見せてくれるんだ?」

 

「そりゃもう現代の技術を思うさま満喫できる場所といったら一つしかないわ……」

 

 春夢を連れて街に繰り出した雫は、微笑みを浮かべながら行き先を告げる。

 

「現代の叡智の博覧会、知識と技術の殿堂! 家電量販店よ!!」

 

「……かでん?」

 

「えーと、テレビとかスマホとか、現代の暮らしに欠かせない超便利な道具を売ってるお店よ! あそこは本当に楽しいわよ、最新機種を眺めてるだけで1日が軽く過ぎちゃうんだから」

 

「ほう……。そんな場所があるのか。現代人はそうやって暇を潰してるんだな」

 

「そうよ!!」

 

 雫は自信たっぷりに頷いた。ねーよ。

 

 ちなみに前世の大魔導は魔導書が収められた図書館や、マジックアイテムの販売店を冷やかすだけで1日を過ごせるタイプの人間だった。単にその時代の最先端ガジェットに目がないだけの、要するに技術オタクなのである。

 

(それにしても……)

 

 家電量販店への道すがら、春夢はしきりに隣を気にしていた。

 

(ち……近い……!)

 

 雫がほんの少しの空間を開けるのも嫌だといわんばかりに、ぴったりとくっついて歩いている。春夢と完璧に歩調を合わせていて、春夢が少し合間を開けようと横に動くと、すかさず自分も同じだけついてくるのだった。

 

 時折手にしたスマホに目をやっては顔を上げ、周囲の風景に目を配るという動作を繰り返しているが、その合間にも春夢の隣は譲るつもりはないようだ。

 ふと、自分の方を気にしている春夢と目が合うと、にこーっと笑顔を向けてくる。とりあえず笑い返してみると、「えへへっ」とすこぶる機嫌良さそうな声を上げた。

 

 ……え、何? 前世でも時々一緒に街を歩いたけど、こんなに距離近くなかっただろ。

 それともこれが現代人の一般的なパーソナルスペースなの? そんなわけないよね? 街を歩いてる人たち、誰一人としてこんなくっついて歩いてないよね? 友達にしてはやたら近くない? これ親兄弟にしか許されない距離感だよ。

 

(…………)

 

 しばらく悩んだのち、春夢は指摘することを諦めた。

 雫は何だかとても楽しそうだし、わざわざ余計なことを言って機嫌を損ねることもない。

 

 それに、雫とこれだけ距離が近くても、何故だか嫌悪感がまるで湧いてこないのだ。むしろこれが当たり前の距離感であるような気さえする。

 なんだか昔、これくらいぴったりとくっついて二人きりで歩いたことがあったような……。前世の記憶のどこをひっくり返してもそんな事実が出てこない不思議な感覚に、春夢はもやもやした。

 

 しかし、隣を歩く雫の体温が、あって当たり前のもののように感じられるのは確かだ。まるで欠けていたパズルのピースのように、ぴったりと欠落を埋めている。

 

 春夢は小さくため息を吐くと、隣を歩く雫に目をやった。

 おろしたてピカピカの新品の制服に身を包んだ小柄な少女は、春夢にとっては正体不明の小さな黒い板に目を向けながら、楽しそうに鼻歌を歌っている。

 

 ちなみに春夢も制服だ。寮の部屋に届いていた荷物には私服も数着入っていたが、雫が制服を着るように勧めてきた。

 曰く「この制服がアンタが持ってる中で一番いい服よ。防御力が高いわ」ということだが、春夢の目にはどれも変わらないように見えた。

 どれでも同じなら、雫の提案を断る理由はない。迷わず制服を着た。

 

 まあ確かにいい服だと、制服姿の雫を見ながら思う。これからまだ背が伸びる可能性を見越してか、小柄な雫には少し丈が余るサイズだが、そのだぼっとした感じが愛らしい。

 ブレザー系の制服はグレンの時代には見慣れないものだったが、凝っている一方でスッキリとしたデザインの妙を感じさせる。何より、明るい青系の上着の色と、雫の栗色の髪のコントラストがよく映えて、雫の快活な雰囲気をより引き立てていると感じた。

 

「……どうしたの、春夢?」

 

 じっと眺めていると、雫が視線に気づいて小首を傾げる。

 まるで自分が雫の可愛さに夢中になって見入っていたように感じて、春夢は小さく咳払いした。夢中で見入ってたよ。

 

「いや、さっきからその板を見てるけど、何してるのかなって思って」

 

「あ、これ? スマホで地図を見てたのよ。すごいでしょ、今はいつでも正確な地図を見られるのよ! ……電波が届く場所ならね」

 

「えっ!? それはすごいな! 情報屋から買わなくても、市街の地図が手に入るなんて……」

 

 地図は戦略資源である。街のどこにどんな施設があるのか。それを知っていれば、どんな街でも簡単に攻略できてしまう。

 食料の保存庫、兵隊の詰め所、武器の保管庫、真っ先に焼くべきはそうした拠点だ。故に地図は自分で作るか、大枚をはたいて情報屋から買うかしかない。誰でも見られるようなものではないのだ。

 

 ……それが誰でも簡単に見られるということは、今の時代がいかに平和かということの証明だった。もう今の時代では、隣の領地を治める領主が不意打ちで街に攻め寄せてくるといったことはないのだろう。

 ああ、本当に平和な世の中になったんだなと春夢は痛感する。

 

 雫はそんな春夢の感慨を読み取ってか、ふふっと優しい目を向けた。

 

「いいでしょ、スマホって超便利なのよ。どれだけ離れててもお話しできるし、写真っていう精巧な絵も残せるし、ゲームやSNSで暇つぶししたりもできるの」

 

「なるほど……確かにそれは便利だ。特に地図はいいな。どこで手に入るんだ?」

 

「今から向かう家電量販店で売ってるけど……でも、アンタくらいの年頃の女の子なら普通に持ってるんじゃない? ちょっとポケット調べてみなさいよ」

 

「……ホントだ、持ってる」

 

 ポケットをごそごそすると、財布と同じポケットに入っていた。そういえば昨日ポケットに入っていたのを見つけたが、何に使うのかわからなかったので忘れてしまっていたのだ。

 

 春夢はさっそく興味津々に触ってみたが、ロックがかかっていて先に進めない。

 何度か適当な数字を入れてみたが、案の定開く様子はなかった。

 仕方ないなあ。191939だよ。

 

「おっ、開いた」

 

「番号覚えてたの?」

 

「いや、なんか頭に閃いた数字を入れたら通ったんだが」

 

「ふーん。ね、アンタLIMEやってる? ……やってるみたいね。じゃあ番号交換しましょ。歩きながらもなんだし、ちょっとそこの喫茶店でお茶でもどう?」

 

 もちろん断る理由などない。ショーケースの中のおいしそうなケーキのサンプルを見て、春夢の口の端から涎が垂れそうになった。

 

 

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「こんな紙切れが金なのか……?」

 

 カフェの席に座った春夢は、財布の中に入っていた紙幣を物珍しそうに眺めた。

 前世では硬貨しか見たことがなかった春夢は、支払いを求められてしまった無一文だ!と慌てたが、すかさず雫がフォローしてくれたので事なきを得た。

 

「あんまり人前でお金を見せつけない方がいいわよ。帝国と違って、こっちはあんまり治安が良くないし」

 

 キャラメルフラペチーノナントカ、というなんかやたら長い名前の飲み物を飲みながら、雫は春夢の手を押しやって紙幣をしまわせる。

 

「治安が悪い……?」

 

 春夢は不思議そうに窓の外を見た。街並みは活気に溢れ、街行く人は忙しそうに、あるいは楽しそうに行き来している。

 

「だけど物乞いも強盗もいないようだが……。ここまで見た限りでは死体が野ざらしにもなっていないし、野良犬もいない。すごく治安がよく見えるぞ」

 

「500年前と比べればそうでしょうけど……。改めて考えると私たち、とんでもない時代に生きてたわね」

 

 戦争に駆り出されて四肢を失った乞食が街角で慈悲を乞い、その日のパンを求めてただの町人が殺人を犯し、少し大通りを外れれば身ぐるみを剥がれた者や病死した者の死体が野ざらしで放置されている。そしてそれらの死体は野良犬の糧となった。

 戦乱に荒れ果てた時代では、それがどこの街にでもある日常の光景だった。

 

「それでも強盗やスリがいないわけじゃないわよ。どれだけ社会が豊かになっても、犯罪なんてなくなるわけがないんだから気を付けないと」

 

「……それでも、今の時代は素晴らしいと思うよ」

 

 春夢は窓の外を見ながら、そう呟く。

 その視線の先を追えば、そこには街中で遊ぶ子供たちの姿があった。黒の種族の男の子と白の種族の男の子が競うように駆け抜け、その後を黒の種族の女の子が「待ってよー」と大声で叫びながら追いかけていく。

 

 白と黒の種族が仲良く遊んでいる、というだけではない。子供が遊ぶことを許容されている。本当に余裕のない時代では、子供は労働力だった。食料や兵器を生産するために、あるいは鉱員として、労働に駆り出される。その労働量は過酷で、大人になるまでに使い潰される可能性すらあった。

 

「子供が子供らしくあることが許容される社会。いつか君は私に言ったな、本当の豊かさとはどういうものかって。これだよ。これが豊かな世界ってやつだよ」

 

「……アンタは昔から、本当に子供が好きよね」

 

「別に子供が好きなわけじゃないけどな。子供は未来の種だ。俺たちじゃ手が届かない希望に、彼らなら届くかもしれない。だから子供は大事にしなきゃいけないんだ」

 

「その持論もずっと言ってたわ」

 

「うん、だから」

 

「だから?」

 

「……届いただろ、500年かけて」

 

「そうね」

 

 雫はしみじみとした顔で飲み物を啜る。

 そして、にわかにからかうような表情を浮かべて、春夢に笑いかけた。

 

「もっとも、子供になったアンタが言っても説得力はないわね。そういうのはグレンみたいな大人の男が言うからこそサマになるのよ」

 

 雫の返しに春夢はしばしきょとんとしたが、やがて雫の姿をまじまじと見て、「違いないな」と小さく笑った。

 

「あー! アンタ今、どこ見て笑ったのよ!? これから大きくなるからね!」

 

「いや、別に胸を見て笑ったわけじゃないぞ」

 

「やっぱり見てたんじゃない! 何よ、アンタだってそこまで大きいわけじゃないでしょ!」

 

「ほら、私のは美乳ってやつだから」

 

「なら私だってそうよ!」

 

 口げんかのように張り合ってから、2人は相好を崩してケラケラと笑い合った。

 ああ、いいなと春夢は思う。どんなやりとりをしても、ぴたりと呼吸が合っている。

 こいつとなら仲良くやっていけそうだ。もっと早くこうであってほしかった。だが、これから取り返していけるはずだ。

 

 

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 カフェを出た2人は、んーっと伸びをする。

 お腹は少しばかり膨れたが、まだ今日は始まったばかりだ。

 さて本題の家電量販店とやらに行ってみようか……と歩き出した矢先のことだった。

 

「うわあああああああああん!! 誰か、誰か助けてよぉ!! お兄ちゃんが! お兄ちゃんたちがぁ!!」

 

 小さな女の子が路地裏から転がるように走り出てきて、その場に倒れ込む。

 子供はびいびいと泣き喚いているが、道行く人々は誰も近づこうとしない。

 

 厄介事の気配を察して足早にその場から去るか、遠巻きに観察している。スマホを向けて撮影している者までいた。

 誰もが小さな子供の助けを求める声から目を背けている。ただ一人を除いては。

 

「……どうした? 怪我はないか? 困ったことがあったら、お姉ちゃんに話してごらん」

 

 春夢は女の子の前にかがみ込み、両手でその背中を抱きしめるようにして立たせてやる。

 その後ろ姿を苦笑するように眺めながら、雫はスマホを取り出した。

 

 かがんで自分を助け起こそうとするお姉ちゃんがあまりにも美人過ぎて、女の子は一瞬ぽかんとする。

 だが次の瞬間には顔を歪め、びいびいと一層大きな声で泣き始めた。

 

「あのね……あのね、お兄ちゃんたちとおばけビルに行ったの! そしたらね、おばけが、おばけが本当に出てきて……! うっ、うええええええええ!!!!」

 

「落ち着いてくれ。大丈夫だ、お姉ちゃんがどうにかしてやる。だから何があったのか、ゆっくり話してくれ」

 

「うえええぇぇぇぇ……!! お兄ちゃんが! お兄ちゃんがおばけにつかまっちゃったの……!! 助けて、助けてよぉ!!」

 

「……そうか、そうか……。それでおばけビルっていうのは?」

 

「うわあああああん! びえええええええええ!!!!」

 

 春夢は小さく眉をひそめ、これは参ったなと心の中で呟いた。子供から理路整然とした説明を期待できるわけがないとは思っていたが、パニックに陥っていて予想以上に事情を聴き出せそうにない。

 

 見れば、女の子は先ほどカフェの窓から見た子供たちの一人のようだった。ということは、お兄ちゃんというのは男の子たちのことだろう。問題は彼らがどこに行ってしまったのかということだが……。

 

「街のBBSを調べたわ。おばけビルっていうのは、この路地の先にある廃ビルのことみたい。立ち入り禁止だけど、子供が度胸試しで遊びに入ることがあるそうよ。……そうよね、おちびさん」

 

「! そう、そう!」

 

 スマホをいじっていた雫の言葉に、春夢に抱きかかえられた女の子がこくこくと頷く。それを聞いた雫は、ふうっとため息を吐いた。

 

「……厄介なことに巻き込まれたわね、春夢。この子のお兄ちゃんは、おそらくダンジョンに飲み込まれた。廃ビルはダンジョン化していて、モンスターが巣食っている……。アンタは丸腰で、現代の冒険者としてのノウハウは皆無。今のアンタに勝算はないわよ」

 

「そんな御託はどうでもいい。そのおばけビルとやらは、この路地の先だな?」

 

「うん! でも、お姉ちゃん……」

 

「君はここで大人しく待っているんだ」

 

 春夢の顔つきが変わっていた。

 穏やかでやや垂れ目気味の、食いしん坊でよく笑う女の子ではなく。 

 数々の鉄火場を抜けて鍛え抜かれた、鋼の皮膚の下に烈火を宿した戦士の顔に。

 

「何があっても、君のお兄ちゃんたちは助け出す。……約束だ」

 

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