野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第16話「茜川春夢、鉄火場に立つ」

「黙って死んでろ」

 

『ぐがっ……!?』

 

 有無を言わせぬ先制攻撃が、赤マントの顔面に叩き込まれた。

 敵だと認識した瞬間、春夢は弾かれたように駆け出して、べらべらと長口上を垂れようとした怪人の顔に消火斧の一撃を叩き込んだのである。

 

 赤マントは思いもしない速度の一撃を受けて大きくのけぞったが、その顔面には傷一ついていない。鋼鉄の壁を殴りつけたかのような反動に、春夢の腕がじんじんと痺れる。

 それに怯むでもなく、春夢は間髪入れず次の攻撃を繰り出そうと消火斧を振りかざす。

 

『舐めるな、ガキがっ!』

 

 赤マントは牙の並んだ口を蠢かせながら、マントの下から鎌のように鋭く尖った腕を伸ばし、春夢に向かって大きく横薙ぎにした。

 

「ぐっ……!」

 

 その衝撃をまともに受けた春夢は大きく吹っ飛び、床に叩きつけられる。

 

「春夢、しっかり!」

 

 春夢に遅れて前線へ飛び出していくヤッキーの後ろで、雫が悲鳴を上げる。

 

「正面から殴り合うのは無茶よ、しっかり避けて! 前世と同じ感覚で戦っちゃダメよ!」

 

「ああ……。すまん、つい癖が出ちまった」

 

 衝撃の余韻にふらつきながら、春夢が身を起こす。

 

(なんて踏ん張りが効かない身体だ……!)

 

 グレンであった頃は、強靭な肉の盾であることが重戦士である彼の戦い方だった。

 最前線に立って敵の攻撃を受け止め、大剣の刃で斬って返す。鍛えに鍛えた膂力と、優秀な聖女の保護魔法がそれを可能にしていたのだ。

 

 しかし茜川春夢の肉体はそうではない。怪人の意表を突くほどの瞬発力こそ秘めているものの、その筋力は見た目相応の女子のもの。

 前世の感覚から咄嗟にこのモンスターの一撃なら受け止められると判断してしまったが、春夢の肉体は踏ん張れずに吹き飛ばされてしまった。

 

 これが生身ならそのまま動けなくなるほどの大怪我をしていたところだが、幸い彼女が装備している制服(バリアドレス)はその衝撃をしっかりと受け止めてくれている。

 ただし、その腕のリストバンドに表示されているHP(ヘルスプロテクション)表示は、ごりっと1/3ほどが失われていることを示していた。

 

「何よアイツ、都市伝説の怪異にしては強すぎでしょ……!」

 

 春夢のHP残量を遠目に確認した雫が、思わず毒づく。

 しかし雫もそうそう手放しで観戦してはいられない。

 

「ピイッ!」

 

 ゴーレムコアの小丸の警告音に振り替えれば、背後から小蜘蛛の集団が押し寄せてきていた。

 巣に飛び込んできた、と赤マントが先ほど言ったのはこのことか……と雫は歯噛みする。前面の親玉と背後からの使い魔の襲撃で仕留めるつもりなのだ。

 

「ごめん、春夢! 私は小丸とこいつらを抑える!」

 

「あ、ああ……! わかった!」

 

「かかってきなさい、虫けらども! ここまで温存した小丸のリソースをぶっぱさせてもらうわ!」

 

 ピイイイイイッ、と身を震わせて衝撃波を放つ小丸を指揮しながら、現世に蘇った希代のゴーレムマスターが小蜘蛛たちを迎え撃つ。

 

 

 

 一方、前線に飛び出したヤッキーは、赤マントの両腕とがっぷり四つに組み合って動きを食い止めていた。それは赤マントが、鉄筋コンクリートで作られたゴーレムの怪力に匹敵する膂力を有していることを示している。

 

『クククッ……残念でしたねぇ。この私はただの空虚な都市伝説の産物ではなぁい。既に人間を食らって肉を得ているのですよ。年老いたホームレスどもの血肉など吐き気がする味でしたが……おかげで知恵もついている、こんな風にねぇ!』

 

 その言葉と共に赤マントの体がボコボコと膨れ上がり、みるみるうちに巨体へと成長していく。

 艶々と黒光りする体は鋼でできているように硬質な輝きを宿し、マントの下からはさらに二対四本の腕が飛び出してきた。

 

『ぐるあっ!?』

 

 四本の鋭い腕からの斬撃を胴体に受け、ヤッキーが悲鳴を上げる。

 しかし彼は両腕を離すことなく、牙を食いしばってそのダメージに耐えていた。コンクリートの体とはいえ、痛覚がないわけではない。それでも痛みに耐え抜くのは、こいつの腕を離せば愛する主人に攻撃が届いてしまうからだった。

 

「やっぱりお前は頼れる奴だな、ヤッキー!」

 

 その横から飛び込んできた春夢が消火斧を振るい、ヤッキーを斬りつけている四本の腕に攻撃を加える。

 

 だが、ガキィン!と金属同士が触れ合うような音と共にその攻撃は弾かれ、やはり赤マントの腕にはまるでダメージが入っていないようだった。

 力を込めすぎた攻撃の反動にたたらを踏みながら、春夢は苦々しげに得物の消火斧を睨みつける。

 

 これだって決して悪い武器ではないはず。少なくとも前世の自分が暮らしていた頃の武器屋に並んでいた手斧よりは、確実にいい出来だ。500年間の技術の進歩を感じられる。

 それがこうも弾かれるとは……。

 

 そんな訝しげな顔の春夢に、赤マントはせせら嗤う。

 

『はっはあ! 自信たっぷりに乗り込んできておきながら、基礎も知らないひよっこだったようですねぇ! 今の時代のモンスターに、魔術鍛造(ハイ・エンチャント)もしていないただの武器など通じませんよぉ! 私たちは常に進化しているのですから! ハハハハッ、そんなことも知りませんか? 持ってきていませんか!? こいつは滑稽ですねえ、絶望に身をよじりなさいッ!』

 

「魔術鍛造……?」

 

 春夢は戸惑いも露わに、眉をひそめた。

 

 魔術鍛造とは、白と黒の戦乱の時代の後に生まれた技術だ。

 武器に後付けで魔術を掛けて強化を施す従来の附呪(エンチャント)よりも、さらに進んだ手法。

 武器の製造段階から強化魔術を埋め込んでデザインすることで、その威力を飛躍的に増大させる。

 当然、白と黒の戦乱の最後に命を落としたグレンが知る技術ではない。

 

 現代ではダンジョン探索用の武器には漏れなくこの技術が使用されており、さまざまな武器メーカーがシェア争いに日々しのぎを削っているのだ。

 

 魔術鍛造は偉大な発明だったが、同時に問題も生んだ。

 この技術があまりにも普及してしまったために、「魔術鍛造されていない武器はモンスターに効かない」という認識が生まれてしまったのだ。

 モンスターは人間の残留思念から生まれる怪物なので、当然この影響を受ける。中世ならばただの鉄器で傷つけられたモンスターは、現代では魔術鍛造された武器でなくては倒せない怪物へと進化したのだ。

 

 まずい、と春夢は唇を噛んだ。

 今の自分では倒せないかもしれない。

 撤退すべきか。しかし、子供を見捨てたくはない。

 

「雫……」

 

「大丈夫よ、グレン! 貴方ならできる!」

 

 思わず弱音を零しかけた春夢に、背後を振り返った雫の叱咤の声が飛んだ。

 

「スキルを使って、それで通じるわ! 貴方こそが<原初の火(ロスト・ファーネス)>! 魔術鍛造技術の起源なのだから!」

 

「くそっ、何言ってんのかわからねえ……ええい!」

 

 相棒を決して疑わないこと。それが鉄火場の(ルール)

 疑問のすべてを飲み下して、春夢は自分の持つスキルを発動した。

 

「“点火(イグニッション)”!」

 

 その叫びと共に……手にした消火斧が灼熱を纏った。

 (あか)く、赫く。真っ赤に熱された刃の表面がボコボコと泡立ち、高温に耐えきれなかった塗料が独特の臭いを上げながら揮発していく。塗料による偽りの赤から、熱を帯びた真なる赫へと色を変える。

 1300度以上の高温にも耐えるはずの超合金の刃は今にも溶け落ちそうに熱を放ち、それでも不思議と形を崩すこともなく、燃える刃としてそこにあった。

 

『……なんだ、それは……?』

 

 黒く闇に覆われた顔に、ぽかんとした瞳を浮かばせながら怪人は呟いた。

 

『何をした? 魔術鍛造もされてない、ただの斧のはず……。この場で魔術鍛造した? まさか!? なんだ、お前は!? なんなのだ、そのスキルは!?』

 

「さあな。だが、ひとつだけわかってることがあるぜ」

 

 驚愕に立ち竦む赤マントに、春夢は高熱に沸き立つ斧を振り上げた。

 

「こいつが、てめえを殺す刃だ!」

 

 その叫びと共に、春夢の腕が振り落とされる。

 バシュッと音を立てて、闇色の液体が噴出する。くるくると宙を舞って斬り飛ばされる腕からおぞましい体液を吹き出しながら、怪人が叫びを上げる。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!?』

 

「まだまだ!」

 

 赤熱する刃が闇を裂き、三度の閃光が煌めく。高熱のあまりに自ら発光するに至った赤い剣閃は、(あやま)たずに怪人の3本の腕を切断……いや、溶断した。

 

「こいつでとどめっ……!」

 

 すかさず怪人の頭に斧の一撃を叩きつけようとする春夢。

 しかし、

 

『ふざけるなこのガキがああああああああああっ!!!』

 

 赤マントの怒声と共に、ヤッキーに抑えられていた腕がさらに鋭い形状へと変形する。

 

『グァウ!?』

 

 赤マントの突然の変形でヤッキーの手がズタズタに切り裂かれ、指が切断される。掴む指がなければ受け止めることもできず、赤マントの両腕が自由になった。

 そのコンクリートをも易々と切り裂く渾身の一撃が、カウンターとなって春夢の胴へと叩き込まれる!

 

「春夢!?」

 

「ぐあっ……!」

 

 春夢は床にうずくまりながら、衝撃に荒い息を吐く。

 その制服はびりびりに破け、HPは既に全損していることを示していた。すべてのHPが失われるとき、バリアドレスはその身を犠牲にしてオーバーキルダメージから着用者を守り、生命を保護する術式が組み込まれているのだ。決してスケベのためではない。

 

『ひい……ひい……畜生、私の腕が……! なんて酷いことをするんだ、この外道め! ああ、これだけのダメージを再生するのにどれだけの餌が必要になるんだ……!』

 

 赤マントは涙目で泣き言を口にしながら、足元で行動不能になっている春夢を憎々しげに睨みつける。

 

 だが柔肌を露わにしながら弱っている春夢を見るうちに、その瞳には先ほどとは違う色が宿り始めた。

 食欲である。

 確かに色欲もあるが、この蜘蛛のモンスターにとっては食欲と色欲は密接に結びついているものでもあった。

 

『だが……クククッ、これでもう動けませんねぇ? 恐ろしいでしょう? 怖いでしょう? 貴方たち冒険者という人種は皆そうだ。HPがあるうちは死なないと思っているから、格上にも無謀な挑戦を挑んでくる。だが、いざHPが尽きたら死の恐怖に打ち震え、身動きが取れなくなる……知ってるんですよぉ。特に若い個体ほどそうですねぇ』

 

 そう言って、怪人はギチギチと牙を鳴らして勝者の余裕を見せつける。

 

『貴方は魔力が高そうだし、いい餌になるでしょう。レアスキルも持っているようですし、喰えば私にも身につくかもしれませんねぇ。クククッ、燃える腕なんてカッコいいじゃありませんか。これはいい餌がかかったものです……クハハハハッ!』

 

 先ほどからいかにも三下丸出しの言動をしている赤マントだが、これはこいつの特性によるものだ。子供を怖がらせる怪談から生まれたモンスターである赤マントは、「子供を怖がらせるような言動をする」ことが宿命づけられている。本能のようなものだ。人間の言葉を喋るのも、すべては弱い相手を怖がらせるため。

 

 だから、勝ち誇る。そこに付け入る隙がある。

 

『ピイッ!』

 

 バシャッと音を立てて、怪人の顔面で水音が跳ねた。

 それはこれまでずっと黙って春夢の頭上を照らしていた存在によるもの。ゴーレムコアの翠玉が、勝ち誇る赤マントの顔面に強酸性の水鉄砲を噴出したのだ。

 

『があああああああああああああっ!?』

 

 思わず顔面を抑えてよろめく赤マント。

 そこにヤッキーが勢いよく飛びかかった。確かにもう手指はない。指がなければパンチの威力もロクに出ない。腕による攻撃は無力化されたも同然だ。

 だが、ヤッキーが最高の威力を出せる攻撃は、逞しい膂力によるものではない。

 

『ガルアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 顎が外れんばかりに大口を開けたヤッキーの牙が、赤マントの顔面を齧り取っていた。

 これこそが彼の必殺技。元より、自慢の顎こそが彼の最大の武器だった。それは彼がゴーレムコアになる、ずっと以前から。

 

『IGYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?』

 

 半分になった顔面からボトボトと黒い液体と白い煙を垂れ流しながら、怪人が絶叫する。

 痛みのあまりにめちゃくちゃに振り回した腕が、至近距離にいたヤッキーを切り裂き、彼の首を切断した。ごとり、と音を立ててヤッキーの犬面が床に転がる。

 

『ヒッ、ヒッ……! く、くらえ!』

 

『ピイッ!?』

 

 続いて怪人の指から噴出した蜘蛛糸に撃墜され、翠玉が無力化される。

 蜘蛛色に絡め取られて浮かび上がることができず、じたばたと暴れているが、腕のないコアの状態では自力で脱出することができないようだ。

 

 そんな敵対者の残骸から目を離しながら、赤マントは絶体絶命の危機に喘ぐ。

 

『い、痛えよぉ……。畜生、喰えもしないポンコツどもが! もうこの体はダメだ……!』

 

 受けたダメージはあまりにも大きい。間違いなく致命傷だ。

 そう、次の体を用意しなくては……。卵だ、卵を産まなくてはならない。

 卵さえ産めば新しい個体として生まれ変われる。

 そのためには……。

 

『餌だ、子供の肉がいる! ハハハハッ、じわじわと悪夢を見せて怖がらせてたからなぁ! きっとおいしく熟成されてるぞっ! そうなったら完全回復だ、ハハハハハッ!! 子分の相手をしてる魔導師もブッ殺して、私の一人勝ちだ! ハハハハハーーーッ!!』

 

 そう喚きながら、赤マントは最後の力を振り絞って保存食が収められた繭へと突進する。

 怪人の脳裏には、完璧な勝利のプランが見えていた。

 死に際の蟲が最後の力を振り絞るその速度は、人間の動体視力に捉えられないほど素早い。

 

 

 その背後で、床に崩れ落ちていた春夢の指がぴくりと動いた。

 

「……今、子供を喰うって言ったか?」

 

 

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【TIPS】

 

【スキル】

この世界の人間が持つ特別な技能のこと。

一定の条件を満たすと、その個人は技術を自由に使いこなせるようになる。

これは技術神である青の神の恩寵によるシステムである。

 

スキルには公開(オープン)スキルとユニークスキルの2種類が存在する。

公開スキルが条件さえ満たせば誰でも使えるようになる一方で、ユニークスキルは世界中で同時に一人しか使い手が存在しない。

 

まれにスキルブックと呼ばれる遺物がダンジョンから発掘されることがあり、これを使用すればその個人が持っていたユニークスキルを習得することができる。

 

だが、スキルブックはユニークスキルを持つ冒険者が死したときに生まれるものであり、それを本当に継承すべきなのかはよくよく考える必要があるだろう。

ユニークスキルとは、人生の結実。それを継承することは、先人の人生を継承することと同義である。

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