野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~ 作:風見ひなた(TS団大首領)
頭部を失い、全身に亀裂が走り、跪くヤッキーの体は満身創痍というのも憚られるほどにボロボロに朽ちていた。大蜘蛛の攻撃をほぼ単身で受け止めたのだから無理もない。
その巨人の骸に近づいた雫がそっと手を添えると、その役目を終えたとばかりにコンクリートゴーレムはボロボロと崩れ去り、砂へと還っていく。
そして巨人の胸からはオレンジ色のゴーレムコアが浮かび上がった。ヤッキーの本体と言えるゴーレムコアは、飼い主からのお褒めの言葉を待つようにくるくると雫の頭の上で旋回する。
雫はそんなヤッキーに柔らかな笑顔を向けると、ヤッキーを手の中に収めてゆっくりと撫でてやった。
「ありがとう、ヤッキー。本当にボロボロになるまで頑張ってくれたわね」
尻尾の代わりに耳をパタパタさせ、ヤッキーは主人の言葉に喜びを返す。
お褒めの言葉以外の何の見返りもなくても、ヤッキーは雫のために体を張って頑張ってくれた。その無償の献身が、雫の胸を詰まらせる。
まとわりついていた蜘蛛糸を小丸の衝撃波で取ってもらった翠玉も、雫の頬に近づいてつんつんとつついてくる。雫の肩には小丸が乗っかり、羽を休めながら主人の顔を窺っていた。
「翠玉と小丸もありがとう。2人ともたくさん働いてくれたわね。あとでたくさんマナを分けてあげるからね」
『ピィ♪』
ゴーレムコアたちは主人からお褒めの言葉をもらって、嬉しそうにチカチカと体を発光させながら鈴の鳴るような音を響かせた。
背負ったバックパックからは、何やら活躍した仲間たちへの羨ましそうな気配が漂ってきているが……。
「貴方たちの力は、また今度見せてもらうわね」
雫は苦笑すると、そう言って使い魔たちを宥めた。
今回のターゲット程度の相手に全戦力を投入するのはもったいないと思ってマナを温存したが、もう1体か2体は投入してもよかったのかもしれない。
想像していたよりも、よほどしぶとくて強力なモンスターだった。まさかヤッキーが全壊まで追い込まれるとは思わなかったし、春夢もHPをすべて持っていかれるとは。
新しい体の戦い方に慣れていなかったとはいえ、やはり相手を見くびるのは良くない。自分も春夢も、今生ではまだ冒険者学園に入学したばかりのルーキーなのだから。
その春夢は、囚われていた2人の少年の様子を心配そうに見つめている。
依頼してきた女の子の言う通り、救出されたのはそれぞれヒュームと魔族の男の子だった。
(本当に白と黒の種族の子供が仲良く遊んでいるなんてな……)
時代の変化に感慨深いものを感じざるを得ない。この子たちが大人になっても仲良く暮らしていってくれるなら、それに勝る喜びはない。グレンはまさにいつかそんな時代が訪れてくれることを願って、
しかし、今回の一件がこの子たちの健やかな成長に影を落とさないか。春夢はそれが心配でならなかった。
「……救出できたのに、浮かない顔をしてるわね」
「ああ……」
近づいてくる雫に、春夢は沈鬱な表情で頷く。
「あの蜘蛛野郎にひどい悪夢を見せられていたんだ。魔物になって、親しい子供たちを貪り喰わされる……そんな胸糞の悪い内容でな。夢とはいえ、そんな体験をさせられて、これから元の生活に戻れるかが心配なんだよ」
「そう」
そんなこと、春夢の気にすることではないだろうにと思いながら、雫は頷きを返した。本来縁もゆかりもない赤の他人だ。この子供たちは無償で命を助けられただけで感謝すべきだし、その後の人生がどうなろうが春夢には関係ない。彼女が胸を痛めるいわれなどどこにもない。
雫ならそう考えるだろう。しかし春夢はそうではない。無駄にお節介で、勝手に人のトラブルに首を突っ込んで、ときに傷つく。そんな生きるのが下手くそな人間だ。でも、雫は春夢のそういうところがどうしようもなく好きで仕方ないのだ。わかりみが深い。
「なら、悪夢の記憶を消してあげたら? 精神感応はサキュバスの得意技でしょ。眠っている相手の夢を操作してやればいいのよ」
「そんなことができるのか!?」
「むしろそれができないなら、サキュバスの長所ないでしょ……」
雫はあきれた顔を向けるが、春夢はまるでピンと来ていないようだ。
500年前の白と黒の戦乱の時代、サキュバスは魔王軍においてスパイとして重宝される存在だった。何しろハニートラップがあまりにも強すぎたのだ。
といっても、その美貌と性技で篭絡するわけではない。彼女たちは精神感応を駆使して白陣営の勇者や要人たちの夢を操り、彼らの妻や恋人……あるいは母親や妹といった親しい存在になりすますのが、彼女たちの手管だった。
最初は夢の中に登場するだけで、夢から覚めれば忘れてしまう程度。しかし何度も何度も繰り返し幸せな夢を見せていれば、やがて夢と現実の区別がつかなくなり、サキュバスたちを恋人や大切な家族と認識するようになる。
彼らは最終的には自分たちの恋人や妹を殺させるものかと、白陣営を裏切った。
グレンが戦乱時に手に懸けた裏切り者たちの何人かは、サキュバスのハニトラに引っかかった者たちの成れの果てだったのだ。
何がクソ雑魚種族だよ、こんな洗脳特化の激ヤバ種族を雑魚だと思ってるのグレンだけやぞ。
そういう凶悪な真似ができる種族だが、しかしそれも使い方次第だ。
力自体に善悪はない。平和な現代では、サキュバスはサイコセラピストとしての役割を期待され、医療の現場で活躍することも多い種族なのだった。
「でも、どうやればいいんだ……? 夢を消すといっても、全然ピンとこないぞ」
春夢は子供たちを見下ろし、おろおろと困惑した表情を浮かべている。先ほどは夢を見ている子供の位置を直感的に理解できたが、いざ夢を操れと言われてもさっぱりピンとこなかった。
「アンタ本当にわからないの? サキュバスなら子供でもできるって聞くわよ」
「そう言われても……。こちとら28年もただのヒュームだったんだぞ。いきなりやれって言われてできるわけないだろ」
仕方ないなー。こうだよ。
春夢の左胸が緑色に淡く輝き、そこから血管を辿るように右手へとマナが移動していく。
その手から放たれる緑の波動を受けた少年たちの表情は、みるみるうちに苦悶から安らいだものへと変わっていった。
陰惨な悪夢はこれでおしまい。
与えるものは、清涼な川のせせらぎ。黄色い菜の花畑。ゆらゆらと舞う紋白蝶。うららかな日差し。頬を撫ぜるそよ風。芳醇な花の香り。
穏やかで幸せな、暖かな……。
春の夢を見るといい。
「あれ……なんかできた……?」
「何よ、できるんじゃないの」
「いや、どうやったのかさっぱりなんだが……」
まあいいか、できたのだし。
悪夢の記憶をほのぼのとした夢に置き換える。
少年たちに与えたイメージがフィードバックされ、春夢はほっと安堵の息を吐いた。
ややあって、子供たちはまどろみから目を覚ます。
「あれ……ここ、どこ?」
「なんで俺たち寝てんの?」
「よかった……目を覚ましたんだな! 無事か!? どこか痛いとこないか!? 怖かったりしないか!?」
春夢はぱあっと顔を輝かせ、そんな少年たちを強く強く抱きしめた。
こんな非力な体に生まれ変わってしまった自分でも、子供たちの未来を守れた。そのことが春夢には嬉しくて仕方がなかったのだ。
「お、お姉ちゃん誰……!?」
「うっぷ、は、離れろよ! 苦しいだろ!」
ところで、春夢の今の格好はビリビリに破れたブレザー姿である。
特に胸などは完全に破損し、ブラ1枚になってしまっていた。
柔らかですべすべのおっぱいの感触、運動後の濃厚な女の子の体臭、先ほどまで夢に見ていた春の日差しを思わせるぽかぽかの温もり。そういった強烈な体験が、未成熟な少年たちの五感を襲った!
ばきっ!(←性癖が壊れる音)
少年たちは困惑しながらも、真っ赤な顔で抱きしめられるままにされていた。
半ズボンの中の小さなモノはピキピキに硬くなっている。初めての性の芽生えであった。
かわいそうに、もうこの子たちは生涯ビリビリに破れた制服の女の子にしか欲情できなくなっちゃったねえ……。
「はい、離れて離れて。アンタ自分がどんな格好してるのか自覚しなさい」
春夢が初精通奪取モンスターになってしまう前に、割って入った雫が子供たちを無理矢理引き剥がしにかかる。
「ん? まあいいんじゃねえの、これくらい……」
「よくないわよ! ほら離れた離れた! こら、じろじろ見るな! 春夢の肌はアンタたち程度が拝んでいいもんじゃないの! しっしっ!」
自分の体で視線をブロックしてくる雫に、少年たちは残念そうな表情を向ける。
「あぅ……」
「ちっ、なんだよペタ胸女」
「ブッ殺すわよクソガキ!?」
警察の特殊部隊に救出されたのは、春夢たちが突入してから2時間後のことだった。
その頃にはもうビルのダンジョン化も解けかかっており、春夢たちは何の変哲もない5階建ての廃墟ビルの最上階にいるところを発見された。
ビルをダンジョン化させていた元凶はやはりあの大蜘蛛で間違いなかったようだ。
警察の到着に時間がかかったのは、近隣の署から突入部隊のメンバーを招集するのに手間取ったためであった。
あの大蜘蛛はホームレスを中心に10人以上の行方不明者に関与している指名手配モンスターで、討伐にはかなりの精鋭を集める必要があるとみなされていたのだ。実際これまでにも何度か討伐隊が出動したことはあったのだが、鉄の体に有効打を与えることができないまま逃走を許してしまっていた。
もし2時間も猶予を与えてしまっていれば、おそらく子供は助かっていなかっただろう。大蜘蛛は食餌を済ませた後、ようやく到着した警官隊を尻目に逃走していたはずだ。自分たちだけで討伐に向かった春夢の判断は、間違っていなかった。
だが、警官にはこってりと絞られることになったが。
「君たちは何を考えているんだ!? バリアドレスを装備しているとはいえ、ほぼ丸腰でモンスターに挑むなんて命知らずにも程がある! こういう危険なことに民間人が勝手に首を突っ込んでくるんじゃない、警察に任せなさい! まったく、冒険者学園の生徒だからといって無謀な……!」
当然といえば当然の話である。何しろ春夢たちはただの民間人の子供なのだ。
冒険者学園の学籍は存在するから、立場としては冒険者学園の生徒であり、役所の許可なくダンジョンに立ち入っても罪には問われない。それでも丸腰でダンジョンに入るなど無謀でしかなかった。
現代のモンスターには
少し離れたところでは、出動が空振りに終わった特殊部隊の警官たちが、へらへらと呑気に笑いあっている。
「なんか肩透かしでしたね。10人以上被害を出してる化け物と聞いてたのに、あんな素人の女の子2人で簡単に倒せちゃう雑魚だったなんて」
「ああ、ロクな装備も持ってなかったらしいからな。討伐に失敗したって奴らは、逃げられたミスを隠そうとして大げさに報告したんだろ」
「まったく困っちゃいますよね。あんな弱そうな子たちで倒せる程度の雑魚に、とんだ尾ひれがついたもんです」
「おいおい、あの子たちに聞こえるぞ?」
「聞こえやしませんよ、こんだけ離れてるんだから。はー、まったく。ミス隠しのおかげで、私らもとんだ無駄足を踏まされたもんです」
「まあまあ。誰も被害がなくてよかったじゃねーか。ハハハハ」
通常ならば春夢たちに聞こえる心配もない距離での会話だが、その足元では藍色のゴーレムコアがしっかりと音を拾い、主人に届けていた。
「何なのよあいつら! 全然役に立たなかったくせにえっらそうに説教して、その上こっちを素人呼ばわり!?」
説教から解放された雫は、むきーと肩を怒らせる。
「あの蜘蛛、がっつり強敵だったわよ! 何がチュートリアルモンスターよ、警察の精鋭部隊が必要な大物だったじゃない! 倒せたのは春夢がすごかったからなのに! あー、腹が立つったら!」
一方、貸してもらった毛布に包まって柔肌を隠した春夢は、ニコニコ笑顔だ。
「まあ、いいじゃないか。そんなに腹を立てるなよ」
「よくないわよ! アンタ、ナメられて悔しくないの!?」
私は悔しいわよ、アンタを正当に評価しない奴らって、本当にクソだと思うわ! 昔も今も、腹が立つ奴らが多すぎるのよ!
そんな怒りを込めた目つきに、春夢は肩を竦めた。
「別に……。ほら、この見てくれじゃ仕方ないんじゃないか」
毛布に包まった春夢は、のほほんと笑顔を浮かべている。その穏やかな表情は、とても先ほどの戦いを繰り広げた人間と同一人物には見えない。
この少女が獰猛な殺気を纏いながら、当たれば即死の攻撃を潜り抜け、バールで巨大なモンスターの顔面を殴りつけていたといっても、誰も信じないだろう。
「……なんでそんな嬉しそうなのよ、アンタ」
「警察が来てくれたからな。私たちの時代なら、孤児を衛兵が見捨てるなんて当たり前だっただろ。でも、この時代は子供を助けようとちゃんと大人が動いてくれる。無謀な若者に、お前がそんなことをする必要はない、俺たちがやると説教してくれる。優しい時代になった、それが嬉しいんだ」
「はあ……」
雫は口にしようとした言葉を飲み込み、溜息を吐いた。
しかし警察の動きは遅かった。これでは子供の救出を諦めて、討伐することだけを考えて動いたようにしか見えない。
だが、それを指摘する必要はあるまい。わざわざ春夢の喜びに水を差したくはなかった。
「……まったく、アンタがここにいてよかったわね」
精一杯の皮肉で、雫は唇の端を歪めてそんなことを呟いた。
まったく、自らの危険を顧みずに見も知らぬ子供の救出に向かうお人よしがこの場にいなければ、子供は助かりはしなかったし、警察はその責任を追及されていただろう。そんなピンチを救ってくれた恩人に偉そうに説教だなんて、いいご身分だこと。
そんな気持ちを混ぜ込んだ言葉に、春夢は笑顔で頷きを返す。
「私も、雫が隣にいてくれてよかったと思うよ」
「んんっ……?」
「雫がいてくれなければ、きっと私も子供たちも死んでいた。雫とヤッキーがいてくれたから、私はあの子たちを助けられたんだ。君が
そう言って、春夢はぎゅっと雫の手を握る。
「ま、まあ当然よ。アンタみたいな危なっかしい中世人、ほっとけるわけないものね」
雫は赤く染まった顔で落ち着きなく瞳を揺らしながら、わざとらしくため息を吐いた。
なんて素直じゃない子なんだ。可愛いねー。
「……ま、今日は悪くないデートだったわ」
今日から書籍化も決まっている『貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く』の第三部が再開しますので、そちらもよろしくお願いします!
https://syosetu.org/novel/370181/