野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第2話「戦士グレン、ゴーレム軍団を斬りまくる」

 横列を組んだ小型サイズのゴーレムたちが、まるで浜に押し寄せる津波のように勇者たちへと殺到する。

 小型サイズといっても、それはあくまでも数十メートルもの巨大な体躯を持つゴーレムと比較しての話だ。小型とは人間と同サイズかそれ以下ということであって、つまりは数十人の歩兵が一斉に押し寄せてくるのと変わらない。

 

 タチの悪いことにその隊列の中には獣型のゴーレムも混じっていて、ただ歩兵を相手するのと同じように対応してしまうと、飛びかかってきた獣に喉笛を食いちぎられかねないという危険を孕んでいた。

 

 さらにはその歩兵たちの後ろには魔術師タイプの人型ゴーレムが常に魔術を詠唱して、攻撃魔法や歩兵を強化する補助魔法を飛ばしてくる。

 その戦い方はまさに軍隊のやり方と同じであって、勇者たちは魔族の精鋭数百名からなる一個中隊をたった4人で相手させられているのと同等の死闘を余儀なくされていた。

 

 加えてそれらのゴーレム兵を指揮するのは、大魔導ただ一人。

 なんら声に出しての命令を必要とせず、ただ一人の頭脳だけで盤面を運べるのなら……それだけのキャパシティを処理できてしまう頭脳を持つ者が完璧に指揮を取れるなら、これほど完成された指揮系統を持つ軍隊など存在しないだろう。

 

 あまつさえ、予算を気にせず最上級の素材を豪勢に突っ込んだゴーレム兵は質も文句のつけようがない完成度を誇る。

 このゴーレム兵部隊であれば、数千人規模の人間の軍隊など鎧袖一触に蹴散らしてしまえるだろう。コストにさえ目をつぶれば、まさに魔王軍の切り札中の切り札と言えた。

 

 だが、しかし。

 勇者とは人間種族の創造主である“白の女神”が直々に不死身の守護を与えた、その時代で百人しかいない最高の戦士たち。

 魔族に比べれば極めて脆弱な器に生まれながら、想像を絶する訓練と死闘を通じて数十人以上の魔族を相手取れるほどの実力を身に着けた、人類種の上澄み中の上澄みなのだ。

 

「邪魔だああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 大剣を担いだグレンの雄叫びが0.1秒を数えるたびに、押し寄せるゴーレムたちがまるで波濤が砕けるように、破片を撒き散らしながら吹き飛んでいく。

 魔王軍最高のゴーレムマスターとして知られる大魔導お手製のゴーレムたちには元々の硬い材質に加えて“保護(プロテクション)”の魔法がかけられているが、グレンの振るう大剣はそれを物ともせずに一撃で殴り壊していく。

 

 硬い素材を使っているゴーレムは斬撃に非常に強いというのは冒険者や軍人なら誰でも知っている話だが、グレンは自分の大剣を斬るのではなく叩き壊す鈍器として扱っていた。もちろんそんな扱い方をしては、いかに切れ味よりも頑丈さ第一で選んだ業物の逸品とはいえすぐに壊れてしまう。そのはずだが、

 

「シルヴィアは全力でグレンの剣に“保護”をかけ続けろ! リンネアは風の魔法と弓でゴーレムたちの脚を少しでも止めるんだ! 行け、グレン! 一分一秒でも食い止めろ!」

 

「おうよ、任せろッッッッッッ!!」

 

「私たちがついています! 心置きなく戦ってください!」

 

「頑張ってグレン! 右側はちゃーんと援護してあげるから!」

 

 シルヴィアの神聖魔法がグレンの大剣の破損を防ぎ、リンネアに呼びかけられた風の精霊が突風を起こして右側からのゴーレム兵の突撃を阻害する。さらにリンネアの放つ弓は上空から襲い掛かろうとした鳥型のゴーレムのコアを的確に撃ち抜いていた。

 勇者一行の最後列に立つ勇者アルベールが虚空に剣を振るって剣閃を飛ばせば、左右から回り込もうとしていたゴーレム兵たちが破片と共に吹き飛んでいく。

 

 勇者パーティー4人が菱形を成すように陣取った陣形によって、ゴーレム兵の大群は勇者たちを包囲することができず、前面に立つグレンに襲い掛かることを余儀なくされていた。その命知らずのゴーレムたちも、グレンの起こす剣の暴風で次から次へとぐしゃぐしゃに粉砕されていく。

 

「いかに相手が大群でも、侵入口を制限してしまえば少数と同じ……大丈夫だ、僕たちは勝てる! 踏ん張ってくれグレン!」

 

「当たり前だ、俺はお前の剣だぞッ!! 俺を信じてろッッッッ!!!」

 

 勇者アルベールは当代一の勇者、人類種の希望と謳われる存在である。

 その強さの秘訣は何かと賢者に問えば、やはりそれはアルベールの戦術眼にあると語るだろう。場面に応じた最適な布陣を考えるリーダーの頭脳と、その命令を疑いなく確実に実行するパーティーメンバーたちの存在。

 他の勇者たちが群れるのを好まず個人で行動したり、パーティーを組んでもメンバーは勇者ではなかったりという例がしばしばみられることを考えれば、4人全員が勇者であるにも関わらず円満な関係を築けた彼らは特筆すべき存在といえた。

 だからこそ不死身のはずの他の勇者たちが次々と散る中、彼らだけが最後まで生き残れたのだろう。

 

「これだけのゴーレム兵を集めても、まだしのげるか……」

 

 四つん這いになった巨人ゴーレムの肩に乗ったまま、大魔導はローブの上からぎゅっと左胸に手を当てた。

 その瞳は血走り、軽く息を荒げている。

 数百体のゴーレム兵の同時操縦など、いかに高性能な処理速度が可能な頭脳を持っていようがおよそ人の身でできる所業ではない。特別製の器に生まれついた彼女であってすら、相当な疲労を感じていた。

 

 おそらく勇者アルベールも、大魔導がかなりの無茶をしていることに気付いている。でなければ、踏みとどまって消耗戦など選ぶはずがない。待ち構えたゴーレムの大群を相手にするよりも、いったん逃げてから魔王の玉座に続く別の通路を探した方が楽に決まっているからだ。

 勇者アルベールのパーティーは、逃げるのは勇者の恥とかいうくだらないプライドに拘って徹底抗戦するような愚は犯さない。それでもここで踏みとどまるなら、勝算があるということだ。

 

「だけど私だって……覚悟を決めてここにいるのよね!」

 

 大魔導がパチンと指を弾くと、勇者たちの背後で轟音を上げながら大扉が動き出した。

 アルベールやリンネアがぽかんとした顔で振り返るなか、数十メートルもある巨大な扉はひとりでに閉まっていく。やがてゴウン……と音を立てて扉が閉まり切ると、扉の表面に浮かび上がった巨大な一つ目がぎょろりと勇者たちを見下ろした。

 

「扉もゴーレムだったのか……!」

 

「退路を断たれたよ! 大丈夫なの、アルベール!?」

 

「攻撃して来られるとヤバいかもしれないが……今はいい、リンネアはグレンの援護に専念するんだ!」

 

「うん、わかった!」

 

 アルベールは背後の扉型ゴーレムを気にしながらも、剣閃を放って左右から押し寄せようとするゴーレムたちを牽制する。

 

 もっとも、実際のところは扉型ゴーレムに攻撃性能などない。あれは命令に従って開閉することと、瞳を浮かび上がらせて侵入者を見下ろすことしかできない虚脅(こけおど)しだ。

 時間と費用さえもう少しかけられるなら瞳からビームを出したり、徐々にせり上がって侵入者を強制的に前方に進ませるトラップのようにしたいという気持ちはあったが、生憎時間も予算も足りなかった。

 

(だけど、無用に警戒したでしょ? それでいいの。注意を逸らすことならできる……それで用は果たせるのよ)

 

 大魔導は密かにほくそ笑むと顔を俯かせ、フードで隠した唇で小さく詠唱を始めた。

 

『天を巡るは七つの円環、地に座すは四柱の神、いざ讃えよ黒の呪縛――』

 

 それは大魔導が用意した二つの切り札のうちのひとつ。

 とてつもなく重たいコストを支払うことでしか発動できない、最後の奥の手。

 発動まで巨大な隙があり、逃げられたらそれでおしまいで、使うためには魔王軍が有する魔術触媒の大半を差し出した巨大ゴーレムを作る必要があるという、バカみたいな代物。

 こんなものを使う必要にかられることなんて絶対にあるべきではない。そうならないように戦況を運ぶことこそが、本来魔王軍の重鎮として望ましい。

 

『我が肉体と精神、我が同胞を贄として、不死なる神兵に破滅をもたらせ』

 

 だけど、背に腹は代えられない。

 どうしても守らなくてはならない存在を背にしているのなら、自分は喜んでいかなる代償をも支払おう。

 

 勇者たちが破壊したゴーレムたちの残骸の山から、ずるりと何かが抜け落ちていく。

 それらはずるり、ずるり、と床を這い、その這った後は高所から見れば紋様のようで。いいや、それは明らかな魔術紋を成し、大魔導が乗った巨大なゴーレムへと集まっていく。

 

 ゴーレムに宿っていた魂たちが“呪縛”によって束ねられ、撹拌され、それぞれの個性を失いながら、単純な力へと練り上げられる。

 生物の死と共に輪廻へと還るべき魂を現世に留め、破砕するという禁忌。神にのみ許された秘奥を行使するという禁忌。二重の禁忌を犯したそれは、まごうことなき禁呪。

 

 ――ああ、この肉体から、ごっそりと生命力(いのち)が抜けていくのを感じる。

 

 人の身で扱うことが決して許されない禁忌の代償を支払った。

 仮にこの戦いを生き延びたとしても、もう長くは生きられないだろう。

 

 それでも、私は、私たち(姉妹)は。

 それだけの意味があったと信じたかったのです、お父様。

 

 ぎゅっと拳を握り、感傷を飲み込み、(まなじり)を標的に向ける。

 

 その瞬間、グレンが顔をこちらに向けた。

 

「アルベール! まずいぞ、ドデカイのが来る!!」

 

(気取られた……!)

 

 大魔導は奥歯を噛みしめる。しかしその唇の端は、我知らず吊り上がっていた。

 リーダーのアルベールの意識を背後に向けさせたと思ったらこれだ。

 まったく、いつもいつも。何度戦っても、最後にはあの剣士にひっくり返される。

 

「だけど、これで終わりよ。忌々しい不死身の神兵ども……!」

 

 白の女神によって“不死身”の加護を授けられた勇者たちは、たとえ死んでも生き返る。体を灰になるまで焼いても、潰しても、川に流しても、地中深く埋めても、戦う意思がある限りは必ず蘇ってくる。

 本当に厄介でしぶとい暗殺者ども。ただでさえ人類種の上澄みと言えるまで鍛え抜かれた人間が、不死の暗殺者として何度も襲ってくるなんて悪夢もいいところだ。

 

 だからこいつらを倒すには、諦めさせないといけない。

 何度も何度も殺して心を折るか、さっきのように説得して懐柔するか。

 

 だけどどうしても殺しきれず、説得にも応じないというのなら……。

 黒の神の禁呪を以て、その魂を呪縛し、永遠に封じよう。

 私たちの魂を鎖へと変じ、物言わぬ彫像としてこの世の終わりまで繋ぎ止めよう。

 

「さようなら、勇者たち……『七色封滅陣(プリズミック・ブラスト)』!!」

 

 大魔導の叫びと共に、巨大なゴーレムの顔が破砕する。

 その顔の下に隠されていた巨砲から、七色の光芒が勇者たちへと襲い掛かった。

 

 それは自分の魂の破滅をも辞さず、ただ敬愛する魔王のために捧げられた必滅の光。

 幾百もの魔族の魂を神の力を以て破砕し、力として練り上げ、呪いによって肉体と精神と魂、人間を構築する3つの要素すべてを永遠に封印する秘術だった。

 

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