野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第20話「茜川春夢、雫とだらける」

 リンネアの車で寮まで送ってもらった春夢は、ようやく人心地ついて寛ぐことができた。今はベッドでゴロゴロしているところだ。

 

 ちなみにお風呂にはもう入った。

 雫が「大丈夫? 本当に一人で入れる? 私が一緒に入って体洗ったげようか?」としきりに一緒に入ろうとしてきたのだが、狭いユニットバスなので……と理由をつけてご遠慮した。ちぇっ。

 

「なんでお前ら、私と一緒に風呂に入りたがるんだ……?」

 

「べ、別に!? 中世人のアンタが本当にシャワーとか使えるか心配なだけだし! 別にアンタの裸なんて見たいわけないんだから!」

 

 嘘つけ、めっちゃ目が泳いでるゾ。

 そりゃ見たいよなあ。ただでさえ意中の人と合法的にお風呂に入るチャンスだし、ましてや同性すらも魅了するサキュバスボディだもん。

 本当に美しい肉体というのは、性別関係なく見惚れるものだよ。

 

「……ところで、この寮って大浴場とかあるんだけど……今度入ってみる?」

 

 何やらソワソワしながらそんな提案をする雫に、春夢は渋面を浮かべた。

 

「それ、寮の女の子たちと一緒に入るってこと?」

 

「まあそうね。なんか薬効のあるハーブ風呂とかあるらしくて、疲労回復に効くらしいわよ」

 

「いや、ダメだろ! 体は女でも、意識は28歳のオッサンだぞ、私は! そんな覗きみたいなことできるか、一緒に入る子が可哀想だろ!」

 

 むしろ大歓迎だと思いますけど。

 雫は可愛い後輩に飢えたお姉さま方に囲まれた春夢が、「わあーキレイな肌! 美容液何使ってるの?」「おっぱいぷるっぷるだね!」「ちょっと触ってみていい?」とチヤホヤされる姿を思い浮かべた。どういうわけか、めちゃめちゃ鮮明に想像がついた。

 

(だ、ダメダメ! そんなの絶対だめ! 春夢の裸を不特定多数に見せるなんて絶対ダメ! ああっ、でも一緒にお風呂は入りたい! 一緒に洗いっこしたい! うわああああああ!!)

 

「心が二つある~~~!!」

 

 そう絶叫しながら、雫は春夢の隣のベッドの上で、ゴロゴロと盛大に転がった。

 そんなかつての宿敵の奇行を、春夢はじっと見つめる。

 

「……なんか転生してからアグレッシブになったな、こいつ……」

 

 転生した体は思春期だからね、いろいろあるよね。

 まあ心が二つあるのはこっちの方なんですけど。

 

「そういえば雫って、転生してからの記憶を失ったりしてないのか?」

 

 思い出したように尋ねる春夢に、雫は転がるのをやめてむくりと起き上がる。

 

「してないわよ。前世の記憶も今生の記憶もばっちり覚えてるわ」

 

「でも、なんか記憶を取り戻してから暴れてたってリンネアが言ってなかった?」

 

「あ、あれはその……まあ、全能感を感じちゃったというか、何というか……」

 

 雫は顔を赤らめながら、もじもじと指でシーツにぐるぐると渦巻きを描く。

 まあローティーンの子が前世で大魔導士だった記憶と具体的な魔術理論を思い出したら、私ってすげー!ってなるよね。無理もない。

 

「あ、今はもう大丈夫よ。ちゃんと現代の社会の知識も得てるし、価値観もアップデートできてるわ」

 

「……本当か? 魔王のことはもういいのか?」

 

 そう言って、春夢は探るようなまなざしを向ける。

 そんな彼女に、雫は穏やかな微笑みを浮かべる。

 

「もう魔王様がいなくなってから500年が経つのよ。今更未練なんてあるわけないでしょ」

 

「そう、か」

 

 雫の言葉を聞いて、春夢は静かに瞳を閉じた。

 

 かつて魔王のために幾度となく自分と戦い、ついには自分と刺し違えた宿敵。

 その口から未練はないと聞くと、何やら感慨深いものがあった。

 互いに相手を死線に追いやり、激しく火花を散らした強敵ともう矛を交えることはないと考えると、一抹の寂しさはある。グレンは根っからの戦士だったから。

 

 しかし、それは良いことなのだ。

 世界に混迷と悲劇をもたらす魔王は歴史書の中に去り、今は人間たちが平和な時代を謳歌している。

 その新しい地平の上で、雫は一人の平凡な少女として生きている。それはなんと喜ばしいことか。

 

(私も慣れなきゃな、平和な時代ってヤツに)

 

 そう思いながら、春夢は口を開く。

 

「雫はさ、何かやりたいことってあるのか? 今の時代での目標とか……」

 

 それは自分の迷いから出る言葉でもあった。

 この平和な時代で、自分はどのように生きればいいのか。いずれ本物の茜川春夢に体を返して消える身だとしても、それまでの時間をどう過ごすべきなのか。

 雫の意見を参考にしたいと、春夢は思ったのだ。

 

「目標? あるわよ」

 

「本当か!」

 

 やっぱりこいつはすごいなと、春夢は感心した。

 戦乱の時代から時間を飛び越えてしまった自分は今も戸惑ってばかりなのに、雫はとっくに今の時代に適応して、新しい目標まで見つけている。

 

「私の目標はね、アンタの相棒になることよ」

 

「……私の?」

 

「そ。だからこうして、他国の冒険者学園に入学したの。まさか入学早々に出会えるとは思ってなかったけど」

 

「……どういうことだ? 茜川春夢がここに入学するって知ってたのか? まさか、本当にこの子の幼馴染だとか?」

 

 疑問を浮かべる春夢に雫は微笑みを浮かべると、小さく首を振った。

 

「今は内緒。そういう取り決めだから」

 

「取り決め……?」

 

 春夢はオウム返ししながら、首を傾げる。

 なんとも、わからないことばかりだ。

 だが、雫がこれ以上話すつもりはないことはわかった。それともうひとつ。

 

「『今は』ってことは、いずれ話してくれるんだな?」

 

「そうね。でもただひとつ言えることは……」

 

 雫はじっと春夢の目を見つめる。その瞳には、いくつもの感情が渦巻いていた。そしてその中でもっとも大きな感情は……。

 

「私たちは、アンタをずっと待ってた。私もリンネア先生も、アンタがここに来る日をずっとずっと待ち続けていたのよ」

 

 それは思慕。

 いや、それだけでは言い表せないほどの深い深い感情。執念にも似たもの。

 

 目を凝らしてその正体を見極めようとする春夢に、雫はくすっと笑顔を浮かべた。

 

「さ、寝る前に明日の準備をしましょ。朝起きてから支度すると大変よ! ちゃんと文房具は鞄に入れること! 制服はアイロンがけしてからサイドチェストに置くのよ!」

 

「う、うん……」

 

 雫のテンションの変わりように、ついつい生返事する春夢。

 その頬に、翠玉がすいーっと寄ってきてツンツンとつついてきた。

 

「わ、何?」

 

「あら、気に入られたみたいね」

 

 見ればいつの間にかゴーレムコアたちが雫のバックパックから出てきて、部屋中に浮かび上がっていた。

 特に統一が取れた動きなどはしておらず、むしろてんでバラバラに過ごしている。

 

 緑色の翠玉はふよふよと空中を泳ぎ回り、今は春夢の周囲を旋回している。オレンジ色のヤッキーはテーブルの下でどっしりと座り込み、白色の小丸はクローゼットの上で寝転がっていた。

 他にも名前はわからないが青色、藍色、紫色のゴーレムコアがいて、思い思いに空中を漂ったり、床に触れるスレスレで這い回ったりしているようだ。

 

(なんかこう……やたら生き物っぽい挙動をしてるような……)

 

 グレンはゴーレムについてよく知らないのだが、こういうものなのだろうか。

 もっと無機質で、命令されない限り身動きひとつしないと考えていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

 それにしても6色のゴーレムコアが空中を飛び回る姿は非常に綺麗な光景だった。時折こっちにやって来て、構ってほしそうな仕草をするので愛嬌もある。

 

「この子たち、これから部屋の中で放し飼いにしてもいい?」

 

 上目遣いで問うてくる雫に、春夢は笑顔で頷きを返した。

 

「ああ、もちろん。なんか賑やかでいいな!」

 

「よかった! アンタならそう言ってくれると思ってたわ」

 

 春夢の快諾に、雫は嬉しそうに手を合わせる。

 その子たち、コアの状態でも強化ガラスを割るほどの衝撃波や強酸性の液体を生成する能力あるんですけどね。

 多少はビビってもよさそうなものだが、さすが修羅場をくぐり慣れてきただけあって春夢は肝が太い。あまり深いことを考えてないだけかもしれないが。

 

「じゃ、明日の支度をしてこの子たちとちょっと遊んだら、今日はもう寝ましょうか。今日はいろいろあったし、疲れたでしょ?」

 

「そうだな。今更になって、どっと疲れが出てきた。やっぱか弱いな、この体……」

 

 そう言って、春夢はふぁ……と可愛らしいあくびを漏らした。

 そんな春夢の仕草に、雫がふふっと小さく笑う。

 右手を口の前に持っていって、口の中を隠す仕草を自然にしているが、本人は気づいていないようだ。

 

「じゃあ今日から改めてよろしくね、春夢」

 

「ああ。こちらこそだ、雫」

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