野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~ 作:風見ひなた(TS団大首領)
ちゅっちゅ♥
頬に何かがくっついてくる感触に、春夢は目を覚ました。
「ん……またキス? 雫は甘えん坊だなあ……」
ばふんっ!
「うわっ!?」
枕を顔面に叩きつけられ、春夢は飛び起きた。
真っ赤な顔をした雫が、枕を手に仁王立ちで見下ろしていた。
その周囲をぴゅーと翠玉が逃げていく。どうやら先ほど寝起きのキスをしていたのはこの子らしい。
春夢は寝起きでちょっぴりボサついた頭を掻きながら、ルームメイトに挨拶した。
「ん……おはよう、雫」
「アンタ、私に何もしなかったわよね!?」
すごい勢いで顔を寄せてくる雫に、春夢は奇妙なものを見る顔をした。
「何かって?」
「その……え、エッチなことしなかったかってこと!」
「そんなの、雫が一番よくわかってるだろ」
今更何を言ってるんだといわんばかりの春夢に、雫はツンとした顔を向ける。
「わかるわけないでしょ。私はサキュバスじゃないんだから、夢の中の記憶なんて現実には持ち越せないの! そんなことができるのはアンタの種族だけよ」
「……そうなの? なんか物凄く会話が通じたから、てっきりそういうものなのかとばかり」
そういえばあの雫は自分を“司書”だと名乗っていた。
やはり雫そのものではないらしい。
「その、それで……エッチなことしてないわよね?」
もじもじとしきりに手指を組み替えながら、雫は赤い顔で上目遣いを向けてくる。
ふうむ……。
「してないぞ」
「……ほんと?」
「ホント」
春夢の表情をじっと見つめた雫は、ホッとして安堵の息を吐いた。
「そう、よかったあ。私の記憶に勝手に触れようとしたら身動きを縛る術を掛けていたから、大丈夫だとは思ったけど……。この調子だと何事もなかったようね」
そうですね。エッチなことはありませんでしたね。
体を密着させて頬に何度もキスしたり、子猫になりきって膝枕されて甘えまくったり、背中から抱擁されながらお腹を触らせることをエッチなことと定義しなければだけど。
ついでに歴代ペット写真集や子供の頃のアルバムを自分から見せびらかしてきて、私のこともっと知って!と言わんばかりに詳細に解説してきたけど。
「なんだか起きたらかつてなく満ち足りた気分だし、まさか……とは思ったけど、何もなくて本当に安心したわ」
「そうか。私も楽しかったよ」
「え、楽しかった……? (術式で)朝まで拘束されてたのよね?」
思いもよらない感想に、雫は眉をひそめる。
「ああ、そうだな。(甘えまくるお前に)朝まで拘束されてたよ」
「そうよね……?」
腑に落ちないという顔をする雫に、春夢はにこやかな笑顔を返す。
「でも、すごく居心地がよかったぞ。あれなら毎晩いても飽きないな」
「ふ、ふぅん……。私の
もじもじする雫に、春夢は頷く。
「ああ。暗くてところどころジメッとしてて、窓がひとつもなくて解放感はなかったけど、なんだかすごく落ち着く場所だった」
「私の魂ってそんな場所なの!? というか、それで居心地がよかったの!?」
「自分でどんな場所だかわからないのか?」
「だからわからないんだってば。自分自身が中に入れるわけでもないし。いえ、入る方法はあるんだけど、それは今の私にはできないことだし……」
「ふーん」
暗くてジメジメ……自分では明るくなったつもりなのに……と何やらショックを受けたように呟いている雫に、春夢はカラッとした笑顔を浮かべる。
「まあ、繰り返すけど私はあそこが好きだから気にしなくていいよ」
「そ、そう……ありがと」
雫は真っ赤になって俯きながら、小さく呟いた。
それは自分の魂の在り様が好きだと言われたことに等しい。その意味を知る雫にとっては、人格を最上級に褒められたということになる。春夢はそんなことまるで気づいていないけど。
「でも……無理矢理呪縛されたこと、怒ってない? 私、アンタに何も説明しなかったし、だまし討ちみたいになったけど」
「んー、別にいいよ。不特定多数の女の子に無差別に手を出そうとしたのを止めてくれてるんだろ? 雫が正しいと思ってしたことなら、私はなんだって受け入れるよ」
「~~~~~!! 顔洗ってくる!」
もう我慢の限界!
雫は自分の顔が見えないように両手で覆うと、ぴゅーっと洗面台に走っていってしまった。
このままじゃ嬉しさで顔がニヤケちゃう!
「……? どうしたんだ、あいつ?」
後に残された春夢は、きょとんと小首を傾げる。
そんな2人を、ヤッキーと小丸はため息でもつきそうな感じで見つめているのだった。
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「お、おい……めちゃめちゃ美人の子がいるぞ」
「マジかよ。アイドルが冒険者免許取ってみたって企画か何かか?」
「なんだあの顔面偏差値は……!? 僕のデータにないぞ!」
「うわぁ……髪の毛サラッサラ。お肌もプルプルだし、周囲の空気がキラキラして見える……」
「あの子、昨日寮に入ってきた子だよ。教頭先生が案内してきたって」
「なんか一度出かけて、門限過ぎてから帰ってきたみたいだけど……。入学式前から夜遊び……? 怖い子なのかな……」
「なんか入学式の最中、ぐうぐう寝てたよ……」
入学式も終わり、春夢は教室へと案内された。
生徒たちはひときわ目立つクラスメイトの美貌に、思わずヒソヒソと噂し合っている。
このクラスは全体的に女子の顔面偏差値が高いのだが、その中でも春夢は頭一つ抜けている。
いかにも清楚そうなしとやかなロングヘア。機敏そうで活気に満ちたスレンダーな体つき。優しそうなたれ目がちの瞳。黙っていれば清純さを絵に描いたような美少女なのだ。
雫が前もって「最初のうちは借りてきた猫みたいにおとなしくしておくのよ! 座る姿勢はまっすぐに! 絶対に椅子の上であぐらはかかない!」と演技指導していたので、一見するとどこかの良家の令嬢かと思うほど完璧に擬態している。
ちなみに本人は(このクラス、可愛い子が多いな~)とひそかに感心していた。
何しろグレンが生きていた時代、冒険者なんてのは大体が食い詰めた人間がなるものだった。女は体を売るという手があるから、そのほとんどがむさい男だ。グレンだって、最初は裸一貫で村から逃げて来て、生きていくには体を張るしかなかったから冒険者になったクチだ。
たまに女がいても、それは娼館で買い手がつかないほど器量が悪かったり、男に舐められるのが心底嫌だという跳ねっ返りだったり。
当然そんな女は見栄えに気を遣わないから、髪はボサボサ、肌はカサカサ、ニキビだらけというありさまだったりした。
それが現代では、こんな可愛い女の子ばかりとは。
それもわざわざ冒険者なんていう、自分を命の危険に晒すような貧しい生まれでもないように思える。
リンネアは冒険者は現代では重要エネルギー資源を採取するとても大切な仕事だと言っていたが……。
なんとも、時代は変わったものだ。
そんな感慨に耽っていると……。
「ごきげんよう」
右隣の席に座った女の子が、にこやかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「あ、ああ」
あまり物怖じしない性格の春夢が思わず言葉に詰まったのは、それがなんとも気品の溢れる物腰の少女だったからだ。
歳の頃は春夢と同じくハイティーンになったばかりだろうか。
流れるような緑色の髪を腰まで伸ばし、吸い込まれるような碧眼を備えている。
その背筋はピンと伸び、手には扇を畳んで持っている。その握り方の所作すらも、たおやかで美しく思えた。
そして漂ってくる圧倒的な存在感。カリスマ性というのだろうか、思わず膝をついて讃えたくなるような。
あまりにも眩く、そして見ていると何やら心に爽やかな風が吹いてくる錯覚を覚えるような不思議な清涼感。
そして何より特徴的なのは、頭から生えている2対の角だった。この世のあらゆる動物の角に似ず、複雑な文様を刻まれた神秘的な佇まい。
その角と同じものを、グレンは遠い昔に見たことがあった。
「ドラゴン……」
「はい、
そう言って、少女はにこりと上品に笑う。
お前が貴種じゃなかったらこの世の誰が貴いんだよ。そんな洗練された所作だった。
「貴方は緑龍帝国からいらしたのですか?」
「ああ、そうだ」
「まあ! ではわたくしと同郷ですね」
ぽむっと掌を合わせて、少女はにこにこと笑顔を浮かべる。
「君も帝国人なのか」
「ええ! 異国で同郷の方と知遇を得られるなんて、とても心強いです。ぜひ今度実習にご一緒させてくださいな」
「ああ、そのときはよろしく」
そんな会話をする2人に、周囲からじろじろと視線が注がれている。
ただ、それは春夢に向けられていたような、美貌にどよめくものではない。
「なあ……あれって……」
「殿下だよな?」
「いや、テレビで見たよりもずっと若いぞ。親戚の誰かじゃないか? 昨日世界サミットに出席してたの中継で見たし、別人だよ」
「ドラゴン、初めて見た……」
何か好奇心からの視線が多い気がするな、と春夢は思う。
そんなドラゴンの少女のさらに向かいの席では、何やら小柄な赤毛の少女がちらちらとこちらの様子を伺っている。敵意などは感じない。はらはらとした視線というか、どこか心配そうな気配がするのは気のせいだろうか?
「ん……?」
ふと振り向くと、左隣の席の少女がじとーっとした視線をこちらに向けていた。
こちらもなかなか気品がありそうな……というか、あからさまに貴族っぽい感じ。
だって銀髪の縦ロールだもん。しかもキラキラしたいかにも高そうな髪飾りをつけているし。
その瞳は紅く、肌は青ざめたように白い。
「なんですの? 私に何か御用かしら」
「あ……いや、何でもない」
「ふん」
鼻を鳴らすと、少女はつまらないものを見たといわんばかりに顔を背けた。
その唇から、長い牙が覗いていることを春夢は見逃さなかった。
魔族の中でも極めて高い魔力を持つ上位種だ。他の生物の血を飲むことで、その生物の魔力を奪い、眷属として支配下に置く能力をもっていたはず。
魔族の中では貴族階級にあり、500年前の戦争ではよく将軍を務めているのを目にした。その身に着けている装飾品の高級さからして、魔王軍が歴史の闇に消えた現代でも貴族階級にあることは変わっていないのだろうか。
……なんかまた別の方向から視線を感じると思ったら、雫が離れた席からじっとこっちを見ていた。
何を他の女の子と喋ってデレデレしてんのよ、という感じの眼差しだ。
うーん……愛が重い子ねー……。
とはいえこの学校でやっていく以上、2人だけではパーティを組めない。他の子ともうまくやっていかなきゃいけないし、それは雫もよくわかっていることだろう。
そんなことを考えていると、教室の扉が開いて一人の女性が入ってきた。
修道服に身を包んだ、二十代後半くらいの金髪の美人だ。
耳はエルフのように尖っており、そしてめちゃめちゃおっぱいが大きい。
なんでこんなところにシスターが……?
いや、これ本当にシスターか?
なんかスカートは大きくスリットが入ってるし、ガーターベルト付きのストッキング履いてない? 太もも超ぶっといんだけど。
こんなエロい格好のシスターいる? 本当にこの世界の人? デカパイの国から来たドスケベ伝道師とかじゃないの?
混乱する生徒たちの視線を受けて、シスターはにこやかに一礼する。
「みなさん、初めまして。私はカーミラ、みなさんが卒業するまでこのクラスの担任を務めます。ああ、この服装は気にしないでください。街の教会で修道女を兼業しているだけですので。どうぞ皆さんは、シスター・カーミラと気軽に呼んでくださいね」
そう言って、ヴァンパイアのシスター兼教師というド濃厚なキャラ立ちの女性は、にっこりと微笑みながら黒の神に祈る仕草をしてみせた。
「ようこそ、ブルースクワッド冒険者学園へ。私たちはみなさんを歓迎します。どうかこの学園で学ぶすべてが、将来の皆さんを形作る一助にならんことを」