野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~ 作:風見ひなた(TS団大首領)
「今日はこの後、オリエンテーションとしてダンジョンに潜ってもらいます。ダンジョン実習が楽しみでこの学校に入学した人も多いでしょうからね」
シスター・カーミラの言葉に、うんうんと何人かの生徒が頷いている。
どいつも待ってましたという自信たっぷりの顔つきで、よほど地元では鳴らした猛者ばかりとみえた。
そんな殻のついたひよっこたちに、カーミラはにやりと笑う。
「ですが、このブルースクワッドのダンジョン実習で潜ってもらうのは七大霊地です。みなさんが思っているほど、簡単にはいきませんよ」
「七大霊地!?」
すっとんきょうな声を上げる春夢に、生徒たちが何を驚いてるんだろうと怪訝そうな顔を向ける。入学前のパンフレットにも書いてあったことだし、そもそもこの学校ならプロになる前にも七大霊地に挑戦できるというのは有名なことなのだ。
七大霊地とは、大陸屈指と称される7つの巨大ダンジョンのことだ。
ダンジョンといっても、必ずしも構造物とは限らない。平原や山麗といった自然の地形であろうとも、そこに多くの死者の想念が集まっていれば、そこは複雑な地形の迷宮と化し、モンスターが湧き出てくる。
七大霊地はその極地にあたるもので、大陸を走る
そしてグレンが持つ500年前の常識では、そこは前人未到の禁足地だった。
凄まじい力を持つモンスターたちがひしめく、あまりにも危険すぎる魔境として知られており、
そこに立ち入る? こんな年端もいかない子供たちがピクニック気分で?
……にわかには信じがたかった。500年という時間がもたらした技術の向上は、それほどまでにすさまじいものだというのか。
そんな春夢を見て、カーミラはにっこりと頷く。
「おっ、いいリアクションですねー。そうそう、七大霊地は非常に危険なダンジョンです。いかに皆さんが大陸中から集められた俊英の卵であり、科学技術の結晶たる魔術鍛造武器やバリアドレスがあるからといっても、舐めてかかってはいけませんよ」
その言葉に、2人の男子生徒がフフンと得意げに鼻を鳴らす。
……なんかやな感じを受ける連中だな、と春夢はぼんやりと思った。
「もっとも、今日潜ってもらうのは“黄金平原”です。七大霊地の中でも一番危険度は低いと言われていますし、教師陣や先輩たちが前もって危険すぎるモンスターは駆除していますから、大した危険はありませんよ。今日のところはあくまでお試しというところです。ただ、あまり気を抜きすぎて怪我はしないように」
カーミラは笑顔でそんなことを言うが、春夢は気が気ではない。その黄金平原も、グレンの時代には“世界でもっとも美しい死に場所”と呼ばれていたのだ。
七大霊地のうち唯一立ち入る価値がある場所でもあったため、グレンも何度か護衛として雇われて足を踏み入れたが……。
そんな場所でオリエンテーションか。とんでもない時代だな。
だが、同時にワクワクもしている自分がいるのも事実だ。
500年前では到底太刀打ちできなかったダンジョンを冒険できる。そこにはどんな景色が広がっているのだろうか。ロマンを求める冒険者の本能が燃え立っている。
「さて、ではオリエンテーションの前に皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。誰とパーティを組むかの参考にしてくださいね」
ふむ。パーティを組むのに人となりを知るのは大事だな。
春夢はぐるりと教室を見渡してみた。
それにしても魔族が多い教室だ。50人ほどのクラスの2/3ほどが黒の種族で占められており、残りはヒューム、エルフ、ドワーフなど白と緑の雑多な種族で成り立っている。
まあ魔族の国の学校なのだから、魔族が多いのは当然か。
そこはサキュバスの自分が言えた口でもないな。
一口に魔族といってもその種族は多岐に渡る。白の種族はヒュームしかいないが、黒の種族は非常に種類が多いのだ。多様性にかけては黒の種族に勝るものはない。
たとえば隣の席の吸血令嬢のように。
「わたくしはベルレッテ・H・ローテと申します。ローテ伯爵家の現当主を務めさせていただいておりますわ。種族は見てのとおりのヴァンパイア。魔術の扱いを得意としておりますが、肉弾戦もできます。みなさん、困ったことがありましたら何でもわたくしに相談してくださいませ。もちろん、私の下に馳せ参じたいという方も大歓迎ですわ。ローテ伯爵家の名にかけて、面倒を見て差し上げますわよ。おーっほっほっほ!」
口元に手の甲を当てて機嫌良さそうに高笑いするベルレッテを見て、春夢はごくりと唾を飲んだ。
すごいな。
こんなにもテンプレなお嬢様、前世を合わせても初めて見た……!
いかにも傲慢そうな表情や吸血種という種族も合わさって、ザ・悪役令嬢といった感じ。でも身長は150センチほどしかないので、なんだか子供が悪役の真似をしているみたいで可愛らしくも見える。
言動もよく聞けばなんだか親切だし、意外と悪い子でもないのかな。
「ベルレッテお嬢様の従者を務めております、ルイネと申します。種族は
ベルレッテちゃんの後ろの席の半透明の女の子が、ぺこりと頭を一礼する。
制服を着てはいるが、ショートカットにした頭にホワイトブリムをつけて自分はメイドですと主張していた。ものすごく素っ気ない口調なのに、やたら個性が強い! 影が薄いのか薄くないのかわからないぞこいつ!
「ちょっとルイネ! 一応ってなんですの、一応って! もっとわたくしの従者らしく、頼もしいところを見せなさい!」
「私がお嬢様よりキャラ立ちして目立つわけにもいきませんので……」
「わたくしがいかにも没個性のテンプレお嬢様みたいなこと言わないでくれません!?」
ひそひそ声で会話する主従だが、その声は明らかに周囲に聞こえており、くすっと笑い声が上がっている。
「はいはい、コントはいいですから。50人もいるんですから、ちゃっちゃと回してくださいねー」
カーミラの声に促されて、次々と自己紹介は進行していく。
春夢はそんな生徒たちの顔を見て、脳内に次々とインプットしていった。命を預けるかもしれない奴らだし、ちゃんと顔を覚えておかなきゃな。
前世で勇者パーティにいたときも、グレンは友軍の顔はできるだけ覚えるようにしていた。もっとも、その大半はその戦場で死んだ。それでも数人はその後の戦場でも馴染みになったのだから、無駄ではなかった。最後はみんないなくなったが、グレンの記憶の中にまだ生きている。
この子たちはそうではないだろう。この子たちを死なせないことが、あの戦いを生き残ってしまった自分のつとめなのかもしれないな……と春夢は思う。――背負いすぎだよ。
……おっと、そんなことを考えてる間に自分の番か。
春夢が立ち上がると、おお……と男子の間から声が上がる。
はて、自分は何かしただろうか? とびっきりの美少女がどんな子なのか、みんな気になってるんだよ。
「茜川春夢です。サキュバスです。えー、ここに来る途中で記憶喪失になったので自分のことが何もわかりません。なんかおかしなこと言うかもしれませんが、気にしないでください」
「!?」
「多分剣が得意です。詳しいことは幼馴染の雫に訊いてください。以上です」
周囲が絶句するなか、春夢はとっとと席に座ってすまし顔を作った。
「記憶喪失……!?」
「おいおいおい、そんな奴がダンジョンに潜って大丈夫なのか!?」
「あんな可愛い顔してるのに可哀想に……」
「意外とクール系!」
「手取り足取り教えてやりてえ……グヘヘ」
周囲がてんで勝手なことを噂しているのを、けろりとした顔で聞き流す。
そういうのは前世から得意なのだった。
打ち合わせ通りとはいえ、雫がちょっと離れた席で苦笑を浮かべているのが見える。
「まあ、ユニークな方なのですね」
隣の席のドラゴンっ子がクスクスと笑顔を浮かべているのに、目礼して返す。
さて、他に気になる子はいるかな……。
そう思いながら見ていると、金髪の少女が立ち上がった。かなりの高身長で、背中まで伸ばした金髪を無造作にポニーテールにしている。顔立ちは整っているが、なんだか少しぶっきらぼうな印象を受けた。ちょっと不良っぽい。
頭には山羊のような巻き角が生えており、魔族であることを示していた。あとおっぱいが大きい。
「ティコだ。ここには金を稼げるようになりにきた。金持ちのボンボンと慣れ合うつもりはない。以上だ」
……ティコ?
とても懐かしい響きを聞いて、春夢は少女の顔をじっと見つめた。
それはグレンの死別した妹の名前だった。
いや、似ても似つかないな。あの子はあんなきれいな金髪ではなかったし、大人になれていたとしてもここまで美人には成長しなかっただろう。同じ名前の人間なんてどこにでもいるか。
そもそも、この子は魔族だ。あの子は人間だったし、種族そのものが違う。
しかし……なんだ? どうしてあの顔から目を離せないんだ?
まじまじとその顔を見つめる春夢の視線に気づくと、ティコはチッと舌うちした。
「……なんだ? 何ガンくれてんだオメー」
「あ、いや……何でもない」
2人が険悪な雰囲気になりかけたところで、こほん、とカーミラが咳払いする。
「ティコさん、名字を名乗っていませんよ? あと、得意なクラスは何ですか?」
「……」
ティコは顔をしかめると、渋々と口を開く。
「ティコ・カーミラ。シスター・カーミラの養女だ。得意クラスはタンク。だが、お前らを守るつもりはねえ。アタッカーだと思ってろ」
ティコの言葉に、クラスはざわっとどよめく。
カーミラ先生、子持ち!? うそだろエロさが2倍……いや、5倍になったぞ! ママァ……!
異常な反応を示す男子生徒たちに、ティコは露骨に引いた表情を浮かべた。
「なんなんだ、こいつら……!?」
ヤンキー少女よりもドスケベシスターの方が気になるお年頃なんだね、仕方ないね。
どよどよと沸き立つ空気の中、海賊帽を被った小柄な
「ええと……あたし名乗ってもいいか? ヘルベティカ・ボルドーだ。ティコの相棒をやってる、こいつのことでなんか困ったらあたしに言ってくれ」
「なんだ? 私が悪さをするみたいに言うんじゃねえよ」
「お前のせいで早くもあたしの学園デビューが潰されてるんだが!? 本当はあの海賊女王の末裔だとか、海賊女王にあたしはなる! とか、インパクト抜群の挨拶を考えて来てたのに無駄になったじゃんか! 許せぬー!」
むきーと相棒に食って掛かる、オーガらしからぬ小柄な少女にクラスの女の子たちがほのぼのとした視線を向けた。
うん、愛らしい。
でもヘルベティカは覚えづらいな……よし、これから心の中でイカちゃんと呼ぶことにしよう。なんか海賊女王とやらの子孫らしいし、海つながりでこれでいいでしょ。
ちなみにクラスはスカウトらしい。小柄で俊敏そうだし、ティコと合わせていずれ組んでみたいな。
その後も自己紹介は続いていき、やがて隣の席のドラゴン少女の番が来た。
「緑龍帝国から参りました、
少女の言葉に、これまでのざわつきを遥かに超えたレベルでクラス中がどよめく。
「おい、斎姫って言ったぞ!?」
「やっぱ緑帝の皇太子殿下じゃねーか!」
「事実上の皇帝陛下がなんでこんなところに!?」
そんなクラスメイトたちに、斎姫はにっこりと微笑みを浮かべる。
「皇太子殿下と同じ名前だなんて、珍しいこともあるものですよね。もちろん他人の空似です。わたくしは平凡なサラリーマンの両親の中流家庭に生まれた、どこにでもいるドラゴンです。いいですね?」
お、おう……。
クラスメイトたちは有無を言わさない圧に黙りこくった。
ひどいごり押しを見た。
「なんかすごいクラスに編入されちまったな……」
「ああ。激カワサキュバスやローテ家のお嬢様も驚いたけど」
「隣国の皇太子は反則級の爆弾だろ……」
ひそひそと囁き合うクラスメイトの言葉を聞きながら、ベルレッテはこめかみをヒクつかせて斎姫のすまし顔を睨みつけている。
その険しい視線の間にさらされながら、春夢はうーむと唸った。
ものすごくライバル視してんな、これ。そんなにクラスの女王様になりたかったのだろうか? まあ人が集まったら権力争いが起こるものだし、ここにいる生徒たちは選りすぐりの精鋭らしいから、余計に誰がトップなのかには敏感なのかもしれない。
そして、事件は起こった。
斎姫の隣の席の小柄な少女が立ち上がる。赤毛の髪を小さくお団子にまとめた、可愛らしい印象の女の子だ。まだあどけないと言っていい顔立ちで、ローティーンのようにも見える。種族はヒュームだろう。グレンにとってはごく見慣れた同胞だ。
「ボク、ミーシャ・カーリアンです! 斎姫ちゃんの相棒です! クラスはファイターですけど、スカウトや魔術も勉強してきました! アタッカーには自信があります、よろしくお願いします!」
ほほう。かなり小柄なようだが、自分で言うだけあって相当に俊敏そうに見える。
グレンの時代ではあまりあれこれと複数の技術に手を出すと中途半端になるからよくないと言われていたものだが……今はマルチにいろいろできるのが流行りなのだろうか?
そんなことを思いながら春夢が見守る中で、ミーシャは得意そうに胸を反らした。
「ボクは勇者の末裔なんです! ご先祖様みたいな偉大な勇者として歴史に名を残せる冒険者になりたい、というのが目標です!」
へえー、勇者の末裔?
春夢は驚きと共にミーシャの顔を見つめた。一体誰の子孫なんだろうか。あいつか? こいつか? 100人の勇者の顔を次々と思い浮かべながら、共通点を探す。
いや、まあ500年後の子孫ともなればだいぶ血も薄まっているだろうけど。
それにしても勇者の子孫か。勇者はみんな犬死にだとばかり思っていたけど、その志を受け継いでくれる人間がいるなんて。なんだか面映ゆいという感情と、自分たちの人生は無駄ではなかったのだという報われた思いが心を満たす。
だが、そのように思ったのは春夢だけだった。
「……あ?」
ザワッ、と教室の空気が変わる。
それも明らかに良くない方向に。
だが、ミーシャはそれに気づいていない。多くの人の前で話してあがっているのか、瞳をキラキラさせながら言葉を続けている。
「ボクのご先祖様は、魔王と直接戦った勇者なんです! ボクも先祖の名に恥じないよう、頑張りたいと思います!」
「……ふざけるなよ、貴様」
ガタン、と春夢の隣の席の椅子が蹴立てられる。
そこに立っているのは、おぞましいほどの魔力を駄々洩れにしたヴァンパイア。
先ほどの愛嬌のある仕草の欠片も見えない形相で、彼女はミーシャを睨みつけていた。
その血の色をした瞳に、ようやくミーシャが振り返り、びくんと体を震わせた。
「勇者だと? 戦争犯罪人の子孫が、よくものこのこと私たちの国に顔を出せたな!!」