野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第24話「茜川春夢、大げんかを仲裁する」

「勇者だと? 戦争犯罪人の子孫が、よくものこのこと私たちの国に顔を出せたな!!」

 

 ベルレッテの殺意の籠った視線に、ミーシャは戸惑いを浮かべた。

 見ればベルレッテだけではなく、クラスの半数を占める魔族たちはいずれも憤慨や敵意の籠った目を向けてきている。

 ヒュームの生徒たちは唇を引き攣らせながらで、我関せずとばかりに顔を背けていた。

 

「戦争犯罪人だなんて……。私のご先祖様はそんな悪い人たちじゃないよ。魔王を倒して戦争を終わらせるために白の女神様の元に集って、聖戦を……」

 

「何が聖戦だ! 侵略だろうが、それは! お前らは大義名分のためにどれだけの魔族を殺した!? 罪もない女子供をどれだけ殺害した!?」

 

 ベルレッテの言葉に、ミーシャはおろおろと困惑しているようだ。

 

「でもそれはそっちもじゃない。魔族だって人間の国に攻め入ったし、罪のない人を殺したよね。戦争に勝ったからって、そちらのしたことが全部正しいことにはならないんじゃ」

 

 ミーシャの指摘に、ベルレッテはわずかに語気を弱めた。

 

「……確かにそうでしょう。ですが! 貴方は先祖の勇者のようになりたいと言った! この国において、勇者とは無慈悲な殺戮者のことを指すのです! 貴方はわたくしを殺すのですか? このクラスの半数を占める魔族を、この学校の外にいる無辜の一般人を無差別に殺害して回りたいというのですか?」

 

「ちがっ……ボク、そんなつもりじゃ」

 

 ミーシャは慌てて弁解しようとするが、ベルレッテは畳みかけるように指を突き付ける。

 

「貴方がそういうつもりがなくても、この国で勇者を名乗るとはそういうことなのですわ! 貴方にとっては500年前の戦争など、10世代以上も昔のことに過ぎないのでしょう。ですが、私たち魔族の寿命は長い。祖父母を勇者に殺された者もまだ生きている! そうした者たちの恨みは、消えてはいないのですわ!」

 

 そばで聞いていた春夢は、衝撃に目を見開いた。

 とっくの昔に、自分たちの戦いは終わったと思っていた。すべては忘却の彼方に消え去り、すべての種族が許し合える理想の時代が訪れたと思っていた。

 それがまだ終わってない? 500年も昔の怨恨が、今も燻っているというのか?

 

 ベルレッテは斎姫にジロリと視線を向けると、腕を組んで不愉快そうに口を開いた。

 

「斎姫殿下、貴方は従者にどういう躾をしているのです? こんな無分別な者を連れてくるなど、正気を疑いますわ。ご自分の、ひいては帝室の格が下がると思いませんの?」

 

「ここにいるわたくしは殿下ではありませんし、ミーシャは従者ではなくお友達ですよ。一般家庭出身のわたくしに従者なんていたらおかしいでしょう?」

 

 おっとりとした口調でとぼけたことを口にする斎姫に、ベルレッテはギリッと奥歯を噛みしめた。

 

「……では斎姫()()。わたくしは貴方のお友達に、大変に不愉快な思いをさせられました。貴方のお友達のような危険思想を持つ人物と一緒に勉学などできようはずもありませんわ!」

 

「そうですか。友人が不愉快な思いをさせてしまったことをお詫びします」

 

「詫びでは足りませんわ! ミーシャさんにはこのクラスから出て行ってもらいます! もちろん、相棒である斎姫さんにもです!」

 

 ベルレッテの言葉に、さすがに彼女に追従して怒りを覚えていた魔族たちもどよめく。

 斎姫は困ったように眉根を寄せると、扇を広げて口元を隠す。

 緑色に輝く鉱石繊維で刺繍された、龍の意匠が目を惹いた。

 

「それはおかしいです、ベルレッテさん。貴方は伯爵家の当主かもしれませんが、この学校においては一生徒に過ぎないはず。貴方個人の好悪でクラスの編成に口を出す権利はありませんよ」

 

「わたくしはこのクラスの半数の魔族を代表して発言しているのですわ! ねえ、みなさん。もちろん貴方がたはわたくしを支持しますわよね?」

 

 ベルレッテは笑顔だが、瞳はまるで笑っていない。血の色をした瞳を向けられた魔族たちは、ブルリと身を震わせながら俯いた。

 かつての魔王国から共和制へと転身したこのシュバルツシュタット共和国は、現代においても貴族制社会を維持している。この学校に入学する生徒は富裕な家庭の出身者が多いが、だからこそ階級に敏感でもあった。

 

 特に伯爵家当主であるベルレッテは、この国の最高権力機関である評議会の一員でもある。民主主義国でいえば、現役の国会議員にあたるのだ。たかが一生徒が逆らえば、実家がどうなるかわかったものではない。

 

 無言という消極的な手段でベルレッテを支持することを選んだ魔族たちの中で、ただひとりティコだけは「くだらねえ」と言わんばかりの顔で机に頬杖をつき、醒めた目でこの騒動を見つめている。しかし、勇者を名乗るミーシャに肩入れするつもりもないようだ。

 ちなみにイカちゃんはあわあわと険悪な雰囲気にうろたえている。一応オーガも魔族なのだが、この子はこの国の出身ではないのでベルレッテの権力にまるでピンと来ていない。

 

 ミーシャの顔色はもう真っ青で、自分のしでかしたことにガタガタと震えていた。

 そんな小動物のような少女を前に、ベルレッテは嗜虐的な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「さあ、クラスの半数の総意です! このクラスから出て行ってもらいますわ! それが嫌なら主従揃って土下座を……」

 

「いや、総意じゃないぞ。私が賛成してない」

 

 不意に立ち上がった生徒に出鼻を挫かれ、ベルレッテはんぎっと変な声を上げた。

 

「な、なんですの!? ええと……」

 

「茜川春夢な。さっき自己紹介しただろ、覚えててくれ」

 

「ええ、春夢さん。なんですの? わたくしは斎姫さんと話をしてるんですのよ」

 

 のほほんとしたトーンの春夢の言葉に、ベルレッテは不審そうな目を向ける。

 お呼びじゃないから黙ってろと言わんばかりの目つきだった。

 そんな空気を一切読まず、春夢は小首を傾げる。

 

「でもさっき魔族の総意って言っただろ? 私はちょっと気になることがあって、まだ納得してない。総意だって言うのなら、私の疑問に答えてくれないかな」

 

「はぁ……なんですの? 手短にお願いしますわ」

 

 うんざりした顔を浮かべながら縦ロールを手櫛でなびかせるベルレッテに、春夢は口を開いた。

 

「うん。勇者は戦争犯罪人だってさっき言ったよな。で、勇者は危険人物だから一緒に勉強もできないと」

 

「ええ、そうです。貴方たちサキュバスも勇者にどれだけ殺されたことか。その恨みは一族に伝わっていると思いますが?」

 

「じゃあ教頭のリンネアも勇者の一員だったんだから、同じ学校には通えないよな」

 

「んぐっ……」

 

 春夢の指摘に、ベルレッテは口元をもにょらせて変な鳴き声を上げた。

 そんなベルレッテに、春夢は淡々と畳みかけていく。

 

「勇者の子孫とは一緒に勉強できないっていうなら、勇者本人だったリンネアはなおさらだろ。君がリンネア教頭を糾弾しないのはどうしてだ? ミーシャをクラスから追放する前に、今すぐ職員室に駆け込んで教頭を解雇しろと訴えるべきだよな。……どうした? 何故そうしない?」

 

「そ、それは……」

 

 ベルレッテは思ってもいないところからの攻撃に怯み、言い淀んだ。

 勝手に引き合いに出されたリンネアもいい面の皮だよね。まあ、本人が聞いたら怒るよりも苦笑しそうだけど。

 

 しかしベルレッテも簡単には引き下がらない。いや、引き下がれないというべきか。

 

「それは……教頭先生は英雄ですもの! 確かに戦争犯罪の当事者ではありますが、魔王様亡き後はいくつもの業績を打ち立て、伝説的な冒険者になったのです! そのような功績を持つ方を、一概に戦争犯罪人として罪に問うことはできませんわ!」

 

「ふーん。つまり勇者本人であっても、強ければ許されるってことか?」

 

「そ、そういうことを言っているのでは……」

 

「じゃあどういうことだ? 悪いが私は記憶喪失で、世間の事情がよくわからないんだ。私にもわかるように簡単に言ってくれ。勇者でも偉大な功績を上げて人類社会の役に立つのなら許す。そういうことでいいんだよな?」

 

「……ええ、そういうことです」

 

 迫られたベルレッテは、渋々とその言葉に頷く。

 魔族にとっての正論を盾にミーシャの追放を迫った手前、正論をふりかざして対抗してきた春夢の言葉を否定できなかったのだ。

 

 ベルレッテの言質を取った春夢は、満面の笑みを浮かべてぽんっと手のひらを打ち合わせた。

 

「よし、じゃあ話は決まったな。これからミーシャにはオリエンテーションでその腕前を披露してもらおう! それで充分強さを示せたら、さっきの失言は許すということでいいな!」

 

「は!?」

 

「え!?」

 

 唐突な春夢の提案にベルレッテは目を剥き、ミーシャが寝耳に水とばかりに慌てる。

 

「ちょ、ちょっと何を言ってるんですの? リンネア先生は偉大な功績を上げたから許される、という話をしたんですのよ! まだ何もしていないミーシャさんをどうして許さなくてはなりませんの!?」

 

「うん。でも冒険者ってのは、エネルギー資源を採取して人類社会に貢献する仕事なんだろ? それは偉大な功績と言えるんじゃないか? そうだと思ったから、君はこの学校に入学したんだろ?」

 

「そ、それは……そうですが……」

 

「だよな? だからオリエンテーションから優秀な実力を示したミーシャを、君は許さなくてはならないということになる」

 

 ぐぎぎと呻くベルレッテに背を向け、春夢はミーシャに視線を送る。

 

「で、ミーシャはやれるんだよな? 勇者の末裔を名乗るくらいなんだ、それなりに腕に覚えはあるだろ。先祖の名に恥じない活躍を見せてくれるよな?」

 

「も、もちろんだよ! ボク、頑張る!」

 

 ぐっと拳を握って意気込むミーシャに、春夢は満足そうに頷く。

 そしてベルレッテに向き直ると、ドヤッとほくそ笑んでみせた。

 

「ということでいいよな、ベルレッテ?」

 

「……いいでしょう。貴方がどうしてそんな怨敵の肩を持つのかはわかりませんが、その挑戦を受けて差し上げますわ」

 

 ベルレッテはぴきぴきとこめかみをヒクつかせながら、悪役令嬢にふさわしい笑みを浮かべた。

 

「わたくしのパーティと、斎姫さんのパーティでどちらの戦果が多いか勝負ですわ! 斎姫さんのパーティが負けたら、わたくしの要望通りクラスから出て行ってもらいます! そういうことでよろしいですわね!?」

 

「え、なんで?」

 

 きょとんとした顔を浮かべる春夢に、ベルレッテはむきーー!と髪の毛を掻き乱した。

 

「今、そういう流れでしたわよね!? 勝負で白黒つけるんじゃありませんの!?」

 

「違う。ミーシャの実力を確かめるという話なのに、なんで見えない場所に行こうとするんだ? ちゃんと自分の目で見て確かめなきゃダメだろ……同じパーティで」

 

「「え!?」」

 

 ベルレッテとミーシャが、同時にすっとんきょうな声を上げた。

 

「貴方、頭は確か!? どうして不倶戴天の敵に背中を預けないといけないんですの!?」

 

「こ、この子と同じパーティを組むのは……さすがに……」

 

 そんな2人に、春夢は小さなため息をつきながらやれやれと頭を振った。

 

「だからさっき言っただろ。違うパーティで狩りをしたところで、お互い納得できるのか? できないだろ。どうせ他のパーティを買収して戦果を譲ってもらったんじゃないかとか、そういうことを言い出すんだ。違うか?」

 

「そ、そんなことはありませんわ……」

 

「そうだよ……うん」

 

 口では否定しながらも、どこか目を泳がせる2人。語るに落ちていた。

 

「ほらみろ。なら同じパーティで実力を確かめるのが一番いい。そういうことだ」

 

「むぐぐ……」

 

 春夢のペースに持ち込まれ、悔しそうに歯噛みするベルレッテ。そんな彼女とパーティを組む流れに組み込まれた斎姫は、ベルレッテとは対照的にニコニコと笑顔を浮かべていた。何やら機嫌良さそうにも見える。

 

「素敵な提案ですね、わたくしは異存ありませんよ。それで、提案してくださった春夢さんも当然わたくしたちに同行してくださるんですよね?」

 

「ああ、もちろんだ。見届け人として、私と雫も行く。斎姫・ミーシャ組とベルレッテ・ルイネ組、そして私と雫の組の6人でパーティを組もう」

 

「わかりました! よろしくお願いしますね」

 

 ぽんっと手を打ち合わせて斎姫はニコニコと微笑み、ベルレッテは歯噛みする。

 

 一方、勝手に話をまとめた春夢に、雫は小さなため息を吐いていた。

 その近くの席では、ふうん……と小さな声を上げてティコがじっと様子を見ている。

 

 そして、教壇ではカーミラが苦笑を浮かべながらやり取りを見つめていた。

 

「まだホームルーム中なんですけどねえ……」

 

 そう呟きながらカーミラはタブレットに指を滑らせ、生徒たちの名前の横にメモを残していた。彼らのパーソナリティ情報が次々と更新されていく。

 

 担当する生徒たちの揉め事を、カーミラは仲裁するでもなく静かに見守っていた。

 普通の学校ならば教師が間に入って止めるところだろうが、冒険者学校ではそうはしない。

 もしも冒険中に揉め事が起こったとき、彼らは自分の手で解決しなくてはならない。できないなら、最終的に血が流れることになるだろう。調整能力は冒険者にとって非常に重要なスキルなのだ。訓練は既に始まっている。

 

 もちろん本当にのっぴきならない事態になるようならカーミラ自らの手で収めるつもりでいたが、幸いにも生徒たち自身の手で解決の道にたどり着けたようだ。

 まったく、初日からこの手が血に染まることがなくてよかった。

 

 そう思いながら、カーミラはメモを更新していく。

 

 ベルレッテ・H・ローテ……極端な権力志向。リーダーシップあり。策謀家。

 ミーシャ・カーリアン……“白”の影響下にあり、要観察。

 茜川春夢……調整力◎。注目株。

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