野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第25話「茜川春夢、購買部で物資調達する」

 ブルースクワッド冒険者学園では七大霊地の踏破をカリキュラムに盛り込んでいる。

 世界に点在する7つの巨大ダンジョンのすべてを攻略すれば、晴れて卒業要件を満たしてプロの冒険者としてデビューできるというわけだ。

 

 しかし飛行機や鉄道などといった尋常な方法で移動していたのでは、とてもではないが時間がかかりすぎる。何しろ最初のダンジョンである黄金平原ですら、冒険者学園からは空路なら10時間、鉄道では3日はかかる距離にあるのだ。

 

 そこで役に立つのがワープゲートだ。

 学園と七大霊地を接続しているこのゲートを潜れば、一瞬で世界各地のダンジョンへと移動できる。

 こんなものがあれば劇的な流通革命が起きそうだが、そうそうどこにでもあるものではない。

 時空を司る青の神が特別に恩寵を与えたものと伝わっており、世界でもこの学園にしか存在が確認されていないのだ。

 技術神でもある青の神の、新エネルギー資源への期待が感じられる事物と言える。

 

 

 さて、そのワープゲートまでは各自集合ということになっている。

 春夢はそそくさとまだ険悪な雰囲気に包まれている教室を出ると、いち早く購買部へと向かった。

 

 魔術鍛造武器を持っていない新入生は購買部で好きな武器を借りられるという話だからだ。

 無料で強い武器を貸してもらえるなんて、なんてありがたい話だろう。これは間違いなく混雑するだろうから、誰よりも先にたどり着いて一番いい武器をゲットしようという肚である。

 

「すみません、武器ください!」

 

 春夢がカウンターのひとつに向かって呼びかけると、椅子に座っていた店員のお姉さんがぴくりと狐耳を動かした。

 

 その珍しい立ち姿に、春夢は目を丸くする。

 年齢はまだ10代後半ほど。白糸で椿を象った刺繍をされた赤い着物の上に、エプロンを着用するという不思議なファッション。

 ピンク色のロングヘアの頭頂部には狐の耳がついており、春夢の方を向いてぴくぴくと跳ねていた。

 

 獣人だ。さまざまな種族がひしめく大陸においても、非常に特殊な種族だと言われている。

 何が特殊かというと、神の恩寵を持たない点だ。

 

 この世界のすべての種族は白黒緑青、四色で称される四大神のいずれかによって被造されたといわれている。ヒュームは白の女神、魔族は黒の魔神、エルフやドワーフ、ドラゴンは緑の龍神。みな神の眷属であり、神の庇護を受ける対象なのだ。

 

 しかし獣人はいずれの神によっても被造されたと伝わっておらず、それゆえに地から自然に湧き出た卑しい種族と言われていた。グレンの時代では、奴隷となるために生まれてきたとまで言われ、ヒュームから厳しい雑役を課されていたのだ。

 

「ええと……」

 

 春夢は獣人の店員を前に口ごもった。

 

 グレンは、前世において獣人にことさら親切にしたことはない。

 もちろん獣人がいわれなき迫害を受けている状況に思うところはあったが、獣人に親切にしたということを目撃された時点で糾弾されるというのが、当時の常識だった。

 そして何より、社会にまったく余裕がなかった。魔族との過酷な戦争の中で、子供を労働力として駆り出し、ときには少年兵として囮にして、使い潰しさえする。そんな状況にあって、獣人の奴隷扱いをやめろなんて口にすることなどできなかったのだ。

 

 そんな前世で見捨てざるを得なかった種族を目の当たりにして、罪悪感を感じざるを得なかったのだ。

 

「なんやぁ? 武器を借りに来る新入生なんて珍しいやないの」

 

 店員はおっとりとした口調の、獣人族独特の訛りで話しかけてくる。

 

「あ、ああ……。ここで武器を借りられると聞いてきたんだが」

 

「そやで。好きなもん選んでかまへん」

 

「一番いい武器を頼む」

 

 キリッとした顔で言い放つ春夢に、店員は着物の袖を口元に持っていきながらコロコロと笑う。

 

「ウチに置いてあるもんはどれもええ武器やで。大陸中の一流メーカーが、ウチんところの武器をここに置かせてくれって持ってくるもんやから、在庫もぎょうさんあんねん。ま、新入生に貸せる武器はどれも最低限の出力のエントリーモデルやけどな。とりま、得意な武器を持つんが一番ええと思うで」

 

「そうか……」

 

 狐耳の店員は、じろじろと上から下まで春夢の立ち姿を眺め、切れ長の瞳をさらに細めた。

 

「そやなあ。あんさんなら刀はどないやろ?」

 

「刀……?」

 

 春夢が首を傾げていると、店員はカウンターの端末に何やら打ち込んで、ターンッ!とキーを叩いた。

 すると店員の背後に積まれたコンテナのひとつにロボットのアームが伸ばされ、やがて音もなくカウンターの上に品物が置かれる。ハイテク!

 

 店員は刀の鞘を滑らせると、ギラリと輝く白刃を春夢に見せつける。その輝きに、ごくりと春夢の喉が鳴った。

 

「そや。帝国ではお馴染みやろ? ほどほどの重さで、切れ味が鋭い。貸せるもんは強化セラミックやけども、魔術鍛造もばっちりかかっとる。数打ちにしてはなかなかの品やで」

 

 美しい。そう思った。

 武器にしてはあまりにも楚々とした佇まい。それでありながら、触れるものを斬り裂くであろう凶悪な輝きを秘めている。

 こんなに美しい剣がこの世にあるとは……。

 思わず手を伸ばしかけながら、春夢は「いや」と首を横に振った。

 

「刀という武器を扱ったことがないんだ。慣れていない武器をいきなり実戦に持ち込むのは命取りになる。慣らしてからじゃないと」

 

「そうなん? 見誤ったかな。ウチ、結構目利きには自信あるんやけど……」

 

「武器の?」

 

 確かにかなりの業物に見えた。あれが数打ちとはとても信じられない。

 あるいは、この時代では数打ちですらかつての名物に匹敵するというのか。

 そんなことを考えている春夢に、店員はクスクスと笑顔を浮かべた。

 

「客の、や。あんさん、かなりやれるやろ。やっとう(剣術)に慣れとる顔しとるで」

 

「……そうだな。剣には慣れてる」

 

 そう応えながら、懐かしいやり取りだ、と思った。

 前世での愛剣を()ってもらったドワーフの職人が、グレンの顔を見て同じことを言った。そしてのっそりと身を起こすと、どんな剣が欲しいのかとっとと教えろと口にしたのだ。

 あの偏屈な親父は、どうなっただろうか。気に入った客の依頼しか受けないことで知られる、まったく気難しくて無口な、神の腕と呼ばれた剣匠だった。

 

 まだ年端もいかないであろうに、彼と同じ目を持つ獣人の少女は、せやろなーと得意げに笑う。

 

「ほんなら、サーベルはどないや? こいつも切り裂く系の片刃剣やけど、軽くて使いやすいで」

 

 そう言いながら、店員は別のコンテナを持ち出すと、中身を春夢に見せつける。

 大きく湾曲した造形が特徴的な、半曲刀状の細身の剣だった。

 

「ほら、ここんところ裏刃がついててな。手首をこう返したら、先端で抉るみたいな斬り方もできるの。テクニカルやけど、なかなかええんちゃう?」

 

「なるほど……」

 

 正直言ってグレンにとっては、大剣で力任せに叩き割るような戦い方が一番性に合っている。

 だが、茜川春夢の肉体にとってはそうではないだろう。おそらく前世の愛剣は、持ち上げることすらかなうまい。

 この娘の肉体にはもっと合う戦い方がある。やはり軽量で、切り裂く武器の方がよい。

 軽量とはいえ金属の塊なのだから結構な重さではあるはずだが、受け取ってみると見た目よりもかなり軽かった。

 

「ちょっと振ってみてもいいか?」

 

「奥の試着エリア使ってええよ。武器を振り回せるように広いスペースがあんねん」

 

 店員に勧められるまま、春夢は中に入る。

 そしておもむろに鞘を抜き放つと、虚空に向けて抜剣した。

 それは刀において居合と呼ばれる型に似た、高速の抜き打ちだった。

 

 しばしヒュンヒュンと空を切り裂く音が響き、やがて満足した春夢は刀身を鞘に納めて店員の元に戻ってくる。

 

「いいな。これを借りるよ」

 

「あい。ほなら、これ貸出証。使い終わったら武器と一緒に返してな、破損したら買い取りになるから気を付けるんやで。ま、()()()()ならすぐ払えるやろけどな」

 

 そう言ってプラスチックのプレートを差し出してくる店員は、何やらニマニマと機嫌がよさそうな笑みを浮かべている。

 

「……どうした?」

 

「いや、ウチの目利きに間違いはなかったと思ってな」

 

 それだけ言って、店員はサーベルを貸し出す手続きを端末に入力し始める。

 それにしても……。

 

「……やたら静かだな。他の生徒は借りに来ないのか?」

 

 あれから10分ほどが経過したが、購買部には武器を借りに来る生徒がいない。

 何人かが別のカウンターの店員のところに向かっているようだが、携行食糧(おやつ)やらペットボトルやら、まるで関係ないものを買っているようだ。

 不思議そうな顔をしている春夢に、店員はぷーっと吹き出すように笑った。

 

「そんなん来るわけないやんか。みんな、こんなレンタル品なんかよりずーっといい武器を持っとるんや。せやなかったら、ここに入るための試験を突破できへんで」

 

「そうなのか……」

 

「というか、あんさん武器もなしでどうやって試験通ったんや。手持ちの武器、なんかないの?」

 

「いや、わからん。記憶喪失でな。もしかしたら荷物の中にあるのかもしれないが、確認してない」

 

 あったところで、今の自分に合った武器なのかもわからない。

 幸いサーベルなら前世で握ったこともあるから、多少なりとも使い方のわかる武器の方がありがたい。

 

 店員は目を丸くすると、また口元に袖を当ててクスクスと笑った。

 

「あんさん、ほんまおもろいなあ。この学校に入ってくる生徒さん、みんなみょうちきりんやけど、あんさんほどおもろい人は初めて見るで」

 

「そうかな……」

 

 春夢は今日出会ったクラスの人々の顔を順繰りに思い出す。

 

 権力志向のぽんこつお嬢様吸血鬼。毒舌幽霊メイド。皇太子疑惑の自称どこにでもいるドラゴン。勇者の末裔を名乗るロリ。シスターの養女の金髪巨乳ヤンキー。ちびっこ海賊オーガ。色気ムンムンの子持ちシスター吸血鬼教師。

 

「いや、私はキャラが薄いと思う」

 

「せやろか……?」

 

 和服狐耳方言店員は、首を傾げながら男口調剣術達人記憶喪失美少女サキュバスを眺めた。キャラが濃いネームドしかいないのか?

 

「ま、ええわ。とりあえず気を付けていってらっしゃい。つまらんところで命を落とすんやないで。命あっての物種や」

 

「ありがとう。ああ、それと……」

 

「どないかした?」

 

「喉が渇いているから、飲み物がほしい。ええと……」

 

 甘いのほしい! いちごミルク! いちごミルク飲みたい!

 

「この……いちごミルク?をくれ」

 

 やったぜ。

 体からの切なる欲求に応えていちごミルクを所望した春夢に、店員はまたしてもぷーっと吹き出した。

 

「くっくっ……お可愛いこと。ええで、いちごミルクな。あと、おべんとも持っていった方がええで。せやな、握り飯とスポドリ、あとチョコレートバーなんかがええな。見繕ったろか?」

 

「助かる。ええと、金は……」

 

 この学校での金の支払い方がわからず、春夢はおろおろした。

 学内通貨が入ったカードは持っているはずなのだが、そもそもカードで支払うという発想がない。中世人には硬貨以外の貨幣がないのだ。

 

「ああ、ええよ。新入生へのサービスや、ウチが奢ったるわ」

 

「いいのか?」

 

「気にせんでええ、先行投資や。その代わり、次からはうっとこ(ウチのところ)のカウンターで買い物してってな」

 

「ああ、わかった」

 

 春夢が頷くと、狐耳の店員はにっこりと営業スマイルを浮かべて返した。

 

「ウチは蒼野(あおの)零識(ぜろしき)。これからよろしくな、お客さん」

 

「私は茜川春夢、よろしく。……ところで」

 

 春夢は陸式に顔を寄せると、ひそひそと囁いた。

 

「その……奢ってもらって本当にいいのか? 主人にバレないか? 虐待とかされてたら、なんでも相談してくれ」

 

「ぷっ……! な、なんやのそれ? ちゃんとウチのポケットマネーから出しとるし、お給料だって人並みにもろてますよ。パワハラなんかも受けてません」

 

「そ、そうか……。それならいいんだ」

 

 とりあえずこの獣人は虐待されてはいないらしい。春夢はほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 獣人が数百年も前に奴隷身分から解放されていたと春夢が知るのは、数週間後の歴史の授業でのことになる。

 なんでも緑龍帝国の皇太子が主導になって、各国に政治的圧力をかけ続けた結果なのだそうだ。

 

 

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 購買部から出ると、廊下に見知った顔が立っていた。壁にもたれかかって、じっとこっちに視線を向けている。

 

「武器は調達できた?」

 

「ああ、雫。待っててくれたのか」

 

 雫は壁から身を起こすと、ふうっとため息を吐いた。

 

「バカね、アンタは。目立たないようにするために記憶喪失ってことにしたんでしょ。なんで初日から面倒なことを首を突っ込んでいくかな」

 

「……すまん。お前を巻き込んだ。勝手なことをしたのは反省してる」

 

「どうせ似たようなことがあったら、また同じことするんでしょ。そういうのは反省って言わないの」

 

「……ごめん」

 

 肩身狭そうにしきりに頭を下げて恐縮する春夢に、雫はふっと小さく微笑んだ。

 

「謝らなくていいわよ。私はアンタが行くところ、必ずその隣にいてあげる。相棒(バディ)ってそういうものだから。ごめん、じゃなくて他に言うことは?」

 

「……ありがとう」

 

「ん」

 

 雫は満足そうに笑うと、春夢の頭に手を置き、サラサラの髪を撫でた。

 

「それにしても……どうして首を突っ込んでいったの? ほっときゃいいのに」

 

「……もう、うんざりなんだよ」

 

 雫の疑問に、春夢は深いため息を返す。

 

「もう戦争は500年も前に終わっただろ。なのに終わった話をぐだぐだと引きずって、いがみ合いの種にして。なんで仲良くしようとしないんだ。勇者だの、魔王だの、聖戦だの。そういうのはもうたくさんだ」

 

 確かに勇者は負けた。戦争に負けた以上、汚名はかぶるものだ。理屈ではわかっている。

 だけど、自分は無慈悲な殺戮者だなんて呼ばれるために戦ったわけじゃない。魔王を倒すことが平和な時代につながると思ったから、流血で手を汚したんだ。少なくとも自分は、アルベールは、リンネアは、シルヴィアは、好きで誰かの命を奪ったわけじゃなかった。

 なのにそんな事情を省みず、ただ勇者は血も涙もない犯罪者だなんて糾弾されたら。

 死んでいった同胞たちが、あまりにも浮かばれなさすぎるじゃないか。

 

 グレンは勇者たちの生き残りとして、勇者の汚名を晴らしたかったのだ。

 そうすることが、おめおめと死に損なってしまった自分の義務だと思ったのだ。

 

 もちろん、そんなことは口にできない。

 魔王軍の幹部として勇者と戦った雫の耳に入れていいことではない。

 だから春夢はただうんざりとだけ言って、すべての想いを飲み込んだ。

 

 雫は目を細めると、そんな春夢の頭を優しく撫でる。

 

「そうね、私もうんざりよ。止めなきゃね」

 

「ああ」

 

 言葉少なに頷き、春夢は雫の柔らかな手つきを受け入れていた。

 

「……それにしても、アンタってあんなに口が回ったのね。びっくりしたわ、いつも口数少なかったもの」

 

「ああ、あれはアルベールの真似だよ」

 

 思い出したように口を開く雫に、春夢は照れ照れと頭を掻いた。

 

「アルベールは誰よりも口が達者で、他の勇者との利害調整も必ずいい落としどころを見つけてくれたし、貴族や王族を説得して援助を取り付けてきた。私たちが最後まで生き残って魔王城に突入するところまでいけたのも、アルベールのおかげだ。あいつは本当にすごいヤツだった」

 

 かつての勇者パーティのリーダーを、春夢はキラキラとした瞳で褒めたたえる。

 幼馴染であり親友であり、最高の相棒。グレンにとってアルベールはそういう人物だった。

 勇者の中で最も勇者らしい男であり、絵に描いたような英雄。誰もが勇者と言われて想像するような美形の色男で、弁も立てば腕も立つ。文武両道の完璧な英雄。王族から是非にうちの姫を娶ってほしいと持ち掛けられたことも枚挙に暇がない。むさ苦しい筋肉の塊のグレンとは雲泥の差。

 白の種族の希望。王族も貴族も民衆も、誰もがアルベールを讃え、未来への希望を託した。そんな男の剣として在ることが、グレンの誇りだった。

 

「そう。確かに口は良く回ったわね」

 

「ああ! 出来すぎたくらいの英雄だった。私なんか、剣を振るしか取り柄がないからさ。ただその横で黙ってじっとしているのがお似合いだよ。アルベールはそんな私が活躍できるよう、うまく取り計らってくれた。本当に凄いヤツだったんだよ」

 

「じゃあ、その真似をできちゃうアンタは何なのよ」

 

「え?」

 

 雫の小声の呟きに、春夢が不思議そうに聞き返す。

 「なんでもないわ」と雫は頭を振って、じっと正面から春夢の瞳を見た。

 

「でも、もうここにはアルベールはいない」

 

「ああ、そうだな……。でも、今は雫が……」

 

「私はアンタのアルベールにはならない」

 

 きっぱりとした口調で言い放った雫に、春夢はパチパチと瞬きを返す。

 

「ええと……」

 

「私には剣はいらない。意のままに従ってくれるのは使い魔で間に合ってる」

 

 雫は春夢の胸に人差し指を押し当てると、視線を合わせたまま言葉を続ける。

 

「アンタ、リーダーやりなさい。私は助言はする、選択肢も提案する。だけど、どの選択肢を選ぶかはアンタが決めるの。誰かの剣に徹するのではなく、アンタがアンタの剣になるのよ」

 

 突然の言葉に、春夢は途方に暮れた顔つきになる。

 

「そ、そんなこといきなり言われても……」

 

「そうしないといけないのよ。いい? この後のオリエンテーションで、誰がリーダーなのかは非常に難しい舵取りになる。当然あの吸血お嬢様がリーダーになりたがるけど、それはできないの。あのドラゴンはすっごく高貴な人で、本来は伯爵ごときが突っかかれるような身分じゃない。隣国の伯爵の風下になんか立たせるわけにはいかないのよ」

 

「お、おう……?」

 

 思ってもみない方向からの話を聞かされて、春夢は目を白黒させる。

 正直話の半分も理解できていないが、それでも雫はまくしたてる。

 

「だからアンタがリーダーとして、両陣営を取り持つのよ。吸血お嬢様とドラゴンお嬢様、バランスを取りながら勇者の子孫を活躍させなさい」

 

「私なんかにそんなこと……。リーダーなんてやったこともないし、頭もよくないし。雫がやってくれたら……」

 

 もじもじと口ごもる春夢を、雫が一喝する。

 

「見届け人を名乗り出たのはアンタでしょ! それにあいつら、私の言うことなんて聞かないわよ。あの場を制したアンタは、今両陣営から一目置かれてる。そのまま場を制し切りなさい。アンタの手で、争いを止めるのよ」

 

「うう……」

 

 春夢はらしくもない気弱な呻き声を上げながら、おろおろと視線を足元にさまよわせる。自他と共に認める地味な脇役が、突然主役に抜擢されたような。まさしくそんな気分だった。

 その背中をバシン!と叩いて、雫はニヤリと笑って見せる。

 

「大丈夫! 私がついてるわ。アンタはね、勇者の剣なんかで終わらせるにはもったいない人なの。そんなの宝の持ち腐れだって、私はずっと思ってた。さあ、背筋を伸ばしなさい! アンタ自身が輝くときが来たのよ!」




多忙につきしばらく更新休止します。
『鋼メンタル』の書籍化作業やらないといけないので……。

ここまで面白かったらお気に入りに入れて、気長に待っててもらえるとありがたいです。
評価や感想もいただけると、やる気が出て復活まで早くなります……多分!

もしまだ読んだことがなかったら、『鋼メンタル』の方もよろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/370181/
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