野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第7話「戦士グレン、500年後の美食に舌鼓を打つ」

「これはうまい! これもうまい!」

 

 しぱぱぱぱぱぱぱぱぱっという音と共にみるみる料理が消えていく。

 そんな錯覚を覚えるくらいの勢いで、春夢が凄まじい食欲を発揮していた。

 

 小さな唇で必死にご飯を咀嚼する姿は愛らしいのだが、そのほっそりした体のどこに料理が詰め込まれているのか。

 食道の先が異次元空間に直結しているのかと疑うレベルで、物理現象をプチ超越していた。

 

「よ……よく食べるのね、グレン……」

 

 春夢が見せるあまりの食欲に、さすがのリンネアもドン引きしていた。

 

 確かにグレンはかなり食欲旺盛で、しかも当時の人間にしては珍しく味や食材にこだわる方だった。

 当時の庶民の大半が腹さえ膨れれば何でもいいという思考だった中では珍しく、訪れる先々の街でおいしい酒場を探すのを趣味にしていたものだ。

 しかし、春夢の食欲は巨漢だった『グレン』すらも圧倒している。

 

 基本的に冒険者というものは大喰らいだ。

 肉体の維持や、魔力を体内で発生させるためには大量のエネルギーが必要になるので、必然的に大量の食事をとらなければならない。

 

 が、それ以上に彼らを食事へと突き動かすのは『飢え』へのトラウマだ。

 たとえば建物型のダンジョンへのアタック中に退路を塞がれて戻れなくなった、地域型のダンジョンを進行中に後方からの補給が途絶えた……といった状況では、何とか生還するまでの数日間でギリギリの飢餓状態に追い込まれることも珍しくない。

 

 一度でもそういった極限状態を味わった冒険者は、「食えるうちに食っておこう」という思考に支配されることになる。

 名の知れた冒険者の多くは、大成するまでにこうした窮地を何度か経験することになる。冒険者の名誉とは絶望的なまでの危機を越えた先にしかないのだから。

 

 リンネアの言葉で、春夢は我に返ったように箸を止める。

 

「え? あ、うん。あまりにも美味しすぎて……。それに何だかすごくお腹が減ってたから」

 

 春夢は茶碗と箸をテーブルに置き、頬を赤くして両手をテーブルの下にしまった。

 

「ご、ごめん! 俺ばっかり食べちゃって。リンネアも腹減ってるよな」

 

 もじもじと上目遣いになる春夢に、リンネアは思わず吹き出してしまう。

 

「いいわよ、残りもグレンが全部食べちゃって。私はもうおばあちゃんだから、あんまりお腹空かないの」

 

「ほ、本当か? 食べちゃってもいいのか?」

 

「本当よ。私はもうお腹いっぱいだから、遠慮しないで」

 

「それなら、遠慮なく……!」

 

 リンネアは嘘を吐いた。

 

 リンネアも多くのベテラン冒険者の例に漏れず、非常によく食べる。

 そもそも今日春夢に振る舞った料理は、リンネアが今晩と明日の朝食に分けて一人で食べるはずだったものなのだ。

 教師となった今では全盛期ほどの食事量は必要なくなったが、それでも演習やモンスターの間引き作業をこなすことはよくある。その補給のために用意されたのが目の前の食事だったわけだ。

 

 が、春夢がこれだけおいしそうに食べているのだから、好きなだけ食べさせてやろうと思う。自分の食事なら、後で宅配サービスでも頼めばいい。

 春夢がおいしそうにもぐもぐと頬を膨らませるのが、なんだか可愛くて仕方ないのだった。

 

(歳をとると、若い子がいっぱい食べてるのを見るのが楽しくなるのは何でなのかしらね)

 

 思えばグレンはおいしい酒場を見つけてはリンネアを連れて行き、奢りで飯を食わせてくれたものだ。きっとグレンもこんな心理だったのだろう。

 

 なお、あの頃の「えーなに? ひとりで食事するの寂しいの? しょうがないなー」なんて生意気なことを言っていた若い頃の自分は、思い返すたびに殺したくなるので極力思い出さないようにしている。

 

(今では自分が年上の奢る側で、グレンが年下の奢られる側になっちゃったわね)

 

 おいしそうに食事を再開する春夢の姿に、リンネアは穏やかな微笑みを浮かべた。

 500年前もグレンの方が年下だったんですけどね。

 

「それにしてもおいしそうに食べるわね。どの料理が一番好き?」

 

「うーん、どれもうまいけど……やっぱこれかな。この穀物」

 

 興味本位のリンネアの質問に、春夢は左手に持ったお茶碗を持ち上げて返す。

 

「え、ただの白ご飯?」

 

「白ご飯、っていう料理なのか? これ、甘くて素朴な味だけど、深い旨味があっていくらでも食える。すごく気に入った!」

 

 春夢の手からお茶碗を取り、炊飯器に5合も炊かれた白米をこんもりと盛って返してやった。やったぁ!と喜んでもぐもぐする春夢の姿に、リンネアは笑みを浮かべる。

 

「それは白米ね。緑龍帝国では主食として食べられてる、イネという植物を精米して炊いたものよ。……食べたことないの?」

 

「ないと思うが……。そういえば昔、緑龍帝国に行ったときに、宴席で出された、か……? でもあんときは貴方は何も食べないように、とか言われてたんだよな。一人だけ離れた席に座らされて、ちっちゃい子供を膝の上に置かれて……バクバク食ってるアルベールが羨ましかったわ」

 

「あ、あー……。そんなこともあったわね……。じゃあ、白ご飯を食べるのは今が本当に初めて?」

 

「おう、初めて初めて。こんなうまいもん前にも食ってたら、絶対忘れないって!」

 

 そう言いながらもりもりとご飯を口に運ぶ春夢を見ながら、リンネアはふぅんと呟いた。

 

 

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「ふう……食った食った。……なんか食った後の作法ってある?」

 

「食べる前と同じように手を合わせて、『ご馳走様でした』よ」

 

「わかった。ごちそーさまでしたっ!」

 

「はい、お粗末様でした。」

 

 さすがに制服の上からでもわかるくらいお腹がぽっこりした春夢。

 その姿に苦笑を浮かべながら、リンネアはすっかり空になった食器を流しに運ぶ。

 春夢は立ち上がると、真似をして食器を手に取り、リンネアの後に続いた。

 

「それにしても、リンネアはすげえなあ」

 

「ん? どこが?」

 

 食器を流しに置き、リンネアは振り返る。

 

「だって、学校で教師の仕事をしながら、毎日こんなたくさんの料理を作ってるんだろ? それにこの家の中も、埃ひとつ落ちてなくてピッカピカに掃除が行き届いてるし」

 

「んんっ……!」

 

「家の中に入る前も、庭がきれいに手入れされてたし。リンネアは独り暮らしってことは、あれも全部リンネアがやってるんだろ? すごいよ、本当に。俺なら絶対にできない、独り暮らしなんてしたら絶対サボる自信があるよ」

 

 キラキラとした瞳で、春夢はリンネアを見上げる。

 その瞳には、仕事も家事もバッチリこなし、キリッとした雰囲気と大人の色気を併せ持つスーパーレディへの敬意が滲み出まくっていた。

 

「料理もあんなに上手くなって……。昔キャンプで食事を任せたら、血抜きもろくにせず焚火で丸のまま獲物を焼こうとしていたことを思えば、もう別人みたいだ。リンネアは、本当に成長したな……。俺は嬉しいよ……! 本当に、いい女になった……!!」

 

「………………」

 

 リンネアは腕を組み、しばらく目を閉じて春夢の称賛を受け止めていた。

 そしてたっぷり数十秒の沈黙の後、笑顔を見せながら華麗にサムズアップ。

 

「まあね!!!」

 

「ヤッター! さすが大人の女!!」

 

 リンネアは嘘を吐いた!

 家事は全部ハウスキーパーに丸投げである!

 

 料理は昼の間に来てくれるハウスキーパーが作って冷蔵庫に入れてくれたものだし、掃除も毎日ピカピカにしてくれる。なんなら今流しに置いた皿も洗ってもらうつもりである。庭は契約している業者が一週間前に手入れしてくれました。

 

 ……ハウスキーパーがいないと、そこら中脱ぎ捨てられた衣類やら店屋物の器やら空き缶やら捨て忘れたゴミ袋で埋まることは目に見えていた。

 というか、この物件を買って一週間でそうなったので、ハウスキーパーを雇うことにしたのだった。

 

 毎日の業務でヘトヘトに疲れた身で家事なんてできるわけがないのだ。……まあ、元々が割とずぼらな性格というのもあるが。

 

 ちなみに割とでかめの家に住んでいながら、使っている部屋はこのリビングと寝室と風呂場とジムくらいのものである。

 上司として部下の教員よりいい家に住めと理事長に言われたのと、長年の冒険者活動で得た戦利品の置き場に困ったので、倉庫兼用で買ったのだった。ハウスキーパーも庭の手入れ業者も理事長が紹介してくれた信用できる人材なので、盗難の心配もない。

 

 そんなわけで500年経っても、相変わらずリンネアの家事スキルはさっぱりだ。キャンプでの料理はまあ食えるくらいにはなったが、その程度である。

 

 ……だが、リンネアに向けられるキラキラとした瞳が、彼女に見栄を張らせた!

 

 別に他の人間なら誰にどう思われようが気にしないし、実際もはや世人の評価など超越した立ち位置にいる彼女だが、世界でたった一人の前では別なのだ。

 

「は、ははは……お茶でも淹れましょうか」

 

 露骨に話題をそらすおつもりですね?

 

 

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【TIPS】

 

 

【白米】

イネという植物を精米したもの。

すごくおいしい。

 

主に緑龍帝国で栽培される。

リンネアの家で消費されているのは緑龍帝国から取り寄せられたもので、有名ブランド品種である。

 

白米を主食とる文化は元は大陸東端にあった小さな島国にしかなかったが、この国から緑龍帝国へと遠征したとある将軍によって伝来したと伝えられる。

かの島国が滅び去った現在では、緑龍帝国固有の食文化と言えるだろう。

 

春夢の肉体にとっては食べ慣れた味である。

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