城門をくぐり、二人は歩きながら話し続ける。
「自己紹介が遅れました、私はフィン・J・マッカーシーです。アイルランド系アメリカ人です。よろしく」
「ふむ、私はゲルトルート・バルクホルンだ。JG52所属の航空ウィッチでカールスラント軍人をやっている。階級は少佐だ」
握手を交わしたところでしばし双方で沈黙。
「ええと、どうやら同じ地球で同じ言語を使っていますが、世界の構成が異なるようですね」
「どうやらそのようだな。みたところ国名から異なっているようだ。どうにもややこしい」
彼、フィンは努めて彼女の下半身に視線を送らないようにしながら思う。どう考えても違和感しかないのだが、ここまで堂々と振る舞っている、しかも軍人だ。何か理由があるに違いない。だが言い方も工夫しなければ……
「一応確認なのですが、あなたの服装に乱れがあるようにこちらからは見えるのですが、それはもしかして風習なのですか?……失礼に聞こえたら申し訳ありませんが」
言われてバルクホルンは改めて周囲を見渡す。辺りには女性の姿が見受けられるが、全員がスカートや長ズボンを着用している。脚を露出させているのは彼女だけだ。
突然自分がここでは非常識な装いをしている可能性に初めて気づいた。
「まいったな。私の世界では女性が脚を出してズボンだけでいるのは極めて普通なんだ。私はウィッチだからストライカーを履くのでなおさら何も身につけることがない。まさかこちらが特殊な世界があるとは予想すらしていなかった。みっともない格好だったら申し訳ない。これからはこちらに合わせる格好をするよう努力するが、今すぐには直しようがないので勘弁して欲しい」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。もしかしたら魔物と戦って衣服を損傷したのかと早合点してしまいまして。ただ、周囲から奇異な目で見られることになるかと思います、早めになんとかしましょう」
「それも早急に対処すべきだろうが、まずは食料を分けて欲しい。恥ずかしい話だが腹が減ってしまって困っている。そちらを最優先に頼む」
話をしている最中、バルクホルンの腹はぐうぐうと音を立て続けている。
「もうすぐ着きますよ。塩を振ったふかし芋になりますがよろしいですか?」
途端に彼女の腹が轟音を立てた。
「是非に頼む!」
フィンは苦笑した。
「あなたがいたカールスラントというのは私の知っている名前だとドイツですね。食文化で理解しましたよ」
「ここです。到着しましたよ」
読めない文字で書かれた看板が掲げられた建物にバルクホルンは案内された。
中に入るとフィンはそこにいた女性と会話をしている、しかしここでも言語が理解できない。なんとももどかしい。
フィンに案内され、二人は質素な一室に入った。程なくして皿に山盛りになった芋が運ばれてくる。
……そこで彼はその状況に呆気にとられつつ苦笑せざるを得なかった。
目の前で恐ろしい勢いで芋が彼女の身体に消えていく。おかわりを頼み、追加が運ばれてくるとこれもすぐに食べてしまう。見る間に彼女は三皿を平らげた。一般男性が一日で摂取するカロリーを遙かに超える量に匹敵する。
「ふう、ありがとう。おかげで一心地つけた。軍人だからな、食べられるときには食べるし、迅速に食べるのも任務遂行には大事だ」
「あ、なるほど。そういうことなのですね」
フィンは相づちを打つように答えたが、頭の中で釈然としない思いを持ったままだった。彼女の身体に比例して食べた量が多い気がする。
「それにしても健啖家でいらっしゃる。そちらの世界では皆さんがそうなのですか?」
その言葉の意をくみ取り、バルクホルンは赤面する。
「いや、普段から大食いというわけではないんだ。さっき魔法力を多めに消費したからその反動で腹が減ったんだ。誤解しないでくれると助かる」
彼女の言葉がフィンの好奇心を刺激した。
「魔法……ですか?どのような力をお持ちなのです?」
「ああそうだな。実際に見せた方が話が早そうだ」
バルクホルンは魔法を発動させた。彼女に使い魔であるジャーマンポインターの耳と尻尾が発現する。
「これが魔法を発現させた姿だ。これで攻撃を防ぐシールドを張れる。私は固有魔法もあるので身体強化もできる」
バルクホルンは片手を前に出す。するとそこに光り輝く円形の紋章が出現した。
「これがシールドだ。これで大抵の攻撃を防ぐことができるんだ。我々ウイッチが前線で戦うことができるのはこれのおかげでな。魔法力があるかぎりこれは張れる」
フィンは興味深くそれを観察した。
「失礼ですが触ってみても?」
「ああいいぞ、なんなら拳銃ででも撃ち込んでみるといい」
「この世界には銃火器が存在しないのです。代わりにこのナイフを当ててみてもいいですか?」
「そのくらいなら全く問題はない」
バルクホルンは気軽に返事をしたが、得られた情報は内心を憂鬱にさせた。ここには銃火器がないという。恐らくそれはMG42に代表される機関銃や突撃小銃も存在しないということだろう。彼女の固有魔法はそれでも生かせる局面は多そうだが、身につけた戦法が封じられるのはやはり痛い。
フィンは懐から取り出した小振りの短剣をシールドに当てていた。当てたときの感触や手応えを確認しているようである。
「これほど薄いものでこれとは、すごいものですね。驚きを禁じ得ません」
バルクホルンはそれを見て、別のものに興味を持った。この世界の武器の品質や堅牢さを見ておきたい。
「代わりと言っては何だが、その手に持った短剣を見せてくれ」
「これですか?どうぞ」
フィンは一度短剣を一旦鞘に収め、握りを彼女に手渡した。武器を扱う基本的な所作を確認できた彼女は、それを手に取る。シールドはそれと同時に解除した。
鞘から抜き放つ際の感触、重心の位置、続いて刃先の角度、研ぎ具合、身幅の厚み。それぞれを注意深く観察する。……飾りや見てくれではない、明確に殺傷力を与える造りだ。この重心の位置から察するに、投げたときの安定性も考慮されている。歴戦の勇士であり生粋の軍人であるバルクホルンにはそれらを確認するには十数秒もあれば十分であった。