「その辺りの技術的な話題はあとにしましょう。それよりまずギルドとして依頼したい案件があったはずです。そちらから話しましょうか?」
ミラシャナはフィンから話を振られて慌てて手元にある書類を取り上げた。
「さきほど依頼があったものですね。街の外で大きな音がしたので調査して欲しいと」
「大きな音……?」
バルクホルンには思い当たる節があった。あれか……?
「ああそうです。バークさんの件で衛兵から呼び出された際にも、それが関連しているのかと思ってました。バークさん、外におられたときに何か気づいたことなどありませんでしたか?」
「気づいたことというかなんというか……まいったな、実際に見てもらった方が早そうだ」
バルクホルンは気まずそうな顔でそう答えた。さすがにあれはやり過ぎたか、だがあの時点での判断としては適切だった、そう思いたい。緊急避難、緊急避難、やむを得ない判断……。
「あー、とりあえず現場に行きましょうか。私も同行します」
何かを察したようなフィンの声にバルクホルンは、つまみ食いがバレた悪戯好きの同僚と同じ表情で神妙に頷くのだった。
……
「こ……これは……」
フィンとミラシャナは現場に近づいてからも、あまりの状態に絶句していた。
「誤解しているかもしれないから念を押しておくが、私は別にやりたくてやったんじゃないんだ!切羽詰まっていてしょうがなかったんだ!他に方法も見当たらず、早急に仲間と連絡を取らねばならんと思っていたから……やむを得ず……」
バルクホルンの声だけが周囲に響く。
目の前には森林の一角が無残に切り取られ、大木が見渡す限りへし折られている。空から見れば部隊章の意匠が浮かび上がる形に見えるのだが、地上にいてはよく分からない。
何も知らない人間がこれを見たら、どうやってこうなったのか一切分からないだろう。まさに超常現象だ。
「バークさんが、これを、お一人で?」
フィンがおずおずと訪ねる。
「ああそうだ!私だ!悪かったと思っている!申し訳なかった!勝手にこんなことをやってしまったのは誠に申し訳ないと思っている!二度とやらんから安心してくれ!……なぁ、なんとか言ってくれ。黙られていては叱られる方も辛いんだよ。大声で怒鳴りつけられる方が気が楽だ」
いつもならエーリカを怒鳴りつけている側のバルクホルンだが、今回は別の立場を味わっているようだった。……黙って睨みつけるのも効果があるのだな、今度機会があれば試してみるか、と殊勝な表情の裏でそうも思う彼女だった。
「バークさんがこれを?すっごぉい……」
「いや、そこは感心するところじゃないんだが」
「何を使いましたか?道具や武器は持ってないと伺っていたのですが?」
フィンが聞くと、バルクホルンはそばに横たわっている大木の一本に気楽な調子で手をかけた。
「こうだ。ふん!」
彼女が魔法を発現させ、大木を片手で掴みあげ、軽々と抱え上げると片足を上げて地面に押さえつけ、気合いと共に易々と破壊して見せた。
厳密には折ったのだが、やっているのは人知の及ばない破壊としか形容しがたい。
あまりに勢いよく折ったものだから、大木から爆発音に似た轟音がとどろき、辺りにこだました。すさまじい力が加わって大木が砕けた影響で衝撃波も発生し、瞬間的に爆風も巻き起こった。
折った瞬間、彼女は力を込める表情は見せた。とはいえ常人には決してできない怪力を発揮した様子ではない。あたかも小さな子供が道ばたで見つけた小枝をいじって遊んでいるかのように、彼女は大人二人が抱えても手が届かないくらいの太い大木をあっさりと折ってしまった。端整な顔立ちは一切変わらない。腕にやや力を込める動きはあったが、調理場に立つ女性が包丁に力を込めて固い野菜を切っている程度のものだ。それだけに見る者にとっては違和感しか感じられない光景であった。
折った端から夥しい木片がすさまじい勢いで周囲に飛散する。バルクホルンは何事もなかったようにシールドを展開してそれらをあっさりと跳ね返した。
「な?」
バルクホルンがにこやかに二人の方を振り返ると、そこに姿が見えない。
「え、えええぇ……」
「怖い怖い怖いよぅ……」
二人はドン引きして木陰に隠れてしまっていた。反射的な恐怖を感じ、とっさに身を隠したようである。
バルクホルンは改めて元の世界で認知されていて忘れていた事実に気がついた。
『魔法を持たない一般人にはこのような芸当はできないし、人並み外れた怪力は恐怖心も植え付ける』
「あー!いや、大丈夫だ!人には危害を加えない!」
などと彼女は両手を振り回して恐怖映画の怪物が言いがちな台詞を大声で口走った。