「ああ、失礼しました。報告書の文面をどう構成したらいいか頭の中で整理していまして」
「なるほどな」
「それで不躾ついででお願いなのですが、バークさんに報告書の作成をお願いできないかと考えまして。やはりここは当事者であるご本人がお書きになるのが手っ取り早い。当然私も補助します。対価としての報酬もお支払いします。いかがでしょう?」
「それについてはやぶさかではないが……だが、忘れないで欲しい。私の一番の目的は元の世界に帰ることだ。全ての行動はそこに帰結させたい。なんとかして帰る方法を探したいんだ」
フィンは今までの彼女の行動、そして言動からそれが彼女の行動原理に当たるであろうことは予測をしていた。とはいうものの、正直言ってそれが実現できるめどはかなり低い。だが、それをそのまま伝えるのは良くないだろう。言葉は悪いが彼女に希望を持ってもらいつつこちらの願う仕事も引き受けてもらうのが一番ではないか。
「……ミラシャナさん、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「我々が書類を書いている間、あなたにはここまでこの世界に来た訪問者の情報と足跡を調べておいてもらえないでしょうか」
それを聞いてミラシャナはぎょっとなった。
「え!?それって……」
すかさずフィンはミラシャナに顔を近づけ、小声で囁く。
「ええ、分かってます。それっぽい書類や資料をピックアップしてくれるだけでかまいませんよ。バークさんに私たちも協力をしていますよと姿勢を見せなければならないんです。分かります?」
「ええぇ……それって良くないですよぉ?登録された人の情報とかはありますけど、それ以外の情報とかうちで管理されてないはずです。ない物は探せませんよ」
「まずはそういうのでいいんです。聞き込み調査の手がかりにもなりそうですからそういう人物ファイルを作るだけでもいいんです」
「そのくらいでいいなら……」
「さっきから何をひそひそ話している?」
フィンは即座にバルクホルンの方へ向き直った。
「ちょっとした打ち合わせです、どういう書類がどこにあるとか、そういう奴で」
「そうなのか?まぁいい。ではさっさと書類を書き上げるぞ。面倒なことは先にやっておかないとな」
片腕をぶんぶん振り回して元気よく言うバルクホルン。フィンとミラシャナはそれを見て先ほどのすさまじい光景がフラッシュバックしてしまった。
「……どうした?」
彼女が振り返ると二人はまたも離れたところでおびえているようだった。
「バークさん、ここは街中ですので破壊活動は控えめでお願いします」
「あんまり怖いことしないで下さいねぇ」
バルクホルンはまたも頭を抱えた。完全に二人にトラウマを植え付けてしまっている。
「大丈夫だから!暴れたりしない!信じてくれ!」
街に彼女の哀願の声がむなしく響くのだった。
……
「こんなものだな。やれやれ、書類を作るのはどうにも変に疲れて困るな。肩がこる」
「バークさん、いかがですか?」
「ああ、こちらの世界の書式と違うかもしれないから一旦は仮ということにしてくれ。だいたい分かっていることはまとめたがな。ふぅー」
バルクホルンから手渡された紙数枚を手にして、思わずフィンは口笛を吹いた。
「……そういうところ、やはりお前はリベリアンだな」
「アメリカです……まぁそれはいいですが」
まさに舌を巻いたのは上がってきた文面だ。ドイツ人と聞いていたが実に整ったアルファベットで見事な英語の書面に仕上げている。書式の整え方も申し分ない。
内容を確認して更にフィンは驚かされた。発生した事件、時刻、場所、状況説明、関わった人物、事態の変化、それらが詳細かつ克明に書かれている。いささか関わった人物についての擁護などが克明すぎる気もするが、それはまぁ許容範囲内だ。今のギルドでここまで完璧な書類をこの短時間で仕上げられる人物はいない。彼女は戦闘力でも逃したくない人材であるが、それを抜きにして文官として登用しても申し分がない。いよいよ手放せなくなった。
となれば、少々小ずるい手を使っても策を弄してみるか。
「素晴らしいですよ。ヘッダとフッタのレイアウトにやや癖がありますが、このくらいであれば全く問題になりません。何より内容が完璧だ。実に精緻な内容で手を加えるところがどこにもない。あなたの能力に敬意を表します」
「よしてくれ。このくらいいつもやってる詳報と大して変わらん」
「お世辞じゃありませんよ。実を申せばここまでの書類をこの時間で仕上げられる人材はいませんからね。このギルドで職員として正式採用の推薦を書きたいくらいです」
「それはうれしいが、そうはいかん。私はすぐにでも戻らねばならないんだ。ここに腰を落ち着けるつもりはない。どれだけ求められようが、ここで職を得るつもりは毛頭ないぞ」
「……一時雇いでもいけませんか?」
「ダメだ。いつでも帰ることのできる立場を求める」
……なかなかに手強い態度で断られてしまった。まぁいい、気長にやっていこう。そうフィンは思うのだった。