9号、お前は道具だ。 作:ごすずん
決して表に現れることのない裏街道。
そこにある闇オークション……人の命が命と扱われない世界に、彼女は居た。
両手両足は縛られ台に乗せられ、首元には重々しい首輪がつけられている。
その瞳は、うら若き乙女としては既に荒みきっていた……どれほどの闇市と人身売買の場を通り抜けてきただろうか……
身勝手に生まれさせられ、身勝手に捨てられる。道具としてしか扱われない人生……オークションの会場に、司会の高らかな紹介の言葉が綴られる。
「こちらの銀髪が可憐な少女!その美しさや年齢もそうですが、戦闘能力も一級品!優秀な兵士としても扱えます!少しばかり規約書にサインしてもらう手間はありますが、サインを書く程度の手間など塵に思えるほどにオススメな商品です!」
「ほぉ。」
「中々……」
「ふむ。」
会場の住民は静かに呟く……商品を品定めするのと同じく、周りの彼らは彼女をじっと見つめていた。もはやこんな光景も慣れっこな彼女は、ただ俯いて床を見るだけだ。無限にも思えるようなセールストーク、無限にも思えるような思案時間。
思えば、複製体9号として、クローン兵士としてこの世界に生まれ、兵士として扱われ、任務をこなせず、今はこうして裏の世界で見世物として扱われている。
彼女の人生は何だったのだろうか?
意味はあるのだろうか?
彼女がそれを思考しているのかは分からない。何せ、記憶だっておぼろげで曖昧なのだ。
自分が兵士であることは知っている。だが、何と戦っていたのかも、誰とともに戦っていたのかも覚えていない。
……やがて、彼女の値札が決められる。
「こちらの娘、始めは50万ディニーから!」
高らかに宣言された始発価格。そこから値段はつり上がっていく……100、150、200と値は釣り上がっていく。
少女はその値段の上がる音をを聞く間も、ただ目を薄く開き床を見るだけだ。どんな音で買われたところで、自分に道具以上の価値がもたらされる日など、来やしないのだから。
……やがてカンカンと甲高い音が響き渡る。司会者は高らかに告げた。
「700万!700万ディニーで落札です!」
たたえるような拍手が響いく。そして小さなぼやきもわずかに漏れる。
「規約書にサインなんてろくなもんじゃないな……」
「問題が起こっても責任取りませんって公言してるようなもんだ。」
「こんな場所でそんな事期待してるやついやしないだろーが、態々書かせるってことは相当な厄ネタだな。」
「よせよせ、詮索するな。ろくなことにならねぇぞ。」
勘の鋭い者は、彼女が何らかの黒い闇を抱えているのは察しがついているようだ。そして、その予感は当たっている……軍の作り出したクローン兵士、それが9号の正体。軍でも黒歴史とされる、触れただけで消されかねない厄ネタだ。
すると、コツコツと足音を響かせて700万を支払って厄ネタを購入した男が、9号の元へと近づいてきた。
「では、規約書にサインを……」
「あぁ。直ぐに連れ帰って構わないな?」
「勿論、お客様のお望みとあらば。」
そんな会話を流し聞いて、9号は顔を見上げて、
サインを書くその男は、その男はテックウェアを着込み、口元は重々しいマスクで、目元は深くかぶったキャップで隠していた。
やがてサインを書きおえる。9号が類まれな動体視力でみた規約書に書かれた名は――
「ではお渡しの前に……こちらをどうぞ。」
そう言って司会者が渡すのは、何やら色々と印の入ったダイヤル式のスイッチだ。
「何分力がありますので、首輪にはスタンガンやGPSを仕込ませてあります。リモコンで操作できます、ご活用ください。」
「あぁ、どうやらいい道具が買えたようだ。」
そう言ってイコールはリモコンを受け取る。その間に9号の手足の拘束はほどかれる。そして、イコールは冷たく9号に言い放つ。
「付いてこい。」
9号は、自身が命令に背ける立場でないことは分かっている。だから、何も言わずにその命令に従い先を歩くイコールの背中を歩くことにした。
自分に何が起こるのかは分からないが、きっとろくでもないことだろう。道具としか思われていない、道具には道具にふさわしい扱われ方がある。そういう扱われ方をするのは、既に彼女は、嫌と言うほどわかっていた。
オークション会場から飛び出し、早足なイコールを追いかける9号。
合間合間に、イコールは幾つかの言葉を9号に投げかけた。
「……お前、戦闘はどの程度できる?」
「分からない。」
「分からない?どういう意味だ。」
「……何も、分からない。ただ、昔戦ってた記憶はある、それを戦闘能力があると、前の持ち主が言っているだけ。」
「ふむ。」
イコールはそっとキャップを深くする。まぁ、こういう詐欺まがいはよくあることだ、イコールは気にしていない。
それよりもイコールが気になっていたのは、9号の口ぶりの方だった。
「その言い方は、お前は過去のことは覚えていないのか?」
「殆ど、何も。今までのことも、あまり。」
「そうか。」
「……貴方は、戦わせる為に私を買ったの?」
「あぁ、そうだ。」
「私を、道具だと思っている?」
「勿論。」
淡々とした会話が続く……やがて闇市の喧騒の中を歩いていると、小型のバンが止まる駐車場へと辿り着いた。
「……はぁ。」
イコールは、徐ろに9号を受け取る時に貰ったリモコンを地面に落として、踏みつけ、砕く。
急な行為に、先ほどまで壊れた水晶のような目をしていた9号が、目を見開く。
「っ!?……?」
「……これで、良し。」
「何を……?」
唐突の出来事に何も理解できず頭を傾げる9号、それに対してイコールは告げる。
「こんな物はお前のパフォーマンスを落とすだけだ。要らん……悪いが、その首輪はつけたままだ。お前の反応をたどるために必要だ。」
「パフォーマンス……?」
「お前の生殺与奪の権を握った所で意味はない、安全な事ではあるが、道具を縛ると言う事は、それだけその使い道を減らすことにもなる。」
独自の観念を語るイコール、9号はついていけずに小首を傾げる。だが、イコールは止まらない。
「……お前は道具として俺の元で働いてもらう。だが、その為に準備がいる、武具と服の調達、それと飯だ。最後に食ったのは?」
「きっ、昨日の朝……」
「得意な獲物は?」
「っ!?わ、分からない……」
「……なるほど、片っ端から試すか。わかった。兎に角、乗れ。」
そう言ってイコールはバンの扉を開く……9号は重んず口を挟む。
「貴方は……一体……私に何をさせようと?」
「俺はイコール。……お前は?」
「っ!?」
「お前はなんなんだ?名前は?」
9号は少し言葉に詰まる……名前……あった気はするが、よく覚えていない。だが、自分を示す番号ならば、かろうじて覚えていた。
「……9号」
「9号、そうか……分かった。答えの続きだ、そう難しい事じゃない、俺には目的がある。お前は俺の指示に従って戦えば良い。戦う為の道具が欲しかったからお前を買った。それだけだ。」
他に意味なんて無い、そう付け加える。
9号は、おぼろげな記憶の中でも嫌気のさすような戦いという行為を、またしなければならないのかと肩を落とす……
すると、イコールは続けて言う。
「……もしも、俺の目的が達成されたら、お前の様な道具もその首輪を外して生きていけるほどの大金が手に入る。」
「っ!?」
その言葉をどれだけ信じて良いのかわからないが、だとしてもその言葉だけで9号は目を見開いて瞳を輝かせてしまう。
イコールは、9号の瞳を見て、一言。
「9号、お前は道具だ。……それが嫌なら、精々首輪を外せるように、俺の為に働くんだな。」
9号の意味?6+2+1ですが?
もともとそういう意図だったけど思ったよりハンドラー・ウォルターになっちゃった……後半とかわりとまんまだし……ドウシヨウ。