9号、お前は道具だ。   作:ごすずん

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道具を迎える準備は大事だ。

 

 9号がイコールにつれてこられたのは、なんてこと無い新エリー都の六分街にある一軒家だった。男独り身にしては少し大きく感じるが……二人で済むには丁度いい広さだ。

 

 イコールは玄関の鍵を開けてそっと中へ入る……9号は、少し及び腰気味に外から中の様子をうかがう。

 

「どうした?入れ。」

「……ここは……貴方の、家?」

「あぁ、そして今日からお前の拠点にもなる。」

「拠点……」

 

 9号は静かに言葉を反復すると、恐る恐る家に一歩足を踏み入れる。

 

 キョロキョロと辺りを見回しながらイコールの跡をついていくと、イコールは戸棚からバスタオルを取り出して9号に手渡す。

 

「先ずは身体を洗え。汚れだらけで見るに堪えん。」

「……お風呂?」

「お湯は沸かしてある。服はどれがいい?」

 

 そう言ってイコールは幾つかの服……と言っても、殆どがカラバリのテックウェアを取り出して9号に見せる。

 

 どの服がいいかと聞かれても、そんな事考える暇も無かった9号は、そっと小首を傾げて適当に黒いテックウェアを指差す。

 

「コレか。持っていけ。」

 

 そう言ってイコールは服を9号を押し付けると、さっと風呂場まで案内して自分はさっさと何処かへと去ってしまう。

 

 9号はイマイチ意図が読み取れずに首を傾げるが、兎に角命令されたからにはやるしかないと、そっと自らの体を隠していたボロ切れのような布を脱ぎ捨てて、風呂場へと足を踏み入れた。

 

 

 風呂場で慣れない手つきで身体を洗い流す9号。

 今まで感じてこなかった傷口にお湯が染み込んで痛みをかんじる。中でも、胸から腹に掛けての傷が特に強く痛む……

 

 実際そこはかなり大きなあざとなっており、綺麗な柔肌とは相反してカサつき、見るだけで痛みを催すものとなっていた。

 

 今の9号は、それがなんでついたものかさえわからない……だが、本来ならこの傷で死んでしまっていたような気がするほど大きく、深い傷だ。肉体的にも、精神的にも。

 

 悲しみか痛みかわからないが、何故か涙が溢れてくる……どうしてだろう、一つも悲しくないのに。

 

 泣かずには居られない、涙をこぼさずには居られない。そんな感情が押し寄せてくる……何か、目の前で大切なものを失った気分だ。

 

 虚ろに写る光景は、いったい誰が、どのようにして、何が起こっている光景なのだろう。ただわかるのは……大切な人が聞こえる感覚を、9号は思い出した……様な気がした。

 

 身体を清めた9号は、バスタオルで涙諸共身体を拭く。そのたびに傷にこすれて若干の痛みを伴うが……大したことではない。

 

 身体を乾かすと、テックウェアを着込みイコールの元へと向かった。

 

 

 しかし、慣れない場所ではどこに誰かいるのか把握するのは難しい。9号は足でイコールの居場所を探そうとする。

 

 暫く家の中を歩き回っていると、ある一つの部屋を見つける。普段は鍵をかけてある装いだが、その場限りではロックが開いていた。

 

 9号は何気なく、徐ろにその扉を開けるとそこに広がっていたのは壁一面に広がる電子機器とモニターだ。外郭の普通の一軒家とは比べものにならいほどの設備に、9号は思わず目を丸くする。

 

「これ……は……」

 

 そこで、両手に湯気の立ったマグカップを持ったイコールがそっと9号の後ろから現れる。

 

「ここに居たか。」

「っ!?……ご、ごめんなさい……」

「謝ることはない、今日からここはお前の仕事場の一つになる。……気になるか?」

「……ん。」

 

 9号は静かに頷くと、イコールは一息ついて、片手に持っていたマグカップを9号に差し出す。

 

「ほれ。」

「っ!……これ、は……?」

「ホットミルクだ、温まる。ゆっくり飲め。」

 

 マグカップを押し付けられた9号は、静かにそのカップを受け取り、少し熱がりながらも静かにミルクをちびちびと飲む。

 

 その間に、イコールは戸棚を開き中に丁寧に寝かされていた一匹の機能停止したぬいぐるみのような知能機械……ボンプを取り出す。

 

「それ……は?」

「……俺の道具だ、もう()()は何処にもいないがな。」

 

 少しいびつな言い回しと返答に9号はまたしても小首を傾げる。イコールはモニターの前に敷かれたスイッチを入れて、その要のシステムを起動させる。

 

 すると、隠れていたイコールの目元が青く輝き、同時に機能停止したはずのボンプの目も青く輝く。ボンプはまるでプログラムされた機械のように立ち上がり、その場にピタッと静止する。

 

 その光景に、9号は驚きの表情を隠せない。

 

「一体、何が?」

「俺とタス――ボンプを同期させた。これで、ボンプをどこでも手足のように動かし、通信ができる。」

 

 一瞬呼ばれた愛称の様な一言を聞いて、9号はまた少しの疑問を持ちながらも、大人しくイコールの話を聞く。

 

「文字通り何処でもな……お前も知っているだろ。忌々しいホロウを。あの内部でも通信と活動ができる。」

「っ!!」

 

 異空間災害ホロウ。唐突に現れすべてを飲み込み虚ろへと帰すその災害は、今この境を蝕むどう仕様もない脅威となっている。

 

 その内部では通常の通信の通信は行えず、長くホロウ内に入れば、中に充満したエーテルに蝕まれ、エーテリアスという化け物に変化してしまう。

 

 そんなホロウの中で安定した通信と活動ができるとは……何という技術なのだろう。

 

「……正式名称はHollow,deepdive,System。H.D.Dシステムと俺や()()は呼んでいる。尤も、友人達のとは違い俺のは粗製だがな。」

「友……人?」

「その内会わせてやる。気の良い奴等だ。」

 

 そう言ってイコールはボンプとの同期を切断する。すると、イコールは大きく項垂れる……どうやら、相当身体に負荷がかかるようだ。

 

 イコールはポケットから目薬を取り出して、目に垂らす。そして、静かに語る。

 

「後でお前のホロウ適性もチェックするが、適性によってはお前にはホロウに突入して任務をこなして戦ってもらう……ホロウレイダーと言う事だ。」

「ホロウ、レイダー……」

「そして、俺はお前の案内人……プロキシと言う事になるな。」

「プロキシ……」

 

 イコールの言葉を反復する9号……そんな9号にイコールは一つ問いかける。

 

「……何か質問は?」

「……一つだけ。」

「何だ?」

 

 イコールが内容を促すと、9号はなんてこと無いように答えた。

 

「私は、貴方の事をなんて呼べばいい?」

「……なんでもいい、イコールでも主殿でも、好きに呼べ。」

「わかった……イコール。」

 

 イコールは軽く頷くと、また語り始める。

 

「今は休むのがお前の仕事だ。部屋は隣に用意してある、好きに使え。戸棚に武器もいくつかしまってある。適当に手にとってなじむものを持っていけ。」

「……イコール、何でそんなに準備して、優しくしてくれてるの?」

「道具を迎える前にはそれ相応の準備をするのが常識だ……まさか、俺が善意でこんな事をしてやってると思っているのか?」

 

 イコールをジトっとした目で9号を見る。

 

「なら、とんだお笑い草だな。俺はお前という道具のポテンシャルを最大限発揮するために環境を整えているに過ぎない。そこに他意はない、お前もそうだろう?上手く行けばその首輪を外して自由に生きられるかもしれない。それを期待してついてきているはずだ。」

 

 明らかにペースの上がった発言を繰り返すイコール。

 

「……お互い、深く干渉するのはよそう。お互いのためにならん。」

「……そういうものなの?」

「きっとその方が良いに決まってるからな」

 

 9号は納得できたような出来ないような表情を見せて、静かに食い下がる。すると、イコールはため息をついてつぶやく。

 

「台所にハンバーガーがある。ふたつな、電子レンジで温めてくれ。俺も食べる。」

「……電子レンジの使い方、分からない。」

「……教えてやるから覚えておけ。」

 

 そう言ってイコールは椅子から静かに立ち上がるのだった。

 

 

 

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