IS―NEON GENESIS―   作:枯木の竹光

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覚えてらっしゃる方は少ないと思いますがお久しぶりです。
抑うつのリハビリとして長年温めていたこの作品を執筆、投稿します。
続け…シンエヴァの熱…ッ!
保ってくれよ…俺の執筆意欲…ッ!!


1-1

1.

 

 

―*―*―*―

 

 

ザザー、ザザー、と波が鳴る。

よせては帰り、よせては帰りを繰り返す。

そのたびに、浜辺には新しい波紋の模様が生まれて、

そのたびに、波にのまれて消えていった。

 

ヒトリ、砂浜に腰を下ろしてその様子を見つめていた。

 

青い大海原なんて知らないはずなのに、そう思いながら僕はその海を眺めていた。

 

今生で見慣れていた海は赤かった。

セカンドインパクトによって浄化された、生命(原罪)のないシの海。

それしか知らないはずなのに。

 

ゴルゴダオブジェクトに辿り着いたときに頭の中に流れ込んだ、円環の物語(ループする世界)を生きた自分自身のおぼろげな記憶。今の僕が持つ記憶と似ているようで似ていない、僕とは違う結末を迎えた“僕たち“の記憶。

それらの記憶が、目の前にある青い海を作りだしているのだろうか。

そういえばいつしか加持さんが連れて行ってくれた研究所の海も、青かったと思う。

加持さんが教えてくれた、生と死に溢れていた頃の海。

海という自然の本来あるべき姿。

だけど、マイナス宇宙で再現されたこの海に命はない。

僕の記憶にある青い海に溢れていたものが、ここにはない。

命あるものは、ここにいる“僕”だけだ。

 

どれだけの時間、ヒトリでいるだろう。

大切な人たちをここから送り出してからどれだけ時間が経っただろう。

この砂浜で膝を抱えて、海を眺めて、絶対に迎えに行くからと言ってくれた誰かさんが来るのに、あとどれくらい待てばいいのだろう。

 

「僕」という存在が、少しずつ、周りの景色もろとも虚空に霧散していく。

 

記憶が曖昧になる。

 

色彩がなくなり、連続性がなくなって、次第に輪郭だけを残しただけの線の集合体になる。

 

 

それでも、考えることだけはやめない。

 

 

 

僕という存在を保つため。

 

 

 

なにより、もう一度、会いたい人たちに会うために。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギリギリセーーーフッ!!!」

 

 

 

 

 

…ほんっと、ギリギリだよ。マリさん。

 

 

 

 

 

 

 

「マリさん!」

エヴァンゲリオン8+9+…は長いので省略。

エヴァ8号機が消滅するのと同時に、海に飛び込んだマリさんのところへ、海水を被りながらザブザブと駆け寄る。マリさんが同じ空間に来たことで、輪郭だけになっていた景色が、いつのまにかその色彩と時間を取り戻していた。

 

「ごみーん、遅くなっちった。大人しくお座りしてた?ワンコ君。」

「もう、ワンコ君はやめてよ…。」

「ニシシッ…、お待たせ、シンジ君。」

 

彼女は悪戯好きな猫の様な目で、まっすぐこっちを見つめて名前を呼んでくれた。

シンジ。

あぁ、そうだ。

碇シンジ。

それが、僕の名前。それが、僕のカタチ。

霧散していた要素が一つに収束する。失っていた色彩を、その存在を取り戻す。

空色のインナーに白い半袖のYシャツ、学生ズボンを履いた少しだけ痩せた体躯。

同級生に比べて少し低いくらいの背丈。

濡羽色の短く切り揃えた髪。

中性的な顔つきと黒い瞳。

海面に映る僕の姿、僕の形。

 

目の前にいる、穏やかで優しさを湛えた眼差しを向けてくれるヒト。

赤縁のメガネと青色のカチューシャ。

半袖の白い学生Yシャツに深緑のネクタイとチェック柄のミニスカート。

2本に纏めた長い茶髪と蒼い瞳をした、人懐っこい雰囲気の女の人。

僕を迎えに来てくれた真希波・マリ・イラストリアス。

彼女が僕の名を呼んでくれたのだ。

彼女という他者の存在が、僕のカタチを思い出させてくれた。

 

「間に合って良かった。」

「マリさんこそ、こんなところまで来てよかったの?エヴァも無くなっちゃったし。」

「おねーさんのことはいいの。アッシはやりたいことをやっただけなんだから。」

「元の世界に帰れる保証はないんだよ?」

「どこに行ったって“There's no place like home“(住めば都)て言うじゃーん?

シンジ君と一緒なら、私はどこだっていいよん。」

「またそんなこと言って揶揄おうとして。」

「ありゃりゃ。割とガチで告ったつもりなんだけどにゃあ。ここまで頑張って来たマリちゃんに、ご褒美のチューしてくれてもいいんだよ?」

「感謝の気持ちだけ伝えておくよ。」

「釣れないにゃ…。」

 

本当に本気の言葉だったらしく、しょんぼりとするマリさん。そんな姿を見せられると申し訳なくなるが、こればかりは譲れない。僕にとって特別なのはアスカだけなのだから。

 

「姫ってば愛されてるにゃ~…。もう、大丈夫みたいだね。」

 

何がとは言わない。けど、彼女の言いたいことは何となく察せる。

飄々とした人をくったような雰囲気から、僕を包み込んでくれるような優しい雰囲気に変わる。

 

「うん…。正直に言えば、まだ完全に立ち直れたわけじゃないんだと思う。例え、この先、一生を費やしても、それこそ新しい世界を作れたとしてもこの罪は消えないし、赦されることもないと思うから。でも、もう逃げないって決めたんだ。自分の選択と、その責任から。」

 

かつてAAAヴンダーで目覚めた僕は、14年間の月日で激変していた周囲の環境に耐えられず、逃げ出した。そして、逃げ出した先で容赦のない現実(僕が犯した大罪)を思い知らされ、ありもしない希望(父さんが作りだした幻想)に縋り、踊らされた。

いや、踊らされたんじゃない。

自分が負うべき責任から逃れたかったから。

痛みを背負うことから逃げて、選択することを拒否して、自分にとって都合のいい夢だけを見たかったから。

だから、僕はカヲル君の制止に聞く耳持たず、槍を引き抜いた。一刻でも早く楽になりたかったから。その結果、僕は無二の親友を目の前で失った。

逃げ出して、逃げ出して。

逃げて、逃げて。

失って、失って。

その時になってようやく自分のやるべきことが見えたと思う。罪を償う。自分が犯した罪と向き合い、贖罪する。子供でも知っている当たり前のこと。

だから…本当に僕は『ガキ』だったんだろう。

落ちるところまで落ちて、その時になってようやくそこにたどり着けたのだ。

 

「でっっっかい十字架だよ?背負って楽しいことなんて一つもないし、途中で下ろすこともできないし、苦しいことばっかりだよ?それでも、ちゃんと背負える?」

「二度と下ろさない。最後まで背負って見せるよ。途中でその重さにまた潰れちゃうかもしれないけど、そんな時はちゃんと助けを呼ぶよ。僕は弱いから。僕が弱いことをちゃんと知ってくれている人たちがいるから。その人たちが傍にいてくれる限り、僕はきっと、また立ち上がれると思う。」

 

これから僕達が行く場所にその人たちはいない。

だけど、僕は、決して、独りなんかじゃないから。

離れ離れになっても、それだけは確かだから。

 

「自分の弱さを受け入れられるのは美徳なんだけどにぇ、最初っからあてにされると、

せっかくの決意表明の説得力が0だにゃー。」

 

マリさんが呆れたように茶化す。でもその呆れは嘲りや侮蔑を含んだものじゃなくて、安堵と優しさが表れているように思えた。どうやら、僕の決意表明は及第点だったらしい。

少し不満なところはあるみたいだけど、この答えに概ね満足してくれているみたいだった。

それはそれとして。

何時までもやられっぱなしなのは精神的によろしくないので、少しだけ反撃してみる。

 

「だって、マリさんは一緒にいてくれるんでしょ。この先も、ずっと。」

 

マリさんに面と向かって、微笑みながら言ってみる。普段の僕なら赤面してしまって真面に言えない気障なセリフだけど、何故か今はすんなり言えている。

肝心のマリさんはまさか僕が反撃してくるとは思わなかったみたいだ。少しだけ頬を赤く染めて、猫の様な目をさらに大きくしていた。

 

「んなっ…、ぬぅ…。ワンコ君のくせに、大人っぽい顔して。そんなセリフを吐きおってからに。けしからん。」

「事実でしょ?」

「まぁ、そうだけどさ。…そっか、君はもう大人になったんだね。」

 

今度は僕が目を丸くした。

 

どっちに似たのかにゃあ、やっぱりゲンドウ君の血かにゃぁ、いやいやユイさんも人たらしなところとかあったし…、とマリさんはボソボソ言っているけど、僕はそれを聞いていなかった。

 

“大人になったな、シンジ。”

 

父さんの言葉とマリさんの言葉が重なった。

初めてで、そして最後になった、父さんと腹を割って交わした会話を思い出す。

思えば、その言葉が、父さんが僕を褒めてくれた最後の言葉だった。

人の思いや願いを受け止めて、それを正しく背負うこと。それが大人になるということだった。

少し前までの僕と、恐らく父さんができなかったこと。決戦の地で父さんと対峙した僕にできたこと。

 

僕は正しく父さんと母さんの思いを受け取れただろうか。

僕はちゃんと、二人を見送れたのかな。

 

「シンジ君?シンジ君!」

「…ッ!? ご、ごめん、何?」

気付いたらすぐ目の前に心配そうにするマリさんの顔が。桜色の唇と澄んだ蒼い瞳に視線が寄せられそうになる。

 

「ホントに大丈夫?まだ意識がはっきりしないとか。」

「だ、大丈夫だよ。少し、考え事してただけだから。」

「そう?ならいいんだけど。」

 

キスしそうなぐらいまで近づいていた距離がゆっくりと離れる。

 

なんだろ、マリさんの気安さって、なんだか異性に対する気安さというのとは違うような気がする。例えるなら、昔のミサトさんが僕やアスカにしてくれてたような、いうなら弟とか家族に対する気安さに近いのかな。

 

「じゃあ…そろそろ行こう。マリさん。」

「ん、そうだね。ぐだぐだしてると、今度はシンジ君だけじゃなくてアッシまで意味喪失しちゃって存在が消えちゃうかもだし。」

「…ねぇ、マリさん。」

「なぁに?シンジ君。」

「マリさんはどんな世界に行きたい? どんな世界になるか細かく指定できるわけじゃないから、ほんとに聞くだけになっちゃうけど、一応ね?」

「フフッ。紳士的だねぇ。…さっきも言ったでしょ?君と一緒ならどこでもいいよ。あ、でも…」

「でも?」

 

「でも……やっぱり、またみんなと会いたいね。」

 

「…そうだね。ホントに。」

 

 

 

マリさんと手を取り合う。母さんが温存させてくれた、この身に残されたシン世界創造のための最後の力を振り絞る。

 

僕たちがもと居たあの世界には辿り着けないかもしれない。

僕が全てのエヴァンゲリオンを葬ったことで、綾波やアスカ、カヲル君、ミサトさん、加持さん、リツコさん、マヤさんや日向さん、青葉さん、トウジにケンスケ、委員長、そして父さんと母さん、今まで僕を支えてくれて、助けてくれた様々な人たちとの繋がりは途切れてしまったのかもしれない。

でも、それでも。あの苦しくて、辛くて、醜くて、そして美しい日々を送った記憶のすべてがなくなるわけじゃない。

愛しい人(アスカ)と過ごした日々も。

 

始まりはそうでも、今は違う。今も僕とあの人たちは、エヴァだけで繋がっているわけじゃない。

 

今ならそう思える。それだけでいいんだ。

繋がりがあるのなら、いつか、きっと。

 

 

 

また会えるのだから。

 

 

 

 

 

1.fin

 

 

 

 

 




取り合えずいったんここまで。
二人がどうなるかは次回。

週一投稿出来たらいいなぁ。
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