百合園セイアに狂わされたTSティーパーティーモブの話 作:グリンピース
女三人寄ればなんとやら。
年頃の女の子であれば2人だって、たとえお上品なお嬢様だってそう。
今日も女三人寄れば皮肉と言い合いが絶えない。
傍から見れば険悪、されどここに至るまでにどれだけの苦難があったかを知っている者が見ればきっと涙する、そんな光景。
「誰もセイアちゃんのことだなんて言ってないけど?自意識過剰なんじゃない?」
「ミカ、君の言い分はいつも幼い子供が必死で逃げるための言い訳にしか聞こえない。そうやって論点をすり替えて有耶無耶にし、議論において優位を保つことに尽力しているうちは……いや、最早これでは議論と呼ぶことすら難しいね」
「簡潔に文章をまとめる能力って、国語のテストで点を取るには大事なの知ってた?セイアちゃんが卒業できるように私がお勉強教えてあげよっか」
「1つ、私の成績は卒業を危ぶまれるようなものではない。2つ、これは国語のテストではなく君と私の間における議論……になるはずだったものだ。前提が破綻した状態で語られても皮肉は意味を成さないよ。そして3つ、こういった"口喧嘩"では知性と優雅さが欠かせない。趣と言ってもいい。これらを理解できないうちは君が私と同じ土俵に立つのは難しいと言わざるを得ないね」
「文章量をかさ増しする受験者みたいだね?」
「理解できないと認めることは恥ずかしいことではないよ。君のプライドが許せばの話だが」
そんな光景のはずだ。おそらく。きっと。多分。
そして3人のうち2人が言い合いを始めれば、それを止めるのがもう1人の役割。実にバランスのとれた3人だ。
3人で言い合いが始まった時は、自然と収まるのを待つしかないわけだが。
「お2人とも、そこまでにしましょう。飲みかけの紅茶を前に冷めるまで争いを繰り広げるのは、優雅とは言えませんから」
「ねえナギちゃん、今日はどっちの勝ち?」
「今日も両者敗北ですよ」
「聞き捨てならないな。どうして私が敗北者になるのかな?」
「先にミカさんを煽ったのは貴女でしょう、セイアさん」
「おや、そうだったかな」
「セイアちゃんって都合悪くなるとすぐこうだよね」
「ミカ、君だけには言われたくないな」
「…………」
2回戦は無言の笑顔によって開戦せず。
さすがはティーパーティーの現ホストと言ったところか。
ミカ。聖園ミカ。かつてはティーパーティーにおける分派の1つである『パテル分派』の代表者だった彼女。彼女が起こしたクーデターによってトリニティは大きな危機に晒され、結果として今は1人の生徒としての立ち位置にまで落ちてしまった。
元は落ち着いていて他人への慈愛に満ちている彼女が何故こんなことになってしまったのか、そして何故そんな彼女がこのティーパーティーテラスという場にいるのかは、他の2人に聞いた方がいいだろう。まともな答えが返ってくることは期待しないように。
セイア。百合園セイア。ティーパーティーにおいては『サンクトゥス分派』の代表者としてトリニティの三権政治の一端を担っている。複雑な言葉遊びを積極的に行う、対峙するものにとっては厄介な趣味を持つ少女。
こういった皮肉の応酬を楽しんでいる節があり、他の2人もそれを理解したのか最近は軽く受け流されて拗ねてしまうことも。
ナギちゃん。桐藤ナギサ。ティーパーティーの現ホストであり、『フィリウス分派』の代表者。所作の一つ一つが美しく、優雅たれという信条の元生きているのだろう。
常に冷静沈着で優雅な彼女だが、拘りが強く他者との衝突も少なくない。3人の中で仲裁役のように見えて、その実1度暴走した彼女を止められる人間は少ない。ミカとは幼なじみだ。
そんな3人は政治的に対立している立場であるものの、親友として頻繁に今日のようにお茶会を開いてはこうして騒いだり、騒いだり、騒いだりしている。ミカに至ってはティーパーティーどころかトリニティから追放されていてもおかしくないのだが、それでもそうならずに3人は今も親友でいられる。
昔のように、いや昔以上に仲を深めることができているという事実こそが奇跡なのかもしれない。それでもその奇跡を享受し、いつか大きな花を咲かせられるのならば、それ以上は何者も立ち入るべきではない領域なのだ。
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「……ってなわけでアタシ的にはオールオッケーです」
「気持ち悪いを通り越して絶句ですわ」
「あやや」
ティーパーティーの尊さを語っていただけなのにドン引きされてしまった。俺はなんて可哀想なオタクなんだ。
「でもアナタが始めた物語では?」
「まさかこんな濁流に飲まれるとは思っていなかったもので」
今俺の感情を濁ってるとか言ったか?
「でもアナタが言い出したんですよ?ミカ様があそこにいるのは気に入らないって」
「気に入らないとは言ってませんわ。ただ、セイア様もナギサ様も何をお考えなのかと気になっただけです」
嘘つけ。まあ大方ミカ様だけでなくホストの座にいるナギサ様も気に入らないんだろうけど。
セイア様が1番じゃないと嫌なんでしょ?てかなんなら『サンクトゥス派』がホストじゃないのが気に食わないだけだろ?はぁヤダヤダ。学生なんだからお政治ごっこじゃなくてもっと楽しいことしようよ。推し活とか推し活とか。
「それで、貴女としてはどうなのですか?トリニティに1度刃を向けたミカ様が今もこうしてお茶会に参加しているという事実について、少しは思うところがあるのでは?」
「まさか、何も思いませんよ。第一アタシ如きがなにか思案して、それでどうなるっていうんです?」
俺の発言に腹が立ったのか、そこにいる"モブ"が噛み付いてくる。
「それでもセイア様の側近ですか?無責任にも程があります」
「主を飛び越えてしゃしゃり出るのが側近の役目だとは思いませんでした。アタシから言えるのは『セイア様は何も言っていない』、ただそれだけです」
そしてセイア様の側近である俺も気に食わないと。
逆にどうなら許せるんだよ。セイア様が現ホストでその側近が自分で、次期ホストの座につけたら満足か?
ま、そんなところを勘づかれてセイア様に遠ざけられてんだろうな。
「ならこれ以上私からは質問はありませんわ。くれぐれもストーカー行為は控えてくださいな」
「ストーカーじゃないですぅ~。人を犯罪者呼ばわりしてくれちゃって」
捨て台詞を吐いて消えていく、名前も覚えてない女。
ちょっとセイア様最高可愛いアルバムVol5を作っただけじゃないか、なんだよみんな。本人は無言だったしいいだろ別に。
大体俺の最推しはミカ様だったんだよ。だからセイア様は…………うん、まあ、ね。
そうだよ。俺ミカ推し先生だったんだよな。なんでこんな事になってんだろ。
別に何者だったわけでもない。ただのしがないオタクで、平凡な男子大学生。朝までゲームして寝落ちして、起きたらこれだ。
見知らぬ天井だし、女の子になってるし、パニックで外でたら頭に輪っかついてる子だらけだし。この世界がブルーアーカイブの世界だってことはわかったけど、そんな漫画みたいなことがありえるのかと更にパニック。
数時間狂いに狂ってどうにか自分を取り戻して、とりあえずこの世界で生きていくことを目標にした。
俺の手元にあるのはトリニティ総合学園の制服と、その生徒会にあたるティーパーティーの制服。そして学生証には1年生であることと、その横に『阿澄アヤ』という名前。阿澄アヤは今日から性転換した元男子大学生現女子高生として生きていくことになったのだ。
そこからはもう気持ちを切り替えて、最推しのミカにお近付きになるために全力でオタ活だ。一人称『俺』はさすがにマズイので、とはいえ『ワタクシ』なんて口が裂けても言えんというか絶対ボロが出るし、じゃあ最大限女の子っぽくて妥協できるラインが『アタシ』だ。それ以上は俺の言動と品のかけ離れた一人称になってしまう。
んでパテル分派に所属しようとしたらいかにもな余所者厳禁な感じで門前払い食らって、どうやら元から阿澄アヤが所属していたらしいサンクトゥス分派での活動をすることになった。
え、だからセイア様推しなのかって?
まあ元々ティーパーティー箱推しみたいなとこあったけど、今の俺がセイア様に狂っているのは、それはもう百合園セイアという女が魔性だからとしか言えない。
理屈を捏ねに捏ねまくる理屈職人で超常識人かと思いきや、サボり魔でイタズラ好きとかいう魔性っぷり。何が起きてもクールなその表情を崩さないところも大好きだ。
思えば夏イベでの色んな面を見た時から惹かれていたのかもしれん。極めつけに運転大好きお転婆センスも超イカしてるおもしれー女。沼るなって方が無理だよこれは。
別にミカ様のことは今でも大好きだし、ナギサ様だって推しof推しだ。でもこれは完全に沼にハマったと言わざるを得ない。
で、そんなセイア様を直接この目で見られた幸福をパワーに変えて仕事してたら、いつの間にか推しからオタクへの指名が入っていた。
もう意味がわからん、別に表に出てないよオタ活は。いや出してたらむしろ追放されてるか。
でも変な話だ、俺より仕事出来るやつなんていっぱいいるのに。というかだからこそ俺はかなりの人間から恨みを買っている。どうでもいい寄りのことだが、さっきみたいに変な虫が近づいてくることが増えた。セイア様が何故俺を選んだのか、そこに関してはストー……じゃない、オタクの俺でも知らないことなのだ。逆にそれ以外は結構知ってることが沢山ある。色んな仕草とか癖とかね。
とまあ、そんなこんなで今俺はセイア様の側近をやっている。サボり魔の彼女にギリギリで仕事を回しながら、出来る範囲のことは全部片付ける。都合のいい女過ぎるが、それもこれも推しのため。覚悟が違いますよ。
お、そろそろ今日のお茶会が終わりそうだ。俺も仕事片付けて帰ろっと。
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「そういえば自意識過剰で思い出したんだけどさ」
「喧嘩の続きかい?」
「違うよ!ほら、セイアちゃんのストーカーちゃんいるじゃん」
「いや彼女は……………………いや、まあ、うん、そうだな」
「こんな歯切れの悪いセイアちゃん初めて見たよ」
ミカの言葉にセイアはため息をついた。ミカの言った件の彼女についてはセイアも頭を悩ませているのだ。
「で、彼女がどうかしたのい?……いや待て、自意識過剰で思い出したということは、彼女のストーキング行為を私の自意識過剰だと認識しているということかな?」
「え、そうだけど」
「ミカ、それは大きな間違いだ。私のカンの鋭さは知っているだろう?その私が言うんだ、彼女の行為は一線を越えていると。一体私がどれだけサボタージュのためにあれこれ手段を携えたと思っているんだ。それを全て見破り的確に私の居場所を突き止める、そんなことが通常の人間に可能だと思うか?」
「わ、わかったよ!うん、そうだよね、うん」
ミカは勢いに任せてセイアの言葉を流したが、それはつまるところストーカー女の存在を認めているということになる。
「いいかいミカ、あれはどう考えても私を監視していないと起こりえないんだ。ところが私にはその手段が突き止められないでいる。この私がだ。末恐ろしいとはこの事だよ、全く」
「うん、うん、そうだね」
ミカは肯定に全てのリソースを割くことにした。最早自分が何を伝えたかったのかも些末なことだ。否定したあかつきには5億倍の文字数となって否定の否定と苦労話が降り掛かってくるだろうから。
しかしかの女はそんな恐れなど抱かない。唯我独尊、傍若無人、全ては自らの疑念のため、空気を読むことなど一切しない。
「セイアさん……?」
「なんだいナギサ、まさか君まで否定を───────」
そしてその圧力の前にはどんな言葉も意味を成さない。
「"""サボタージュ"""ですか……詳しくお聞かせ願えますか? その言葉に込められた全ての意味を」
阿澄アヤ。セイアの側近である彼女が如何に狂った女なのかを語るために、セイアはありったけの言葉の弾丸を詰め込んでいた。しかしセイアはその弾丸を慌てて取り出し、今からナギサを納得させるための言い訳を詰め直す羽目になるのだった。