百合園セイアに狂わされたTSティーパーティーモブの話 作:グリンピース
「探しましたよ、セイア様。ここにいたんですね」
「探しましたよ、じゃないんだよ」
空がほんのりと紅く染まりつつある頃、俺はティーパーティーの校舎を飛び出してセイア様を探しに出かけた。
基本的にティーパーティーでの業務は俺を始めとした通常のメンバーで処理できるものが多い。ホストのナギサ様を除き、ある程度権限を持ったメンバーを酷使しなければならないほど業務に行き詰っているわけではないのだ。そのためほとんどの業務は俺が処理できるし、処理できない量のものは他のメンバーに割り振ればいい。ただ流石に俺の負担が中々すごいので、現在は業務を細分化し末端のメンバーに割り振れるような仕組みを作ってあるというのが本当のところだ。
しかしながらセイア様の権限を必要とする業務も当然発生する。そしてその時になればセイア様に業務依頼をするわけだ。
ところが普段優雅に紅茶でも飲んで寛いでいる彼女は、業務が発生する時に限ってふらっとどこかへ消えてしまうのだ。未来予知か生来の勘の良さか、どちらにせよ何かしらを感じとってサボりに行くのである。
で、こうしてセイア様を発見し仕事をお願いするのが俺の仕事である。
「ここには初めて来たんだ。気の向くままに歩き、花の香りと鳥の囀りに誘われ、本当に何も考えずにね」
「へえ、そうだったんですね。アタシもお散歩は好きですよ、深夜に出歩くのとか特に」
「褒められたものではない、とは言うまいよ。自分の身は自分で守る、それが出来ない身で危うい道を歩くほど君も愚かじゃないだろうからね」
「ふふ、ありがとうございます」
ふぅ、とセイア様は息を吐いた。そんなに喋って疲れないのか、という疑問は野暮だ。
「現にこうして私と君の二人しかいないのだから、トリニティの敷地内とはいえ殆どの生徒はここを訪れないのだろうね」
「ですね、アタシも今回はかなり歩きました」
「……まだ言葉を紡がないといけないのかな」
「お好きでしょう?そういうの」
セイア様が顔を顰めた。可愛いね、パシャリ。
「それをやめろと前に言った気がするのだが」
「でも可愛いじゃないですか」
「それは免罪符にならないよ」
「可愛いことは否定しないんですね」
「…………」
眉間のシワが深くなる。ちょっとからかい過ぎたかもしれない。
「これを問うのは何度目か……君は本当に、どうやって私の居場所を突き止めているのかな」
「こっちにいる気がしたので、なんとなく」
「私への当てつけに聞こえてしまうね」
「まさか」
俺がセイア様を見つける度にセイア様は色んな表情をする。驚愕、恐怖、諦念、一周まわって驚愕、疑念、怒り、疑念。俺としては本当に仕事をしてもらう為に仕方なく探してるだけなんだけどな。
「別に、私とて仕事をしたくないがあまり君から逃げているわけではない。モモトークで連絡でも送ってくれれば業務室に勝手に戻ってくるさ」
「ああ、そうだったんですね」
じゃあなんで逃げるんだろう。まあ今は仕事の気分じゃないなーみたいなのがあるんだろうな。
「だというのに君は毎回、それも行先も伝えずに出ていった私をこうして連れ戻しに来るわけだ」
「まあ、仕事の一環かなと」
「あれか?君は私の毎日変わるはずの制服全てに発信機でも付けているのかい?」
「それこそ、一瞬でセイア様に勘づかれると思いますけど」
「そうだとも。だからこその疑問だよ」
うーん、なんと説明したものか。
ブルアカには特定の生徒に超能力のような異能が備わっている描写がある。今は失ってしまったけれど、セイア様の未来予知もその一つだ。
自分の名を呼ばれたらその場にワープ出来るなんて能力が真面目に考察されるくらいには、ブルアカの世界には銃や異常な身体能力とは別に異能があるのだ。
そしてここからが俺の話だ。俺の異能は言ってしまえば昔のモンハンのペイントボールみたいなもので、面識がある人間のことを強く思い浮かべれば大凡の位置が掴めるというものだ。ダウジングマシンと言った方がわかりやすいかもしれない。
この異能はある程度交流が深くないと本当にぼんやりとしかわからないもので、セイア様の居場所がそこそこ正確にわかるのは交流の深さを示している。自慢だよこれは。
で、これを人に説明する時になんて言えばいいと思う?考え抜いた末に出した結論は、勘以外の説明は不可能というものだ。
セイア様の前で勘がいいなんて口が裂けても言えないが、とは言えそうでもないと説明がつかない。当てつけに取られたのは申し訳ないけれど、俺の限界はここだ。
「愛の力ってことになりませんか?」
「愛の力じゃないってことじゃないか」
「いやいや、愛ならたっぷりありますよ。ただ納得のいく説明はできないだろうなって思って」
はぁ、とため息。真似してみたら睨まれた。
「少なくとも主に嘘をつくような不義理な人間ではありませんよ」
「そこは信頼しているよ。だからこそ本当に、本当に不思議でならない」
「セイア様の未来予知の方がよっぽど不可思議で理不尽じゃないですか」
「ふむ、今は使えないとはいえそれもそうか」
結局、セイア様は湧き出る疑問を飲み込むことにしたようだった。物憂げな表情、パシャリ。
「君は…………」
呆れからか、もはや言葉も出てこないらしい。
「そろそろVol6が完成する頃合いかい?」
「いえ、次は8ですね」
「ああ、もう。本当に君が怖いよ私は」
愛が深すぎると怖がられるってこのことか。ヤンデレ的な。
「もちろん政治活動の一環ですよ」
「それで納得すると思っているのかい?」
「だってナギサ様のパフォーマンスに比べてセイア様はそういうの少ないじゃないですか。ミカ様はあんまり考えてなかったでしょうけど、周りが勝手にやってましたし」
「その口実はミカがパテルの代表でない今弱いと思うがね」
「あやや。まあいいじゃないですか、身内の心配性なオママゴト好きを黙らせるための一手と思えば」
「彼女らとてこれでは納得しないと思うが……」
「論破されなければいいんですよ〜」
否定する材料がなければ黙る他ない。であればこちらが負ける道理などない、ってね。
「さて、戻るとしよう」
「そうですよー、お仕事しないと」
「しかし珍しい、いつも期限ギリギリまで仕事を回さない君が今回に限ってはそうではない。何かあったということかい?」
「いーえ、ハンコを押すだけのいつものやつですよ」
「ほう、では気まぐれに早めただけということかな」
「んー、まあ、バカンスの前に仕事重なって支障が出たら面白くないじゃないですか」
俺の言葉にセイア様は固まった。
「何故───────」
口を開いたかと思えば再び固まる。
「有り得る可能性としては?」
「……ミカが今回の計画に君を巻き込んだ、それくらいしか考えられないな」
「うんうん、そうでしょうね」
「はぁ、君は本当にサプライズが好きだね。それにミカもミカだよ。君が私の側近であることは彼女も知っているだろうに、私に話のひとつも寄越さないとは」
「まあそりゃ、ミカ様はアタシに一言も計画を喋ってませんからね」
「……は?」
「あ、アタシがついてくとかはないんで、セイア様はゆっくりバカンスを楽しんでください。仕事はアタシらが全部やっとくんでね」
「待て」
語気つよっ。
「ならどうして君が知っているんだ」
「あはは、勘がいいってさっき言ったじゃないですか。主とお揃いでアタシはハッピーですよ」
「惚けないでくれ。私の勘でもそこまで正確に未来を知覚することは出来ない」
「じゃあ、アタシがたまたまその計画の端っこを覗き見ちゃったとか」
「君の信頼に関わる問題だ。巫山戯るのはいいがあまり愚かな選択をしない方がいい」
え、なんか怒られてない?うそうそ、そんなつもりなかったのに。
「じょ、冗談ですってば!最近ちょっと問題があって、あの私有地の調査に行かなきゃいけなかったんです!その時たまたま下見に来たミカ様を見つけちゃったんですよ!」
なんとか言い訳を考える。
「それがどうバカンスの話と繋がるんだ?」
「大した権限も持たない今のミカ様があのリゾートに来るってことは、9割方私用での訪問じゃないですか。休むわけでもなく歩き回ってる様子から何かしらの下見であることは想像に難くないですし、そうなったらもう後は、ね?」
「私が……私とナギサが関わっているという確信はどこから?」
「それはもう、ミカ様は自分のためだけにあんなことする性格じゃないでしょう?あの真剣な表情、きっとナギサ様とセイア様……特にナギサ様は最近お忙しいようですし、お二人の為に下見に来たんだと確信しました」
「……随分とミカの善性を信じているようだね」
「え、ええ、まあ」
「………………ふぅ。疑ってすまなかった。一線を超えてしまったのかと、そう思ってしまったよ」
「まあ、日頃の行いのせいですので」
「自覚があるのなら控えてくれると助かるのだけれどね」
「善処します」
なんか、何とか切り抜けられたか。調子に乗って前世で得たブルアカの知識をひけらかしてしまったために、まさかこんな事になるなんて。
そりゃそうだよな、極秘の計画だったのに俺みたいなモブが知ってるわけがないんだから。最近色々慣れてきて浮かれてたのかもしれない。気を引き締めよう。
「それに今はセイア様一筋ですから。他の方に迷惑はかけないと約束しますよ」
「私にも是非その配慮を分けてくれると嬉しいね」
「日々の業務の報酬として、どうかお許しくださいな」
なんだかんだ許してくれちゃうから、俺がこうやって調子に乗るんだよね。