百合園セイアに狂わされたTSティーパーティーモブの話 作:グリンピース
夏休みの定義は人によって異なる。通っている教育機関が定めた、実に2ヶ月にも及ぶような休暇であるのかもしれないし、勤めている団体から与えられた1週間ほどのものかもしれない。休暇という共通点があれど、今回の例で言えばその期間に圧倒的な差がある。
この差は何を起因とするものなのか?それは休暇が与えられる者の役割に他ならない。その者が休暇として体を休めている期間、当然その役割は別の者が引き継ぐか所属する団体の個々人に分散される。そんな状態がいつまでも許されるわけもなく、逆に言えば許容できる期間が休暇として与えられるわけだ。
「そんなわけで、折角のお話ですけど辞退させてもらいます」
「ふむ……そうか」
この話を元に考えるのであれば、俺は休暇を許容されない人間だ。何より今持っている仕事が俺にしかできないことが問題なわけで。セイア様から提案された夏季休暇の取得を辞退するに至ったというわけだ。
しかしセイア様はまだ何事かを考えていらっしゃる。
「君の言い分は理解した。いや、元より理解しているつもりだ。しかしこのような属人化された業務の放置は、今後のティーパーティーの運営にとって必ず問題になると思うが」
「仰る通りですが、とはいえすぐに解決できる問題でもありませんし」
セイア様の意見は正しい。教育、分担を怠り楽な道を選んだ結果の現状であることは理解しているし、この件に関して誰が悪いのかと言えば俺が全て悪いのだから。
「……そうだな。しかし問題の内容を知らずに放置した私の責任がないとは言えない」
「いや、そんなことは……」
「そこでだ。件の業務はこれより私が担当する」
「は!?」
まさかのお役御免である。ご乱心か?
「しかしアタシだけ休むというのも……」
「そもそも他の者はそれぞれのタイミングで休暇を取得している。君だけなのだよ、休暇が取得できていないのは」
「しかし───────」
「しかしそれでも、と言うのならば……そうだな、君には別の業務を担当してもらいたい」
確かに責任問題の観点でいえばセイア様にも今の業務を引き継ぐことは可能だ。そりゃ俺の上司なのだから。しかしそんな強硬手段を使ってまで俺に預ける業務があるとは思えない。
「先のプライベートビーチの件は君も知っているだろう?」
「一般開放したやつですよね。かなりの利益が見込めるものの治安維持の観点で問題多数と聞いてますけど」
「ああ、まさしくその通りだ。正義実現委員会の協力のもと警備の強化を進めているが、手が回りきっていないというのが現状だね」
「まあそうでしょうね。あの規模ですし、いくらイチカが優秀とはいえそう簡単に解決とはいきませんよ」
「おや、私がいつその名前を出したのかな」
あ、やべ。ミニゲームのあれね〜とか思ってたら大失言。
「フッ……いや、すまない。まさか君のそんな顔が見られるとは思わなくてね。その口ぶりからして彼女とは浅からぬ関係なのだろう。本人から事情を聞いていると考えてもいいかな?」
「あはは……その通りです」
あぶねー!なんか勝手に深読みしてくれて助かった。作者の人そこまで云々案件だけど、今はセイア様に乗っかっておくのが吉とみた。
「知っているのならば話は早い。君にはその治安維持に協力して欲しい」
「アタシが?」
別に戦闘は苦手じゃないけど、セイア様にそこまで言ったことないぞ。というか知ってるのなんてそれこそイチカくらいなんじゃなかろうか。
「何も武力制圧が全てじゃないさ。それにティーパーティーからも既に人員を派遣している。改善点の調査が主な業務だと思ってくれればいい」
それこそ、有事の際は正義実現委員会がいるのだから。
セイア様はふうと息を吐き紅茶に口をつけた。
「というわけで、明日からよろしく頼むよ」
「明日から!?」
なんとも急なことだ。
流石にここまでお膳立てされて察することが出来ないほど俺も馬鹿じゃない。要はこの業務に託けて俺に休暇を取らせたいのだろう。
「ああ、それとこの作戦には水着を着て参加してくれ」
「それは本当になんでですか!?」
思わず声が大きくなる。そんな俺とは対照的にセイア様は呆れたようにため息をついた。
「やれやれ、少し考えればわかるだろう。ティーパーティーが出した宣言のもと開放されたビーチを、ティーパーティーの制服を着た生徒が彷徨っているんだ。一般客の目にそれがどう映るかなんて、君であれば想像に難くないんじゃないかい?」
「そ、それはそうですけど……」
「加えて、監視されている、という感覚は人間にとって十分なストレスとなる。プライベートビーチそのものの評価を下げる要因としても看過できないだろうね」
「う、ぐぅ」
反論できない。そんな様子の俺を見るとセイア様はフンと鼻を鳴らした。完全勝利とでも言いたげだ。
こういう子供っぽいところもイイんだよなぁ。
「水着は学校指定のものでも良いですか?」
「逆に何故良いと思ったんだい?」
「流石に良くないですか!?」
ため息はさっきよりも深かった。そんなに変なこと言ったかな?
「先程水着で業務にあたる必要性について議論したはずだが」
「でもほら、スクール水着って別に学校を特定する要素は無いというか……」
「ふむ……」
これは流石に反論成功か?ガラスが割れる音と共に、ひび割れたステンドグラスを背景にした俺のカットインが入る。
「一般的な感覚を前提として話を進めよう。海にバカンスに行く時、ほとんどの人間はスクール水着を着て臨むと思うかい?」
「そ、それは……」
「そう、スクール水着とは特別な装いなのだよ。普通にバカンスを楽しむつもりで来た人間の中では浮くのさ」
「でも、小さい子はそうとも限らないんじゃないですか?」
「君の身長は残念ながら平均よりも少し上くらい。それでは納得してもらえないだろうね」
「少し感覚がズレた人間だとも思われなくもないというか……」
「先に言った通り判断するのは一般客だ。都合よくそう受け取ってもらえるといいが、現実的に考えればその中でも半分いるかどうか」
「で、でもそれだけいるなら……!」
「忘れたのかい?これはティーパーティーの運営するビーチの評価を左右しかねない事なんだ。少なくとも半分の人間には悪い印象を与えるだろうということだよ」
あれぇ!?今勝った感じの雰囲気出てたんだけどなぁ。
「まあ、君がそうまでして水着を着たくないというなら考えねばなるまいよ。金銭的に問題があるというのであればそこは心配いらない。業務に必要な衣類の購入なんだ、当然こちら側が全面的に受け持つとも。ああ、先に言っておくが業務に必要だと判断出来ないものは自費だよ」
「…………」
「まったく……。話を続けるが、それ以外の理由───────特に極めて個人的な理由で拒否すると言うのであれば、そこはもう私が踏み入れる領域ではない。君自身の判断でティーパーティーの世間的な評価を下げるといい」
「……言い方!」
「事実を述べているまでだ。一般的な感性から逆算してドレスコードを守ってくれれば私としては何も言うことは無いのだが……」
くしょがよぉ!初めから口論でこの人に勝てるわけなかったんだ!
「……もしアタシがとんでもなく高額な水着の請求書を引っ提げてきたら払ってもらえるんですか?」
「ああ、勿論だとも。君がその業務に相応しいものを選んだ結果そうなったと言うのであれば、何も疑う余地などないさ。私は君のことを信頼しているからね。ただ1つ疑問があるとすれば、一般的な額から逸脱するような価値を持つ水着が、一体どのような用途を想定して製造されたものなのかという点くらいだが……」
「あー!!!負けです!!!!アタシの負けですぅ!!!!」
「ふふふ、別に勝負をしているつもりは無かったのだけれどね。さて、そうと決まれば今日の業務はもう切り上げて早く買いに行くといい。いつものように遅くまで仕事をしていてはお店が閉まってしまうからね」
「はいはい!失礼します!」
このセクシーフォックスがよぉ!!そういうの元男的にはアレなんだよ!!!!
「……ふぅ、流石に苦しいかと思ったがなんとかなるものだな」
「……」
「おや、労ってくれるのかい?」
「!」
「……飛んでいってしまった。まあいいさ、これで約束は果たしたのだから」
「ふふ、楽しいひと時を過ごすといい。2人ともね」
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ふぅ、と吐く息すら一瞬で熱風に変わる。ちょっと暑いくらいだったこの間のバカンスが嘘のようで、観光客と真夏の太陽に包まれたビーチは文字通り熱に狂っていた。
どこにそんな元気があるのかと問いたくなるほど騒ぎ立てる観光客(と愚か者達)、そんな彼女達を取り締まるべく私はここに立っているわけだ。ああもう本当に狂いそうになる。
「イチカー!」
私を呼ぶ声が聞こえる。
私を下の名前で呼ぶ人間を考えた時、まずは先輩方を除外する。こんな元気ハツラツな先輩がいた記憶は無い。
次に先生。先生なら有り得る、子供っぽいところがあるし。でも先生の子供っぽさってこういう感じじゃなくて、驚かそうと企んだりするようなイメージ。うん、先生ならきっとそうする。
ということは残るは1人。
「アヤ!」
振り向き、叫ぶ。そもそも声を聞き間違えるはずもない。気が狂いそうな中来てくれる友人は、最早天使にすら思える。
(約束、本当に守ってくれたんすね)
別に疑っていたわけではないが、こういった賑やかな場が苦手なアヤを連れ出せるとは思わなかった。
さて、友人の水着姿でも拝ませてもらいますか。
ぽよん。
ぽよんぽよん。
ぽよよん。
おお。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないっすよ。来てくれて嬉しいっす」
着痩せって存在するんだなって。いや知ってはいたけど、目の前に例があるのとないのじゃ実感の差が。
「へ、変じゃないよね。普通の金額だったし、サイズもちょうど良かったし……」
「うん、とっても可愛いっすよ」
白色の生地に暗めの紺のチェック。胸は黒のフレアビキニで落ち着いた印象を持たせる。少し伸びてきてミディアムに届かないくらいの髪は、内巻きのワンカールで実際より短めに感じる。
そして大きめのフリルでも隠れないほどの胸である。ハスミ先輩と比べるのは流石に無理があるけれど、平均を考えれば流石に大きいと言わざるを得ない。ティーパーティーの制服の中に、まさかこんな兵器が隠されているとは。同い年であることを忘れてしまいそうになる。凹む。
「まあせっかく来たんだし、いい感じにこき使ってよ」
「なんてこと言うんすか!?」
まずそんなイメージを持たれてたのがショックだ。
「だってイチカが主導でやってるんでしょ?俺はここの事まだわかんないからさ」
「言い方!」
「変だった?」
「変っす!」
仕事とはいえビーチで友達と二人なんだから、もっと楽しむことを考えて欲しい。いや、でもアヤのことだから仕事は仕事として割り切っちゃってるのかも。
「まあまあ、警備もそうだけど折角のビーチっすよ?写真とか撮らなくていいんすか?」
「い、一応カメラは持ってきてるけど」
「なーんだ、ちゃんと楽しむ気はあったんすね」
「……まあ、本懐はそこにあるだろうし」
イマイチ要領を得ない発言。まあ、細かいことは気にしない!せっかくの海なんだから。
「さあ、いざ出発!っすよ!」
「なんかテンション高いねぇ!?」
そりゃそうでしょ。