百合園セイアに狂わされたTSティーパーティーモブの話 作:グリンピース
テンション5割増くらいのイチカと任務を続けること1時間。お店の手助けをしたり不届き者をボコボコにしたりと、なんだかんだ仕事っぽいことはしている。
しかしまあ、外に出るというのは大切だなと痛感する。書類仕事ばかりだと身体にも精神にも良くないもんね。
「流石に休憩しますか。そろそろお腹も空いてきた頃合でしょう?」
「んー、言われてみれば。折角だしここらの出店で食べたいとこだけど、こういうところって高いよねぇ……」
「まあ、否定はしないっすけど。でもほら、雰囲気ってのもあるじゃないっすか」
「ショバ代ってやつ?」
「全然違う意味っす。……こら!なんて言葉遣いしてるんすか!」
「おかんじゃん」
しかしわざわざビーチから出て食べるというのも手間だ。そんなに小さいビーチじゃないし。
「これ食事代って経費で落ちるかな?」
「えぇ、どうっすかねぇ。流石にそこまで面倒見てくれるとは思えないっすけど……」
「だよねー。俺今月結構負けててさぁ」
「最悪っすよもう」
あ、ソシャゲのガチャのことね。ギャンブルとかオンラインでレース結果の予想するくらいしか時間取れないし。それはそれとしてかなり課金する羽目になったんだけど。
まあ他に選択肢もないし、入ったお店が運良くクオリティの高い店であることを祈ろう。なんて考えてたら向こうから人影が歩いてきた。
「やっほ。イチカ、アヤ」
「あ、先生!」
「げ、先生」
「この差は何?」
ワイシャツに黒のスカートなんてビジネスカジュアルを守らされたような服装で近づいてきたのは我らが先生。なんと女先生なんですねーこれ。ワイシャツが虐められてます。
「コンニチハ」
「はい、こんにちは。なんでカタコトなの?」
「オアイデキテコウエイデス」
「そこまで無理に気を使わせる存在なのかな!?」
半分冗談だけど。イチカの不思議そうな表情を横目にコントを続けていると流石に先生も気づいたようで。
「2人は友達だったんだね」
「はい!1年の時からっす」
「そうですよ。ぽっと出の先生じゃ太刀打ちできない関係値です」
「私アヤに何かした?」
「アタシの初めてを奪われました」
「ちょっと!?」
いやぁ、反応が面白くてついからかってしまう。この前初めて遊園地連れて行って貰ったんだよね。前世では行ったことなかったけど、すごく楽しかったなぁ。ジェットコースターって傍から見たらあんなに怖いのに乗るとまた違うものだね。
「先生……?」
「イチカ、誤解!誤解だから!」
「ええ、ちゃんと署でお話は聞かせてもらいますから」
「アヤ、訂正して!なんのことかわからないけど絶対誤解されてる!」
「あんな事しておいてなんのことかわからない!?そう、先生にとってはその程度のことなんですね……」
「え、嘘だよね?私変なことしてないよね?あ、待ってイチカの手の力が今強まった」
先生もそろそろ涙目になってきたし、いいとこで切り上げよう。
「ま、嘘なんですけどね。どう?ジェットコースターとどっちが怖かったですか?」
「久々に命の危険を感じました」
「流石に私でもわかるっすよ。それにこの子は本当にやばそうなことあったら絶対墓まで持っていくタイプなんで」
「お、わかってるね」
「……はぁ」
まあイチカみたいな真面目系の子ほど怒ると順当に怖いよね。
「先生も遊びに来たんですか?」
「いや?ビーチの解放に私も関わったから、その後を見ておこうと思って」
「わざわざありがとうございます」
「いやいや、私が勝手にやったことだから」
「うんうん、そうですよね」
「アヤが言うのは違うんじゃないかな?」
「おっと、こりゃ1本取られましたね」
「何が!?」
噛めば噛むほど味がするじゃん先生。前世でもこんな女友達欲しかったなー。俺陰キャだったから全然モテなかったし。悲しくなってきた。
あ、お腹の虫も一緒に泣いてくれてる。いや字が違うか。
「2人はご飯まだなの?」
「はい、これからっす」
「どこの屋台が1番美味しいか知りませんか?」
「いやぁ、私も初めて来たからなぁ……」
先生は少し考えてこちらに向き直った。
「じゃあさ、3人で美味しい屋台探しに行こうよ。私がお金出すからさ」
「え、いやいやそんなの───────」
「行きましょう!!!」
キター!奢りで食べる飯ほど美味いものはない!!
「ちょっと、アヤ?」
「こういうのはお礼を言って素直に受け取るべきだよ」
「そうなんだけどアヤが言うのはやっぱり違うんじゃないかなぁ!?」
「先生、ご馳走様でーす!!」
「……ふふっ。もう、調子いいなぁ」
さーて、まずはやっぱり定番の焼きそばかな?それとも敢えて変わり種から攻めてみる?
──────────────
空は雲ひとつないくらいの快晴。だというのに先程から心にモヤがかかっているように、不透明で正体不明の感情が私の中から産まれてくる。
「綺麗に400連回させられたんですよ!?ほんっとにあり得ない!!」
「うわぁ……それはキッツイねぇ……」
「先生は?先生はどれだけ回したんですか?」
「わ、私?私はまあ、ぼちぼちかな」
「絶対神引きですやん!あああ敵!!アタシの敵だ!!!」
「お、落ち着いて、ね?」
アヤのことは好き。今までこんなに仲のいい友達が出来たこと無かったってくらい。
先生のことも好き。信頼できる大人の存在ってこんなに大きいんだって、ちょっと依存してしまっているかもしれない。
そんな2人が仲良さそうに話してるのだから、当然嬉しい。嬉しいはずなのに、この感情はなんだろう。……いや、とっくにわかってる。ただ認めたくないだけ。
「おーい、イチカ?聞いてる?」
「え?あ、すいません。ボーッとしてました」
「イチカはここ数日ずっとビーチで頑張ってたもんね」
「あーいや、まあ、それが仕事っすから……」
疲労のせいにされるのも気まずい。でもこれ以上考えすぎても自己嫌悪に陥るだけなのもわかってる。
「アタシなんか一日もやってないのにもう疲れちゃって。セイア様もインドア人間の使い方が荒いんですから」
「休みの日は家にいるの?」
「ええ、まあ。用事がない限りは家でゴロゴロしてますよ。休みというのが仕事のない日を指すのであれば、一年に片手で数えられるほどしかありませんけど」
「う、嘘でしょ……」
「半分冗談です。休日にも仕事の電話が来るってだけで」
「ひぇっ」
いや貴方も人のこと言えないでしょ。まあ先生は仕事だと思ってない節があるけども。
「正義実現委員会は?お休みちゃんとある?」
「え?ああ、まあ、はい。うちはなんだかんだ人が多いんで、シフトがちゃんとあるんすよ。休みの日に駆り出されることもありますが、基本的には普通に休めるっすよ」
「治安維持組織の人材が休みが取れなかったら終わりですよ」
「あはは……そりゃそうか」
そりゃキヴォトスの現状を鑑みれば乾いた笑いも出るか。というかアヤの方が問題でしょ。
「アヤの方こそ、お休みはちゃんと取らないとダメっすよ」
「正直電話の電源切って放り投げてもいいんだけど、休み明けに意味わからない仕事が溜まってたら嫌じゃん。だったらその場で電話に出てある程度対処できる段階で済ませた方が良くない?」
「典型的なワーカホリック……!」
「とはいえ最近は結構休めてますけどね。ようやく色々と落ち着いてきたので、一旦は一段落です」
口を拭き手を合わせ、ご馳走様。ご馳走してくれた先生にお礼を言って、業務の続きに取り掛かる。
「当然のように先生もついてくるんですね」
「これもお仕事だからね」
「すみません、手伝ってもらっちゃって」
「いやいや、私がやりたいだけだから」
本心なのだろう。申し訳ないと思う気持ちはあるが、これ以上口に出すのはそれこそ失礼だ。
「先生、暑くないんですか?」
「見た目ほど暑くないよ。……あ!」
先生は思い出したように声を上げた。
「アヤ、水着すごい可愛いじゃん。似合ってるよ」
「……え、は!?いやいや、そんな、いいですってお世辞とか」
「お世辞じゃないよ?」
「いや、もう……はぁ。そういえばそういう人でしたね先生は」
「本心なんだけどなぁ。あとイチカ、真顔で見つめるの怖いからやめてね」
「すみません、目の前で親友を口説く大人がいたので見張らないとと思って」
「人聞きの悪い!」
「本当のことっすよ」
このまま持ち帰る流れかと思って警戒してしまった。流石に先生といえど許せないことはある。
「まあ先生の言うことは本当っすけど」
「もういいってば!こういうの慣れてないの!」
「ふふっ。そうっすよね」
「わかってるならやめてねホントに……」
「ねね、先生にもタメ口で良いんだよ?」
「いやいや、流石に……」
「そうっすよ。ダメに決まってるじゃないっすか」
「なんで私に言うのかな!?」
今の流れで確信した。先生には私の心の中がバレてるんだ。全く、わかってて揶揄ってくるんだからこの人は。
と、そんな事をしていると突如視界の端で爆発が起こった。
「いやぁ、しかし……」
続けざまに発砲音。怒号。悲鳴。吹き飛ぶ人影。
「…………青春だね!」
「これがっすか?」
「先生、昔はヤンチャしてたんですね」
「銃一発で致命傷なんだからね?一応ね?」
吹き飛ばされた人影がむくりと起き上がり怒号がひとつ増える。
「鎮圧しよっか」
「そうっすね。騒ぎが大きくなる前に止めるっすよ」
「あいあいさー!」
元気よく返事をしたアヤが鞄をガサゴソと漁る。鞄から現れたブツに先生は顔を引きつらせた。
「物騒だね……」
「キヴォトスでは常識ですよ?」
「そう、かもねぇ…………」
鞄から取り出したロケットランチャーに弾を装填すると、アヤは両手の親指と人差し指で四角形を作った。
「うん、照準良し!」
ロケットランチャーを担ぎ高らかに宣言する。
「Party Time!!」
そのまま脚力だけで飛び上がると、次の瞬間轟音が鳴り響いた。少し遅れて前方の砂浜から凄まじい量の砂が舞い上がる。
「わ、わ、わぷっ!?」
私は翼を拡げると片方を自分の顔の前方に、もう片方を先生の顔の前に持っていく。届かなそうだったので先生の体をこちらに抱き寄せて無理やり抱え込んだ。
「イチカ!?」
「砂、痛くないっすか?」
「う、うん……」
よかった。普段なら砂浜にロケットランチャーぶっぱなすなんてしないのに、もしかして浮かれているのかもしれない。
「うえー!ぺっぺっ!イチカぁ~」
言わんこっちゃない。
「自業自得っすよ。早く口の中を濯ぐっす。あ、海水はダメっすからね?はいこれ」
水の入ったペットボトルを渡すと、アヤは一目散に口に運んだ。そして思い切り口を濯いだ後に目を見開いてこちらを見た。
「はい」
紙コップを渡す。アヤはこちらに背を向けると下を向き、その後再び同じ工程を繰り返した。
「まだジャリジャリする……」
アヤはとぼとぼと歩き出した。恐らくトイレか何かを探しに行ったのだろう。
「おっちょこちょいなんすから、もう」
「なんか、阿吽の呼吸って感じだったねぇ」
後ろから見ていた先生が感心したように声を上げた。
「あんな顔されたら何が起きたか分かりますよ」
「そう、かなぁ……」
とはいえそんなことを言われると嬉しくなる。付き合いも長いんだし、周りからもそう見られるのであれば尚のことだ。
その後、戻ってきたアヤと共に任務を再開した。パトロールとたまに戦闘、しかし目立ったような事件は起きなかった。
「いやぁ、1日目にして体力を使い切っちゃった」
「ふたりともお疲れ様」
「先生もお疲れ様でした。付き添い、感謝するっす」
「私も楽しかったし、いい気分転換になったよ。大変だろうけど頑張ってね」
先生と別れ、1日目が終了した。
「私達も帰りますか」
「だねー。今日はぐっすり眠れそう」
アヤも気分転換になっているのであれば幸いだ。お互い忙しい身だったし、ここらへんで束の間の休息を楽しんだって怒られないだろう。
「明日のシフトは?」
「今日と同じ時間っすよ。夜間の警備は別の子達っす」
「やっぱ日中の方が色々起きるから?」
「っすね。それを狙われて深夜に事件を起こされる可能性もなくはないっすけど、正義実現委員会はそんな程度で揺らぐほどヤワじゃないんで」
「頼もしいねぇ」
「変に仕事増やされるのは勘弁っすけどね」
親友と笑いながら帰るなんて、そんな青春。私には眩しいだけだと思っていたけど、案外当たり前にそこにあるようなものだったらしい。