仮面ライダーメモリオン   作:バイン

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第二巻 白馬と共に来たり

 光耀高校近くの病院。

 そこに、スーツに身を包んだ壮年の男がやってくる。

 革靴の立てる足音がゆっくりと響き、夜中で少しぼんやりとしていた受付が顔を上げると、目の前に髭面の男の顔が目の前にあった。

 

 

「ひぃ!?」

 

 

 ぎょっとする受付に対し、スーツの男は顔を近づけたまま受付へと質問を投げかける。

 

 

「失礼。娘がここに世話になっていると聞いたのだが」

 

「は、はい……お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

「三国だ」

 

「三国さんですね、少々お待ちください」

 

 

 三国、と名乗ったスーツ姿の男が一歩下がって受付をっていると、通知音が鳴り、スーツの懐からスマートフォンを取り出す。

 

 

「ああ。……失礼、電話だ。もしもし……すまない、今日の件だがキャンセルで頼む……いや、緊急事態でな」

 

 

 ────────────────

 

「記憶の混濁以外には怪我の方も特になし、倒れた際に頭を打ったなどもないし……今日は退院していただいて結構ですよ。また何か気になる症状等が出たら、遠慮なくお越しくださいね」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 

 目の前の医師からの言葉に、どこか奇妙な感覚を抱きながら頷く。

 

 そんな彼女、三国 姫華(みくに ひめか)は今、病院にいた。

 

 学校での帰り道でガス爆発が発生、その場にいた姫華は衝撃を受けて昏倒。騒ぎを聞いた通行人がすぐに発見してくれて、病院まで送ってもらった……らしい。

 

 らしい。のだ。というのも、倒れる直前も含めて、直近一週間の記憶が曖昧なのである。

 自分の名前や存在は忘れていないし友人家族の記憶もしっかりあるので典型的な記憶喪失ではないし、今日の朝食及び昼食、今週の時間割も授業で習ったことも覚えている。

 

 だが……『今週一週間、具体的に何をしていた?』と言われるとほとんど答えられない。始業式前に友人と話していたところまでは覚えていて、それ以外の記憶がほぼない。

 

 そして同時に、頭の中に妙に残っているおかしな存在がある。

『仮面ライダー』。そう名乗っていた……ような気がする、白銀の鎧を纏った騎士だ。

 今の時代、鎧を着るという経験を積む人間のほうが少ない。しかも軍隊的な防弾チョッキのようなものではなく、世界史で習った中世の騎士のような甲胄であれば尚更だ。よく言えて変人の趣味人。悪く言えば危険人物だ。

 ……だが。

 

 

(……かっこよかったな)

 

 

 仮面ライダーの記憶を思い返すと、安心感のほうが強くなるのだ。昔読んだ絵本に出てきた、お姫様を守る騎士のように、絶望的な状況に陥っても彼が救ってくれる……そんな気持ちが湧いてくる。

 安心感を感じる、知らない記憶に対して複雑な気持ちを抱いていた。

 疲れが溜まっていたのか、路上で寝ていたのが原因かは分からない気怠い身体を椅子から持ち上げ、医師へ一礼して、診察室から出ようとする。

 そこへ。

 

 

「失礼、ここにうちの娘がいると……あ」

 

「あ、ごめんなさ……パパ?」

 

 

 スライド式のドアを開けて外に出ようとして、診察室の外に立っていた人物に気付く。

 立っていた黒髪に髭面のスーツ姿の男が姫華に気づくと、同時に姫華の方も男の顔を見て……硬直する。

 

 

「ひ……ひ……」

 

 

 パパと呼ばれた男は、姫華の顔を見て身体をがたがたと震わせ。そして……

 

 

 

「姫〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

 

 

 滂沱のごとく涙を流して姫華を抱きしめた。

 

 

「ちょ、ちょっと……! 暑苦しいってパパ!」

 

「だって!!! 姫の帰りが遅いって思ったら……倒れて病院に運ばれたって聞いたんだよ? 無事で良かった〜怪我してない? 気分悪いとか無い?」

 

 

 先程の声色とは全く違う声色で姫華に世話を焼こうとする父親……『三国 臣人(みくにおみと)』を引き剥がす。

 引き剥がされた臣人は滅茶苦茶ショックを受けた表情をしていたが容赦はない。

 

 

「あ、あの……」

 

「ごめんなさいこの人父なんです! 一応犯罪とかではないので……あ、ありがとうございました!」

 

 

 目の前で髭面の中年男性が中高生ほどの女性に抱きついたという事案レベルの出来事を見せられ困惑している医師に頭を下げて手を引っ張って診察室を出て、そのまま病院の外に出る。

 

 

「……もうっ! パパはお仕事あったんじゃないの!?」

 

「お仕事より姫華の方が大事に決まってるでしょ! しかも倒れたんだから慌てて飛んできたんだよ!」

 

 

 社会人としては結構危うさを感じる父親の発言に、娘は嘆息する。

 臣人は警備会社『ミニス警備保障』の社長である。業界でも評判が良く、業務中の父の姿を見たことはあるが実直で丁寧な仕事人であった。

 ……だが家に帰るとその立派な男の姿はない。そこにいるのは高いテンションで部屋にズケズケ入る、友人と出かけるのにこっそり警護をつけようとしてくる、そしてSNSでの連絡は絵文字とカタカナが入り混じる所謂『おじさん構文』の思春期の少女にとっては相性の悪い凄まじい親バカな父親である。

 ため息をついて少し小言でも言ってやろうか、と姫華が思っていると。

 

 

「しかしほんとに良かった……なんだか日本で女の子が行方不明になったって最近よく友達から聞くんだよねぇ」

 

「行方不明?」

 

「そうなんだよ! しかも姫みたいないい子でお姫様みたいな子がよく狙われるって聞いて……もし姫が拐われちゃったらパパ泣いちゃうよ」

 

「ふーん」

 

「でも大丈夫! 姫のことはパパがしっかりと守ってあげるからね」

 

「はいはい……じゃあもう帰ろ、疲れちゃったし……」

 

「それはいけない……! じゃ、帰ろっか!」

 

 

 そういえば最近行方不明者が増えてるというニュースを見た気がするな、と片隅に考えながら、臣人が乗ってきた車に乗り込む。

 少しして車が動き出す。小気味よい振動に揺られていると、疲労も相まって眠気が襲い来る。その心地よい眠気に身を任せ、意識を手放した。

 

 

 ────────────────

 

 翌日。いつも通り登校すれば、そこには変わらぬ日常が待っていた。

 廊下ですれ違う顔見知りからは冗談交じりだったり真剣だったりとバリエーションはあったものの先日の心配をされて、嘘偽りなく万全な体調を答えれば、安心した答えが返ってくる。

 

 教室に入り、自分の席に座る。

 隣を見れば、神楽がひらひらとこちらへ手を振って、気さくに話しかけてくる。

 

 

「姫おはよー、爆発大丈夫だったん?」

 

「うん、怪我とかも無かったし……というか爆発受けたのかもわかんないんだよね」

 

「えー大丈夫なん? 記憶喪失とかしてね?」

 

「それはないけど……ちょっと頭ぼんやりしてるとこがあって……」

 

 

 適当に雑談をしていて、ふと『仮面ライダー』のことが頭に浮かんでくる。

 ギャルというのは交友関係が広い。そして結構情報が入ってくるものだ。……という決めつけはそこまで当てにならないだろうが、神楽なら噂話くらいは知っているのではと思い話しかけてみる。

 

 

「ところで竹田さんさ、『仮面ライダー』って……知ってる?」

 

「『仮面ライダー』……? 姫ってコスとかバイクの趣味でもあるん?」 

 

「そういうのじゃないんだけど……なんか鎧着た騎士みたいなのが出てきたーとか、そういう噂とか知らない?」

 

「なんそれ怖っ……絶対遭遇したらヤバいやつじゃん」

 

 

 現実味のない話に引き気味の神楽だったが、スマホを取り出して操作する。

 脇から画面を覗いてみれば、検索エンジンで調べた結果が出てくる。

 内容としては……ハズレそのものだ。コスプレイヤーの中でのイベントの仮面舞踏会や、バイクの話題だとか……全く関係ない情報ばかりだ。

 

 唯一気にかかるものと言えば……オカルト系を取り扱う古い個人ブログに載っている、『バッタのお面をしたバイク乗り』の話くらいだ。しかも内容としては人体改造だのIQ600だのと滅茶苦茶な与太話だ。多分創作か何かだろう。

 

 

「あー、駄目だわこりゃ。ぜーんぜんわからん」

 

「そっかぁ……」

 

「てか姫『仮面ライダー』ってなんなん? 変なもんとかじゃないよね?」

 

「うーん……なんだろ?」

 

「いや本人がわかんないんかい!」

 

 

 結果が出ないまま二人でそんな中身のない会話をしていると、同じように登校してきた英雄が後ろの席にやってきて、座る。

 カバンを置いて、席に座ってすぐに文庫本を読み始める。いつもなら気にしないのだが……何故か、今日は彼のことが気になる。

 

 

「おはよう、志道くん」

 

「おはよう」  

 

 

 席を後ろに向けて、挨拶をする。英雄も文庫本から目を離すことはないまま、挨拶を返してくる。

 

 

「……ねえ、志道くんってさ……昨日の帰り道、どこにいたかって覚えてる?」

 

「……本屋に行ってた」

 

「えっと……お昼私たち会った……よね?」

 

「うん。図書室に来てた」

 

「一緒に帰ったりはしてないんだっけ……」

 

「うん」

 

 

 ここまでのやり取りの中で文庫本から目を離すどころか、全く反応すら見せない。自分でもなぜ質問しているのか分からないまま、どこか悔しく負けた気持ちになる。

 

 そうしていると、神楽が姫華の肩を揺すってくる。神楽の表情を見ればなぜかニヤニヤとした笑顔を浮かべている。

 

 

「姫……どしたん? なーんか色々と聞くじゃんね?」

「え、いや……なんとなく志道くんのこと気になって……」

 

「へー……ほー……? 彼意外と王子様系って感じ?」

 

「ちょっ!? そ、そういうのじゃないよ!」

 

「どーだかー」

 

 

 姫華が顔を赤くして否定すれば、神楽は心底楽しそうな笑顔でこちらをからかってくる。

 そうこうしていれば、ガラガラという音を立てて教室の扉が開けられ、担任の磯辺が入ってくる。

 

 

「はーいおはようみんな。お、三国。体調の方はもういいのか?」

 

「あ、はい」

 

「それなら良いが……体調悪くなったら遠慮なく先生とか保健委員に相談するんだぞ。……っと、朝礼始めるぞ、席つけ」

 

 

 そして、いつも通りの朝礼が始まる。

 転校生もなにもない、平和な朝礼が。

 

 ────────────────

 

 放課後。

 終礼が終わり、友人と放課後の暇な時間の過ごし方を相談する者、部活動に気合を入れて向かう者、帰り支度を慌ててする者に分かれ教室が一時の間騒々しくなる。

 志道英雄も同じように、帰り支度を済ませ教室を出ようとする。

 そこへ。

 

 

「志道くん、ちょ──ーっといいかな?」

 

 

 三国姫華が、彼を呼び止める。 

 呼び止められた英雄が彼女を無表情で見れば、姫華がどこかぎこちない笑顔を浮かべてこちらを見ている。

 

 

「……どうかした?」

 

「え、えっと……そうだ! 昨日、図書室で本見てたでしょ!」

 

「うん」

 

「わ、私も最近読書したくなって……昨日志道くんが本屋さん行ったっていうし、おすすめの本とかあるかなーって思って……一緒に行きたいなーって思って」

 

 

 しどろもどろになりつつ、怪しさにあふれた誘いに対して、英雄は少し考えた後、答えを返す。

 

 

「いいよ」

 

「えっ」

 

「僕の良く行くとこで良かったら」

 

 

 一瞬、自分の耳を疑った。

 急に怪しい誘い方をして、受けてもらえるか不安だったのが快諾された。その事実に面食らったものの、すぐに気を取り直す。

 

 

「あ、ありがと! じゃあ、行こっか!」

 

 

 テンションの上がる姫華に促されるように、英雄が先導し、教室から出る。

 

 そしてそのまま、校門から出ていく二人。

 

 

 ……その光景を見ていた存在がいることに気付かずに。

 

 

「……アレだな」

 

「取り逃がしたっていう『姫』だろ?」

 

「ああ。……だがどうする? 多分ライダーどもが来るぜ」

 

「心配するな。俺たちのいつものやり方でやりゃいいんだ……サッサと捕まえて、サッサと……『魔王』様のところに捧げりゃいいんだよ」

 

 

 ────────────────

 

 英雄について行った先で見たのは、市内の片隅に小さく存在する、木造建築の古めかしい小さな個人書店。

 英雄が引き戸を開けて、中を見てみれば、木の匂いが出迎える。

 背の低い本棚が並び、読書スペースとして設えられた木製のテーブルと椅子が置かれ、客が自分達以外いないこともあって、静かな雰囲気が漂っている。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 カウンターに座っていた、店主と思わしき丸い眼鏡をかけた白髪の老人が微笑んでこちらに声を掛ける。

 二人が会釈を返し、本を見繕い始める。

 その最中、姫華が一冊の絵本を見つける。

 

 

「あ、これ……懐かしいなぁ」

 

 

 本のタイトルは『おひめさまときし』。内容はお姫様と幼なじみの少年のお話で、小さい頃から仲良しな二人が一度離ればなれになった後に、成長したお姫様が舞踏会の帰りにドラゴンにさらわれ、それを成長した少年が騎士となって助けるお話だ。

 懐かしい気持ちになって手にとって読んでいると、その様子を見た英雄が声をかけてきた。

 

 

「三国さん、絵本好きなの?」

 

「ちっちゃい頃大好きだったし……これ、ママが書いた本だから」

 

 

 そう言って、母との思い出を思い出す。

三国 勇(みくに ゆう)』。姫華の母親にして絵本作家。時間を見つけては絵本を描き、よく読み聞かせてくれたものだ。この『おひめさまときし』は特に姫華のお気に入りで、何度も読み聞かせてくれることをねだった記憶がある。

 微笑みながら、懐かしんで読み進めている様子を、英雄は優しく見守っていた。

 

 

「いいお母さんなんだね」

 

「うん。……私が10歳になったときに、いなくなっちゃったんだけど、ね」

 

 

 そう。姫華の10歳の誕生日の翌日。勇は急に行方不明となったのだ。

 夫である臣人との関係も良好だったし、悩みを抱えていたということもない。理由も分からず消えた母に、幼い姫華は悲しみで塞ぎ込んだ時期もあった。

 そんな記憶を語っていて、ちらりと隣をみてみる。

 

 そこには、拳をぐっと握りしめ、俯き辛そうな表情を浮かべた英雄の姿があった。

 

 

「…………ごめん」

 

「え、あ……だ、大丈夫だよ!? ほら、ママって時々作品のネタ探しだーっていってふらっと旅行したりとかもあるし、今回だって実は世界旅行行ってて急に帰ってくるかもーって思ってるし!」

 

「……三国さんは、強いね」

 

「強い……かなぁ? ちょっとアレだけどパパがいてくれるし、学校も楽しいしで……なんだかんだ言って、今幸せだから」

 

「……そっか」

 

 

 あとはあの父親がもう少し落ち着きってものを身に着けてくれれば、なんて思いながら笑い話に変えると、

 英雄もそれを聞いて安心したように微笑む。

 

 

「あ、そうだそうだ……英雄くんにおすすめの本聞かないとだった!」

 

「わかった、僕の好きなのは……」

 

 

 英雄が慣れた様子で本棚に向かって、何冊かの本を見繕ってくる。

 その光景をみていると、何故だが懐かしい気持ちになる。まるで、小さい頃に同じ同じ光景を見たことがあるような……そんな気持ちが湧いてくる。

 多分この本屋の空気がそんな風な優しい空気だからだろう、と自分を納得させつつ、英雄が持ってきた本の一冊を手にとって、ページを開いた。

 

 ────────────────

 

 

「やばいやばい遅くなっちゃった……」

 

 

 太陽が沈みかけ、夕焼け色に染まった道を、姫華は紙袋を抱えて歩いていた。

 あの後オススメの本をいくつか試し読みしていたらいつの間にか時間が過ぎてしまっていた。

 スマホに目を向ければ、山程の通知が。見なくても分かる。あの親バカが心配して送ってきたのだろう。

 少しげんなりした気分になりながら小走りで帰り道を歩んでいると、一台のワゴン車が走っている姫華の隣に止まる。

 そちらに目を向ければ、車窓が空いて、一人の男が顔を出し、姫華の方を見て話しかけてくる。

 

 

「あのー……すみません、駅の方に行きたいんですけど、道が分からなくて」

 

「あ、はい。駅の方なら……」

 

 

 道を教えようと近づこうとして……昨日、臣人から聞いた言葉を思い出した。

『日本中で行方不明者が増えている』と。

 今どき流石にこんな手口はないだろうが……少し警戒して、あまり近寄らないことを決める。

 

 

「あー……わ、私も分かんなくて。交番なら近くにありますから、そっちに聞いてもらえたら」

 

「あー、交番ってどっちの方向にありましたっけぇ……? ちょっと覚えてないなぁ」

 

「えっと……あっちの方です」

 

 

 姫華が交番がある方向を指差すと、男は頷いたのち、尚も姫華にしつこく声をかけてくる。

 

 

「なるほど、ありがとう! ……そうだ、お礼したいんで……ちょっと近くに来てもらえませんか?」

 

「遠慮しておきます、じゃあ、私はこれで……」

 

「まあまあそう言わずに……ほらよ!」

 

 

 話を切り上げて、背を向け去ろうとする姫華の身体に何かが巻き付いていく。

 見れば、後部座席の男の手に縄が握られ、それが姫華の周りに漂っている。

 縄が引かれると、姫華の全身に縄が巻き付き拘束し、ワゴン車の内部へと引きずり込まれる。

 

 

「きゃ……!? いった!」

 

 

 車内の床に叩きつけられた姫華が周りを見渡せば、運転手を含めて四人の男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、姫華を見下ろしている。そのうちの一人から姫華に巻きついている縄を握っているのが見えた。

 

 

「ちょっと!? 何するんで……むぐ!?」

 

 

 姫華が抗議の声を上げようとするも、その口にも猿轡のように縄が巻き付く。

 縄を解こうともがくも拘束は緩まず、縄を持った男が縄を強く引くとむしろ締め付けが強くなり、痛みから大人しくせざるを得なくなる。

 

 

「無駄なことして手間かけさせやがって……じゃあいつものごとく、こいつで『お楽しみ』しちまうか」

 

「おいおい……不純物混ぜんなよ」

 

 

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた男達が姫華を囲い、こちらへ手を伸ばす。

 恐怖と絶望に心が支配され、瞳に涙が浮かぶ。

 救いとして心に浮かべるのは……白銀の『仮面ライダー』。

 

 姫華の身体へと手が触れようとした瞬間、衝撃が車を襲い、男達が態勢を崩す。

 

 

「おい! 前見て運転してんのか!?」

 

「バカ! お前らは後ろ見ろ! ……来やがった!」

 

 ────────────────

 

「うーわ……なんなんこの騒ぎ……?」

 

 

 ギャル、竹田神楽。

 アルバイトを終え外に出てみれば、道路沿いでやじ馬が騒いでいる様子が見える。

 何事かと騒ぎの元を見るために、群衆の視線の先を見れば、前方車も対向車両も押しのけて走る暴走ワゴンが一台。

 

 

「うお、暴走車両ってやつじゃんアレ。警察呼んだほうが良さげだわ」

 

 

 スマホを取り出して、通報しようとして……目に映った信じられない光景に手が止まる。

 凄まじいスピードで、先程走っていったワゴン車を追いかける存在がいる。

 車ではない。車は足がない。

 人でもない。人の足は二本、それは四本だ。

 では何か? それは……

 

 

「……馬!?」

 

 ────────────────

 

「チ……! もう嗅ぎつけやがったってのか!?」

 

 

 男達が窓から身を乗り出し、追跡者の姿を確認する。

 白い鬣をたなびかせ、力強く嘶く3m程の大柄な白毛の馬がこちらを追いかけている。

 否。正確に言えば、白馬の背に乗った男……志道英雄が追いかけているのだ。

 いつものマッシュヘアでなく、目元が見えるように髪を分け、闘志の宿った瞳が顕になっているのが見える。

 

 

「全く……めんどくせえなぁ!」

 

 

 縄を持った男が吠えると同時に、男達の姿が変わる。

 服を破ったその肌は緑色に変わり、手足は筋張り長いものに、そしてその顔は醜悪に変わる。

 同時にワゴン車も二頭の緑色馬を推進力とし、金属のボディから布の幌で包まれた馬車へと変わる。

 

 

「……ゴブリンか。よくいるやつだ」

 

 

 英雄が変貌した姿を見て、淡々と分析する。

 緑色の小鬼……『ゴブリンテラー』と化した四人の男達はそれぞれ、馬の御者、姫華を捕らえた縄の持ち主、そして英雄の方を見て今にも攻撃しようとしている弓と矢を持った個体と、黒く丸い球体に導火線のついた爆弾を持った個体へと変貌していた。

 こちらへの敵意を剥き出しにするゴブリン達を睨み返したのち、いけるか? と言うように力強く嘶いた愛馬を軽く撫でてやる。

 

 

 

「ああ。いつでもいける。……彼女を助け出すんだ」

 

 

 そして懐からリーディングドライバーと、前回とはまた別……表面に西部劇で見るようなカウボーイハットを被ったガンマンが刻まれたメモリーカードを取り出す。

 リーディングドライバーをセットし、メモリーカードを挿入すると、英雄と並走するように巨大な本が現れ、中からカウボーイのマスコットのような存在、『シェリフサーヴァント』が現れる。

 

 

 

『Sheriff of western!』

 

『Now reading!  Now reading!』

 

「変身」

 

 

 そう詠唱し、ベルトの上部に内蔵されたスイッチを押し込む。

 

 直後、カウボーイがパーツごとに分離し、白のボディースーツを纏った英雄の身体へと装着されていく。

 

 

『Reading! Sheriff of western! 西部の魂、ここにあり』

 

 

 そこにいたのは、ダスターコートをまとい胴体はカウボーイシャツを模した赤い装甲に、胸元には星のマークのバッチが輝いている。

 頭部のテンガロンハットのようなヘルメットをくい、と人さし指で持ち上げると、青い複眼のような瞳が露わになる。

 

 銃士の名は、仮面ライダーメモリオン、ウェスタンシェリフ。

 そして、英雄がメモリオンに変わったように、白馬もまた姿が変わる。

 走っているうちにその姿は光に包まれ、光が止んだその時、そこにいたのは馬ではない。

 流線型の純白のボディに装甲を纏った馬を模したフロントカウルに金色のマフラーのついたバイク、『ホーストライカー』がメモリオンを乗せ疾走している。

 

 

『彼女は返してもらう……!』

 

『ほざくな!』 

 

 

 馬車に追いすがろうとホーストライカーを駆るメモリオンに向けて、ゴブリンテラーが投げた爆弾と矢の雨が降り注ぐ。

 メモリオンは左右にS字を描くようにハンドルを切り、それらを掻い潜り避けていき、こちらの番だ、と言うように腰のホルスターから大型のリボルバー拳銃、『シェリフリボルバー』を取り出し、ゴブリンテラーの弓と比較にならないような精度で爆弾持ちと弓持ちの個体に対して撃ち返していく。

 

 

『がっ!? ……クソ、こいつをくら……』

 

『貰った』

 

『ぎゃあ!?』

 

『ぐおお!?』

 

 

 肩口を撃ち抜かれた爆弾持ちのゴブリンテラーが爆弾を投げつけようとした瞬間、メモリオンはその爆弾を撃ち抜く。

 それで生じた爆発により、爆発持ちと弓持ちのゴブリンテラーが馬車の外に放り出される。

 

 それを見逃さず、メモリオンはドライバー内のメモリーカードを一度抜き、直ぐ様再度挿入し直す。

 

 

『Climax Reading! Sheriff Shooting!』

 

 

 一度ホルスターに銃を仕舞うと、エネルギーがシェリフリボルバーの弾倉内に宿る。

 そして、運転をホーストライカーに任せて、両手を自由にする。

 

 

『……今だ!』

 

 

 シェリフリボルバーをホルスターから抜き、ゴブリンテラーに向けて、ファニングショットで一気に六発弾丸を発射。

 放たれた弾丸は空中で回避しようのないゴブリンテラー達に着弾する。

 

 

『ぎああああああああ!?』

 

『馬鹿なああ……!?』

 

 

 それぞれ胸に二発、頭に一発撃ち込まれたゴブリンテラー達は空中で爆散。

 その爆発の中を抜けて、尚もメモリオンは馬車を追い続ける。

 

 

『チッ……あいつらやられやがった!』

 

『ど、どうすんだよ! こっちからの攻撃が……』

 

『慌てんな! いざとなりゃこの女を盾にすりゃいいんだ、それにこのまま逃げ続けりゃ……』

 

 

 縄を持ったゴブリンテラーがメモリオンとの距離を測ろうと後ろを向くも、メモリオンの姿はどこにもない。

 どこに行ったか? と周りを見渡していると、馬車の前方から悲鳴が聞こえてくる。

 

 

『ま、前に……!』 

 

 

 見てみれば、メモリオンとホーストライカーが前方にいる姿が見える。

 速度を落としても、速くしてもぴったりと車間距離が離れない。

 メモリオン一度ベルトを操作し、新たに蹴りを放っている武闘家の描かれたメモリーカードを取り出し、今ベルトに入っているものと交換する。

 

 

『Warrior of valor!』

 

 

『ストーリーシフト』

 

 

 同じように巨大な本が現れ、中からはデフォルメされた武闘家、『ウォーリアサーヴァント』が現れる。

 

 

『Reading! Warrior of valor! 義の武勇、ここにあり』

 

 

 先程のようにベルトを操作すれば、ウォーリアサーヴァントがバラバラになり、メモリオンへと装着される。

 

 そしてその姿は緑色の武闘家の胴着に手甲と脚甲を模した装甲が各部に装着され、襷のような白いラインが走る。

 ファイターの付けるヘッドギアのようなデザインのヘルメットの下に、青い瞳がキラリと輝く。

 

 闘士の名は、仮面ライダーメモリオン ヴァローウォーリア。

 再度姿が変わったことに戸惑った御者のゴブリンテラーであったが、それでも奮起し手綱を握りしめる。

 

 

『こ、こうなりゃ……お前ら! あいつを踏み潰して……!?』

 

『トアッ!』

 

 

 馬車でメモリオンを潰すようけしかけた矢先、メモリオンがホーストライカーを足場に跳躍。

 馬車に向けて跳躍したメモリオンを喰らおうとゴブリン馬達が首を伸ばす。

 

 

『セァッ!』

 

 

 しかし、メモリオンはその首を逆に足場として利用し、手綱を引き御者を空へ打ち上げる。

 

 

『おわっ』

 

『フッ……! ハアアアアアアア!』

 

『がっぐっぎっごっげっがぁごあっ!?』

 

 

 打ち上げたゴブリンテラーを、尚も高く空へ打ち上げるように、足に炎を纏わせて、バイシクルキックで蹴撃を撃ち込んでいく。

 そして最後に強く両足で蹴り上げられ、暁の空高く上がったゴブリンテラー。

 ゴブリン馬の頭へ再度着地し、再度高く打ち上がったゴブリンテラーよりも高く跳躍。

 そして空中でメモリーカードを再度抜き差しする。

 

 

『Climax Reading! Warrior favorite!』

 

 

 右足に燃えるようなエネルギーが集まり光って唸る。

 そして、ゴブリンテラーを仕留めんと輝きしなる。

 

 

『デアアアッ!』

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?』

 

 

 そして、ゴブリンテラーをオーバーヘッドキックのように蹴り落とす。

 蹴りを受けたゴブリンテラーは流星のごとく墜落、墜落地点にいた不幸なゴブリン馬達を巻き込んで爆発する。

 

 ゴブリン馬達の爆発に巻き込まれたことで馬車はバランスを崩し崩壊、縄を持ったゴブリンテラーと姫華は空中に投げられる。

 空へ投げ出されたゴブリンテラーが思わず手を離してしまうと、姫華は縄で拘束されたまま空を舞うこととなる。

 

 

『っ!?』

 

 

 凄まじい勢いで迫る地面。拘束されている今ではもがくことも出来ない。それ以前に、拘束されていなかったとしても、羽根などの飛行手段のない人間には空中で出来ることはほぼない。覚悟を決め、目を閉じる。

…………衝撃はいつまでたっても来ない。

 

 

『Reading! Knight of legacy! 騎士道、ここにあり』

 

 

 恐る恐る目を開く。

 そこには自分を横抱きに……お姫様抱っこにして、白銀の騎士の姿がそこにあった。

 騎士の名は、仮面ライダーメモリオン レガシーナイト。

 

 メモリオンがその盾で縄を一閃すれば、縄が切れて拘束が解かれる。

 強く縛られたせいでまだ体が固まっている姫華を見て、メモリオンは優しく口枷となっていた縄を取り払う。

 

 

「ふはぁっ……かめん、らいだー……?」

 

『ごめん、遅くなっちゃった。でも、もう大丈夫だから』

 

「うん……ありが、と……」

 

 

 極度の緊張から解放された姫華が気を失うのを見て、背中のマントを外してシートの代わりとして敷き、優しくそこへ降ろす。

 そばにやってきていたホーストライカーのボディを優しく撫でてやると、嬉しそうにエンジン音を響かせた。

 

 

『しーっ。……彼女のこと、任せていいな?』

 

 

 主からの言葉に、合点承知! と言わんばかりにライトを瞬かせるホーストライカーをまた撫でてやる。

 

 そして。

 先程の優しい守り手でなく、悪を討つ騎士が……メモリオンが、最後に生き残ったゴブリンテラーに向き直る。

 逃げ出そうとしていたゴブリンテラーであったが、メモリオンがこちらへゆっくりと迫る姿を見て腰を抜かす。

 

 

『ひっ……わ、わかった! もう金輪際お前らには関わらねえ! だから見逃してくれ、な? その女ももうさらわねえ!』

 

 

 手を合わせ頭を下げ、命乞いをするゴブリンテラー。

 それを見たメモリオンは、ゴブリンテラーに背を向けた。

 そのがら空きの背中を見たゴブリンテラーが……懐から一本のナイフを取り出す。

 

 

『バァーカッ! とんだアマちゃんがいたもんだぜぇ! 死にな!』

 

 

 そういって飛びかかったゴブリンテラーの身体が、空中で静止する。

 ゴブリンテラーの身体を、白銀の槍が……ナイトランサーが貫いていた。

 

 

『心配するな』

 

『Climax Reading! Knight Strike!』

 

『彼女を傷つけたお前を許すつもりなんて、少しもない』

 

『ヒ……』

 

 

 光がナイトランサーへ集まる。

 一度ゴブリンテラーの身体から引き抜かれたナイトランサーは光の粒子へ変わり、メモリオンの右足へと集まり、その光を輝く剣へと変える。

 

 

『セィィィヤッ!』

 

『ひっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 

 跳躍して放たれたメモリオンの剣と化した蹴撃が、ゴブリンテラーを両断する。

 地面へと着地したメモリオンの背後で、断末魔の悲鳴と共に、ゴブリンテラーが爆散する。

 

 

 戦闘を終えたメモリオンは、勝利の余韻に浸ることすらせず、姫華の元へと急いで駆け寄る。

 身体を見てみれば、縄で強く締め上げられたことで身体へ傷が出来ているのが分かってしまう。

 ホーストライカーが、焦りを滲ませている主に近寄る。

 それを見たメモリオンは、意を決して彼女を抱えあげた。

 

 

『彼女の傷、治してあげなきゃ。……もう一人乗ってもいいか?』

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