仮面ライダーメモリオン   作:バイン

3 / 8
第三巻 それは誰が為に

 そこに自然の暖かな光が差すことはない。

 そこは人の生み出した光で照らされることはない。

 一寸先すら見通せぬ暗く凍てつくような闇の中に、それはいた。

 

 黒いローブに身を包んでいても、頭に生えた角や、三つの瞳を持つ恐ろしい怪物のような異形の姿を隠しきることは出来ない。

 

 闇の中に映し出された映像。

 そこには白銀の騎士が、メモリオンの姿が映っていた。

 異形の怪物達を討つ銀色に煌めく騎士を憎しみに満ちた瞳で睨みつけ、苛立ちを隠さず映像に向けて鋭い爪が生えた手を振るい、叩き壊す。

 

 

『忌々シイ 邪魔ヲスルカ!』

 

『幾度トナク 我等ノ前二 立チ塞ガリオッテ』

 

 

 憎々しげに吐き捨てた後、暗闇へ向き直り叫ぶ。

 

 

『モット オオクノ オンナヲ トラエヨ』

 

『「姫」ヲ サガセ 上質ナ 贄トナル』

 

『■■■■ノ 供物 トシテ ササゲルノダ』

 

 

 そう命ぜられると、闇の中で何かが蠢き、どこかへ去っていく様子が見えた。

 

 その光景を満足気に見つめ、世界すべてを嘲笑うかのような悍ましい嗤い声をあげるそれを人間が見れば叫ぶだろう。

 

『魔王』だと。

 

 ────────────────

 

「……ここ、は……?」

 

 

 目を開けば、知らない天井。

 いつか見たアニメ映画のセリフを思い返しながら、姫華は寝かされていたベッドから身体を起こす。自分の身体を見れば、少しサイズが大きい男物のパジャマへと着替えさせられており、制服はベッドのそばにあった椅子の上に綺麗に畳まれて置かれてあった。

 

 室内を見渡せば小さな部屋に家具はそばのテーブルランプが置かれたベッドサイドデスクと少し離れたところに小さな壁向けデスクとベッドのそばの椅子のみ。

 

 

 同じように、目を覚ましたらベッドの上。

 唯一確かな違いとしてあるのは、記憶がしっかりと残っていることだ。

 英雄と古書店へ行ったこと。母の絵本を見つけ懐かしんだこと。帰り道でワゴン車に乗った男から話しかけられたこと。

 

 

 そして……自分が怪物、『テラー』にさらわれそうになり、それを『仮面ライダー』に救われたこと。

 

 記憶を一つ一つ辿っていると気付く。

 身体の痛みがなくなっている。痕になるどころか、傷になるほどに縄で締め上げられたはずであるが……

 

 

「……うそ!?」

 

 

 掛けられていた布団をはがし、パジャマのボタンをいくつか外して、身体をチェックする。……傷跡がなくなっている。触ってみても素肌の感触を感じるのみで、手当された様子もなく、縛られた痕跡すらもない。

 縛られた記憶は確かにある一方で、痛みや縛られた跡は無い。

 

 ありえないような現象を目にして、奇妙な感覚に陥っていると、どこからかドアの開く音が聞こえる。

 音の方向に目を向けると、入り口のドアが開き、顔をのぞかせる人物がいた。

 その人物、志道英雄はベッドに目を向けて、目覚めた姫華を見て小さく口元を緩めてベッドに歩み寄る。

 

 

「良かった、目が覚め……ッ!?」

 

 

 しかし。

 姫華の姿を間近で見るなり、顔を赤らめて両手で顔を覆って、背中を向けてしまう。

 何事かと姫華が首を傾げて、自分の服装を見てその理由を理解し、両腕で胸を抱きかかえるように隠す。

 

 

「え? ……きゃっ!」

 

「ご、ごめん……また後で……」

 

 

 顔を覆ったまま入り口に戻っていく英雄を見送る。

 

 

「……は、はしたなかったかな……」

 

 

 羞恥から顔を真っ赤にして、布団を頭から被っていた姫華であったが、頭を振って意識を無理矢理に切り替えてパジャマから着替えることにした。

 

 ……先程の出来事がちらついて着替えがいつもの倍かかったことは本人も気づかなかったのだが。

 ────────────────

 

 制服に着替えて英雄と改めて合流すると、ダイニングへと案内される。

 

 

「待ってて、軽く作るから」

 

 

 そう言ってキッチンに向かう英雄の背を見送った姫華は、ダイニングテーブルに備え付けられた椅子に腰をかける。

 消えた傷のことや先程見られたことから頭から消えていたが、スマホを見れば時間は……なんと朝の6時である。

 

 

(外泊しちゃった)

 

 

 ぼんやりとした気持ちで臣人からのメッセージを見てみればまた山程の通知が来ている。

 最新の内容はこれだ。

 

 

『えーん 

 姫がいない夜とってもさみしい(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)

 男の人の家に泊まっちゃうのすっごく不安ダヨー! (⁠ᗒ⁠ᗩ⁠ᗕ⁠)

 変なことしたら地獄を見せてやるってちゃんと釘は刺しておいたけどなんでもすぐ言ってネ✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧』

 

 

「昨日のうちに連絡しておいたけど……お父さん、いい人だね」

 

「ゴメンね……」

 

 

 オブラートを山程つけた褒め方をして苦笑する英雄。

 何を言われたのか正直考えたくもない。

 

 

「ところで私、これから何されるの? ……仮面ライダーになったの見られたから口封じされるとか……」

 

「そんなことしないよ。まずお腹空いてるだろうし、朝ごはんと……あと、色々と話さないといけないこと、ちゃんと話すから」

 

 

 冗談半分、心配半分の言葉であったが、とりあえずは命を奪われたりはしない、というのを知って安心した。

 ほっ、と息を吐いて、ふとテーブルの上に目を向ける。

 そこには50センチほどだろうか、少し大きめなぬいぐるみが一体ぽつんと置いてある。ゲームや物語の勇者をモチーフにしたのか、ふわふわとした中にも凛々しさがある。

 とはいえぬいぐるみ故か可愛らしさのほうが強く、微笑ましい気持ちで優しくぬいぐるみを持ち上げてみる。

 

 

「ねえねえ、このぬいぐるみってなんて……」

 

「おおお!?!? お、お嬢さん、一旦降ろしてくれないか……!?」

 

 

 ……気の所為だろうか。

 今、自分のものとも、英雄のものとも違う第三者の声が聞こえた気がする。しかも。自分の手の中から。

 恐る恐る自分の手の中を、ぬいぐるみをみる。

 そこには……

 

 

「おおお高い……この恐怖! 巨人に掴まれた時以上だ……!」

 

 

 ぶるぶると震えながら地面を見つめるぬいぐるみが、おびえた声をあげている光景があった。

 

 

「ぬいぐるみが……しゃべった……」

 

「三国さん、どうかした?」

 

「え」

 

「む」

 

 

 怯えるぬいぐるみ。

 それを見て恐怖する姫華。

 声を聞いて様子を見に来た英雄。

 その場にいた三人(二人と一体?)が一瞬、顔を見合わせた。

 

 ────────────────

 

 それからしばらくして。

 三人(二人と一体?)は朝食を終えて、ダイニングテーブルを挟んで向かい合う。

 そのうちの一人と一体、英雄と喋るぬいぐるみは食事を終えて一息ついて、といったところであるが……残りの一人、姫華は頭を抱えていた。

 昨日から今に至るまで自分の常識から外れた出来事に多々遭遇し続けて、何が起きてもおかしくないと覚悟は一応していた。

 ……だが流石に喋るぬいぐるみには驚かざるを得なかった。折角の朝食も目の前でぬいぐるみがパンをリスのように抱えて食べたり、コーンスープをストローを使って熱がりながら飲む光景で味がすべて持っていかれたような気がする。

 

 件のぬいぐるみは、食後のコーヒーにミルクと砂糖を混ぜている。ぬいぐるみの手でスプーンを器用につかみ、ぐるぐるとかき混ぜている。

 そんな姿を眺めていると、混ぜ終えたぬいぐるみがスプーンを置いて姫華の方を向く。

 

 

「先程は驚かせてすまなかった。はじめまして、私の名はアルス。英雄と共にここで暮らしている」

 

「はじめまして……三国姫華です」

 

 

 ふわふわの身体を曲げてぺこり、と一礼したぬいぐるみ……『アルス』に対して姫華も一礼を返す。

 

 

「アルスは僕の師匠で、僕の仮面ライダーとしての姿とかベルトとかを作ってくれた人でもあるんだ」

 

「英雄のお友達……かな? 英雄は物静かな子だが優しい良い子だから、仲良くしてくれると嬉しい」

 

「は、はい……勿論」

 

 

 ぬいぐるみが、師匠。そして、仮面ライダーの生みの親。

 ……日曜朝、特撮ヒーローが終わったあと流れる美少女ヒロインものみたいな話である。

 そんな考えが頭を支配していて、話半分であった姫華に気付かず、アルスが飲んでいたコーヒーを置いて、机の上に立ち上がる。

 

 

「さて……では、本題に入ろう。英雄から説明を頼まれたのでな、私の話に付き合ってくれるとうれしい。まず……私のいた世界についてからだな」

 

 

 こほん、と咳払いをして居住まいを正し姫華に向き直るアルス。

 

 

「私はこの世界とは別の世界からやってきた、所謂『異世界人』という存在になるのだ」

 

「やっぱり……」

 

「……あまり驚かないのだな……?」

 

「あはは……なんというか、安心というか……」

 

 

 流石に異世界の存在を目にして、全くの驚きがないわけではないが……こんなふうに人の手も借りずに自分で喋るぬいぐるみがこの世界の存在でなくて良かった気持ちのほうが大きい。

 カフェオレを軽く口に含み心を落ち着かせていると、英雄が一冊の本をキッチンの上に出し、それをアルスが開く。

 見開かれた本から光が放たれ、映写機のようにある映像が映し出される。

 

 

「わ……すごい!」

 

「私のいた世界、『レジェンダリア』は平和な世界だった。花は咲き乱れ、妖精達が踊り、自然が豊かで、人々の生活に笑顔が絶えなかった」

 

 

 映像の中では、中世ヨーロッパのような雰囲気の世界が映し出されていた。一つ歴史上のヨーロッパと違う点としては、ファンタジーの世界でよく見られる妖精のような現実にはいない生物がたりすることだろう。

 

 

「こちらの世界では『科学』が発達していたが……我々は『魔法』を発達させ、あらゆる方面で活用した」

 

「傷を治してくれたり、私の記憶を消したのも魔法ですか?」

 

「うむ。原理は説明すると長くなるが……数多の人間が様々な魔法を発明し、便利で平和な世界であった……」

 

 

 映像を見てみれば、ところどころ、輝く光が奇跡を起こしているのが見て取れる。ケガをした子供に母親が駆け寄って何事かを唱えるとその傷が治り、元気に子供は走り回り、露店で巨大な鍋を持った男が詠唱すると、鍋の下に炎が灯り、その炎を用いて調理を行っているのが見える。

 輝く光が奇跡を起こし、平和で笑顔が絶えなかった中に、突如として暗雲が立ち込め、人々が不安そうに空を仰いだ。

 

 

「だがある日、世界の平和はある存在によって脅かされることになった。奴の名前は『カタストロス』。……私達は奴をこう呼んでいる」

 

「──『魔王』、と」

 

 

 暗黒の空から降り立ったのは、異形の怪物達。

 創作でよく見られる悪魔や魔物が跋扈し、人々を襲う。その光景を見て、暗黒の空が……否。空を覆った邪悪、『魔王』が高らかに嗤う。

 地獄のような光景に、姫華は思わず口元を抑えてしまった。

 

 

「奴がどこからやってきたのか、どこから生まれたのかはわからない。だが、奴は自分を『世界を滅ぼすもの』と名乗った」

 

「魔王と奴が率いる軍隊によって大勢の人が犠牲になり、国がいくつも滅ぼされた。それを重く見た国々は同盟を結び、魔王討伐軍を結成した」

 

 

 ゴブリンやオーク、悪魔といった異形の怪物と、鎧を纏った騎士や兜を被った戦士、ローブを羽織った魔法使いと思わしき人々が、激しく争い合う。

 弓矢や魔法と思われる破壊的なエネルギーが飛び交う熾烈な争いが映し出され、少しして人々が傷だらけになりながらも、獲物を掲げ、勝鬨をあげる光景へと変わる。

 

 

「……我々、討伐軍と魔王軍との長い戦いの末に、討伐軍は奴の軍勢を全滅させ、本拠地を突き止め奴を討つ一歩手前にまで追い詰めた」

 

「だが……死に瀕した奴は、逃げ道を用意していた。今いる世界を捨てて、別の世界にて力を蓄える魔法を用意していたのだ」

 

「その別の世界が……この世界なのだ」

 

 

 魔王と思われる黒い闇が逃げ込んだ先に映し出されたのは、青く輝く地球。

 

 

「奴を追いかけるために四人の勇士が選抜された。元海賊の大提督に当代最高の智者と言われた賢者に勇猛を誇る魔剣使い。そして……勇者として選ばれていた私だ」

 

「異世界に逃げたとはいえ奴はほぼ瀕死、奴のもとに辿り着ければすぐに終わる……そう思っていた」

 

 

 屈強な肉体の船長に、髭を蓄えた魔法使いに黒い鎧を纏った剣士。

 そして、ぬいぐるみと同じデザインの鎧を纏った、アルスと思わしき人物が、その闇を追って地球へと向かっていき……到達する直前、電撃を受けて散り散りになっていく姿が見えた。

 

 

「だが、我々の見立ては甘かった。追いかけてくる我々に対して、奴は罠を張っていた」

 

「罠にかかった我々は本来の力を失い、見知らぬ世界で散り散りに……やっとの思いで仲間のうち二人と合流出来たと思えば、奴はこの世界で自由に動かせる手先を生み出す方法を編み出していた」

 

 

 アルスが本を閉じると同時に、映像は消える。

 そして、また別の本を取り出して開く。

 そこに映し出されていたのは、昨日姫華を攫おうとしてきたゴブリンテラーと呼ばれる緑色の異形の怪物に、初めて見るはずなのに心がざわつくような感覚を感じる、翼竜の怪物。それ以外にも、ファンタジーを題材にした創作で見かけるような怪物を模した姿の怪物達が映る。

 怪物達はそれぞれ人間へ化けて、時に人を巧みに騙し、時に人を力付くで襲い、そして暗黒へ……『魔王』へ捧げている。

 

 

「奴は物語の怪物や悪党を模した怪人、『テラー』を生み出し、奴らを尖兵として、この世界の人々を誘拐してそれぞれが持つ魔力や生命力を吸収して力を取り戻そうとしているのだ」

 

 

 その言葉を聞いて、臣人から聞いた話を思い出す。

 

 

「最近、女の子が行方不明になることが多いって話もそうなんですか?」

 

「うむ。最近、行方不明が増えていってるのも、十中八九、テラーが原因と言える。特に少女は魔力量が多い『姫』と呼ばれる子が生まれることがある。それを奴は狙っているのだろう。恐らく君もそうであったがために、奴らに狙われたのだ」

 

 

 その言葉を聞いて、寒気がした。

 魔力を持っているから。ただそれだけで、あの怪物に襲われる。

 震えを抑えながら、続くアルスの話を聞く。

 

 

「力を奪われた私達では……奴を止めることは勿論、テラーと戦うことすら満足にできない……」

 

「だから我々も同じように、物語の英雄達の力を使い、これに対抗する方法を生み出したのだ」

 

 

 そう言って、三冊の本を取り出す。『おひめさまときし』の絵本に『ワイルド・シェリフ』という銃を持った保安官が表紙に描かれた小説に『闘将! ヴァロー』とハチマキをしめた格闘家が表紙の漫画。

 タイトルの作品の形態もジャンルもバラバラ。だが姫華には思い当たる共通点があった。

 

 

「これって、英雄くんが変わった姿の……」

 

「その通り! 物語の英雄達の力を込めたこの『ストーリーメモリア』を読み込んで英雄達の力を再現できる装備。これを我々は『リーディングドライバー』と名付けをこの世界の伝説の英雄から取って『仮面ライダー』と呼ぶことにしたのだ」

 

 

 英雄がリーディングドライバーとメモリーカード……『ストーリーメモリア』を取り出し机の上に置く。

 そんな話を聞いていて、姫華は少し思案したのちに、アルスへ質問を投げかける。

 

 

「異世界の由来とかはわかりましたけど……な……んで英雄くんが仮面ライダーになってるんですか? それこそ警察とか、自衛隊とか……そういうところにお願いすればいいような気がするんですけど……」

 

 

 リーディングドライバーとストーリーメモリアのそばでヒーローメモリアを自慢気に掲げていたアルスであったが、姫華からの質問を聞くと、肩を落としうなだれる。

 

 

「……無理なのだ。テラーは奴の、魔王の魔力を注がれて生まれた存在であり、打倒するには奴の魔力の護りを打ち破れるほどの威力か、我々の世界の魔法金属(レジェメタル)を用いる他ない。リーディングドライバーには我々の装備から抽出した魔法金属が埋め込まれているからテラーに対抗できるが、この世界の兵器ではテラーへの有効な打撃は見込めないのだ……」

 

 

 君の記憶を消したりも下手な混乱を避けるためだ、と付け加える。

 それでも姫華はまだ納得が行かない様子で続ける。

 

 

「でも、それなら……リーディングドライバーを警察の人とかに渡したらいいんじゃないですか?」

 

「それも無理だ。リーディングドライバーは、変身者を選ぶ。作れたドライバーは三つだが、今まで出会った適合者は、英雄を含めてたったの四人しかいない。……選ばれる条件も分かっていないのだ……」

 

 

 うなだれるアルスの姿を見て、姫華は言葉を詰まらせる。

 そんな姫華に対して、英雄がフォローするように笑みを浮かべて声を掛ける。

 

 

「……大丈夫だよ、僕は無理にやらされたりとかはしてないし、そもそも僕が選んだことだから」

 

「だからって……」

 

「いや、三国くんの言うことも最もだ。私達の世界の問題を、この世界の人間に……それも、年端もいかないような子供に解決させようとしている私達が偉そうなことは言えないさ」

 

 

 アルスが自らの無力を自嘲してのちに、姫華の方を向く。

 

 

「さて。長々と話してしまったが……三国くん。恐らく君はまたテラーに襲われる可能性が高い。今日は英雄に送らせよう。必要ならば再度記憶を……」

 

「あの」

 

 

 不意に、姫華が声を挙げる。

 

 

「む? どうかしたかね? まだ質問が……」

 

「その、記憶を消すのは待ってほしいというか……し、志道くんが守ってくれるなら、記憶を忘れないで志道くんをすぐに頼れるようにしてほしいなーって、わ、私思うんです」

 

 

 少し緊張しながら、言葉に詰まる部分も見せはしたが、姫華は記憶を残してほしい、と要求する。

 その言葉に対して、逡巡しつつもアルスは許可を出した。

 

 

「うーむ……分かった。だが……この事実は他言無用で頼むぞ。……先程も言ったように、テラーがいる事実が世界に知られれば混乱が起きてしまうのだから……」

 

 ────────────────

 

「ありがとうね」

 

「ううん、全然。むしろすっごい色々と迷惑かけちゃったし」

 

 

 少しして。

 英雄と姫華の二人は、三国家の前へバイクで

 タンデムで乗っていた体勢から姫華が先に降りて、借りていたヘルメットを英雄に渡す。

 英雄も降りると、バイクが一瞬輝いて、その姿を白馬へと変えた。

 

 

「わ……! ほんとに馬になっちゃった……きゃっ」

 

 

 本来の姿に戻った白馬であるホーストライカーは、姫華に対して、目を細めてその鼻先を姫華へと擦り付ける。

 馬は信頼できる人間に対し、目を細め鼻先や顔を擦り付けることで親愛を示すのだが、それを知らない姫華はどうしていいのか困惑してしまう。

 それを見かねた英雄がホーストライカーの頭を撫でてやりながら、姫華から離してやる。

 

 

「こら。三国さん、困ってるだろ? 帰ったらちゃんと角砂糖あげるから、いい子に出来るな?」

 

 

 英雄に首筋を撫でられたホーストライカーは名残惜しそうに姫華をじっと見て、再度光に包まれてバイクの姿に戻った。

 バイクになったホーストライカーに対して姫華が軽くボディを撫でてやると、嬉しそうにチカチカとライトが光るのが見える。

 

 

「ええと、怒ってたりとかではないよね……?」

 

「ううん。むしろ、姫華さんに甘えたがってたみたい。……あんまり人にはなつかないやつだったのに」

 

「あ、そうなんだ…………馬のこと知らなかったけど、ホーストライカーくん、可愛いかも」

 

「良かったな、ホーストライカー」

 

 

 年頃の高校生、といった感じの二人の談笑はいつまでも続くかに思われた。

 だが、途中で姫華が意を決した様子で、テラーに関する質問を投げかける。

 

 

 

「……その、志道くんは怖くないの? あのテラーって怪物」

 

「正直言えばちょっとだけ、怖い、かな」

 

「え……」

 

「昨日みたいな楽な相手ならいいけど、もっと強い相手とかも戦ったことあるし、怪我とかもいっぱいしたことあるし、怖いのは怖いかな」

 

 

 意外だった。昨日のゴブリンテラーとの戦いでは、あの怪物と面と向かって戦い、鋭い剣のような戦意で戦い抜いてみせた。

 だが、英雄は無敵の勇士や死を恐れぬ狂戦士ではない。まだ姫華と同じ年の少年だ。

 

 

「じゃあ……」

 

 

 やめれば、逃げたら、と続く言葉を言う前に、「でも」、と遮られる。

 

 

「僕は君を……ううん、皆を守りたいんだ」

 

 

 ───約束だから。

 その言葉を告げた時の英雄の顔を見た。

 風が吹き、髪が靡いて覆われていた堅く強い決意を抱いた瞳が、まるで騎士のような凛々しさを持ったその顔に、見惚れてしまった。

 

 

「……どうかした?」

 

「あ……な、なんでもないよ! わ、私、行くね!」

 

 

 一転して、無邪気な顔でこちらを見る英雄に、赤い顔を悟られないよう、慌てて背を向け、玄関に向かう。

 そんな様子の姫華に首を傾げつつ、英雄は微笑んで姫華に手を振る。

 

 

「じゃあ、また月曜日ね」

 

「うん! またね!」

 

 

 手をぶんぶんと振り返してくれた姫華が家へと戻っていくのを見届け、英雄は振り向く。

 そして。

 

 

「出てこい。隠れても無駄だ」

 

 

 何も無い道路を睥睨し、冷たく声をあげる。

 すると、それはすぐに現れた。

 

 

『おっとぉ……バレちまってたってことか。もうちょい早く来てスタンバっとけばさっきの「姫」さらえたってのに……残念残念』

 

 

 水溜りから、青く濁った液体が浮かび上がり、人の形を作る。

 まるで子供の落書きのような歪な人型に、液体内の木片やゴミで目と口のパーツを形作った異形、『スライムテラー』は、こちらを睨みつける英雄に対して小さく笑う。

 

 

『おいおいそう力入れるなって……こんなふうに張られてるんじゃ、姫を襲うような余裕なんてないしよ……俺っちにとってはアンタと戦う理由なんてないんだぜ?』

 

「僕の方には、お前を逃がす理由はない」

 

 

 スライムテラーを睨みながら、慣れた手つきでリーディングドライバーと騎士が描かれたストーリーメモリア、『レガシーナイトメモリア』を懐から取り出す。

 そして今までやってきたようにドライバーをセットし、レガシーナイトメモリアをスロットへセットする。

 

 

『変身』

 

『Reading! Knight of legacy! 騎士道、ここにあり』

 

 

 詠唱と共にスイッチを押し込み、現れたサーヴァントの力を纏えば、そこには白銀の騎士が現れる。

 

 

『いきり立つのはいいけどよ……おおっ!?』

 

 

 スライムテラーがメモリオンへと話しかけようと肩をすくめた直後、ナイトランスが頭へと叩きつけられる。

 神速の突きを受けたスライムテラーは頭を弾け飛ばされ……何事もなかったかのように、頭を再形成させる。

 

 

『おいおい、人の話はちゃんと聞けって! 俺っちの方はお前を見逃してやるって言ってるんだぜ? 勝ち目がないお前……のっ!?』

 

 

 今度はレガシールドで殴りつけ、そのまま盾の縁で唐竹を割るかのごとく縦一文字に斬り裂く。

 それだけのダメージを受けても、スライムテラーは再度歪な身体を作り直し、けたけたと悪意ある笑い声をあげる。

 

 

『面倒なタイプだな』

 

『無駄なことはやめろっての! 槍で液体は突けねえだろ? 盾で液体は殴れねえだろ? ……おっと! 他のやつも同じだぜ? 俺っちっていう液体は撃てないし蹴り飛ばせもしねえんだ』

 

 

 ため息をつくメモリオンを為す術無しと見たか、スライムテラーは口元の枝を震わせ笑う。

 

 

『さーてと……温厚な俺っちはお前を見逃してやろうってさっきまで思ってたが……こんだけ失礼されたら許せるわけがねえよな? てなわけでお前をいたぶってやることに……』

 

『ならこれを試すか』

 

『Thunder』

 

 

 そう言って、メモリオンが取り出したのは、ストーリーメモリアとはまた違った形のメモリーカード。

 描かれているのは人物ではなく、自然現象である稲妻。

 それをリーディングドライバーの残ったスロットに挿入する。

 

 

『Enchant Thunder 騎士は雷を纏う』

 

 

 そして、メモリオンの装甲に変化が生じる。

 白銀の装甲の縁に黄色いラインが加わり、そこから青い稲妻が走る。ナイトランスの切っ先地面に向けば、電撃が地面との間でスパークする。

 

 

『無駄な小細工かよ? ……これ以上変に足掻かれると鬱陶しいし……そろそろ殺しちまうか!』

 

 

 姿の変わったメモリオンを見てもスライムテラーはそれを嘲笑い、無意味と決めつけて、その歪なシルエットを球体へと変える。

 鈍重な動きからの一瞬の迅速な動きはメモリオンが動くより一瞬早い。その巨大な球体の中にメモリオンを取り込み、球体の中が撹拌され激流に巻き込まれたかのようにその身体が流されていく。

 

 

『イヒヒヒヒ! この世界の人間はこういう風に洗濯物を回して洗う魔法の箱を使ってるらしくてよ、俺っちも参考にさせてもらったぜ……まあ俺っちの場合はお前は綺麗に洗濯されるんじゃなくて……俺っちの体液でゆーっくりと溶かされるんだがなぁ!』

 

 

 何も抵抗できずに流され液体内を漂うのみのメモリオンに対して、勝ち誇り高らかに笑うスライムテラーだが、次の瞬間その笑みが驚愕へと変わる。

 

 

『ハァッ!』

 

 

 気勢を挙げたメモリオンが流れに逆らって身体を真っ直ぐと立たせ、ナイトランスを掲げる。

 すると快晴の空に一瞬黒い雲が混ざって、ランスに向けて天から雷鳴が落ちる。それだけで球体は縦に斬り裂かれ、形を失った液体が地面へ降り注ぐ。

 メモリオンが悠然とマントを靡かせて着地すると同時に、スライムテラーも再度歪な身体を再形成させる。だが、その大きさは明らかに小さくなっている。

 

 

『ぎいいいいいいいいっ!?!? て、テメエ……何をしやがった!? お前の武器じゃ俺っちは倒せないはずなのに!』

 

『簡単なことだ。不純な液体には電気が通る。こちらの世界の法則を知っておけ』

 

 

 メモリオンが使ったのは属性を付与するメモリーカード、『エレメントメモリア』。

 その中の一つ、電気を操るメモリア『サンダーメモリア』をセットし、電撃による攻撃でスライムテラーの液体に電流を流し込むことで効果的にダメージを与えたのだ。

 ダメージを負い小さくなったスライムテラーを見て効果を確認すると、畳み掛けんとばかりにサンダーメモリアをスロットから引き抜き、ナイトランスの手元に備えられたスロットへ挿入する。

 

 

『Elemental reading! Thunder Punishment』

 

 

『ふざけ……んなぁ!?』

 

 

 怒りのまま再度メモリオンを襲おうとしたスライムテラーの身体を、電気が檻のように囲い込み拘束する。

 拘束されたスライムテラーに対して、メモリオンは腰を落として青いスパークを纏ったナイトランスを構える。

 

 

『ハアアアア……セヤァァァァァッ!』

 

 

 裂帛の気迫と共に放たれた鋭い突きがスライムテラーに突き立てられる。

 次の瞬間、突き立てられたナイトランスから、強烈な電撃が迸りスライムテラーの身体を焼き蒸発させていく。

 

 

『がああああああああああああっ!?!?!? 勝ち目がなかったのは……俺っちのほうだったって……こ……とか……』

 

 

 電気の檻に囚われ逃げ場のないスライムテラーの全身を電撃が焼き尽くし、その身体を霧散させていく。

 スライムテラーの身体をすべて蒸発させこの世から存在を消し去ったメモリオンは、勝鬨の代わりに未だに雷鳴の走るナイトランスを天高く掲げてみせた。

 

 

 ────────────────

 

 英雄が姫華を送っていった後。

 一人残ったアルスは、本を開き、映像を眺めている。

 

 

「最近のテラーの発生数は増え続けている。特にこの日本に限って」

 

「やはり、二人も呼び寄せた方がいいな」

 

 

 そういったアルスの目に映る映像。

 それは、メモリオンとは別のリーディングドライバーの使い手が二人。

 

 

 一人は『海賊』のようなデザインの鎧を纏った戦士。

 一人は『魔法使い』のようなデザインの鎧を纏った戦士。

 

 その二人の姿を確かめて、アルスは連絡を取る準備を始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。