仮面ライダーメモリオン   作:バイン

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第四巻 海賊、推参/魔法使いの法

 深夜の海上。雲もなく波も穏やかな海を、各所の航海灯が海を照らしつつ進んでいる。

 しかし。穏やかな海に反して、その船内の様子は只事ではなかった。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 

 息を荒げ、船内を隠れるように進む一人の少女。

 消灯時間はすでに過ぎ、暗い船内を逃げるようにして進んでいる。

 時折鳴る物音に対してびくり、と震えながら辺りを見渡し、そして柱の陰などに隠れつつ、進む。

 まるで何かから逃げるように進んでいた少女の目の前に、制服と船長帽を被った、船長らしき男の背中が写る。

 それを見つけた少女の目に希望が宿り、慌てて駆け寄って声を掛ける。

 

 

「あ、あの! 船員さん……!」 

 

「……困るなぁ、君。もう消灯時間だよ。室内にいなきゃ」

 

 

 声をかけられたはずなのに、こちらに向き直ることもしない船長に対して不信感を抱きつつも、他に頼れるような存在もいない少女は縋り付くように船員に呼びかけ続ける。

 

 

「あの、船の中に……『化け物』がいて、お父さんとお母さんが襲われてて……!」

 

「ふーん」

 

 

 そこでくるり、と船長が少女へと向き直る。

 そして。

 

 

「その『化け物』って」

 

『こんな感じじゃなかったかなぁ?』

 

 

 船長の声にエコーのようなものがかかると同時に、その姿が、異形へと変わる。

 赤くぬらぬらとしてテカりと吸盤のある体表に、漏斗のような口、両腕は人間のものから伸縮する赤い触手へと変わる。

 目の前に現れた異形に絶望する少女は知らない。その怪物が『オクトパステラー』と呼ばれることも、自らが贄にされようとしていることも。

 だが、確かに分かることは一つある。

 逃げなければ。

 

 

「だ、誰か……むぐ……ん──っ!!!! んーっ!!!」

 

 

 オクトパステラーから逃げ出そうと背を向ける少女の手足に赤い触手が巻き付き、助けを呼ぼうとしたその口を塞ぐ。

 そして、絶望する少女を、暗闇へと引き摺っていった。

 

 ────────────────

 

 

 光耀高校のある町から少し離れた港。

 停泊した船から積み荷や車両が降ろされていき、人が行き交う中を、人の流れに逆らうように、一人の少年が船へと近づいてくる。

 

 少年の背丈は高校生ほどだろうか。

 少しくすんだネイビーのジャケットに黒のカーゴパンツに身を包み、茶髪を短く揃えたウルフカットに切り揃えている。

 何よりも少年を強く特徴づけているのは、左目とクロスするような、一本の細い切り傷のような傷跡だ。端正な顔立ちに目立つその傷跡は、少年の鋭い眼光と相まって雰囲気をワイルドなものにしている。

 その傷跡やラフな格好、そしてがっちりしたアスリート然とした体格。少年はまるで海の荒くれ、『海賊』のような雰囲気を纏っていた。

 

 少年が船に向かって歩いていたその時。少年の目の前に障害物が現れた。

 正確に言えば物でなく人。先程まで荷物の積み下ろしをしていた、作業着のズボンにタンクトップというラフな格好をした船員らしき者が少年の前に壁のように立ちはだかる。

 船員は注意をするでも叱るでもなく、感情を感じられないような魚のようなぎょろぎょろとしたその瞳で少年を見つめている。気付けばその目は目の前の2つだけではない。近くにいたツナギ姿の船員達が、少年の左右に立ち、少し離れたところで作業をしていた男達も作業する手を止めて少年に視線を向けている。

 

 数多の視線を向けられた少年が口を開く。その声色に恐怖や怯え、動揺は見られない。

 

 

「いやぁ、すんません。この船に『忘れもの』があってね。すぐ取って終わりなんで……ちょっと船長さん呼んでもらえないっすかね?」

 

 

 船長を呼べ、と出来るだけ穏便な口調にしようとしたものの少し荒っぽさが滲んだ少年の言葉にも一切反応を返さない。

 無数の視線はただじろじろと少年を見続ける。

 

 

「参ったなぁ……そんな睨まなくても船荒らすとかそういうことしに来たわけじゃないんですけどねぇ」

 

 

 やれやれ、と苦笑して、少年は困ったように腕を組んでその場に佇む。

 そんな時、集まってきた船員達の間から船長帽を被った髭面の男が現れる。

 

 

「困るねぇ、キミ。ここは部外者は立ち入り禁止だよ」

 

 

 表情は笑顔であるが、その目は笑っておらず少年に対して厳しく向けられている。部外者である少年を急ぎ追い出すつもりなのだろう。

 しかし少年はその圧を感じていないかのごとくへらへらとした笑いを浮かべる。

 

 

「ああ、アンタが船長さん? いやぁ、『忘れもの』取ったら俺もすぐに帰るんで、ちょーっとだけ中に入れてもらえないですかねぇ?」

 

「残念ながらこちらも仕事なんだ……これは私達の会社の信用にも関わるのだからね」

 

「そう言わずに頼みますよ〜、ちょっとだけ! ちょっとだけでいいんで!」

 

「むう……それほどまでに持っていきたい忘れ物とはなんだね? 必要ならば、船員達に取りに行かせようか?」

 

 

 手を合わせ拝んだり頭を下げたりして頼み込む少年に対して、一蹴するのも悪く思ったのか、船長は厳しい顔は崩さずに譲歩するような質問を投げかける。

 

 

「まあ……人間、とか?」

 

 

 先程までとは違い、フラットな声色の少年の言葉に、場の空気が一気に変わる。

 眺めているだけだった船員達の目に一瞬危険な光が宿り、何人かは少年へと向かっていこうとする。

 しかしその空気を払拭させるかのように少年は笑いだし、気さくな様子で船長に笑いかける。

 

 

「いやぁ冗談、冗談っすよ! ホントは財布とか入ってるバッグを落としただけなんで」

 

「……財布、か。なるほど、それは大事なものだね」

 

 

 少年の冗談に対して、苦笑交じりながらも笑みを浮かべる船長。右手で顎髭をさすって、少し考えたのちに少年に向けて笑いかける。

 

 

「良いだろう」

 

 

 船長からの思わぬ言葉に、少年は明るく笑みを浮かべる。

 

 

「いやーありがとうございます! 代金の方は……」

 

「ああ、代金は……」

 

 

 少年の希望に溢れた言葉を遮るようにして、船長は帽子を取り去る。

 そして。

 その姿を人間としての仮の姿から、タコの異形『オクトパステラー』へと変貌させる。

 

 

『君を魔王様に捧げることで払ってもらおうか!』

 

 

 オクトパステラーが少年へ腕の触手を向ければ、船員達も呼応する。

 体格はそのまま、その体表は青白い鱗に覆われ、手足は軍手や靴を突き破って水かきのついたゴツゴツとしたものへ代わり、そのギョロリした瞳を備えた顔は、魚の顔へ変わる。

 半魚人へと変わった船員達は一気に少年へ飛びかかって、捕らえようと掴みかかり……

 

 鳴り響いた複数の銃声と共に、銃弾を受けて吹き飛ばされる。

 

 

『何!? ……ぐあっ!?』

 

 

 驚愕しているオクトパステラーの元にも数発着弾し、たたらを踏んでよろめく。

 銃弾の飛んできた方角へ目を向けたオクトパステラーは、不敵な笑みを浮かべて、右手に操舵輪の付いたフリントロック式の拳銃を手にした少年の姿がある。

 

 

「許可の方ありがとうよ船長さん。言う通り……アンタらが連れ去ろうとしてた『忘れ者』、回収させてもらうぜ」

 

『貴様……何者だ!?』

 

「俺の名は逆木 大海(さかぎ たいが)。そしてまたの名は……今から見せてやる」

 

 

 オクトパステラーから向けられる殺気にも怯まず、少年、『逆木 大海』は不敵な笑みを崩さない。

 そして、懐から取り出した『リーディングドライバー』を腰元へセットし、海賊が描かれたストーリーメモリアをスロットにセットする。

 

 

『Rogue of Pirates!』

 

『Now reading!  Now reading!』

 

 

 一冊の巨大な本が現れ、そこからバンダナを被った二頭身の海賊のマスコット、『パイレーツサーヴァント』が現れ、手にしたサーベルを振るって半魚人達を威嚇する。

 暴れまわるサーヴァントのそばで腰を落とし、オクトパステラーへと人差し指を向けたのち、サムズダウンさせる。

 そして、海賊旗(ジョリーロジャー)を突きつけるように、その言葉を発する。

 

 

「変身……!」

 

『Reading! Rogue of Pirates! 荒ぶる海賊、ここにあり』

 

 

 スイッチを押せば、パイレーツサーヴァントはバラバラとなり、黒いボディースーツを纏った大海へと重なっていき、その姿を変えていく。

 

 焦茶色のロングベストを羽織ったような装甲を斜めに横切るように剣帯が巻かれ、藍色のバンダナを巻いたような頭部。その額には白いドクロマークが描かれている。

 バンダナの下の赤い複眼が光ると共に、ドクロが笑いだす。

 その戦士の名は……

 

 

『またの名は、仮面ライダーリコレイド。以後お見知り置きってな』

 

 

 くるくるとフリントロック式の拳銃、『フリントローグ』を回して、オクトパステラーへとその銃口を向けるリコレイド。

 

 

『ぬう……! 貴様が魔王様への捧げ物を奪い取ってる仮面ライダーとやらか……! だが奴は騎士の姿をしていると……』

 

『残念ながらそいつは別人だぜ。あと二人お仲間がいるって話らしいが……俺はそいつほどは上品じゃねぇから、覚悟しな?』

 

『人間ごときが……! やれ!』

 

 

 オクトパステラーが再度触手を差し向ければ、あたりを囲んでいた半魚人達がリコレイドへと襲い来る。

 

 

『さて……! お仕事お仕事!』

 

 

 リコレイドも手始めとばかりに向かってきた半魚人に向けてフリントローグを撃ちながら突進、怯んだ一体に向けてケンカキックを叩き込み、複数体巻き込むようにして吹き飛ばす。

 その隙を突こうと別の半魚人が掴みかかればその頭を片手で掴み止め、腹へ膝蹴りを数発叩き込み、蹲った所で頭に銃口を押し付けて吹き飛ばす。

 

 

『どうしたどうした! 海の男にしちゃ気合が足りねえぜ!』

 

 

 容赦のない荒々しいファイトスタイルで半魚人達を蹴散らしていくリコレイドへ、触手が伸び、巻き付く。

 一瞬で全身に巻き付いた触手に包まれたリコレイドが持ち上げられ、その光景を見てオクトパステラーは鼻で笑う。

 

 

『フン、他愛もない……貴様を捕らえて魔王様のところへ送り……』

 

『餌に食いついただけで……俺はまだ釣り上がってないっての!』

 

 

 リコレイドの声と同時に、巻き付いていた触手が全て斬り落とされる。

 その左手には触手を叩き斬ったと思わしき大型のカットラス、『ザンパイレーツ』が握られている。

 

 

『なりてえ料理を良いな、海鮮限定だが調理も出来るぜ!』

 

『ごっ!? ぐわっ!?』

 

 

 着地と同時に袈裟斬りに斬られそのまま二の太刀三の太刀と続け様に斬りつけられたオクトパステラーからは徐々に余裕が失われていく。

 助けに入ろうとした半魚人達は無造作な太刀で両断され、弾丸を喰らい、懐に入り込む前に足裏の蹴りが突き刺さり、半魚人達の数が減っていき……気付けば残ったのは無数の切り傷が身体中に存在するオクトパステラーのみ。

 

 

『お、の、れ……貴様ァ!』

 

『おっと』

 

 

 最後に文字通り一泡吹かせよう、と口から吐き出した墨もあっさりと避けられる。

 避けた流れで身を翻したリコレイドは悠々とストーリーメモリアをベルトから一度抜き、再度挿入。

 

 

『Climax Reading! Pirates Wave!』

 

 

 エネルギーがザンパイレーツの刀身とプリントローグ内の銃弾に込められる。

 

 

『ヒ……!』

 

『逃がすかよ、オラァ!』

 

 

 慌てて逃げ出そうとするオクトパステラーの背中にフリントローグから放たれた銃弾が着弾、トドメにザンパイレーツが振るわれると同時に刀身に込められたエネルギーが斬撃として放たれ、オクトパステラーの胴体を両断した。

 

 

『ま、魔王様……申し訳ございません……!』

 

 

 断末魔の声を最後にオクトパステラーは爆発四散。

 

 

『……っし、と』

 

 

 それを見届けたリコレイドは変身を解除し、大海の姿に戻る。

 

 

「ま。ざっとこんなんだろ」

 

「なーにがこんなもんだ、バカタレ!」

 

 

 一仕事終えた、といった調子の大海の元に何がぶつかってきた。

 ぶつかってきたのは眼帯に三角帽子に左手がフックとなっている海賊……のぬいぐるみ。珍妙なことにそのぬいぐるみはぴょんぴょんと跳ねて、大海に文句をぶつけてくる。

 

 

「なんだよ、エイハブの旦那。一応連中は片付けたんだぜ? 仕事は十分してんだろ」

 

「お前などまだまだ! それに捕らえられた人間がどこにおるかを聞き出さねばならんのに全滅させおってからに!」

 

「あー……まあまあ、いいじゃねえの、船の中探せばどっかにいんだろ……」

 

「コンテナも探すんだよ! 今運び出してる最中なんだからこの中を虱潰しに探さないといけねえんだ!」

 

「げ……マジかよ」

 

 

 ぬいぐるみこと『エイハブ』からの叱責に、港を見渡してげんなりとした顔になる大海。

 懐から一枚の紙を取り出して、それを見てため息をついた。

 

 

「転校日までに間に合うかねえ」

 

 

 そう言って、大儀そうにコンテナを調べ始める。

 

 大海が見ていた紙には、

 

 

【光耀高校 転入届】

 

 の文字。

 

 ────────────────

 

 夜、駅前。

 仕事を終えた社会人や遊びに興じていた学生達が行き交い活気がまだある時間帯。

 

 スーツ姿のOLらしき女性が歩道を歩いている。

 

 

「あー……GW終わって仕事忙しすぎ……もうへとへとなんだけど……」

 

 

 仕事終わりらしき女性はふらふらと歩いていて、その口ぶりはふらつく身体からも疲労が見て取れる。

 疲れた身体を引き摺るようにタクシーに女性が乗り込み、シートへと体重を預け息をついた。

 

 

「お客様。お疲れのようですね」

 

「はい……」

 

 

 運転手の気遣った言葉にも生返事で行き先を伝えることすら忘れた様子の女性。

 それを見た運転手は小さく笑みを浮かべる。

 

 

「ゆっくりお休みください。……素敵な場所にお送りしてあげますから」

 

「え……」

 

 

 運転手からの言葉に、満足に働かない頭で応じようとした女性の身体に、白い包帯が巻き付いていく。

 抵抗する間もなく女性の身体は包帯に覆われて身動きどころか声すら出せない状態にされてしまう。

 

 

「さて……今日も一人、と……!」

 

 

 ミイラのようにされた女性を抱え込んでトランクへと積み込んだ運転手の目に、次なる標的が目に入る。

 

 

「んんーっ……! 重い、です! やっぱり何人かお手伝いさん達に手伝ってもらったほうが良かったかもしれません……」

 

 

 旅行帰りなのか引っ越し帰りなのか、重たそうに膨らんだキャリーケースを引き摺って歩いている少女。

 煌めくような銀髪を肩まで伸ばし、華奢な体躯とアンバランスな豊満な胸元をカーディガンとロング丈のスカート等、ゆったりとした雰囲気の衣装に身を包んだ、道行く男性が彼女とすれ違う度に振り返るほどの美少女。

 

 銀髪の少女の姿を見つけた運転手は笑みを浮かべて、その少女の横にタクシーを止める。

 

 

「そこのお嬢さん。そのお荷物では歩いていくのも大変でしょう……どうぞ、乗ってください」

 

「あらまあ……ご丁寧にありがとうございます、では……」

 

 

 少女がキャリーケースを引き摺って、タクシーへと積む。積み込んだ際にズシン! という音と共に車体が大きく揺いだ。

 

 

「お、おお……かなり重そうですが……」

 

「本を少々、50 冊ほど積んでおりまして」

 

「50冊!?」

 

「はい。ほんの少しですけど実家から積み込めたので」

 

 

 のほほん、とした様子で、今まで運んできた物の中身を語る少女。かなりの重さを誇っていたキャリーケースから解放された様子の少女は、リラックスして一冊の本を取り出し読み始める。

 

 

「あの、行き先の方なのですが」

 

「ええ、大丈夫ですよ。素敵な場所にお連れさせていただきますので……!」

 

 

 先程の女性と同じように、少女の身体に包帯が巻き付いていき……

 

 巻き付いた側から、炎に包まれて燃え尽きていく。

 

 

「な、何ぃ!?!?」

 

「やはりですか」

 

 

 驚く運転手が後部座席に目を向ければ、そこには読んでいた本を閉じて、氷のような冷たい青い瞳を向ける少女の姿がある。

 

 

「貴様……何をした!?」

 

「私、少々……『魔法』が使えるんです」

 

 

 じっと運転手から目を逸らさないまま、キャリーケースを抱えて車から降りる少女。

 それを追いかけた運転手が慌てて車から降り少女の前に立ちはだかった。

 

 

「ふざけたことを……だが、貴様の魔力ならば、魔王様に捧げる最高の贄になるだろう!」

 

 

 その言葉を告げると同時に、運転手の身体に包帯が巻き付いていき、その姿を変えていく。

 全身を白い包帯で覆い尽くし、包帯の隙間からは黒い皮膚のようなものが覗く。顔は包帯で覆われた中、黄色い不気味な瞳が覗き、牙の生えた口が大きく開かれる。

 ミイラ男のような怪物、『マミーテラー』が手を天へと突き上げれば、地面から無数の手が現れる。否。手だけではない。アスファルトを砕いて、その手の主たちが姿を見せた。

 ボロボロの服装に、腐り落ちた皮膚からは腐敗臭が漂い、ドロドロに溶けた顔、まるでホラー映画から出てきたようなゾンビ達が、少女へとゆっくりと向かっていく。

 

 

『その魔力……魔王様へ捧げよ』

 

「生憎ですが」

 

 

 動く死体にミイラ男。恐ろしい怪物達を前にしても少女は怯むことはない。

 キャリーケースに本を仕舞い込み、代わりに本棚のようなデバイス、リーディングドライバーと、とんがり帽子を被った魔法使いが描かれたストーリーメモリアを取り出す。

 

 

「この魔力は善き人を救うために使う。それが魔法使いとして……私に、祈間 希空(いのりま のあ)に課せられた責務です」

 

『Conjurer of Hermit! 』

 

『Now reading!  Now reading!』

 

 

 ストーリーメモリアをリーディングドライバー内にセットすれば、一冊の本から現れるのは魔法使い。とんがり帽子に紫のローブ、そして長い杖とステレオタイプな魔法使いの姿をした『コンジャラーサーヴァント』は少女の側に佇む。

 希空と真名を明かした少女は手で大きく円を描き、そして両手を祈るように胸の前で合わせる。

 そして、儀式を終えるように、呪文(スペル)を告げる。

 

 

「変身」

 

『Reading! Conjurer of Hermit! 魔なる法則、ここにあり』

 

 

 リーディングドライバーのスイッチを押せば、サーヴァントは解け、希空へと重なる。

 体型が浮き出るような黒いボディースーツに、紫色のローブにプリーツスカートのような裾の装甲、それを止めるベルトの左には一冊の本と杖が備わっている。

 魔法使いがよく被っているとんがり帽子のようなデザインの頭部から覗く、青い複眼がきら、と光る。

 魔法使いの名は……

 

 

『我が字は仮面ライダープレア。世界の安寧を祈り守る者。……覚悟してくださいね、テラーの皆様』

 

『ほざくな小娘が! 仮面ライダーとてこの数には敵うまい!』

 

 

 その言葉と同時に、ゾンビ達はプレアに向かって突進。

 死の軍勢が到達する前に、腰から杖、『ハーミットケーン』を抜き、先端で五芒星を描き、星を収めるように円を描く。

 

 

『サモン』

 

 

 プレアの詠唱と同時に描かれた魔法陣が実体化。杖で魔法陣を弾くと炎の弾丸が放たれ、突進してきていたゾンビの一団を焼き尽くす。

 目の前で先駆者達が焼かれたのを見ても、後続のゾンビ達の足は止まることはなく、そのままプレアへと向かっていく。

 

 

『運動は苦手なのですが……!』

 

 

 再度魔法陣を描き、そこへハーミットケーンを通せば、ハーミットケーンの先端には刃が生成され、持ち手が伸縮することで槍、『ケーンランサー』へと変わる。

 

 

『フッ!』

 

 

 ケーンランサーを横薙ぎに払えばゾンビ達は両断され、手足や頭がごろりと転げ落ちる……が。

 

 

『無駄だ! そやつらは既に死体! 斬られた程度では何も感じん!』

 

『まあ……困りましたね』

 

 

 手足どころか頭を失っても向かってくるゾンビ達。

 プレアはそんな光景を目にして、呑気な声をあげながらも掴みかかってくるゾンビ達をあしらっていく。

 

 

『でもまあ、倒す必要もないなら、こうしましょう』

 

 

 再度魔法陣を描いて弾けば、吹き出るのは凍てつくような冷気。その冷気に曝されたゾンビ達の動きが徐々に鈍っていき、最終的に氷像のごとく全身が氷漬けにされる。

 

 

『チ……ならば!』

 

『甘いですよ……せいっ!』

 

『ぬあああっ!?』

 

 

 マミーテラーが自分の体の包帯を解いてプレアをへと飛ばし拘束しようとするも、ケーンランサーが風車のごとく回り、その包帯を尽く叩き落していく。

 お返しとばかりにケーンランサーが投げつけられ、マミーテラーへと突き刺さる。すると五芒星がマミーテラーを磔に拘束。渾身の力でもがいても全く外れる様子はない。

 

 

『では、参りますね』

 

『ま、待て! 俺を倒していいのか!? 今まで拐った連中の事が分からなくなるぞ!』

 

 

 優雅にとどめを刺そうと動いたプレアに向けて、必死の声色で命乞いを行うマミーテラー。

 しかし。

 

 

『心配ありません。貴方の車から』

 

『そ……ん……な……』

 

 

 

 絶望するマミーテラーに向けて、今度はケーンランサーを筆代わりに、プレアが手向けとばかりに大きな魔法陣を描いていく。

 

 

『これで……決まりです!』

 

 

 完成した魔法陣にケーンランサーを突き入れれば、そこから放たれるのは強烈な光条。放たれたレーザービームがマミーテラーをのみ込んで、一気に消滅させる。

 

 

『こんな、ところでえええええ……!』

 

 

 断末魔の悲鳴も爆発も光に飲み込まれ、この世から消失するマミーテラー。

 それと同時に氷が溶けたゾンビ達も灰のようにボロボロと崩れ去っていき、残ったのはプレアただ一人。

 

 そのプレアも、変身を解除し、希空の姿に戻る。

 

 

「ふう……魔法を使うとやっぱり疲れます……」

 

「お見事でしたよ、希空」

 

 

 キャリーケースの元に戻った希空の元に、一体のぬいぐるみが顔を出す。

 フードのついた白いローブで全身を覆った魔法使いのようなぬいぐるみがキャリーケースの上に飛び乗ってくるのを見て、希空は小さく笑みを浮かべる。

 

 

「ありがとうございます、マーリン先生」

 

「あそこまで魔法を使いこなしているとは感服しましたよ、この調子で頑張りなさい」

 

 

『マーリン』、と呼ばれたぬいぐるみがふわふわと浮かび上がり、希空の肩に乗ってくる。

 

 

「転入日も近いですし、拐われた人の捜索を急ぎ済ませて今夜の宿を探したほうが良いでしょう」

 

「そうですねえ……んーっ、重い……! やっぱりこのテラーさんに運んでもらってからの方が良かったかもしれません……!」

 

「本を詰めすぎるからですよ」

 

「魔導書と医学書しか積んでいないんですけど……!」

 

 

 マーリンを肩に乗せ、疲労から重たさを増したように感じるキャリーケースを必死で引きずり、その場を去ろうとする希空。

 

 開いたままのキャリーケースから、一枚の紙が零れ落ちた。

 

【光耀高校 転入生、二名】

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