仮面ライダーメモリオン   作:バイン

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第七巻 海賊の約束

 むかしむかし。

 あるところに、おとこのこがいました。

 

 

 おとこのこのおうちはりょうしさん。

 おとうさんはまいにちおふねでさかなをとって、かえってきたらおかあさんがそれをりょうりして、みんなでたべます。

 

 まいにちまいにちおなじくらしに、おとこのこはすこしたいくつしていました。

 

 

「つまんないから、あいつにあいにいこう」

 

 

 たいくつなおとこのこは、とってもなかよしのおんなのこのところにいきました。

 おとこのことおんなのこは、ちいさなころからずっといっしょで、いっしょにあそぶともだちです。

 

 

「おはよう! どうしたの?」

 

「たいくつだから、いっしょにあそぼう」

 

「いいよ!」

 

 

 おとこのことおんなのこは、むらからすこしはなれたすなはまであそぶことにしました。

 

 すなでおしろをつくったり、まんがごっこをしたりあそんでいると、ふとおんなのこがおとこのこにこんなしつもんをしました。

 

 

「ねえ、おおきくなったら、なにになりたい?」

 

 

 おんなのこのしつもんに、おとこのこはうーんとなやんで、へんじをしました。

 

 

「ぼく、かっこいいかいぞくになる!」

 

 

 おとこのこは、かいぞくのおはなしがだいすきでした。

 つよくて、げんきで、たのしくて、じゆう。わるいやつをやっつけて、おたからをてにいれて、せかいをたびするかいぞくのようになりたいとおもったのです。

 そのこたえをきいたおんなのこは、ちょっぴりおどろいたけれど、うんうんとうなずきました。

 

 ふたりはまいにち、へいわでしあわせにくらしていたのです。

 

 でも、あるひのことです。

 うみのかみさまがきまぐれで、おとこのこのむらをこわしてしまいました。

 おとうさんやおかあさん、おとこのこのかぞくやおんなのこのかぞくはうみにつれていかれてしまいました。

 おとこのことおんなのこはいつものようにむらのはずれであそんでいたからたすかりました。

 

 でも、うみのかみさまはすぐにふたりをつかまえてしまいました。

 たべられそうになったおとこのことおんなのこでしたが、かみさまはたべるまえにおんなのこをみて、こういいました。

 

 

「きみ、とてもきれいだから、わたしのこになりなさい。そうすれば、おとこのこはたすけてあげよう」

 

 

 おんなのこは、うん、とかみさまにこたえました。

 かみさまは、おとこのこをにがしてあげると、おんなのこをつれてうみにかえってしまいました。

 おとこのこはしばらくないていましたが、おんなのこにむかってやくそくしました

 

 

「ぜったい、りっぱなかいぞくになってきみをたすけるから、まってて!」

 

 

 こうして、おとこのこはたすかったのです。

 

 ────────────────

 リコレイドが銃口を向けた男。

 顔のない燕尾服姿の紳士は、人間どころかテラーの皮膚すら撃ち抜ける殺意を向けられて、しかしくつくつと笑う。

 

 

「嬉しいですねぇ、三年も経てば流石に忘れられているかもと心配になりましたが、まさか君の方から会いたかったと言ってくれるとは」

 

「忘れるかよ」

 

 

 大仰な仕草で喜びを表す紳士に対して、リコレイドの拳はギリギリと軋むほどに握りしめられる。

 

 

『お前に奪われたアイツは絶対に取り返して、テメエは地獄に叩き落す。今、ここでだ!』

 

 

「く、くくく……ハハハ! いいでしょう、君がどれだけ苦しみ藻掻いて成長したのか、見せてもらいましょうか!」

 

 

 その言葉と同時に、紳士の身体を闇が覆い尽くす。

 暗く寒々とした闇が消え去った時、そこにいたのは半分は機械、半分は生物の怪人。

 左半身はサイボーグやロボットのような機械、右半身はぬらぬらとした粘りを持った怪物のような身体。

 歯車のような輪郭の顔には機械的な金属製の顔と異形の怪物がそれぞれ歪んだ笑みを浮かべている。

 

 

『懐かしいでしょう、このチクタクマンの私の姿! 君のライダーとしての力がどれだけ届くか! 試してみてください!』

 

『その口を……閉じろぉ!!!』

 

 

 異形の怪物、『チクタクマンテラー』に対して、怒りのままフリントローグを乱射。リコレイドはそのままもう片方の手に曲刀ザンパイレーツを召喚し突進する。

 放たれた弾丸を防ぐ素振りすら見せず受け、ザンパイレーツも機械の腕で受け止める。

 その腕ごと叩き斬ろうとリコレイドは渾身の力を込めて押し込むも、微動だにしない。

 

 

『いいですねぇ、その怒り……順調に育ってきているようでうれしい限りですよ!』

 

『黙れ……!』

 

 

 嘲笑するチクタクマンの胴に向けて蹴りを叩き込んで、間合いを保つ。

 そして再度同じように切り込もうとした矢先、カチカチと時計の針のような音と共に何かが転がってくる。

 音の方へリコレイドが目を向ければ、そこには野球ボールほどのサイズの何かがいくつか転がっている。

 表面に刻印された時計の針が頂点に重なった時、それは光を放ち爆散する。

 

 

『く……!?』

 

 

 時限爆弾の爆風に押され吹き飛ばされたリコレイドの身体に、チクタクマンが追い打ちに伸ばしたワイヤーが身体に巻き付いた。

 

 

『ハァッ!』

 

『ぐっ!? ……クソっ!』

 

 

 チクタクマンが腕を振るえば、リコレイドの身体が軽々と浮き上がり叩きつけられクレーターを作る。

 リコレイドは再度叩きつけられる前にザンパイレーツを振るってワイヤーを切断し地面に着地、隙を生むまいとばかりに転がって立ち上がる。

 

 

『チ……!』

 

『良い怒りですが……まだまだ足りませんねえ!』

 

 

 チクタクマンの叫びと共に、機械側の半身からワイヤーが無数に出現、リコレイドに向かって伸びる。

 それを避けることなく、殺到してくる無数のワイヤーを切り払うことで文字通り道を切り開きチクタクマンの元に向かって突進。

 

 

『この距離なら小細工は出来ねえだろうが!』

 

 

 ワイヤーと時限爆弾を封じ込めるために懐に潜り込んでザンパイレーツをチクタクマンへと叩きつければ、火花とともに機械の半身に傷が走る。

 

 やれる。

 その想いがリコレイドの頭を占拠し、そして彼を焦らせた。

 もう一撃、と腕を振り上げてたその目の前に時限爆弾が飛んでくる。

 避けることも防ぐことも、間に合わなかった。

 

 

『があああっ!?』

 

 

 爆風と破片と衝撃を受け吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられると同時にその姿が大海に戻る。

 再度変身するために立ち上がろうとしても、意思に身体が追いつかず、顔を上げて相手を睨みつけることしかできない。

 

 

『残念ですねぇ……もう終わりとは』

 

 

 嘯くチクタクマンを見れば、大海が付けた傷がゆっくりと塞がっていく様子が見える。

 完全に傷が塞がったと同時にこちらもチクタクマンから顔のない紳士の姿に戻って、革靴の音を響かせながら大海の元に歩いて来て近くでしゃがみ込む。

 

 

「次はしっかり頑張ってくださいね、『海賊』くん」

 

 

 子供に諭すような口調で告げた後、くつくつとと陰湿に笑って、そして現れた時と同じように唐突に、その場から消え去った。

 

 

「……チクショウめ……」

 

 

 自らを打倒した相手が消失した空間を見て、大海は悪態を吐いた。

 少しの間虚空を見つめ、そして気付いたように身体を起こし、引き摺るようにその場を離れていく。

 

 

 ────────────────

 

 身体を引きずりながら戻ってくると、まず目に入ったのは膝をついた英雄の姿。

 

 

「おいおい大丈夫かよ騎士くん? あいつらそんなに強そうには見えなかったんだが何か体調でも……」

 

 

 

 大海が何事かと慌てて駆け寄り助け起こして身体の状態を見る。意外にも負傷の度合いは軽く自分のように変身が解けるほど痛めつけられたということもなさそうだ、と思っていると。

 

 

「……三国さんが拐われた」

 

「……マジか」

 

 

 告げられた言葉に、思わず頭を抱えてしまう。

 敗れ膝をついてしまった騎士になんと慰めるかなぁ、と思考していると、英雄は立ち上がった。

 

 

「彼女を助けに行かないと」

 

「おいおいおいおい!? いや待てよ、アンタがいてさらわれたってことは一筋縄じゃ行かねえようなのがいるってんだろ?」

 

 

 ふらつきながらも歩き去ろうとする英雄の腕を掴んで止める。

 無論オークが残っているのならキチンと片付けねばならないが、傷ついた英雄単独で向かわせて英雄が帰ってこなかったとなれば少し後味が悪い。

 

 

「とりあえずは一旦戻ろうぜ、魔法使いちゃんなら回復魔法とか使えそうだし……」

 

「約束したんだ」

 

 

 更なる引き止めるための言葉は、英雄の絞り出すような誓いが遮る。ぎり、と握りしめられた拳から伝わってくるのは怒りと強い想い。

 

 

「彼女に、これ以上つらい思いなんかさせないって……だから、行かないと……!」

 

 

 痛むほどに拳を握りしめる目の前の少年に、懐かしい気持ちを抱く。

 その姿に『誰か』が重なったような気がして。

 

 

『約束する! ……お前のこと、絶対助けに行ってやるから! 待ってろよ!』

 

「しゃーねぇなぁ……」

 

 

 ふ、と笑う大海の様子を諦めたと思ったのか、英雄はそのまま歩を進め去ろうとする。

 その肩をポン、とたたいて止めた。

 

 

「なら尚更ほっとけねえ」

 

「……止めても行く」

 

「止めねえよ」

 

 

 ならどうする気だ。と言わんばかりに振り向き睨みつける英雄に対して、大海は語りだした。

 

 

「……三年前、俺の家族はテラーに殺された」

 

「それだけじゃねえ。……そいつは俺の大事なもんを奪っていった」

 

 

 淡々と感情を見せずに語る大海の姿に、英雄の足が止まる。

 その様子を見て、ふ、と笑っていつもの調子に戻る。

 

 

「ま、大事な物守れなかった人間としちゃあさ、ほっとけないわけよ。それに一人でボコされたんなら二人のほうが安心っしょ?」

 

「……分かった」

 

「……やー良かった良かった、見捨てたりしたら師匠や騎士くんのお師匠さんにどやされちまうから一緒に行ったほうが楽だしさー」

 

 

 先程までの真剣な様子はどこへやら、へらへらとした口調で腕を回した英雄と肩を組む大海には不安はない。なぜなら。

 

 

「ま、海賊は守るよりも奪うほうが得意、ってね。一応策はあんだよ」

 

 ────────────────

 

 牢屋に入る。

 現代では犯罪者か誘拐された人間くらいしか体験しないようなシチュエーションを、まさか自分で体験するとは思わなかったなぁ。

 

 ……囚われた姫華には、目の前の鉄格子を見て、そんな思考を浮かべることしかできない。

 目の前には鉄格子、綺麗とは言い難い室内は周りには不安や恐怖から震えすすり泣く人々の姿。

 

 ブリガンドオークに拐われた際に気を失って、目を覚ましたらこの状況。そして頭に浮かんできたのは、魔王が人から魔力を吸うために人間を拐っているという話だ。

 

 

(どうしよう……)

 

 

 助けを呼ぼうにも圏外でつながらない、それ以前に連絡を取っている姿をオーク達に見られたら……と思うと少し震えが走る。

 ……いつも助けに来てくれる英雄は先程かなり痛めつけられていたから、傷を治すことを優先するのかもしれない。

 

 

「私達、死んじゃうのかな……」

 

「……大丈夫だよ」

 

 

 そばにいた子供が、ぽつりとこぼした。

 それを見て、涙を浮かべ不安そうにしている子供の頭を優しく撫でてやり、笑いかけて安心させようと努める。

 

 

「私とーっても強くて優しい騎士を知ってるんだ。その人が必ず助けてくれるよ」

 

 

 半ば自分に言い聞かせるような言葉であったが、それでも子供は先ほどと違って、きらきらとした希望に輝く瞳を抱いていた。

 

 

「おねーちゃん、お姫様なの?」

 

「ふふふ、私もあなたもお姫様だよ。悪いやつらを倒して助けてくれるようにお願いしておくからね」

 

「ほんと!?」

 

「うん。お姉ちゃんが約束するから……?」

 

 

 話の合間に人間のものとは明らかに違う重たい足音が響いてきた。

 格子の外に目を向ければ、そこには姫華をさらった張本人ことブリガンドオークの姿がある。

 異形の怪物が現れたことに恐怖でざわめきだす人々に対して鉄格子を鳴らして黙らせた後、ブリガンドオークは何かを探し始める。

 

 

『んーとどこに行っちまったんだか……おっ、いたいた』

 

 

 そして、怯えている子供を守るように抱き寄せていた姫華を見つけると、その顔に下卑た笑みを浮かべ、牢の扉を開けて入ってくる。

 

 

『よお、お姫様。白馬の王子様がお迎えに来てやったぜ……さあ来な!』

 

「きゃっ!?」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 ブリガンドオークは子供を無理矢理払い除け、姫華を肩に乗せて担ぎ上げる。

 姫華の抵抗を歯牙にもかけずに牢を再度出て、鍵を閉める……前にその場の人間達を睨んだ。

 

 

『逃げようなんて考えるんじゃねえぞ! 逃げたやつは捕まえて生きたまま食ってやるからな!』

 

 

 恫喝に震える人間達を嘲笑しながら姫華をどこかへと運ぶ。

 

 乱暴に振り落とされたのはソファーの上。

 先程よりは少しマシとは言え、かつて応接室だったと思わしき室内にはガラスの破片が散らばり埃が積もっていたり、ソファーもあちこちが破れ綿が飛び出ている。

 そんな場所に小物か何かを放るような投げ方に姫華が抗議するような視線を向けても、ブリガンドオークは全く意に介さない。

 

 

『へへへ……こんなキレーな女、魔王様にあげちまうなんてもったいねえぜ』

 

「す、直ぐにひ……仮面ライダーが助けに来てくれるんだから! 貴方なんてボコボコにされちゃうもん!」

 

『ああ、あいつか? また来やがったら今度はサンドバッグにしてやらねえとなぁ……』

 

 

 そう言うと、先程の光景を思い出したかのようにブリガンドオークはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 今まで『ウスノロ』と呼ばれ同族から見下されてきた自分が、今や仮面ライダーすら圧倒する力を手に入れた。

 

 

『もう俺様は無敵だ……魔王様も……いや、魔王も関係ねえ……全部俺様にひれ伏させてやる!』

 

 

 天高く拳を突き上げたブリガンドオーク。

 その様子を冷ややかな目で見ていた姫華の腕をつかみ上げ、ベッドへと押し倒す。

 

 

「痛い……! 離してよ!」

 

『ゲヘヘ……お前はキレイで『姫』だからなぁ……俺様の嫁にしてやろう、どうだ? 嬉しいか?』

 

「む、無理……」

 

『無理!? 嫌とかじゃねえの!?』

 

「流石にこんな風に乱暴にされて嫁になれとか流石に無理……」

 

『黙れ!!! 俺様の命令が聞けないってのか!?』

 

 

 強引に顔を近づけ怒鳴ってくるブリガンドオークに、姫華が顔を背けた、次の瞬間。

 窓ガラスの割れる音と共に、室内へ一台のバイクが突入してくる。

 唐突に現れたそのバイクに対して惚けた表情を浮かべたブリガンドオークの顔面を、バイクの前輪が轢いた。

 

『ぎゃっ!?』

 

 

 顔面に黒いタイヤ痕をつけられたブリガンドオークはもんどり打ってベッドから落ちる。

 顔を抑えながら立ち上がろうとしたらウィリーしたバイクに吹き飛ばされる。

 ゴロゴロと転がったのちにようやく身体を起こしてバイクの主を見てみれば。 

 

 そこにいたのは白銀の騎士、仮面ライダーメモリオン。

 

 メモリオンは吹き飛ばしたブリガンドオークをちらと見ることすらせず、ベッドの上の姫華に歩み寄る。

 

 

『……また遅くなっちゃった、ごめん』

 

「ううん、平気……ちょっと今回は怖かったけど、ね」

 

 

 冗談めかして言う姫華の手が震えていることに気付いて、その手をそっと握りしめる。

 そんな光景を見せつけられたブリガンドオークの顔は緑から怒りの赤へと変わる。

 

 

『テメエ……一度俺様にボコボコにされたくせにカッコつけてんじゃねえ!』

 

「でも、どうやってここがわかったの?」

 

『ホーストライカーにテラーのにおいを辿ってもらったんだ。馬の嗅覚って実はすごいって本で読んだし』

 

『無視すんなぁ!?』

 

 

 叫ぶブリガンドオークを他所に、メモリオンは姫華の手を優しく撫でて安心させる。

 そんな最中、入り口から一体のオークテラーがやってくる。しめた、と言わんばかりにブリガンドオークがそのオークに向けて叫ぶ。

 

 

『おい、いいところに来た! 生き残ってる全員連れてきて、こいつをとっちめちまえ! 俺様の命令だ!』

 

 

 しかし、オークはブリガンドオークを一瞥しただけで、そのままメモリオン達の元に歩いていく。

 

 

『おいてめえ、聞こえて……』

 

『全く、途中から先に行っちまったと思ったら……お姫ちゃんの元に一番に駆けつけたかったってワケね』

 

 

 カタコトで乱雑な喋り方のはずのオークが流暢に話し出す。

 その姿に本人以外が驚いて固まっていると……おもむろに首元に手をかけて、マスクを脱ぎ捨てるようにその素顔が剥がれていく。

 皮を破ったその下にあったのは、リコレイドの仮面。

 体の方も変われば、その全貌が明らかになる。

 

 全身黒に赤が取り入れられた燕尾服のようなデザインのスーツに、シルクハットと変装用のパピヨンマスクが融合したデザインの頭部。

 それはまるで怪盗のような姿で。

 

 

『仮面ライダーリコレイド、ファントムシーフフォーム。お姫様を奪うために参上、ってね』

 ────────────────

 

「さーてと……騎士くんは先に行っちまったワケだが……」

 

 

 少し時間が戻り、オーク達の根城である廃ビルの前には立つ大海の姿があった。

 向かう途中でホーストライカーと共に先行してしまった英雄を必死で追いかけてみたらたどり着いたのはこの廃ビル。

 

 

「今回は海賊らしく……じゃなく、怪盗らしく、ね」

 

『Phantom of Thief!』

 

 

 取り出したのはシルクハットを深くかぶり夜に舞う怪盗が描かれたストーリーメモリア。

 それをリーディングドライバーにセットすれば、一冊の巨大な本が現れ、そこからステレオタイプの怪盗のようなサーヴァント『シーフサーヴァント』が現れる。

 

 

「変身」

 

『Reading! Thief of Phantom! 幻の怪盗、ここにあり』

 

 

 スイッチを押せばサーヴァントが大海に重なり、その姿を変える。

 変身したリコレイドが再度ボタンを押すと、その姿が先程倒したオークのものへと変わる。

 ファントムシーフの能力である変装だ。

 

 そのままビルの中に入って、目についたオークに話しかける。

 勿論、相手に合わせてカタコトで。

 

 

『えーと……ニンゲン ドコ イル?』

 

『……チカ イル シッテドウスル?』

 

『ワカッタ』

 

 

 変なことを聞く同族に首を傾げるオークの頭に、ごり、と銃口が押しつけられた。

 振り向く暇もなく頭に銃弾を撃ち込まれたオークは地面に倒れ、息絶える。

 

 

『教えてくれてありがとさん、と』

 

 

 仲間を撃ち抜いたオーク、否。リコレイドが変身したオークは手にした消音器付きの拳銃『ファントムサイレンサー』を仕舞って、地下へと向かう。

 

 地下の牢屋にリコレイドが降りれば、挙がったのは小さな悲鳴。オークが降りてきたのか、と震える人々の目の前でリコレイドが変装を解く。

 ファントムサイレンサーで一発撃てば鍵は壊れ、鉄格子の扉が開いた。

 

 

『もう大丈夫だぜ、逃げな』

 

 

 その言葉を聞いた人々の顔に、希望の色が浮かんだ。

 涙ながらにリコレイドに感謝を伝える者、捕まっていたもの同士でお互いに抱き合い喜ぶもの等様々な反応の中で、リコレイドに声をかける小さな女の子の姿が。

 

 

「騎士さん?」

 

『ん?』

 

「お姉ちゃんが言ってたの。……騎士がすぐ助けに来てくれる、って」

 

『うーん……俺は騎士じゃないんだよねえ。その騎士のお友達だ』

 

「ほんと? なら、お姉ちゃんも助けてあげて! あのおばけに捕まっちゃったの!」

 

『……OK、任しといちゃって!』

 

 ────────────────

 

『てなわけで他に捕まってた人はみーんな助けちまったって感じよ』

 

 

 リコレイドが話終えたその時には、ブリガンドオークの顔は顔面どころか、全身が真っ赤に染まりそうなほどに紅潮していた。

 

 

『どいつもこいつも……! ふざけやがってぇ! ブッ殺してやる!』

 

 

 取り出した斧を振り回し威嚇するブリガンドオークに、呆れた様子で迎え撃とうとするリコレイド。

 しかし、それはメモリオンの手によって止められた。

 

 

『あいつは僕がなんとかする』

 

『……行けんのかい?』

 

『借りがあるから。……三国さんのことをお願い』

 

 

 そうして、リコレイドはベッドの側で見守るように腕を組んで立ち、メモリオンはブリガンドオークに対峙する。

 

 一度倒した相手ならば、負ける道理はない。

 そんな考えのブリガンドオークは既に勝ちを確信した様子で、メモリオンへと突進する。

 

 その目には勝ちしか見えておらず、メモリオンがドライバー内のストーリーメモリアを抜いて、別のものに変えたことには気付いていない。

 

 

『ストーリーシフト』

 

『Reading! Sheriff of western! 西部の魂、ここにあり』

 

『フン! 小細工してんじゃねえ!』

 

 

 メモリオンが騎士の姿からガンマンのような姿に変わったのを見ても、ブリガンドオークの突進は止まらない。

 目の前まで来て、斧を振り上げ……そして、渾身の力を持って振り下ろした。

 

 そしてそれを、メモリオンは受け止めることなく軽く身を翻した程度で避けた。

 

 

『んなっ……』

 

『馬鹿正直に相手なんかしない』

 

『Elemental reading! Thunder Bullet』

 

 

 地面にめり込んだ斧を必死で引き抜こうとするブリガンドオークに、冷ややかな声がかかる。

 声の方向を見れば、エレメントメモリアをセットし、稲妻を纏ったシェリフリボルバーを向けるメモリオンがいた。

 

 

『ま、待て……』

 

『終わりだ』

 

 

 引き金と共に稲妻を纏った弾丸達がブリガンドオークに突き刺さる。

 その衝撃でブリガンドオークが脆くなっていた壁ごと吹き飛ぶ。そのまま弾丸は内部からもブリガンドオークを焼き尽くてその命を確実に終わらせ爆散させた。

 

 

『こんな……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 

 爆散が収まるのを見届けた英雄は変身を解いて姫華と大海のいるベッド側に歩み寄る。

 

 

「終わったよ」

 

「うん、お疲れ様。……また助けに来てくれて、ありがと」

 

「ごめんね、また怖い目に合わせて……」

 

 

 英雄と姫華が仲良く話しているのを温かく見守っていた大海であったが、不意に英雄から視線を向けられる。

 

 

「ありがとう……逆木くん」

 

「大海でいいぜ、騎士くん。いや、英雄」

 

「ならありがとう、大海」

 

「やー、良かった良かった。こいつで一件落着、ってやつか。……帰ろうぜ、腹減っちまった」

 

 

 疲れたー、と身体を伸ばしてから出口に向かう大海。

 英雄がそれについていこうとして、姫華に手を掴まれる。

 

 

「ご、ごめん……その……腰が抜けちゃって……」

 

「!? だ、大丈夫!?」

 

「歩けないかも……」

 

 

 姫華の言葉にどうしよう、と迷っている英雄の背中を、大海が押す。

 

 

「ならお姫ちゃんのことおぶって帰ってやったらいいんじゃね?」

 

「え゛……ちょ、ちょっと恥ずかしいって」

 

「分かった」

 

「わ、わ、わ……私重くないかなぁ……!?」

 

「大丈夫だよ、全然軽い」

 

 

 イチャイチャとしている二人を愉快そうに眺めていた大海。

 しかし。その頭には。

 

 

(……今度は負けねえ)

 

 

 決意が浮かんでいた。

 海賊は顔のない怪物との再戦を待っている。

 

 ────────────────

 

 

 真夜中。

 廃ビルの近く、ブリガンドオークが爆散した位置の近く。

 顔のない紳士はその場に転がっていた何かの破片を拾い集めていた。

 

 

「やはり弱いテラーではメモリアを入れても限界がある、と」

 

 

 拾い集めていたのは、ブリガンドオークの体内に入っていたストーリーメモリアの破片。

 粉々になってしまったそれをつまらなそうに眺める。

 

 

「今度は『博士の玩具』に使うんでしょうかねぇ」

 

 

 そして、ある程度集め終わったところでその場から消失。

 再度夜の静寂がその場に流れた。

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