無個性がヒーローを目指す
我ながら【夢】を見ていたと思うよ
でも人生で最大の幸運が味方して憧れのオールマイトに出会えて努力して勝ち取って僕はヒーローの世界で戦えた
それで良かったはずなのに
夢を見せてもらったって自分で言ったけど
けれど
僕が戦ったのは【現実】のヴィラン達だ
【夢】じゃない存在しないわけじゃない
僕は確かにそこにいた【夢】じゃなかった
【夢】を追いかけていたから【現実】で沢山の喜びがあった僕は今までにないほどに笑っていたそれで良かったんだ
それ以上は贅沢だって
ボクゴトキガ
それ以上を望むなんて割に合わないよ
だって友達も出来た成功を得た信頼を得た
【現実】はうまくいかない事ばかりじゃなかった花道なんて所詮は幻想だった
救えなかった命もあった
けど最後まで諦められなくてがむしゃらに頑張ってそしたらみんなも頑張れって言ってくれて
ボクナンカノタメニ
与えられた役割も完遂したこれ以上壊されないように終わらせた
もうぼくは満足したんだ
充分【夢】を叶えたんだ
けれど何なんだろう
何でぼくは止まれないんだろう?
何でぼくは蠢こうとしているんだろう?
緑谷出久の暴走
実際に複雑な思春期の感情を明確に表すことは出来はしない
だが大きく分けるならその要因は【三つ】ある
そしてそのどれもが緑谷出久の【人生】で感じたことのない物だった
それ故に耐性も流し方も受け取り方も知らない
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「少年、、、、?」
オールマイトが目を見開いて緑谷を見る
緑谷は止まらなかった身体中からワン・フォー・オールの力の線が輝いて今もなおしんのすけと戦い続けている
まるで自分の知っている緑谷とは別人のような
「緑谷少年!!?」
ヒーローとしての本質が身体を動かす だが
「来ちゃだめーーーーー!!!」
「!?」
しんのすけの叫びがあたりに響く
「これは、、その!、、難しいお話で、、だから!えっと、、、大人が入ってきちゃだめーーーーー!!」
要領を得ないがしんのすけが真剣に介入を嫌がっていることはわかった
オールマイトはわからない何が起こっているのか
今すぐ動き出したいのにしんのすけなりの必死な訴えが自分は今動き出してはいけないのだといっている
それもそのはずこれは【子供なりの真剣なのだから】
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諦めることなんて出来ない
それは『あの頃』の自分だった
あぁそうだ今蠢こうとしているのは『あの頃』の自分だ
オールマイトと出会う前の何も知らなかった頃の
オロカナボク
【現実】は想像の上を行く過酷の連続だった
オールマイトが弱体化しているなんて夢にも思わなかったオールマイトだって人間なのに
オールマイトハヨワクナイ
オールマイトが引退するなんて夢にも思わなかった
オールマイトハカワラナイ
ヴィラン達の内面を知った
ヴィランハヴィランダ
人が死ぬなんて思わなかった
ゲンジツカンガナイ
家族に反対されるなんて思わなかった
ドウシテナンダ
それでも【夢】を追いかけた追いかけ続けたんだ【現実】を前にしてもなお
でも何でぼくは止まれないんだ?
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大前提として緑谷出久には緑谷出久なりの『終わり方』を想像していた
それは誰でも想像するなんとなくだけど貫きたい生き方そのものを表す
ヒーローの【夢】を見てヒーローとしての【現実】を知ってそれでもなお自分が出来うる最大の努力で理想を思い描く
言わば『絶対に譲れない一線』である
まだ未熟だった頃の緑谷はそれがわからなかった
初めてあったときのオールマイトの言葉
「個性(チカラ)が無くても成り立つとはとてもじゃないが口に出来ないね」
大人の言葉だった
オールマイトに啖呵を切った母親の言葉
「今の雄英高校に息子を預けられる程 私の肝は座っておりません」
大人の言葉だった
どちらも優しさが前提にあり自分のことを思っての言葉だとは流石にわかっている
そしてそれは譲れない一線であることも
だがどれだけ憧れても足りない程のヒーローでも自分に慈愛を注ぐ母親でも
所詮は他人の言葉なのだ
緑谷出久は気づいていない 優しさとわかってなお心の奥底でどうしてだよとそれに反発してしまうその心情の名を
人は『自尊心』と呼ぶ
僕ごときが僕なんかがといい続けた人生で初めて芽生えた
『明確な強い自尊心』それが1つ目
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「出久!?」
爆豪はグラントリノと戦いながら爆豪は緑谷の様子に動揺していた
「爆豪!油断するな!!」
「くっ!!」
だが常闇のサポートがあるとはいえグラントリノと戦いながらでは駆け付けることなど出来ない
「何があったんだよ!!出久!!!」
自分の知る緑谷との解釈違いに明確な動揺が出てしまう
「クソ!なんとかしろよ野原ーーーーー!!!」
他人に頼ることしか出来ない現状と不甲斐無い自分を怨みながらしんのすけに激を送った
「ごめんなんてもう一回いって!?」
「ドちくしょうがァァァ!!!!!」
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緑谷出久は8年後に大人になり穏やかにワン・フォー・オールを終わらせた
その長い期間が心構えを作り出し葛藤することなどなかった
だが既にその世界ではない
何故なら『イレギュラー』が現れてしまったからだ
野原しんのすけ
実質的に言えば自分と同じ無個性でありながらそのあり様は全く違う
爆豪勝己と同じ天才肌そしてその心のあり方に嫉妬した
お互いに辛い経験や理不尽な場数を切り抜けながらも成長している点は共通しているがある意味まるで違う
緑谷出久は【夢】を追いかけて【現実】で得るものを得た
野原しんのすけは【現実】を楽しい【夢】のように変えてきた
そして今までのしんのすけとの日々に可能性を感じてしまった 自分はもっとなにか出来るのではないか?もっと理想に近づけるのではないか?見上げていた高みに届くのではないか?だがそれは贅沢ではないのか?人に恵まれたのにまだ望むのか?それでいいのか?
緑谷出久はあの時とは違う
無個性だった頃の何も知らなかった時とは違う
だがその時の自分が語りかけてくるのだ
ヒーローから遠ざかりたくないと
それはこの世界で野原しんのすけと接しているうちに芽生えた感情
『可能性の広がりにより増幅した未練』それが二つ目
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「デクくん」
目の前の緑谷出久はバチバチと力を放っており目が白目をむいているような獣の目をしている
だがしんのすけは感じ取っていた
「父ちゃんって昔タバコ吸ってたんだぞ」
「!?」
突然の語りに暴走しているはずの緑谷の頭に動揺が浮かぶ
「でも止めた、、、それはヒマワリが、妹が母ちゃんのお腹にいたから」
「があっ!」
暴走のままに繰り出された拳をしんのすけは紙一重で避けるそしてそのままどんどん近づく
「デクくんも【そういうこと】何でしょ?」
分からない!分からない!分からない!
目の前の男が何を言っているのか分からない
「デクくんは守りたいだけなんでしょ?」
言葉が聞こえながらもさらなる迫撃を繰り出そうと力を貯める
そして
「この未来を守りたいんでしょ?」
「ーーーーーーーーーーーー」
一瞬 なにか衝撃を受けたような感覚に襲われた
そして無意識に思うは一人の女のこと
しんのすけが思い返すのは自分の記憶の中で強く刻まれた記憶の1つ
「大事だったら作り物とか本物とか関係ないもんね」
とある【ロボット】との記憶
「デクくんは」
そして別れの記憶
「この未来にすっごくすっごく大事な者があるんでしょ?」
何故そんな事を今思い出すのか
それは
作り物だった【ロボとーちゃん】と作られた未来の【緑谷出久】が重なったからだ
あの時は手遅れだった
ロボとーちゃんが直らないことをロボットとーちゃん自身に教えられた どうしようもなかった
だが緑谷出久は違う
これからの頑張りで未来に行ける
この未来も再現できるかもしれない
だがワン・フォー・オールを心構え無く失ってしまいその心にヒビが入った
今の思いが消えてしまうのではないか
それが【三つ目】
緑谷出久は作られた未来を経験して知ってしまったのだ
自分の中にはヒーローと同じくらい大きな存在があると
今まで知らなかった憧れや友愛とも違う感情
『明確な強い自尊心』
『可能性の広がりにより増幅した未練』
そして最後は
『最高とはまた違う最愛』
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「しんちゃん!」
マタ・タミが近づいてくる
さっきのしんのすけの言葉で緑谷の動きが止まった今のうちにと近づいてきたのだ だが
「マタ、これお願い」
「え!あっ!」
バサリと音を立ててマタの腕の中に何かが乗っかった
それはしんのすけのコートと上着だった
「オラはあの時の父ちゃんみたいにやれるかな?」
それは自問だった
しんのすけがやろうとしているのはあの時の再現
二人の男の大事なものを乗せた【腕相撲】と同じ類の戦い
土台は無い
ルールも無い
腕以外も容赦なく使いただ全力でぶつかるのみ
ヒーローもヴィランも無い泥臭く野蛮な殴り合い
「やろうよデクくん」
緑谷出久が再び動き出す
そしてしんのすけはそれに答えるように叫んだ
「男と男の勝負をしよう!!」