黒い穴に呑み込まれた俺達は、地球の重力を感じながらワイヤーで機体同士が固まったまま、孤島の森へと落下の最中だった。
「アン、アルマ、キリー隊長。
ワイヤーを切断してくれ!
このままじゃ、地面と衝突する!」
モビルスーツの自重と重力による落下による衝撃は、流石のゲルググでも耐えられない。キリーがビームサーベルでワイヤーを切り離すと、一塊から散開する様にバラバラになり各自の機体の姿勢制御バーニアを全力で吹かすが、俺とアンの機体は既に燃料切れであり、スラスターを吹かす事すら出来なかった。
MS-14BRとMS-14CRの高機動型ゲルググ改等の高機動型と中距離支援型であるC型の最大の欠点である起動時間の短さと積載する推進剤の少なさが露呈しており、解決プランであるプロペラントタンクを採用したF型マリーネのバックパックに改修を施した、後のJ型リゲルグが採用されたのは戦後である。
「イチカは、アルマの機体に移動!
アンは小さいから私の機体に移りなさい!」
「キリー隊長!
私が小さいのは酷くない!」
「仕方ないでしょ!
アルマの機体のコクピットは、イチカ一人がギリギリしか乗れない狭さだし、エマァの機体はミアが乗っているからアンには絶望しか無いから辞めときなさい。」
「あっ、エマァの機体にミアが乗っていたわね…」
アンはエマァとミアの絶望な胸のサイズを思い出しながら、機体をキリー大佐のゲルググ・キャノンに正面に併せてからコクピットハッチの位置を合わせると機体から脱出する様にキリーの開いたコクピットハッチに滑り込み、エマの身体に抱き着く様に座席裏に入り込むが、エマの胸のサイズ感に何故か安堵する私。
「何か失礼な事を考えてません?」
「捕虜は大人しくしてなさい」
「アンさん、私、帰る場所も無いですから、従順に従いますよ…それより、私の胸を観て安堵しないで下さい!!」
「お喋りしてると舌噛むわよ!」
流石は、怒鳴りながらも機体制御するキリー大佐だった。
アンが後に入り込んだのを確認するとコクピットハッチを閉めた後、機体全体のスラスターを上手く使い、森から浜辺へと向きを変え落下スピードを殺しながら砂浜へと着陸し、アルマはキリー大佐のゲルググ・キャノンを追うようにティターニアの最後の推進剤を使い切る勢いで、高い推力のあるバーニアを生かしてゲルググ・キャノンのとなりへと着陸する。
エマァは、森の地面に落下しようとしていたイチカの機体と私の機体を海へと蹴り飛ばして落下方向を海でも深い所に変えて二人の無人の機体を海に着水させてから、バーニアとスラスターを全力で吹かして落下スピードを完全に殺しながら海上に降りてホバー移動しながらゆっくりと浜辺の私達に合流するのだった。
無論、私とイチカはエマァのプロトタイプリックドムⅡに落下して機体が半分沈んだ自機に運んで貰い、機体を歩かせてイチカの機体は戻ったが、私の機体は左脚を失い機体を歩かせるのは無理だったが、エマァ機とイチカ機に牽引して貰い、無事に浜に上げたのだった。
「全員、無事ね。」
機体の昇降用ワイヤーで降りた俺達は、全員が集まりキリー大佐が全員を確認する。
無論、エマも一緒だったが、俺の顔を見て顔を赤らめるが、アン達に睨まれそっと視線を逸らして誤魔化したがキリーからは丸見えであった。
「それにしても、よく機体が海に落ちても無事だったなぁ…」
改めて観る俺の高機動型ゲルググ改は、左腕は失い激戦を生き抜いた相棒だった。
アンの機体も右腕と左脚を失い、満身創痍の高機動型ゲルググ改は浜辺に座り込む様にアルマのティターニアは機体が煤で黒ずみ新品だった面影は無く、無傷なのが不思議だった。
無論、キリー大佐のゲルググ・キャノンとエマァのプロトタイプリックドムⅡも無傷だが、ワイヤー固定をした時にビームサーベル以外はシールドやビームライフルは投棄しており、武装すらないのは、生き残った4機の共通点だろう。
俺達は、ヘルメットを脱ぎ捨てて、孤島の余りの暑さからノーマルスーツの上半身だけを脱ぎタンクトップの姿に成りながら、機体のコクピットに積まれている非常用のサバイバルキットを取り出して、俺とエマが非常食の缶詰を使い軽めの調理を行い、他のメンバーは俺の機体とアンの機体の間にロープを張って簡易のテントを造り寝床を作っていた。
ブ〜ブ〜ブ〜
何時も持ち歩くあの世界の唯一残る携帯電話が何故か息を吹き返す様にバイブが起動する。
「えっ、携帯電話が…」
「どうしたの、イチカ?」
ノーマルスーツのズボンのポケットから取り出した携帯電話を不思議そうに周りが見守るが、携帯電話のメールか速いスピードで更新し、大量のメールが届く。
全てのメールは鈴音からのメールだった。
『一夏、今、何処なの?』
『一夏、寂しいよ…』
『ママとパパが死んじゃった…』
「!?」
引っ切り無しのメールの更新。
無くなりそうになる携帯のバッテリー。
そして何故か、俺の周りに広がる宇宙空間と涙を流し蹲る少女の姿は鈴音だった。
「鈴!」
「あっ、一夏!」
お互いに気付き、抱き締め合う。
「一夏、お帰り。」
「あぁ、ただいま!」
「帰って来たんだね…」
そして、いつの間にか、宇宙空間は無くなり、アルマ達がいる砂浜に戻っていた。
イチカの何かを感じていたと気付いたのは、若干のニュータイプ能力があるアルマだった。
「イチカ、もしかして、ニュータイプに覚醒した?」
「「「「ニュータイプ!?」」」」
「うん、まるでイングリッドちゃんみたいに感じたから」
アルマの呟きの後にメールの最後に表示されたメッセージに一夏は顔を真っ青にする。
『一夏の周りに視えていた女共に付いて、説明を求める事と再会次第、ぶん殴るから…』
「「「「うっわぁ…」」」」
皆は、イチカに頑張れと思うだろうが、修羅場しか思い浮かばないイチカだった。
同じ頃、隠れ家では鳴り響く警報音に緊張がはしる。
「レーダーに反応?」
束が監視する監視カメラに映るのは、突然開いた黒い穴から何かが落下する光景に緊張が走ると共に警報を聞き付けたスコールとオータムまでもが部屋に走り込んでくる。無論、ソファにはマドカが眠って居るが警報で醒めない程に熟睡していた。
「敵か?」
「まだ、高度があり過ぎて分かんないかな」
高さにして約一万メートルの上空から落下して来るが、攻撃するなら既にされている。
無論、隠れ家は地下に作った施設だから核の直撃でも耐えられる構造だから問題はない。
「おい、何か別れたぞ!?」
オータムが監視カメラの倍率を上げた時、光り輝くレーザーサーベルらしき物が一塊だった物を固定する何かを切り裂くと五つに別れて降りてくる。
「新型のISか?」
「ISよりかなり大きいから違うかな。」
2機のパイロットが違う機体に乗り移った後に、2機を海側へ蹴り飛ばしながらゆっくりと降りて行き、キャノンを積んだロボットらしき機体が浜辺に着陸する。
「束、かなり不味いわよ。
降りた全部の機体は、多分だけどエンブレム付きよ」
「スコール、エンブレム付きって?」
「米軍の航空機に例えるならば、エース級のパイロットが乗っているか、エンブレムが許された凄腕のパイロットが乗っているって事よ」
スコールのエンブレム付きだと言う意味が解らなかったが、エースパイロットの意味は判るので警戒感は更に高まる。
スコールが監視カメラの倍率を上げて降りて来た機体を確認したら、案の定『キラー・ハーピィ』『Queen of Fairy(妖精女王)』『フェアリーキラー』と海に半分沈む『蒼い悪魔』『剣』の五つのエンブレムを確認していた。
この時、スコールは倍率を上げたモニター越しから同型のロボットらしき機体のカラーリングも違う事にも気付いていた。
「まさか、専用カラーリング持ち?」
カラーリングの違いとエンブレムから、スコールの米軍時代の経験から海に落下した機体も含めて全員がエース級のパイロットが乗る機体だと思っていた。
スコールの呟きを耳にしたオータムは実際に相手にしたらと悪寒が走り、エースパイロットのヤバさを知るスコールの表情は真っ青だった。
「マジでヤバくないか…」
「機体も約18メートルと大きいわ。」
浜辺に降りたロボットの監視を続ける最中、海に落ちたロボットはズタボロだったが、回収されて浜辺へと上がり、戦闘するどころか機体に乗っていたパイロットは全員が降りてくる始末。ヘルメットを脱ぎ捨てて、パイロットスーツを半分脱ぐと上半身をタンクトップ姿でロープやら防水シートでテントを作り、簡易コンロを出してご飯を作る光景に何だか、馬鹿らしくなる。
そして、白いパイロットスーツの人物がヘルメットを脱いだ瞬間、私の涙腺が崩壊していた。
「嘘…いっくん?」
「マジか束!?
鈴音、呼んでくる!」
オータムが慌てて、キッチンで昼食を作っていた鈴音を呼びに行くが、呼ぶ前に右手で携帯を握り潰しながらブチ切れた鈴音が入ってくる。
「束さん、アレ、一夏で間違いないわよ」
「「「ピッぃ!?」」」
私達、三人はソファーに夜の哨戒任務でぐっすり眠るマドカを尻目に恨みながら、鈴音のキレた形相に悲鳴を上げたのだった。
無論、何かを紐で括り背負っているのは業物の青龍刀だとは思いたくないと、三人は視線を逸らすだけで精一杯だった。
エマと一緒に全員分の食事を作る最中だった。後の森から迫る、猛烈な殺気にエマを蹴り飛ばして脇に飛ぶと俺達の食事となる予定だったスープ入りの鍋が真っ二つに斬られる光景に支柱に立て掛けた軍刀を抜く。
「キャア!?
イチカさん、蹴るなんて…嘘…」
「ちぃ!?」
見覚えがある青龍刀と一人の少女らしき人物に斬り掛かられ、ガッキィンと軍刀とで鍔迫り合いとなる。
「こっのぉぉぉ、浮気者ぉぉ!!」
「まさか、鈴か!?」
「一夏、お帰りと言いたいわよ!!
でも、こんなに女連れだとは聞いて無いわよ!」
鈴の剣撃は凄まじく防戦一方となる。
無論、鈴を斬る積りも無く、鈴も一夏を斬る気は無い。ただの二人だけの物騒な愛瀬の時間だった。
ただ、4年分と溜まりに溜まった鈴の最大の甘えだとしても…
「何なのよ、あれ…」
「まさか、大尉が防戦一方だなんて…」
「アルマなら止められる?」
「大佐、私でもアレは無理です!」
エマ、ミア、キリー、アルマと観戦しながら好き勝手に言っては居るが、鈴に丸聴こえであり、蟀谷に青筋が増えるばかりだった。
「貴女、イチカに何しているのよ!!」
大量の魚や貝を採りに海に入っていたアンが戻った際に視界に入った光景に網を投げ捨てて、自機の脚からシリンダーパイプを無理矢理抜いて鈴に斬り掛かる。
「一夏が浮気しただからでしょうがぁ!!」
「下らない、嫉妬ね!」
鈴と一夏から代わったアンの凄まじい剣撃。
「ふざけるな!
アタシは一夏にご飯を作ったり、貰ったりなかしてないのに!」
「仕方ないでしょ!
一夏とエマ以外は料理が作れないんだから!」
「えっ、マジ?」
「うるさい!!」
二人の凄まじい剣撃は、追い掛けて来た束さんが鈴の青龍刀の腹を叩いて剣を砂浜に斬りつけた所を足で踏み止め、アンのシリンダーパイプは軽く脚で蹴り上げて止めていた。
「鈴ちゃん、少し大人しくしようか?
君もね?」
「束姉…」
「うん、いっくんお帰り。」
「うわぁぁぁぁ!?」
鈴も青龍刀を仕舞い、一夏を抱き締める。
「一夏、お帰り…」
「あぁ、ただいま」
酷い泣き顔だったが、鈴と束姉を抱き締めると帰って来れたのに実感が湧き、涙が止まらなかった。