戦艦擬人化系生徒な先生と司令長官な先生が透き通る世界を守る話   作:SR-71改

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PRE-0-002 <<FOREIGNER(客員将校)>>

 カーゴ同様にガラス張りとなったシャフトを上昇するエレベーターから望む景色には、地平線の彼方をも埋め尽くすような高層ビル群が屹立していた。

 学園都市キヴォトスの中央行政特区、連邦生徒会直轄の学区となっているウトナピシュティム自治区・通称『D.U.』は、アトミックがこれまで見てきたメトロポリスの中でも群を抜いて発展している都市の一つに数えられた。

 『ユリシーズ(1986VG1)』『ポリュペモス(1994XF04)』両小惑星群の落着によるクレーターはどこにもなく、空には天使の輪を思わせる白色の同心円が広がり、神秘的とも思える光景を描き出している。置かれた状況も相まって、「死後の世界」と言われれば信じ込んでしまいそうな、神々しいばかりの絶景だ。

 不定期に降り注ぐ流星群や墜落衛星も、隕石落着によって大陸間規模で舞い上がる粉塵もない、清浄かつ澄み切った都市。それが、アトミックにとっての第一印象だった。

 

「キヴォトスへようこそ、先生。このキヴォトスは、数千の学園の自治区が一つに集まることで形作られた、巨大な学園都市です」

 

「複数の学園が各校ごとの自治共和国を形成し、中央行政機構の下に集うことで、巨大な連邦国家を成した都市国家…それがキヴォトス、ということか」

 

「はい。そしてその学園を束ね、中央政府としての役目を受け持つ組織こそが私達、連邦生徒会という存在です」

 

「……一応聞く。七神、お前の年齢は」

 

 確認のため、アトミックはリンの年齢を確かめた。彼自身も不躾な質問かとは思ったものだが、今後のことを考えればどうしても確認しておきたい事項だった。いずれにせよ、避けられない話ではある。

 

「17歳です」

 

「…まさかとは思うが、他学園のトップもお前と同世代なのか?」

 

「はい、彼女たちは自治政府に相当する生徒会に在籍し、生徒会長あるいは生徒会役員として行政を担っています」

 

 区画整理された都市の美しさに呑まれかけていたアトミックの情緒が、冷水を浴びせかけられたように現実へと引き戻され、その顔がやや輝きを失った。

 子供によって統治された都市国家が集約され、一つの連邦国家を成している世界。そんな国など、アトミックは見たことも聞いたこともなく、彼が知る限りの歴史にそのような国が存在したという記録もなかった。

 そもそも、学徒の年齢でありながらそれだけの重役を任された者たちによって動かされる行政とは、いかなるものなのか。彼女たちを教え導く教員や指導者は誰なのか。そもそもこのような巨大学園を前にして、教職の人材は足りるのだろうか。疑問は尽きなかった。

 

「…先が思いやられる」

 

 思わず呟いた彼の言葉をすかさずフォローするように、リンが微笑みかけた。アトミックが感じた不安の理由を理解したのだろう。

 

「確かに、先生がいらっしゃった場所とは、様々なことが異なると思います。文化も、価値観も、法律も、常識も──ですが、心配なさらないでください。連邦生徒会各位、先生を全力でサポートいたしますし、何より───あの連邦生徒会長がお選びになった方、ですからね」

 

 連邦生徒会長。

 先刻よりリンが見せているアトミックへの信用は、その者に対する全幅の信頼の現れだった。

 

「その連邦生徒会長とやらは何者だ。どうしてここにいない」

 

「…現在、連邦生徒会長は行方不明となっています」

 

 衝撃のカミングアウトに、微笑んでいたリンの顔がやや陰りを見せた。

 行政のトップが消えたことによる業務の負担と心労が重なったこともあるのだろうが、その表情にはどこか別の思いがあるようにも思われた。

 アトミックは質問を重ねる。

 

「…私を呼びつけておいて。か。まさか、業務の引き継ぎもせずに消えたのか」

 

「はい……あまり彼女について悪く言いたくはありませんが、そのような状態になってしまっているのが実情です。ですので今回は、連邦生徒会長の失踪──いえ、行方不明によって生じた混乱を、先生に収めて頂きたいのです」

 

「……」

 

 双方の間に居心地の悪い沈黙が流れる。

 

「…連邦生徒会長は、何故私を呼んだ」

 

「それについては、後から詳細を説明させていただきますが…彼女が連邦生徒会の下部組織として設立した"新たな部活"の顧問になっていただくためです。連邦生徒会長がその部活の顧問担当として先生を指名したことに伴って、私達連邦生徒会は先生を客員将校としてお招きすることを決定しました」

 

「……なるほど」

 

 国連の名を知らないような組織のトップが、正規の手続きを踏んで行ったものとは到底思えないが───今のところはリンに従うしかないのが実情だ。

 アトミックは自嘲するように、同時に連邦生徒会長への不信を滲ませる形で、窓外に目を移しながら呟いた。

 

「いずれにせよ、こんな呪われた民族の血統を受けた者を頼るなど、到底正気の沙汰とは思えんな」

 

「……? それは、一体どういう」

 

「知らんのなら構わん。敢えて話すようなことでもない」

 

 リンの疑問を食い気味に押し潰した直後、チャイムとともに目的階へと到着したエレベーターが扉を開いた。

 

 

 

 


@ 連邦生徒会本庁 レセプションルーム

 

 チャイム音とともに、目的の階へと至ったエレベーターがドアを開く。

 エレベーターから歩を進めた二人をレセプションルームで待ち構えていたのは、憤慨した様子でリンに非難の目を向ける各学園の代表者各位だった。

 騒々しい室内を進む両者の背中に、雑踏の中から走り出した生徒たちが非難の声でリンを呼びつける。

 

「見つけた!代行、待って!今すぐ連邦生徒会長を呼んできて!!」

 

「……」

 

 アトミックは生徒たちの姿に、憮然とした表情を向けて立ち止まった。

 真っ先にリンを呼んだ菫色のツーサイドアップ、そのプリーツスカートの腰元に下げられているのは、2丁のピストル・キャリバー・カービンだった。

 9mmパラベラム弾を満杯に蓄えたマガジンをロードした、MPX-K。シグ製と思しきSMG(サブマシンガン)は黒々としたフレームから光沢を発しながらも、それでいて武器らしからぬカジュアルな雰囲気を放ちつつ、少女の腰にぶら下げられている。

 

「主席行政官、お待ちしておりました」

 

 後方に立つは、黒髪に巨大な翼を広げた長身の生徒──年齢と身長ではリンと同格か──の手には、M1917エンフィールドをカスタムしたものと思しきボルトアクションライフルが握られている。

 隅々まで整備され、エングレーブまで丁重に彫り込まれていることから、それが現在進行形で彼女の武器として用いられているらしいことは確かだった。しかしアトミックからすれば、M1917などという第一次世界大戦当時の火器が、近代のサブマシンガンと同じ戦場で、しかも戦闘用の実銃として利用されているという点は、もはや時代錯誤も甚だしいものにすら思えて仕方がなかった。

 

 互いの常識の食い違いが、早くもここで生じている。

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得できる回答を要求されています」

 

 次に前へ出たのは、ブロンドの赤縁メガネ。モーゼルC96をホルスターに収めて医療鞄を抱えている姿を見るに、衛生兵に近い役回りなのかもしれない。見かけの上では温厚で、良識ある生徒のように見える。

 

 振り返ったアトミックに続いてリンも歩を止めた。しかし、その際のリンが顔に明らかな影を作った瞬間を、アトミックは決して見逃さなかった。リンは生徒たちの面々を一瞥するなり、

 

「はぁ、面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

明確に「面倒」と、慇懃無礼に言ってのけたのだった。

 辟易したような様子を見るに以前も悶着があったらしいが、恐らく双方の意見が真っ向から食い違っているのだろう。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そう…いえ、大事な方々がここを訪ねてきた理由はよくわかっています。今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために…でしょう?」

 

 明らかに言葉に棘がある。お役所言葉の相乗効果でその攻撃力を増している。

 

「そこまでわかってるなら何とかしなさいよ、連邦生徒会なんでしょ!?数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!?この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!!」

 

 菫髪───学生証と思しきネームプレートの名は「早瀬ユウカ」というらしい──が、我先にとリンに食って掛かった。発電所をはじめとするインフラが各学園で整備されているという点にはアトミックも関心したが、インフラの機能不全は人々の生活に直結する死活問題である。

 

 1999年7月に起こった『ユリシーズ』小惑星群の落着後、ユーラシア大陸では大陸諸国のGDPにして36ヶ月分の経済的損失を負った上で各都市のインフラが寸断され、多くの人間が飢餓と渇水に苛まれて骸の山を積み上げる事態となった。

 難民に絡んだ諸問題を原因に発生した動乱では、LUF(リエース派統一戦線)を名乗る軍閥が敵対地域のライフラインに破壊工作を仕掛け、恣意的に物資供給を停止する暴挙を働いた結果20万を超える死者を出すという惨劇を引き起こしている。

 

 この都市でも同様に、そのような血生臭い工作が行われている───などということは流石になさそうだが、電力供給の停滞によって交通や産業に影響が出ているのだとすれば、一大事であることは万国共通だ。それはこのキヴォトスにおいても然り。

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」

 

「スケバンのような不良たちが、登校中の生徒たちを襲う頻度も最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています。これでは、正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 連邦矯正局(刑務所のようなものか?)からの脱獄犯、スケバンなる者たち──アトミックの知識を絞る限り、昭和期の日本に跋扈したという非行少女の通称──の襲撃、そして装甲車両や回転翼機という学園都市に似つかわしくない兵器の違法な取引。

 もとより正常な学園生活を知らない男から見ても、今のキヴォトスが学園都市のあるべき姿から程遠い状況にあることだけは理解できる。脱走犯やスケバンとやらも彼女たちと同じように銃を手にしているのだろうか──……だとすれば、如何ほどの人間が死傷しているのか?

 そう考えを巡らせていると、再びユウカがリンに詰め寄った。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」

 

 どうやら彼女たちは、アトミックと同じく連邦生徒会の内情をほとんど知らないまま集まってしまったようだった。

 

「…連邦生徒会長は今、席におりません。正確に言いますと、行方不明になりました」

 

「えっ!?」

 

 

「…!」

 

「やはりあの噂は……」

 

 リンの発言に、生徒たちの顔が憤懣から驚愕へと裏返った。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが、そのような方法は見つかっていませんでした…先ほどまで、は」

 

「…つまり、今では方法があるということですか? 首席行政官」

 

 満を持したように、リンがアトミックへ顔を向けながら説明した。

 

「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

 アトミックはここで初めて、連邦生徒会長と首席行政官という連邦生徒会TOP2の目論見を知ることとなった。

 

「!?」

 

「…!!」

 

「この方が?」

 

「……私が、か」

 

 予想外の返答を受けた生徒たちが、一斉にアトミックの姿を見つめる。

 だがその出で立ちはお世辞にも「先生」と呼べるようなものではなく、彼女たちのイメージにおける教職者の姿からは、あまりにもかけ離れすぎたものだった。

 

 男性の平均身長に比べても頭一つ抜けたリンやハスミをも見下ろすような長身痩躯、その身を包む黒色の飛行用耐Gスーツ。一見すれば長身に比べて華奢に見える体躯だが、フライトスーツに覆われた体からは鍛え抜いた筋肉の存在が見て取れる。フライトスーツの両脚には、ミレニアムのエンジニア部が開発している歩行補助具に似た装置が組み付けられ、添え木のように彼の足に密着している。

 どの学園の校章とも一致しない徽章を輝かせる官帽を被った黒髪、そしてアイオライトのような碧眼。しかしその左目は色落ちしたようにやや色が薄く、左頬には古傷が走り、肌は酸性溶液による化学熱傷を彷彿とさせる妙な青白さがあった。

 その佇まいは無骨にも繊細にも見えるが、彼には生徒たちのようにヘイローがない。つまり彼もまた、ヘイローによって証明される神秘の加護を持たない脆弱な人間の例に漏れず、銃撃戦が日常化したキヴォトスでは蜉蝣のように脆いはずだ。

 

 その、はずだった。

 

「ちょっと待って、そういえばこの先生はどなた?どうしてここにいるの?あと、その服装は一体何なの…?」

 

「キヴォトスではないところから来た方のようですが…先生だったのですね」

 

「はい。こちらにいらっしゃる方は、これから先生としてキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した、連邦生徒会の客員将校です」

 

 リンに紹介されたアトミックは、踵を揃えて自らの身分を名乗る。

 平和を希求して軍務に服する『軍人』を知らない彼女たちの目には、彼の敬礼は銃剣よりも遥かに鋭利に研ぎ澄まされた厳粛なものに映った。

 

「国際連合世界平和維持機構軍所属、特別大将のアドミラル・アトミックだ。……軍内では、とあるタスクフォースの指揮官を拝命している。宜しく頼む」

 

 生徒たちは一様に、聞き覚えのない組織名に顔を見合わせているようだった。

 恐らく「国際連合」「世界平和維持機構軍」についての疑問であろうことは想像に難くないが、虚偽の発言でもない以上こればかりはどうしようもないだろう。

 

「…ちょっと待って?アトミック?…えっ、じゃあ、もしかしてこの人がアトミック先生なの!!?」

 

 しかしその時、ユウカが思い出したように頓狂な声を上げた。

 

「どうしたのですか、ユウカ?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ!ここに来る前、セミナー(生徒会)の間で役員会議があったんだけど、そこで外部の技術顧問を招き入れることが決まって……そこでアトミック先生の名前が出たの!エンジニア部がいつにも増して大口の予算申請をしてきたから、経理が大混乱になったんだから! エンジニア部に『こんな多額の予算申請なんて承認できない』って言ったんだけど、『外来の技術者を迎え入れる以上半端なことはしたくない』とか、『これはエンジニア部だけじゃなくてミレニアムの威信に関わる重大な問題だ』って言って聞かなくて…そこで出てきた『外来の技術者』っていうのが、アトミック先生の名前だったのよ!どんな人かと思ったら、ここで出会うなんて───」

 

 ぷりぷりと八つ当たりのように声を張り上げるユウカに、アトミックはどこか負い目を感じていた。これについては彼もリンも初耳であり、その実情については彼も知る由はない。が、結果として眼前の少女に尋常ならぬ負担をかけた事実を察したアトミックは、敬礼を解くとともに粛々とユウカに謝罪した。

 

「……迷惑をかけてしまったならば謝罪する。済まなかった」

 

「えぇっ!!?あっ、あぁ、いえっ!!別に、これは先生のせいじゃ…!!」

 

「そこの五月蝿い方は放っておいて大丈夫ですよ、先生」

 

「誰が五月蝿いって!?!?」

 

 リンに振り返るとともに、「少し黙っていろ」と言わんばかりに怪訝な表情で視線を突き刺したアトミックは、ユウカに向き直るとともに挨拶を交わした。

 

「改めて名乗ろう、アドミラル・アトミックだ。これからお前には世話になるかもしれん。宜しく頼む」

 

「は、はい…私は、早瀬ユウカっていいます。ミレニアムサイエンススクールの二年生で、セミナーという生徒会で会計を務めています。その…覚えていていただけると嬉しいです、先生」

 

「理解した。記憶しておく」

 

 両者が自己紹介を終えたところで、リンが再び口を開いた。

 

「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として此方に来ることになりました。その部活こそが、連邦捜査部『S.C.H.A.L.E.(シャーレ)』───」

 

 リンが、アトミックと生徒の面々にシャーレについて説明する。

 

「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で制約無しに戦闘行為を行うことも可能です。何故これだけの権限を持つ組織を、連邦生徒会長が設立したのかはわかりませんが」

 

 "超法規的"と表現すれば聞こえはいいが、正確には各学園の自治権を無視した"越権"もいいところの無法ぶりである。その実態を訝しむアトミックを尻目に、リンはシャーレについて説明を続けた。

 

「シャーレの部室は、ここから約30km離れた外郭地区にあります。今は殆ど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令により、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません」

 

「『とある物』?一体何を置いてるっていうのよ」

 

「……それについては、まだ皆様にお話することは出来かねます」

 

(『とある物』、とは……随分と遠回しな言い草だ。一体、何を用意している…?)

 

 アトミックの胸中に浮かんだ疑問を知ってか知らずか、リンは端末を操作して内線に通話を掛けた。程なくして、3D立体映像を用いたビジュアル通話用デバイスがホログラムを投影し、小柄な体躯に比して目立つ大きさの尻尾を有した生徒の姿を映し出す。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど」

 

<<シャーレの部室…ああ、外郭地区の?ってことは、そこにいるのが例の先生ってことね。でもあそこ、今大騒ぎだけど?>>

 

「…大騒ぎ?」

 

 リンの問いに対し、モモカなる生徒はポテトチップスと思しきスナックを自堕落に貪りながら、危機感の欠片もない応答を続けた。

 

<<矯正局を脱走した生徒たちが騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ >>

 

「…うん?」

 

(どういうことだ…?)

 

 顔を陰らせたリン、状況を把握できないアトミックの両名を気にもとめず、モモカは面倒くさそうに現状を報告した。

 

<<連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に辺りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車とか歩兵戦車とか…あっ、すごいねこれ、武装ヘリまでどっかから手に入れてきたみたいだよ? >>

 

「……」

 

<<それで、連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるみたいなの。何かそこに大事な物でもあるみたいな動きだけど? >>

 

「…………」

 

 リンが溜息を吐くが、状況は彼女たちにとって望ましいものではないらしい。

 

<<ヴァルキューレが向かっているみたいだけど、40mmだか57mmだかの対空砲を向けられて手出しできなくなってるんだってさ。言っとくけどミサイル(MANPADS)だのRPGだのたんまりあるみたいだからヘリは出さないよ、撃墜されたら予算が勿体ないし。まぁでも、とっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大した事な…あっ、先輩!!お昼ごはんのデリバリーが来たからまた報告するね!!先生も頑張って、それじゃ!>>

 

「ちょっ、モモカ……!」

 

「……おい、お前──」

 

 思わず声を上げたリンとアトミックに目もくれず、昼食が配達されたという理由で職務すら放棄して通信を切ったモモカ。残されたリンが拳を握り込み、苛立ちを噛み殺して震えている。

 後方からは、連邦生徒会への不信を含んだ生徒たちの視線が突き刺さっていた。

 

「……七神よ」

 

「だ、大丈夫です、少々問題が発生しましたが…大したことではありません」

 

「そうは見えん。現状の打破に私も助力する、そのためにいくつか確認したいことがあるが、よろしいか?」

 

「は…はい、どんなことでもご質問なさってください」

 

 アトミックは現状判断のため、必要な情報の整理を開始した。

 

「まず始めに、サンクトゥムタワーとはどのような設備だ?」

 

「…サンクトゥムタワーは、連邦生徒会が管轄する中央行政ネットワークのハブを担う施設です。全学園に連邦生徒会の行政情報を通達することができる他、学園都市全体で行われる通信の中継拠点を兼ねる電波塔としても機能しています。ただし、現状では連邦生徒会長という管理者を失った結果───」

 

「タワーを介して制御していた情報網とインフラのコントロールが失われた、ということか」

 

「はい。そのために先生をシャーレの地下にお連れし、連邦生徒会長が残した『とある物』で、その機能を復旧していただきたいのです」

 

「私がそのデバイスを用いてタワーの機能を取り戻せば、行政機能が復旧して動乱の終息に目処がつく、といったところか?」

 

「そのような形を想定していたのですが……現在、不良生徒からなる武装組織によってシャーレの部室が占拠されかけているようです」

 

「警察は動いていないのか」

 

「D.U.の治安維持を担うヴァルキューレ警察学校の生徒が、連邦生徒会の兵力とともに動いていますが……各地で似たような暴動が拡大している以上、すぐに戦力を割くことは難しいかと」

 

「……そう、か」

 

 僅かな逡巡の後、アトミックは床に置いていた化粧箱へと手をかけた。その直後、生徒の面々はアトミックの爆弾発言に激震することとなる。

 

「地上戦は少々不得手だが、久しく戦うことになりそうだな」

 

 その言葉に、リン含む生徒たちは一様に目を見開いて絶句した。

 

「ちょっと先生!!?ま、まさかとは思いますけど───先生御本人が戦われるつもりなんて言いませんよね!?」

 

「………何か問題が?」

 

「いやいやいやいや!!!問題大アリですよ!!!?」

 

 血相を変えて踏み出したユウカの後ろで、リンは震えながらも、確かめるようにしてアトミックに忠告を試みる。

 

「……先生。ご存じないのでしたらここで改めてお伝えいたしますが……私達のようなキヴォトスの生徒と、先生のような外部の方の間には、身体的特徴に大きな差があります。キヴォトスで生活する住民、特にヘイローを持つ生徒は、銃撃や爆発を受けても重度の負傷を受けることはほとんどありません。しかし先生のような方の場合、知っての通り弾丸一発でも致命傷になる可能性が極めて高いのです」

 

「そうか────それは便利な体だな。だがお前たちに銃撃が効かないというわけでもないのだろう?」

 

「っ、それは…そうですが……でも、弾倉1本分でも普通の生徒なら気絶する程度です!外部の方を戦闘に巻き込むなんて───」

 

「なら問題はない。人型をしているのだ、頭や急所を狙えば戦いようはいくらでもある」

 

「で、でも…!キヴォトスの生徒は身体能力の面でも、ヘイローを持たない人を上回るのが普通なんです!!そんな相手と戦うなんて、危険にもほどがありますよ!?」

 

「寧ろその程度で勝てると思われているのか────存外に、舐め腐られたものだな。私も落ちた

 

 なんてこともない、とばかりに無表情で言ってのけるアトミックを前に、リンとユウカは言葉を失った。

 

「案ずるな、得物はある」

 

 化粧箱を掲げたアトミックに、リンとユウカたちは顔を見合わせて一様に頷く。そこでユウカが一歩踏み出し、アトミックを見上げて口を開いた。

 

「先生、ご提案があります。先生が前線に出なくとも、私達がシャーレの部室奪還に協力して戦えば、先生を危険に晒すことなく問題の解決が可能になるはずです。ですからどうか、先生は戦わずに後方で待機していて下さい」

 

 アトミックはその提案を却下しようとしたが、その言葉を喉に留めて再考する。

 

(軍人である以上学徒に守られて後方に引き籠もっている訳にはいかんのだが……しかし、この世界における戦いがどのようなものかを知る機会としては丁度いい。ならば、彼女たちの戦いを観察しない手はない)

 

「…いいだろう。では私は諸君を援護しながら戦闘における戦術指揮を執る」

 

「えぇっ!?じ、陣頭指揮をされるんですか…?いやっ、でも先生だから別にいいのかな……」

 

「分かりました。生徒が先生の指示に従うことは自然なことです、よろしくお願いします」

 

「七神、通信装置は用意可能か」

 

「はい、直ちに用意させます。シャーレには装甲車で戦域の至近まで移動しましょう」

 

「頼んだ。では諸君、改めて各自の名と所属を名乗ってもらう。一体どのように戦うのかについても教えてくれ」

 

「はい、まずは私、早瀬ユウカから。ご覧の通り2挺のSMGを武器に、防弾用の電磁シールドを展開して敵の攻撃を防ぐことができます」

 

「トリニティ総合学園2年生、自警団の守月スズミです。アサルトライフルを武器に、閃光弾で相手を無力化しながら戦います」

 

「トリニティ総合学園3年生、正義実現委員会・副委員長の羽川ハスミと申します。狙撃による長距離支援はお任せ下さい」

 

「ゲヘナ学園1年生、風紀委員会所属の火宮チナツです。回復剤や救急キットを搭載したドローンで医療支援や回復を行い、皆さんを支援します」

 

 混迷を極めていたキヴォトスの現状に、解決の兆しが見えた。

 

「了解した。ではこれより、シャーレ部室奪還に向けて作戦行動を開始する。目的はシャーレ部室奪還、ルート上の敵勢力無力化だ。総員、武装と装備をダブルチェックしろ」

 

 アトミックが官帽を被り直し、怜悧な眼光をその双眸に宿す。武器のチェックを完了した生徒たちを見渡したアトミックは、戦場を切り裂く刃のような佇まいとともに、AO(戦域)へと踏み出した。

 

 

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