戦艦擬人化系生徒な先生と司令長官な先生が透き通る世界を守る話   作:SR-71改

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 長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
 今回のエピソードにおいては、先生……もといアトミック司令長官の愉快な仲間たちが多数登場いたします。今回登場した人員や艦/機だけでなく、今後も様々なキャラクターや兵器が登場いたしますのでご期待くださいませ。
 それではどうぞ。

追記:タイトルについて、「-004」ではなく「-003」でした。大変申し訳ございませんでした…



PRE-0-003 <<TRANSFERENCE(漂泊の艦隊)>>

@護衛艦『やまと』CIC(戦闘指揮所)

 

 

 時は、アトミックがキヴォトスで目覚める数時間前まで遡る。

 

(……──、……──、……─長、艦……)、艦長!!」

 

「っ!!!!」

 

 夢の向こうから呼びかけるような声に、護衛艦『やまと』艦長・栗田(くりた)響次(きょうじ)一等海佐ははっと目を醒ました。

 眼前で自らの顔を覗き込んでいる神崎(かんざき)玲奈(れいな)三等海佐の顔は、不安と焦燥でその表情を強張らせ、目を潤わせていた。

 

「……副長、か」

 

「あぁ、良かったです艦長…!お目覚めにならなかったら、私一体どうしようかと───」

 

「そう、か……──うぐっ……」

 

 涙声で震えて安堵する神崎に応える最中、栗田の腹から強烈な不快感が昇った。

 頭痛とともに襲う吐き気を堪えながら、栗田は艦の長として現状の把握に努めるべく、艦長席から立ち上がってCICの状況を確かめた。指揮所内に詰める40名余りのクルーたちは既に持ち場に就いているようだが、一部の者はどこか血色が悪く、悪寒に震えるような素振りを見せている。

 

(これは……そうだ、試験飛行で長官が操縦するF/A-18Fの後席に乗せられたときと、同じ感覚だ……あの瞬間、強烈なGが肉体に加わったということか…?)

 

 蟀谷(こめかみ)を揉み解して頭痛を紛らわした栗田は、艦の機能を司るCICの機器類と要員たちを見回した。しかしその光景を前に、艦長として鍛え上げられた勘が妙な違和感を告げている。

 

「お目覚めかね、艦長」

 

「ふ、副司令…!?」

 

 後方の指揮官席から掛けられた声の主──『星屑の艦隊』副司令官ギルバート・レッドショット中将の声に、栗田は上体を引き起こして咄嗟に振り返った。栗田は起き上がるなり、痛む身体も気に留めず直立した上で、レッドショットに深々と頭を垂れた。

 

「大変申し訳ございません、大変お見苦しいところをお見せしました……お目汚しをお詫び申し上げます」

 

「構わんよ、この状況では仕方あるまい───艦長、まずは初動三原則だ。一つ、人員点呼とシステムの確認二重化(ダブルチェック)。二つ、EMCON(電波輻射制御)をBへ移行しパッシブ先行、アクティブは間欠運用。三つ、兵装管制はWEAPONS-HOLD。CIWS並びに短・近距離SAMは自衛運用のみ許可、中距離以遠の攻撃は対空/対艦/対潜問わず要承認。CIC全回線は暗号第七、本事案の臨時コードネームはK-ALPHAで運用せよ。……さて副長、改めて状況の確認を頼む。艦長にも現状の説明が必要だ」

 

「は、はい!」

 

 レッドショットの命令に、神埼は手元のタブレット端末をタップしながら状況報告を始める。

 

「現在、日詰技師長がバーナード少佐とともに艦各部の状況について調査中です。ダメコンチームからの報告は上がっていませんが、程なく状況確認が完了する見込みかと」

 

「CICならびに索敵関連機器は現在復旧中だが……そろそろ連絡を取ってみるべきかもしれんな。艦長、内線で連絡を取ってくれるか」

 

「了解、ダメコンを呼び出します」

 

 栗田は艦内通話の有線端末を手に取り、損害復旧管制室にいるはずのフレドリック・バーナード少佐を呼び出した。栗田の記憶が正しければ、意識が覚醒する直前まで続けられていた戦闘により艦内は浸水と火災に蝕まれ、ダメコンチームはその阻止と封じ込めにきりきり舞いとなっていたはずだが…

 

「CICよりダメコン、こちらは艦長の栗田だ。艦の状況について報告しろ」

 

<<こちらはダメコンルーム、バーナードです。チームを巡回させましたが艦に損傷は確認できず、火災や浸水もありません。現在は技師長主導のもと主機関復旧作業中、完全ではありませんが、巡航並びに対艦対空戦闘は可能です>>

 

 応答するなり戦闘時の状況と食い違う報告を上げたバーナードの声は、困り果てたように曇っていた。平時でも戦時でもあり得ない様子を訝しんだ栗田は、眉間に皺を寄せてバーナードを問い質す。

 

「──どういうことだ?損傷が皆無ということか?」

 

<<はい…先刻の戦闘で発生した浸水や火災は確認できず、被弾で損傷していた区画も調査しましたが異常は見受けられませんでした。ダメコンチームが隅々まで艦内を調査しましたが、損傷どころか埃や錆の一つも見当たらないという報告が上がっています>>

 

「────……」

 

<<つい先程まではあれだけ区画に煙が充満して警報アラートが鳴り止まなかったというのに、変な話です。技師長も「新造時…あるいはそれよりもいい状態になってるかもしれない」と仰っていました。全く気味が悪いですよ>>

 

 バーナードの言葉に、栗田はCIC内のダメージコントロールディスプレイを見遣った。

 右舷より舷側を捉えた図、上面より甲板を俯瞰した図の二つは、隔壁を示す線によって区切られた一種の透視図となっている。艦内の区画に異常が発生すれば、損害の内容や深刻度に応じてイエロー・オレンジ・レッドなどの警告色で対応する区画が彩られ、異常が発生していなければブルーもしくはグリーンで区画が表示される仕組みとなっているのだ。

 

 しかしディスプレイ上に表示された艦内の状況は、栗田含む乗員たちの記憶とは全く食い違った形で、何事もない事実を表す平時の様子を示していた。喫水線下やバイタルパート外の非装甲/軽装甲区画を中心に広がっていた血染めの如き表示は、まるで凪の海を思わせるブルーの表示に塗り替えられ、平穏を保っていた。超高速電磁投射体と無数のレーザーに焼かれて蜂の巣のように穿たれていた区画は、それこそ奇跡を起こしたかのように、新品同然に修復されているのである。

 

「……把握した。ダメコンチームは各部を再点検の上、機関再始動に備えよ」

 

<<了解です>>

 

 栗田が通信機を置く。

 人智を超えた異常な現象を前に、栗田は言い知れぬ一抹の不安を感じ始めていた。

 

(明らかにこれは、敵の攻撃によるものではない───だとすればこれは、一体なんなのだ?ここは一体どこなんだ?)

 

 覚えている限りの記憶においては、敵艦──忌むべきかの超兵器──の爆沈の余波を受けた艦体が破砕音とともに激震した際、計器類の一切が白く輝いた直後に暗転した。その瞬間を境にCICから一切の光が消え、続け様に襲った激しい衝撃がCICに詰める乗員たちの意識を飲み込み、不気味な静寂に包みこんだのだった。

 当然、機器類のディスプレイやコンソールは破壊されて使い物にならないはずだったが、少なくとも栗田が見える限りで目立った破損はなく、現在のそれらが動作状態にあることは確からしい。

 乗員たちはキーボードを叩いて食い入るようにディスプレイを睨み、艦の機能復旧と現状の把握に努めている。しかしその顔は一様に、釈然としない様子の渋面を作っていた。時折目を(しばたた)かせて画面上の表示を睨んでは、内容を理解できずに首を捻っているようだった。

 

 栗田は今一度、神崎に現状の報告を命じる。

 

「現在位置と周辺の状況は?」

 

「現段階では場所及び状況は不明、としか回答できない状態です」

 

「場所不明…?ここは北極海ではないのか?」

 

「GPS衛星網や衛星視界装置とのリンクが完全に途絶、GLONASS(ロシア衛星測位装置)ガリレオ(欧州衛星測位装置)からも応答が確認できません。周辺に友軍機や僚艦の反応はなく、それどころか民間船舶の形跡すら発見されていない状態です。海図も照合不能、座標特定が不可能である以上、現在地の判別は不可能……──波が穏やかなので、地中海に似ているような気はしますが」

 

「本隊や第二艦隊との交信は取れないのか?」

 

「どことも連絡がつかないんです。軍本隊、安保理との直通回線、統合参謀本部、欧州連合軍、サンディエゴやパールハーバーも応答なし。挙げ句には自衛艦隊司令部や防衛省も呼び出しましたが、一向に繋がる気配がありません」

 

「ECMで妨害されている可能性は?対抗機器(EPM/ECCM)は動作しているのだろう」

 

「その種の電波が全く観測されないどころか、そもそも探知できる電波が極端に減っていて、ゼロに等しい状態に至っています。ただ一つ、民間の放送と思しき電波を傍受したのですが、その内容がどうも変なもので…」

 

「どういうことだ?」

 

 栗田の眉間に皺が寄った。神崎は自分にもわからない、といった様子で説明を続ける。

 

「明瞭な音声は確保できませんでしたが、『キヴォトス』という場所で流れている放送のようです。ノイズが多く不明瞭な情報しか確認できていませんが、『連邦生徒会がなんだ』『その生徒会長がどうした』といった趣旨の内容を日本語で喋っている、と通信室から報告が上がっています」

 

「連邦生徒会……?まさか、連邦軍と関係がある組織か?」

 

「少なくとも、私達が知っている相手(大陸連邦)ではないようです。“どちらかといえばハイスクールの校内放送を聞かされてる気分だ”って通信長が言ってましたけど、それ以上のことは…」

 

 レッドショットは眉根を僅かに寄せた。しかし、その声は平板だった。

 

「『連邦』と『生徒会』の語彙が同一文脈で用いられる世界……制度語彙の幼体化か、あるいは比喩だ。いずれにせよ、接触の必要性があるならば初動は言語交渉だ。交戦規定は自衛限定、挑発を受けても応じるな。通信長に通達せよ、受信録音を逐語記録の上、解析班に回させろ」

 

 その瞬間、神埼が言い淀んだ一瞬の沈黙を引き裂くように、艦内連絡がCICに響いた。

 

『艦橋よりCIC!!上空の様子は確認できるか!?』

 

 どうやら復帰した艦橋見張員が、艦橋直下の装甲防護区画内からラッタルを駆け上がり、艦橋内エレベーター復旧よりも早くウィングの双眼鏡に取り付いたらしい。

 しかしその連絡は動揺と焦燥に上擦っており、明確な異常の発生をCIC要員に印象付ける声だった。

 

『艦橋左舷ウィングよりCIC、直ちに現在位置を確かめてくれ!!』

 

「一体何事だ…?」

 

「観測員、外部カメラは動かせるか?」

 

「外部映像復旧しました!!メインモニターに回します!!」

 

 快哉を叫ぶような報告がCICに響くとともに、ノイズが走っていたCIC正面のメインディスプレイに艦橋からの映像が表示された。オペレーターがコンソール上のキーボードとパネルをタップするとともに、昼戦艦橋に据えられている観測カメラが捉えた艦外の光景が、視界補正装置(デジタルビジョン)に補正された明瞭な映像としてディスプレイ上に映し出される。

 その光景を認めたCICの者たちは、一様に絶句して顔色を失うこととなった。

 

「────一体、なんなのだ、これは…?」

 

「────これは、もはや神の御業だ……そうでなくては、とても説明がつかない…!」

 

 幅広の大画面に投影された視界情報。そこに捉えられていたのは──

 

 

 遥か天空の高みへと消えていく一本の白い筋、そして天使の輪にも似た巨大な円が幾重にも拡がった空だった

 

 

 壮大極まる光景に、乗員たちは絶句したままモニターに視線が釘付けとなる。美しさに呑まれる者もいれば、自らを死したものとみなして天を仰ぐ者も、他の乗員の反応を気にしてCICを見回す者もいる。

 

 しかしながら、そこにはただ一つ、確かな事実があった。

 

 

───この光景は、この世のものではない。彼らの知る世界とは、全く以て異なる場所である。

 

 

「副司令、これは───」

 

 栗田は肉付きの薄い頬に汗を垂らしながら、レッドショットに振り返る。席上のレッドショットはただ、モニター上に表示された巨塔を見つめながら、淡々と告げた。

 

「美観に惑うな。何者かが我々を惑わせる目的で“見せている”可能性がある。観測班、光学は三点測距、電磁観測は帯域スイープ、放射線観測と重力計ログも同時記録。現象名称としてHalo-echoを暫定付与、異常確認事案IDを『K-ALPHA-01』で統一。初認時刻以後の全センサ記録、通信操作ログを当該IDに索引化、版管理を徹底せよ」

 

 直後、焦燥に上ずった報告がCICに上がった。

 

「レーダーシステム復旧確認、これより索敵を開始します!」

 

 報告に被せるようにレッドショットが指示を落とす。

 

「アクティブは3秒×3回のバースト照射、以後EMCON-Bを維持。SPY-3は低被発見プロファイル、OPY-2は対空のみ限定。SIFはパッシブ先行、こちらの身元は明かし過ぎるな。長官なら必ずこう仰る────『相手が見えぬ時ほど自分を隠せ』とな」

 

「周辺海域を捜索後、直ちにあの不明物体との距離を割り出せ!」

 

 栗田の命令に、レーダー員が見通し線圏内の観測を行いつつ“塔”との距離を割り出さんとする。

 羅針艦橋の直下、射撃管制装置の視野を取るために抉られた造形が特徴的な作戦室周囲に輝くフェーズドアレイレーダーが、周囲の生命を薙ぎ払うような高出力の電波を放って周囲を捜索し始めた。

 AN/SPY-7、AN/SPY-3、OPY-2───複数機種からなる複合レーダーシステムは、手始めに近距離精密捕捉用の短波長で周辺海域を隈なく捜索、水上目標から空中目標の存在までを電子の目で探り抜く。続けて放たれた長距離捜索用の長波長は“塔”に向けて集中照射され、秒速29万mを超える速度で彼我の位置情報を提供した。

 

「探知方位2−7−0。目標、不明高層物体。距離は……出ました、距離凡そ350海里!」

 

 報告された距離は、意外にも近いものだった。

 300海里となれば、艦載機での偵察も不可能ではない距離だ。栗田は艦載機の発艦準備を命ずるつもりだった───が、その時に新たな報告が入る。

 

「レーダーコンタクト、方位0−1−5。XIFF(拡張敵味方識別)信号は……友軍です、我が第一艦隊の所属の模様」

 

 巨塔と大輪を映し出していたカメラがズームアウトしながら向きを大きく変え、水平線上に浮かび上がった艦影を視界に捉える。

 

「レーダー、どの艦か識別できるか」

 

「識別完了!目標は……確認できました、DDG(ミサイル護衛艦)『ふぶき』以下、我が第一艦隊所属の各艦です!艦隊後方にAOE(補給艦)『かしの』も確認。全艦、共に24ktの艦隊巡航速度で本艦へと接近中」

 

「了解。通信長、回線を開け」

 

 通信士官が接近中の護衛艦との通信回線を開く。音声が届くなり聞こえてきたのは、先頭を進む護衛艦『ふぶき』からの通信だった。栗田は通信士から無線マイクを受け取り、『ふぶき』との交信を試みる。

 

<<…──…─……こちら国連軍打撃群『星屑の艦隊』所属、護衛艦『ふぶき』。旗艦『やまと』へ、この通信が届き次第応答を願う。我が艦隊は現在、衛星データリンクの途絶により航法をロストした。旗艦『やまと』、指示を乞う…我が艦は…─>>

 

「旗艦『やまと』より『ふぶき』へ。こちらは艦長の栗田一佐だ。そちらの状況は?」

 

<<っ!!──栗田艦長、ご無事でしたか!こちらは航法を喪失するも、艦に損害は確認できず、自力航行及び戦闘に支障なし。しかしレーダー出力低下につき、完全復旧まで索敵の範囲及び精度に制限あり。艦隊旗艦との合流を望みます>>

 

「了解した───…副司令、どうやら艦隊は無事のようです」

 

 安堵する栗田に、レッドショットが軽く顎を引いた。

 

「よし、艦隊各艦に通達。艦隊旗艦を中心に輪形陣を展開、各艦は航法の独立冗長化を維持の上、補給艦は旗艦後方に付けろ。各艦長にはビジュアル通信による会議の準備を整えるよう伝えてくれ。加えて全艦に衛星リンク喪失時ドクトリン『K-ALPHA-06』を適用、臨時作戦指針K-0『未知環境移行時初動』を発令する───

 

一・交戦規定は自衛限定。

二・通信は暗号第7、身元秘匿を優先。

三・索敵は受動先行、アクティブは短時間バースト発信に限り、記録と情報収集を最優先。

四・接触は言語交渉を初動とし、戦闘不可避な場合を除き先制攻撃は不許可。

五・艦隊は輪形陣、フォーメーション・δ4。補給艦は艦隊防空圏内に配置。

六・解析班はHalo-echoの全ログを逐次報告。

 

───以上。我々は『星屑の艦隊』だ、恐慌という敵には手順を以て勝て」

 

「了解いたしました───旗艦『やまと』より全艦に達する。各艦、旗艦を中心に輪形陣を展開、周辺警戒を厳となせ。各艦長はビジュアル通信を準備、艦長会議で現状を報告せよ。以降は艦隊行動について協議を行う」

 

 


 

 

 集結した護衛艦隊の動きは、RIMPAC(環太平洋合同演習)で実施される国際観艦式のように整然としていた。

 『星屑の艦隊』第一艦隊を構成する各艦は、粛々とした操舵をもって艦隊旗艦『やまと』を囲む輪形陣を展開し、レーダー出力不全ながらもその艦隊防空網を確固たるものとして再構築しつつあった。

 

 旗艦『やまと』の前方に躍り出たのは、たかお型重原子力ミサイル護衛艦の一番艦、イージス護衛艦『たかお』だ。続けて同型艦『くらま』『ほたか』が『やまと』の両舷後方に展開し、4艦のVLSに収められた個艦防空ミサイルの射程圏が輪形陣中央で重なる。

 日本海上自衛隊のイージス・アショア代替艦に続く大型イージス護衛艦として計画され、旧ソ連のキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦をはじめ、クロンシュタット級/スターリングラード級の両重巡洋艦や米原子力打撃巡洋艦、果てには旧海軍のB65型超甲型巡洋艦をも参考として建造されたこの戦闘艦は、ウィルキア解放軍に接収され国連軍に移籍した戦艦『大和』もとい『やまと』という特例を除けば、戦後日本が建造した中で名実ともに最大級の水上戦闘艦である。

 基準排水量4万トン弱・満載排水量5万トン超を数えるこの艦級は、従属の対象となる艦隊旗艦『やまと』に比べれば子供どころか小人にも等しい差があるものの、前述のイージスアショア代替艦やDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)『いずも』型をも上回る規模の艦体には4基12門の324mm三連装砲が搭載され、加えて総数200セルに迫るVLSを含めた多種のミサイル発射装置を全身に纏うように装備している。

 対艦/対地/対空/対潜といった各用途に応じるミサイルを収容・発射可能なVLS群を携え、大気圏外の目標すら捉えるイージスシステムと各種レーダーに身を固めた本級は、個艦戦闘能力においてはどこにでも単艦で殴り込める現代の巡洋戦艦として、艦隊戦においては旗艦の直衛となって鉄壁の護衛(エスコート)を果たす戦闘指令艦として、いずれにしても世界トップクラスの能力を持ち合わせていると言って差し支えないだろう。

 

 たかお型3隻が『やまと』の直衛に回った第一艦隊の外縁には、続いて満載排水量17,000tを数える『ふぶき』型イージス護衛艦『ふぶき』『ひびき』『みらい』『いそかぜ』が展開する。

 この艦級は、米アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦をタイプシップとして発展してきた海上自衛隊イージス護衛艦群の正当な発展型でありながら、8艦8機体制に基づくシステム艦として整備されてきた汎用護衛艦の任務にも一艦級で対応すると共に、国際連合で将来的に標準化されるであろうウェポンシステムの実証試験さえも担うという、極めて野心的なコンセプトに基づいて建造された艦である。

 本級ではこれらを達成するため、世界に先駆けて次世代の艦船兵装モジュラーシステムとして注目と期待が集まる新機軸・VE(ブイ)-WEBV(ウェッブ)*1システムが実装されていた。デンマーク海軍で採用されたスタンダード・フレックスのコンセプトに基づき、兵装に留まらず艦橋や機関すらもモジュラー構造区画として再構成した当該システムは、艦上でのモジュール移設・換装によって多種多様な状況に対応できる仕様を実現した。

 艦影もまた、日本初のイージス艦となったこんごう型より続くイージス護衛艦の特徴を色濃く引き継いでいるものの、後部艦上構造物上には八角錐台型のエンクローズド・マスト(先進型閉囲マスト/センサー)が設けられ、その直前に位置する第二煙突はドイツのザクセン級フリゲートを除いて類を見ないV字型を採用するなど、要所から先進的な設計概念を覗かせる姿は他艦級と一線を画す異彩を放っていた。

 

 ふぶき型各艦に加え、外周に加わる三代目・あきづき型対空ミサイル護衛艦『すずつき』『ふゆづき』の2隻、汎用護衛艦『かすみ』『あさしも』『はつしも』もまた、周辺空域にレーダーで睨みを効かせながら艦載ヘリの発着作業を急ぎ進めていた。空気を叩くローター音を立てて舞い上がるAH-64DJ攻撃ヘリコプターやSH-60K対潜哨戒ヘリコプターの編隊は、洋上停泊中の艦隊に近づく水中目標の接近を阻む警戒網を展開しつつ、海面から海中に至るまでを磁気探知と音響探知で丸裸にしていく。

 投錨中の艦隊に近づく敵潜水艦の隠れ場所を浚うように、ヘリコプター編隊は捜索範囲を広げながら水上・水中目標の反応を追い求め続けた。

 

 対空/対潜警戒と並行して、護衛艦『やまと』の艦尾からは二つ、極度に引き伸ばされたような異形の翼が2機編隊(エレメント)を組んで上空へと舞い上がった。長大なアスペクト比を持つ折畳式のテーパー翼を伸ばした、MQ-33 “Initiator(イニシエーター)” 無人偵察観測機である。

 U-2戦術偵察機の完全代替を叶えられなかったRQ-4『グローバルホーク』無人偵察機に続いて、両機種の役割を一挙代替する次世代の無人偵察機として開発された本機は、U-2の早期登場により計画中止の憂き目に遭ったX-16偵察機の系譜を組む機体として開発された来歴を持つ。

 U-2の正当な後継として同じ後釜を狙う無人偵察機計画『TR-X』と競合する過程で「大型艦への艦載運用」が取り沙汰された本機は、正式採用の座を勝ち取るための実証試験の一環として『やまと』を含む一部国連軍戦闘艦にも搭載されていた。

 数値にして14.4に達するアスペクト比を持つ長大な主翼にBWB(ブレンデッドウィングボディ)を組み合わせた形状は、実用上昇高度27,121mにまで達する揚力を生み出し、本機はその高高度滞空能力と連続飛行時間によって幾度となく偵察観測や通信中継に従事し続けてきた。

 今回の探査においては、その被発見性の低さや生存性(サバイバビリティ)の高さ、加えて被撃墜時に人員を失う恐れのないリスクの低さを買われ、偵察活動の一環として“塔”の麓に向けて放たれたのである。

 

 茫洋の領域に散りばめられるように放り出されていた『星屑の艦隊』は、同じ艦旗の下に再び終結し、未知の海図を埋めるための情報を着々と収集し続けていた。

 

*1
Variable Equipment - Weapons, Engines and Bridge Vessel





 まだたった4話でプロローグも脱していませんが、タイトル変更を検討しております…

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