鬼滅の刃 無賃乗車編   作:ドルデダバ

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大正コソコソ天才話

五郎は5人兄弟の末っ子。他の兄弟は皆死んだ。


すげえ天才ゴロー君。

 炭治郎たちは無事、柱合会議での裁判を終え生き残ることに成功した。師匠鱗滝と兄弟子義勇の愛を感じ、禰豆子は鬼としての本能に打ち勝ち他柱たちにも我の強さを証明することができたのだ。

 その後炭治郎は他友人たちと共に蟲柱、胡蝶しのぶの屋敷にて先の戦闘によって負った負傷を治療している。

 

 

 

「…なあ善逸、」

「ん…?どうかしたのか炭治郎」

「考えてみれば五郎さんは何柱なんだ…?もう既に水柱には義勇さんがいる、同じ呼吸を持つ柱が同時に2人というのはあり得るのか?」

「ん~どうだろう。そもそも柱って言うのは常に人手不足なんだ。今はその五郎って人を合わせて10人だけど、昔は5人しかいない時もあった…ってじいちゃんが言ってた」

 

 炭治郎はふと浮かんだ疑問をぶつけた。鱗滝の弟子…ということは教わった呼吸は間違いなく水の呼吸のはずだ。だがもう既に水柱には富岡義勇がいる。善逸からの言葉は、そもそも同時期に同じ呼吸から2人も柱になりうるような実力者が現れる、ということが今までなかった、ということを示していた。

 「…でも、あり得るんじゃないか?同じ呼吸を使う柱が2人存在して悪い理由はないはずだし」と善逸は少し寂しそうな顔をしながら言葉を続けた。

 

「俺は滝柱だ」

 

 いつの間にかベッドの横に立っていた五郎が一言呟いた。

 

「うわあっ!?」

「うえええッ!?」

 

 2人は思わず両肩を跳ねさせた。匂いも、音もしなかったのに、まるでそこから突然生まれたように現れた五郎に驚愕したのだ。

 

「ここは病院だぜ、静かに静かに」

「あ、す、すいません…」

「気にするな、ここ病院じゃないし」

「ええ……」

 

 五郎の素っ頓狂な言動に困惑する2人。

 だがそれよりも炭治郎はその1つ前に彼が言った言葉に疑問を感じていた。

 

「滝…ですか…?」

「ああそうだ、…まあでも気にしなくていいぞ」

 

 彼は周りをきょろきょろと見渡して蟲柱胡蝶しのぶがどこかで聞いていないことを確認してからそっとその場に屈んだ。

 

「実は適当に考えた即興なんだ、ホントは最後まで型考えてないけど…お館様には考えました~って言ってあるから、バレたら正味マズいことになる」

「え、ええ…!?な、なんでそんなことを…!」

「だってもう富岡がいるだろぉ?天才の俺が()()()の水柱~なんて…ダサイじゃん!」

「……」

 

 この人、マジでヤバイ人なんじゃないか?善逸は心の中で静かに呟いた。

 「正直、富岡本人にはバレてる気がする。アイツ、俺といるとなんか不機嫌な雰囲気になるんだよな」と小声で囁いた。

 善逸も炭治郎もすっかりその雰囲気に気圧されお互いの顔を見合わせることしかできずにいた。

 

「あら…五郎さん、いらっしゃってたんですか?」

「おお~っ!胡蝶しのぶマイワイフ~!」

 

部屋の入り口から顔を出したしのぶに肩を跳ねさせる五郎。

すぐに立ち上がると小走りに彼女に近づき、「見てよこれ、不良に突然斬りつけられたんだ~しのぶの愛の力で治してよ~」と掌にできた傷を見せる。「そうですか、消毒液をぶっかけておきますね」という笑みを浮かべながら放たれた言葉に彼は真顔で「あいすいやせんでした」と返答した。

 

「可哀そうな弟弟子が先輩方に虐められたからお見舞いにきてやったんですよ、俺のしのぶ」

「誰の、ですかまったく…怪我は順調に回復していますよ」

「アンタの薬も大概おかしな性能してるよな、医者にでもなったらどうだ?ついでに俺の嫁にもなったらどうだ?」

「前者にはなりません。後者にはもっとなりません」

 

 善逸はさりげなく畳みかけるそのプロポーズのテクニックに少しだけ、ほんの少しだけ、五郎という男に憧れの念を抱いた。 

 

「…(五郎さん…まるで、まるで匂いを感じられない…)」

 

 炭治郎はわからなかった。この男の性格が、目的が、意図が。

 柱合会議の際、他の柱からはそれぞれ鬼に対する怒り、自分たちに対する慈悲、お館様への信頼、此方にはまるで興味のない無関心、誰かに対する嫉妬…など様々な匂いがしていた。だが、五郎からは、()()()()()()しなかった。これだけ騒がしい人間から気配を感じのないのだから、それはあまりにも矛盾した感覚であった。

 炭治郎にとっては無論それは初めてのことで。まるで存在感のある透明人間でも見ているかのようであった。

 

「とにかく、だ…元気な炭治郎くんも見れたことだし俺はちょっくら仕事にでかけるぜ」

「あっ、き、気を付けてください…!」

「心配するな、俺は天才だ。金髪の不良少年とそこの猪男も、次に会うまでに死ぬなよ。俺再走しなくちゃならなくなるから」

 

 そういうと五郎はしのぶに投げキッスをしながら去っていった。しのぶはひょい、とそれを律儀に避けつつも「明日からは機能回復訓練に移ります、今日はゆっくり寝て体力をつけてくださいね」と優しい口調で告げてから部屋を出た。

 

「あの五郎って人相当変わり者だな…なんかあの人の音、いつまでも変わらないんだ…まるで鹿威しみたいに、一定間隔なんだよ」

「…ああ、あの人はしのぶさんとも、義勇さんとも…他のどの柱ともなんだか違うんだ。新人だから、なのかは分からないけど…」

 

 その時、部屋の隅にいた伊之助がゆっくりと寝返りをうった。

 

「…今…アノ女以外…ダレカ…キテタノカ…?」

 

 

 

 

 

「…!!」

 

 下弦の参、病葉は焦っていた。

 

「…(人を食わなければ、人を食わなければ、あのお方に殺される…!!)」

 

 ここ最近、下弦の肆、下弦の弐、下弦の陸が次いで殺されたのだ。それも、1人の隊士によって。その男はその功績から途中から柱となっているが、それを彼が知っているかどうかは定かではないし問題でもない。

 彼にとって本当に問題なのは、それによって無惨からの下弦に対する信頼が失墜していることにある。ひしひし、と肌をひりつかせるようなプレッシャーが常に彼の肌を突き刺していた。まるで全身を針で覆われた服を無理矢理着させられているような、そんな感覚だった。

 

「なんとしてでも…!」

 

 普段は山を根城にし、獣を捕りに来た狩人を逆に狩り、狩る側が狩られる側に逆転した時の絶望の表情を楽しんでいた病葉であったが、もう今はそんなことをしている場合ではなかった。

 急いで山を下り、今すぐにでも人を食って力をつけねばならなかった。

 人里に降りてきた彼は最早女や男などといった遊びを捨て、とにかく目の前に見える民家の扉を掴もうとした。

 

 

 

「はぁい」

 

 

 

 もう既に真横にいた。

 

「!!!???」

 

 思わずその場に2m程度跳躍する。

 なにも気配を感じなかった。扉を掴んだ時にはもう既にすぐ隣にいた。まるで長年連れ添った妻や、旧知の友のような距離感でパーソナルスペースを侵してきたその男に、病葉は思わず冷や汗をかいた。

 この男が下弦の鬼を狩っている鬼殺隊か?何故ここが?気配を何故察知できなかった?様々な疑問が頭を勢いよく駆け巡る。

 

「初めてか?肩の力を抜けよ」

「な、なにを言っている…!?」

 

 意味不明な言葉に一瞬気圧される鬼。だが軽く息を吐くとすぐに気を取り直した。

 相手はただの人間。自分は今まで何人もの人間を殺して下弦にまで上り詰めた。自分の血鬼術は間違いなく強力だ。さっきあれだけ近かったのにコイツは斬らなかった。油断している。そこに付け込めば勝てる。

 病葉は高速で思考を回転させ自分を鼓舞した。

 

「血鬼じゅ「滝の呼吸、一の型」

 

 しかし、次の瞬間、病葉は目を見開いた。

 先程まで並みの大きさだったその隊士の体が、巨大化したのだ。いや、巨大化したように見えた…と言った方が正確だ。

 その身長は170㎝前半であったはずが、突如として10m。いや20mを越えるような大きさに膨れ上がった。

 戦闘の際、体を僅かに強張らせること。それは即ち断頭台に頭を自ら突っ込むのと同義である。

 

「『猟離(りょうり)』」

 

 それは病葉本人も驚きのことであった。相手が振りかぶったのをみた彼の体は、その意思とは関係なく咄嗟に右に避けたのだ。しかし、振り下ろされた刀はそれを予見していたようで。斜めに振り下ろされた刀は吸い付くように鬼の肌に食い込み、スン、と小さな音を立てて首を落とした。

 その一連の動きは、非常に奇妙であり、ゆっくりと振り上げられた刀に対して鬼が自ら首を差し出したようにさえ見えた。

 

「…(俺…なにしてたんだろ…)」

 

 実力を発揮することさえできず、自ら屈服したように首を落とされた鬼は悔し紛れの言葉さえ吐けずただ自分を殺した隊士を見上げていた。

 

「……いい、勝負だったな…」

 

 五郎はそっとその場で両手を合わせた。

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