魔王の仔ですが世界に光を優しい人になります 作:ジャック・オー・ワンタン
ということで僕達はソルバースの『フレア計画』を止める為に最初に狙われるであろう風の国エアリエル王国へ向かう事になった。いくらソルバースから近い国とはいえ崖が多い山脈地帯の上にあるおかげか数日かかってしまい、山中でキャンプをしながらようやく国の入り口へ足を踏み入れることができた。
「はぁ・・・やっと着いたよ。」
到着した瞬間、僕は力を抜かすように中腰になる。色んな植物を見れて楽しかったけどテントの中で寝るのは流石に疲れたなぁ・・・身体中痛いしもう関節が外れそうなくらいだ。
「長旅お疲れさまでした魔王様。」
そんな僕にプルートは平然とした様子で労いの言葉を投げてくる。思ったけど彼とマーキュリーは僕の様に疲れなかったのだろうか?道中の歩くスピードも落ちてなかったし全く疲れを見せていないのは凄いとしか言いようがない。
「で?どうするのかしら?このままエアリエルの女王へ事を伝えるの?」
「えぇ、善は急げです。余所者の言葉を信じるかは分かりませんがやってみましょう。」
その自信は何処から来るのか分からないけどプルートなら王族へ物申せる安心感がある。まぁ、現に王様の右腕だった人だし・・・
「では参りましょう。」
「それはいいけど休ませてよぉ~」
体力の限界が来ている僕の手を容赦なくプルートは握るとそのまま城へと一直線に向かうのだった。
◇◇◇
エアリエル城 玉座の間・・・城の入り口でプルートが上手く事を伝えるとそのまま二回返事でこの部屋へ入ることを許され今に至る。プルートの交渉術には頭が上がらないな。今もこうしてエアリエルの女王にソルバースの情勢を詳しく説明してるし・・・
「ふむ、あのソルバースが侵略か・・・」
エアリエル王国の君主であるエルフ族の女王ミランダはプルートの話を聞いてから静かにそう呟いた。
「ソルバースはここフレア大陸にある7つの国を征服する計画を立てています。こうしている内にこのエアリエルも戦火に包まれるでしょう。相手は世界最強ともいえる軍を持ちます。どうかミランダ様のお力を貸していただく存じます。現に麓のビクトリア村で未遂とはいえ、征服にやってきておりました。」
「プルート殿・・・」
頭を下げるプルートを見てミランダは暫く考えた様子を見せると深く溜息をついて答えた。
「貴君の事を疑っているわけではない。ソルバースが世界征服を目論んでおるのも事実と捉えよう。だが・・・ここは断崖の渓谷と風の神に守られた土地・・・そうそう堕ちはせん。それに戦うとなってもう少し情報が欲しい。すまないが我々の敵はソルバースだけではない。今は様子見・・・事を見たい。それが我々エアリエルの答えとさせていただく。」
◇◇◇
「やっぱりダメだったね。」
城を出た僕は入り口で肩を落としながら言った。余所者でもちゃんと信じてくれる辺り、話の分かる女王様と言えるだろう。でも彼女の言う通りもう少し動かないといけない明確な情報が無いのも事実だ。幾らソルバース国王に近い者の発言とは言え、本当かは分からないのだから。
でも、エアリエルが他に動けない理由が存在していた。
「エアリエルは近年、ここから北にある隣国の”ヴィーナス公国”と外交トラブルを起こし、緊張が高まっているという話もあります。」
「成程、女王様からしたら下手に動きたくないって事ね。」
エアリエルの現在の情勢を聞いてマーキュリーは納得する。
「ねぇ、プルート。ヴィーナスに向かってみるのはどうかな?」
ふと僕はプルートにそんな提案をする。
「ヴィーナスにですか?」
「うん、エアリエルが動けない理由がヴィーナスにあるなら説得したらいいんじゃないかな?」
「つまり、ヴィーナスにもソルバースの侵略作戦の内容を伝えて協力を仰ぎ、エアリエルとヴィーナスの二国でソルバースを迎え撃つ・・・という魂胆ね?」
「確かにこの二国を合わせればソルバースの軍隊と渡り合えるでしょう。」
僕の考えに2人は同意の反応を見せてくれる。そうとなっては直ぐに向かった方がいいかもしれない。誰かが言ってたしね・・・善は急げって。
「それが上手くいけば我々も苦労しませんよ。」
すると城の方から突然、声が聞こえてくる。そちらに振り向くと槍を持ったハーフエルフの美青年が現れて僕らの前まで歩み寄った。
「貴方は確か、ミランダ様のご子息・・・」
「エアリエル王国王子のウラヌスと申します。以後お見知りおきを。」
自己紹介したハーフエルフの美青年・・・ウラヌスはそのまま僕達に語りかける。
「ヴィーナスは元々、我々の土地を欲しがっている連中です。彼らの国は砂漠地帯にあるので山々と森に囲まれたこの地は是が非でも手にしたいのでしょうね。」
ウラヌス曰く母であるミランダ女王が直々に交渉を行ったそうだが相手はエアリエル王国の土地そのものを要求してきた為、これが飲めなければ戦争を仕掛けると脅されたそうだ。現に一度だけ侵略されかけたらしくこの時は地の利で勝利できたものの緊張は一気に高まったらしい。
「それにヴィーナスは狂戦士(ファイター)と呼ばれる戦闘民族で構成された国です。まともに話が通じる相手ではありません。」
ウラヌスの言葉を聞いて僕は背筋が背くなる。えっ?ヴィーナスの人達ってそんなに脳筋なの?
「ですのでヴィーナスに向かうのもおすすめは致しません。どのようにされるかはお任せしますが・・・くれぐれもお命だけは無駄になさらないように。」
「ご忠告感謝致します。ウラヌス様。では私達はこれで・・・」
ウラヌスに頭を下げたプルートが僕らを連れて帰ろうとした・・・その時だった。
「大変です!ウラヌス様!!」
慌てた様子でエアリエルの兵士がウラヌスに駆け寄ってくる。
「何事か?」
「はっ!それが・・・未確認の”空飛ぶ帆船”を確認したのです。」
「何!?」
その報告を受け、僕らも驚く。空飛ぶ・・・帆船!?そんなもの存在するのか?
「ウラヌス様!!」
更に別の兵士が慌ただしい様子で報告にやって来る。
「今度は何だ!」
「はっ!その未確認の船の所属が判明しました!!」
「何?・・・して、何処の国だ?」
ウラヌスがそう尋ねて兵士は攻めてきている国を明かした途端、僕らに戦慄が走った。・・・まさか僕らの予想が当たるなんて・・・いや、なんで思いのほか奴らは早いのだろうか?
未確認の船の所属・・・それは何を隠そう現在進行形で侵略作戦を進めているソルバース王国だった。