ユウキが目をクラクラさせて倒れてから五分くらい経った。
(なんだ、一向に目を開けないんだが・・・)
じっと彼女の顔を見る。
無表情だが、気を失っているーーログアウトしていうようには見えなかった。
「おーい・・・」
小さく呟いてみるが反応が丸っきりない。
このままじゃいつまで経ってもここから移動できないかもしれない。
デュエルで絶剣が負けたというのはもう速報で伝わってるはず、確認のためにとか言って何人かプレイヤーが来る可能性もある。
何となくユウキの頬を突っつきながらトウカは思った。
(何かアイテムで釣ってみるか)
トウカはメニューを開いてアイテム欄の下のほうまで指を動かす。
(あった)
アイテム名をタッチするとトウカが出していた手に小さなケーキが出現した。
その名は『ミストレーゼ・ケーキ』。
ALOの食料系アイテムのトップ7・『七菓』の一つ。
単に回復するだけのアイテムだが、見た目が凄いのと現実でも味覚に甘味が残ることから性別関係無しに人気がある。
トウカは昔、これの存在を知らなかった店の主人から買い取った。
(別に俺はいらないからな・・・)
じっくりとケーキを眺めた後、トウカはわざとらしくユウキの耳元で言った。
「あれ?こんなところに七菓のミストレーゼケーk・・・」
「どこおっ!?」
トウカが言い終わる前に突然目を開いたユウキがものすごい勢いで起き上がった。
(何でこっちのほうがバトルより速いんだよ・・・!)
ケーキを落とさないようにしながらトウカは立って少し後ろに下がった。
するとユウキもそれに続いて近づいてくる。
目が異常なほどにキラキラしていて、ケーキしか見ていない。
「ねえ、それ!くれるの?ボクに、ミストレーゼ・ケーキくれるの!?」
ここでもし拒否したらどうなるか物凄い気になる。
でも、トウカは言わずケーキを持った手を上に上げた。
ユウキはぴょんぴょん飛び跳ねながら、ケーキを取ろうとしている。
「あげる、あげるから!なんでずっと動かなかったんだ?」
トウカが問うとユウキは興奮を抑えて普通に戻る。
「いや、最初気を失いかけたのは本当だよ?でも、このままボクが起きなかったら君・・・トウカがどうやって起こしてくれるのか気になったんだ!」
ユウキはニコっと笑顔を作る。
「・・・」
トウカはユウキの頬を触りたくなったので片手の指を伸ばして頬に触れる。
「ん~♪」
上下に頬を撫でるとユウキは猫のようにふにゃっとした顔をする。
ゲームの中とはいえ、撫で心地が良くてユウキの反応も可愛いのでトウカは手を止められない。
(このまま続けていたいけど、永久に終わらなさそうだ・・・)
仕方なくトウカはユウキの頬から手を離す。
するとユウキも少しシュンとして、俯いた。
(撫でたいなぁ・・・)
そう思いながらも上げていた手を下ろしてユウキにミストレーゼ・ケーキを差し出す。
「ありがと!大事にするねっ♪」
ユウキは自分のアイテムに追加されたことを確認すると、何やら指を動かして他の事をしていた。
1、2分経つと今度はトウカにメッセージが表示された。
『OSSに<マザーズ・マザリオ>が追加されました』
「センキュ、ユウキ」
そう言うと、トウカは両手でユウキの髪をくしゃくしゃ触る。
「♪♪」
(まさかこんなに癒されるとは・・・)
さっきまでのデュエルが嘘のように今は穏やかな空気だ。
ユウキは撫でられるのが好きなようでずっと嬉しそうにしている。
そんな時ーーー。
シュッ!
何人かのプレイヤーが絶剣の敗北の信憑性を確かめに来たのだ。
「ヤベ・・・!」
プレイヤーたちは二人の人影を見ると、ゆっくりとこちらに向かってくる。
トウカは転移のアイテムを取り出して取り合えずユウキの手を握る。
ここで彼女だけ残っても色々と大変だろう。
「行くぞ!ここにいたら面倒だ!」
トウカはユウキに言うと、アイテムに向かって言う。
「転移、スイルb」
適当に思い浮かんだ『スイルベーン』を言い終えようとした時。
ユウキがアイテムに口を近づけて言った。
「転移、トウカの家!」
「は!?」
トウカは驚いてユウキを見る。
ユウキはVサインをしながら小さく笑う。
「ちょ、中止・・・!」
そう叫んだがもう転移が始まっていて意味が無かった。
(なんで家で発動するんだよッ!?)
プレイヤー達がフィールドに来る前に二人は転移した。