「ここで良い?」
「・・・ああ」
スイルベーンから自分の家とは逆の方向・・・・・、蝶の谷近くの草原に来た。音を立てて風が吹いていて、髪や服をふわふわと揺らしていく。
「攻撃できなくなった距離まで詰められたら負けね。いちいちデュエル決めるの面倒だし。」
シノンはそう言うと、ロングボウをとり出した。大きくて、立派な形をしている。使い込まれてる感は余り無いが、シノンが愛用している感じは何となく伝わってくる。
「へえ、弓・・・」
弓を使うプレイヤー自体もしかして、初めて見たかもしれない。扱いが難しいといわれてるが、彼女なら簡単に使ってそうだ。意外と似合ってる。
「そう。トウカ、準備はいい?」
と言ってもう弓をこちらに構えている。早いって。
「いつでも・・・」
足にグッ、と力を入れる。最初に接近するのは駄目だな、確実に矢が来る。
「どうぞッ!!」
言い終えた瞬間、早速矢が飛んできた。予想通り。
(速っ!!)
直ぐにかわして、体勢を立て直す前に距離を取る。想像していたよりもずっと矢の速度が速い。
「ッ、遅かった」
シノンは小さく舌打ちして、もう一度弓を構える。
「普通の矢の速さじゃないって・・・」
とりあえず瞬間的に移動した山の上で、座ってシノンを見る。とりあえずは一段落・・・できるかもしれない。可能性は少ないけど。
でもシノンの種族はケットシー、視力がいいから見つかるのは時間の問題だ。
「・・・見つけた」
早いって!
「うっそっ!?」
シノンの口元がそういう風に見えた時には、もうこちらに矢が近づいていた。
グシャッ
タイミングを計って矢を握りつぶす。あ~、少しだけHPが減った。痛い。それよりも、200メートル以上離れてるのにここまで正確に飛ばしてくるとは。
「システムより上ってか・・・!」
ゲームの限界を超えた実力・・・・・・・・・良いね、面白い。
(刀を使う必要はとりあえず無さそうだな・・・)
こういう時は全力を持って迎えないといけないんだろうけど、この刀は実質二軍だしな。本当の方は使いたくないし。
「まあ、魔法だけで何とかっ」
シノンに向けて手を伸ばす。
「
瞬間、シノンの周囲に三角形、さらに逆三角形・・・六芒星が浮かび上がる。
「させないっ!!」
シノンの放った弓が六芒星の頂を貫通し、ガラスの砕ける音と共に魔方陣が発動する前に解ける。うわ、地味にショック。
「マジか・・・」
魔方陣を弓矢で阻止するなんて・・・、でももう次の仕込みはしてあるのだ。
「
今度は雪を纏った小さな沢山の花がシノンを覆う、が・・・・・。
(また、駄目かな・・・・・)
そう確信したと同時に、案の定花を壊してシノンが現れた。よく周りを見てみると一つ一つの花に矢が刺さっている。
「どうやって、あんなに・・・」
1秒間で何本矢を射ているのか。しかも数ミリの狂いも無く、全て花の真ん中を。でも、全部射てくれたおかげで、もうシノンの弓筒には一本も無い。
(まぁ、時間は稼げたかな・・・)
後は戻って、力の無い攻撃をすれば良いか、と思いながら早速移動しようとした時、直ぐに足を止める。
(何でまだ構えている・・・?)
離れているが、シノンは矢のようなものを持ってない。なのにどうして・・・・・。
「!」
一瞬、シノンの手の近くで緑色の魔方陣が見えた。そうか、魔法でできた矢、か!
「たいしたもんだな・・・」
ゆっくりと透明な弓の姿が露になる。その発想は無かった、凄い。
「
先ほどとは比べ物にならないくらいの速さで、風の矢が向かってくる。
・・・・・・・・ッ!」
ドオンッ!!!!
命中した風の矢が、山の岩を砕き煙が舞う。下から見上げるシノンからも、どうなっているのか分からない。
「やりすぎちゃったかな・・・・」
ロングボウを下ろして、シノンはトウカのいた場所を見つめる。
「こっちだよ」
「ッ!!」
本能的にシノンは後ろを振り返り弓を構えた、が・・・・、既にシノンの頬には一線の傷が付けられていた。
「・・・・・私の負け、ギブアップ」
シノンは両手を小さく上に上げる。
「さっきのは危なかったよ~」
「絶対当てた、と思ったんだけどなぁ。どうやって避けたの?」
「ちょっと軌道をずらしただけ。これ以上は言えないけど」
「ふぅ~ん、ってその眼・・・」
「??」
シノンはゆっくりとトウカの頬に手を付ける。ひんやり冷たい。
「Ⅳ?」
「!!」
素早くシノンの手を振り解く。そして、片手で見えないように左目を隠す。
(どうしてこれが出ている・・・・・)
「それ、何かの魔法?瞳術とか・・・」
「え・・・・・」
言葉を濁す。この眼に関してはどうしても言えない。言えたとしても今は・・・・・。
「ま、言いたくないなら良いけど」
「・・・・・・・・・」
(戻ったか・・・)
何回か瞬きする。多分元に戻ってるはずだ、長く続きはしないはず。
「と、とりあえず俺の勝ちだ」
「・・・ええ、特別に何でも言うこと一つ聞いてあげる」
「良いのか?」
「うん。特別っ、何かトウカのこと気に入っちゃったし」
「そ、そうか」
気に入ってくれたのならありがたい。何でも一つ、というならやりたいことは唯一つ・・・・・。
「じゃあ・・・・・」