「アリスちゃん!!! これはどうかしら!? この服は好きでしょう!?」
転生してから数日が経ったある日。ババア……ではなく母が部屋に入ってきた。
後ろに控えている使用人が持っている服は俺……ではなく私が言った通り、動きやすい服装だ。
黒のズボンに赤やピンク色のシャツだ。襟や袖にちょっとひらひらが着いていて、意地でもフリフリの可愛い服を着せようとした母の意地が見える。
まあ、母の努力は認めるが、その意図を汲んでやるつもりはない。私は今からこれを思いっきり汚す。
私の夢である貴族令嬢が特大武器をぶん回すシチュエーションのためには鍛えなくてはならないっ!!
腕立て、腹筋、懸垂、ランニング! やらなくちゃいけないことはたくさんある!!
「アリスちゃん! 今日は何をして遊ぶのかしら? いつものお人形さん?」
「ちゃう! ちゃう!」
「え……? あら、このお人形さんお気に入りだったのにおかしいわね……?」
「あっち! あっち!」
私は外を指差す。今日は快晴! こういう時こそ外で鍛えなくちゃならない!!
「外! おままごとね! いいわ! すぐに行きましょう!」
何を勘違いしてんだがこの母は。おままごとはお前の脳みその中でやっておけ。
私は母と共に外へ出る。青い空! 白い雲に向かってレッツゴーだ!!
「あ、アリスちゃん……マーガレット、お母様。お、おはようございます」
廊下に出た時だ。
私よりも少しだけ背丈が高い女の子が、ぎこちない笑みを浮かべながら手を振っていた。
新品の服を着ている私に対して、その子はとてもみすぼらしい姿をしていた。ところどころ糸がほつれていて、ところどころ汚れている。
長い赤髪も本来なら綺麗なんだろうけど、長い間手入れされていないせいか、ずいぶんとボサボサだ。
彼女は私の姉。彼女こそこの世界の主人公である。私はニコリと微笑みながら、彼女へと駆け寄る。
「エレナおねえさまっ! おはようございますっ!」
私の挨拶に対して、エレナお姉様は困惑したかのような表情を浮かべている。
それもそうだろう。アリスは今までエレナのことを嘲笑したり、無視したりすれど、こんなふうに元気に挨拶を返すことはなかったからだ。
「え……あ、アリス? 今日も元気だね……」
「うん! わたしはげんきだよ! おねえさまは?」
「え……? わ、わた、私は……」
ふむ、これはあれだ。
私とババアを前にして失言しないか考えている顔だ。私も感じている。背後にいるババアの気配を。
凄まじい怒気だ。「私がアリスちゃんと話したいのに、なんで貴女みたいな子が話をしているの? 空気を読みなさい!」と言わんばかりの気配を漂わせている。
私はババアに微塵も興味はない。
むしろ私が興味満々なのはお姉様の方だ!!!
はっきり言って、私はエレナお姉様のことを心の奥底から推している。ラヴマギを買ったのはこの子のビジュアルに一目惚れしたからと言ってもいい!!
推せるポイントは数多い。
先ずはその長い赤髪だ! 今は手入れもされておらずボサボサだが、ちゃんと手入れすれば美しい艶を取り戻し、エレナお姉様はこの世界で唯一無二の超絶美少女に戻るのだ!!!
エレナお姉様には堂々としてほしい。綺麗でいてほしい。この世界の主人公である彼女には輝いてほしいのだ!!!
「おねえさま! いっしょに朝ごはん食べましょ? お母さま、いいでしょ?」
ぜってえ余計なことを言うんじゃねえぞという強い圧を視線に込めながら、ババアにそう訴える。
「あ、アリス……? 前まではお姉ちゃんとゴハン食べるの嫌って言ってたじゃない。急にどうしたの?」
うるさい黙れ、私は今までのアリスではない。……なんてことは流石に言えないよな。
エレナお姉様はこの家では冷遇されている。その原因はマーガレットと、エレナの実母の不在だ。
エレナの実母は数年前に亡くなっている。マーガレットは当主の再婚相手である。確かエレナの実母の妹という立ち位置だ。
マーガレットはエレナの実母とエレナのことを見下している。そのため、再婚し、アリスを産んだと同時にエレナに対する冷遇を始めたのだ。
当主はそれを見て見ぬふりをしている。亡き妻の子供なんかに興味はないのだろう。
ハーゼンブルク家ではエレナは孤立していた。下働き同然の扱いを受けて、満足にご飯も与えられず、綺麗な肌も綺麗な赤髪も全て失ってしまっている。
しかし!!! その扱いも今日までだ!!!
服は新しいものを作ってもらったおかげで死ぬほど余っている。溺愛しているアリスの頼みとあらば、ババアも断りにくい!
私が……いやここはあえて俺が! エレナの味方になる!! 今までのアリスは死んだ!!
今の私はエレナの守護騎士となるのだ! エレナお姉様をこの世界で一番の美少女へ生まれ変わらせてみせる!!!
「おねえさま、すき! おねえさまとごはんたべたい!! ダメ……?」
アリスの奥義、涙目の上目遣い!!
原作でも使っていたらしい、アリスの常套手段だ!
「ああもう! 仕方ないわね! アリスちゃんの頼みなら聞いちゃう!」
「やった! いこ、おねえさま!」
「え、ええ……。本当にいいの?」
「いいのいいの! ごはんのあとはいっしょに遊ぼうねおねえさま!」
遊び(トレーニング)なのだが。
でもまあ、美しい姿勢、美しい身のこなしを得るためには筋力は必要不可欠だ。私を鍛えるついでだ。エレナお姉様にも鍛えてもらおう。
ラブマギの舞台がルミナス学園高等部魔法科という場所だ。この魔法科の授業を生き残るためにもエレナお姉様のトレーニングは必須!
今の折れそうな枯れ木のような身体じゃ苦労するだろう。安心してくれお姉様。私がそこいらの男にも負けないくらい立派に鍛えてあげるから!!
「うひ……ふひひひ」
「あ、アリス……? なんか変な笑い声、でてるよ?」
「なんでもないわおねえさま! さあ、一緒にいきましょ?」
おっとついつい前世のノリでオタクスマイルが出てしまった。自重しなくては。
私自身の育成とエレナお姉様の育成! ああ楽しみがありすぎて私、夜しか眠れ無さそう!!!!