TS悪役令嬢は特大武器で無双したい   作:路紬

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★どうしてこうなった

 ある日からアリスちゃんが変わった。

 

 私のお母さんは数年前に死んでしまった。その後、程なくして今のマーガレットお母様と父様が結婚して、アリスちゃんが産まれた。

 

 アリスちゃんは私と違って、マーガレットお母様からも、父様からも、使用人達からも好かれていた。アリスちゃんはとても可愛いと思う。長い金髪に、大きな青色の瞳、白い肌はまるで絹のようだ。

 

 私なんかとは何もかもが違う。母の血を受け継いだ私は他の子よりも少し背が高い。将来はもっと伸びるだろうと言われた。

 

 それに対してアリスちゃんは可愛らしい背丈で、将来は男の人に好まれるような小動物みたいな愛らしさを持つだろう。

 

 実際、ちょっと成長したらすぐに周りの人を味方に取り入れて、私はますます孤立するばかりだった。

 

 日に日に肩身の狭さを感じつつあった時だ。

 

 ふと、アリスちゃんが私と一緒にご飯を食べたいとか言い出したのだ。いつもなら私を腫れ物のように扱うアリスちゃんがだ。

 

 信じられないことはそこからたくさん起きた。

 

 アリスちゃんのお気に入りだったはずの服を渡されて、一緒にお風呂に入ることになり、一緒に外で遊ぶことも増えた。

 

 アリスちゃんは……控えめに言って女の子らしくない。いつも走り回ったり、木の枝を剣に見立てて素振りとかしている。

 

 マーガレットお母様は最初こそ注意してたけど、次第に諦めたのか何もいうことはなくなった。

 

 アリスちゃんの誘いで私も素振りをすることが増えた。最初は木の棒、次に子供用の木刀、成長するにつれてちゃんとした木刀。

 

 毎日、毎日、毎日、アリスちゃんと全身が痛くなるまで打ち込んでいた。

 

 これが貴族令嬢として、姉妹として正しい姿なのかは私にもわからない。けれど、私は楽しかったし、満たされていた。

 

 途中からアリスちゃんは自分の身の丈よりも大きな武器を使い始めた。自分よりも大きな木の枝、大きな武器を選んでいた。

 

「エレナお姉様! これが貴族令嬢のロマンというものです! この特大武器こそ、王子様に勝るロマンの塊です!!!」

 

 アリスちゃんはいつもそう熱弁していたのを思い出す。変わった子だ。けれど、王子様よりも武器にロマンを感じるアリスちゃんには同意だ。

 

 絵本の王子様は私のことを助けに来たりはしない。けれど武器は違う。武器はいつだって私の傍にあって、私のことを護ってくれる。

 

 この世界は理不尽だ。助けを待っているだけじゃいけない。それは母様が死んでから嫌というほど味わった。

 

 アリスちゃんは私にこの世界で戦う術を教えてくれたんだ。私もアリスちゃんみたいに強くなる。王子様なんていらない。そもそも私より弱い男に興味ないわ。

 

 父様は将来は私達をルミナス学園へと入学させるつもりだ。あそこはルミナス王国で一番の名門校。授業は厳しいけれど、そこを卒業した生徒だけで箔がつく。

 

 父様とマーガレットお母様はアリスちゃんに箔をつけたいが故に入学させるだろう。アリスちゃんが本命で、私は保険だろう。

 

 ルミナス学園は貴族たちが将来のことを考えて交友することが多いと聞く。アリスちゃんの可愛らしくて、天真爛漫な姿に惚れこんで声をかけてくる男子生徒は多いだろう。

 

 私はアリスちゃんに駄目な虫が寄り付かないように、常に目を光らせる。並大抵の男にアリスちゃんを渡すつもりはない。アリスちゃんはちょっと頭が抜けているところがある。ここは姉である私がしっかりしないと。

 

 せめて私に完勝できるくらいの人じゃないとアリスちゃんのことは渡せない。

 

 その試験をより厳しく、より精確なものにするためには私はもっともっと剣術を磨かなくてはならない。

 

 安心してアリスちゃん。アリスちゃんのことは私が絶対に護ってあげるから。変な虫が寄り付かないようにお姉ちゃんが護ってあげるから。

 

 私はそう決意して今日も素振りを一万本行なう。アリスちゃんへの感謝と決意の素振り一万本だ。これをルミナス学園の入学試験までちゃんと続けるつもりだ。

 

 

***

 

「ど、どうしてこうなった」

 

 私が転生してから数年が経過した。

 

 エレナお姉様は十五歳に、私は十四歳になった。エレナお姉様は一足先にルミナス学園の高等部に入学していた。

 

 さて、そんなことはどうでもいい。私が十五歳になればルミナス学園、つまりラブマギの舞台へと入学させられる。これは家の方針で決まりきったことだ。

 

 私が唖然としているのはそこではない! 断じてそんなちんけなことではない!!

 

 目の前にいるエレナお姉様! 長い赤髪と白い肌に艶が戻って、原作以上に美少女オーラが増したエレナお姉様!!

 

 そんなエレナお姉様の素振りが常軌を逸しているのだ!!

 

「お、お姉様……。その素振りは一体いつ……?」

 

「アリスちゃん! これはね、寮で完成させたんだよ! 寮生活だと素振りの時間があまり取れないじゃない? 一日一万本の素振りをするにはもっと素早く剣を振ればいいって気付いたの!」

 

 だからと言って、音を置き去りにするレベルで素振りをする人がどこにいるんだ!!!!!

 

 エレナお姉様は快活的で、服装によってはボーイッシュに見える。本来、コンプレックスであった長身は成長と鍛錬と共に立派に引き締まった肉体美へと昇華された。

 

 それと同時に剣の素振りの速度が音速を超えた。

 

 私でも自分が何を言っているのか分からない。けれどこれは事実だ。

 

 訓練した私でさえ、辛うじて剣の軌跡が見えるくらいだ。普通の人、少し鍛えた程度では何が起きたか理解できないだろう。

 

 確かにエレナお姉様を遊び(トレーニング)に巻き込んだのは私だ。

 

 最初は木の枝で素振りや鬼ごっこ、ボール遊びでありとあらゆるものを鍛えた。身体が成熟して本格的なトレーニングが始まると、私はより重量物を持ち上げるための鍛錬、エレナお姉様は剣技の鍛錬と、それぞれやることが変わった。

 

 その結果がこれだ。音速を超える剣技だ。

 

 私は何か致命的な間違いを犯したんじゃないかと不安になった。エレナお姉様は乙女ゲーの主人公だ。何なら、エレナお姉様の才能は魔法の方に秀でていると言ってもいいくらいだ。

 

 だというのにこれ!!!

 

 エレナお姉様には幸せになってほしい……! 美しく着飾って、ルミナス学園でいい人と婚約してほしい!

 

 私はそんな幸せな光景を眺めつつ、自分のロマンス(特大武器)を追い求める予定だった!

 

 けどこれじゃ、殆どの男の人は寄り付かねえだろ!!! というか当のエレナお姉様が自身が……。

 

「アリスちゃん安心してね! アリスちゃんが学園で変な人に付きまとわれないように、お姉ちゃん、頑張るから!!」

 

「あ、ありがとうエレナお姉様……。で、でもエレナお姉様には婚約者を探してほし……」

 

「私達姉妹より弱い婚約者なんていらないわ! とても強い男の人がいたら考えてもいいのだけど……」

 

 無茶言うなよ。今のお姉様、超人を超えた超人だぜ。

 

 そのうち、人間って脆いのねとか言い出しかねないほどスペックバグってるんだぜ?

 

 まあ、それは私も同じか。私はそもそも婚約者とかくそくらえだ。父様とババアからは探すようにきつく言われているが、そんなの探す気すら起きない。

 

 私を堕とせるもんなら堕としてみろってんだ! 私の心を堕とせるのは特大武器だけと相場が決まっている!!

 

「アリスちゃんは入学試験の準備しているの? アリスちゃんなら、実戦試験も余裕だから心配はないと思うけれど」

 

「ええ、エレナお姉様。そこは安心してください。みんなに目に物をみせてあげます」

 

「ふふっ! やっぱりアリスちゃんは頼もしいな! アリスちゃんなら試験官なんて一捻りよ!」

 

 ……エレナお姉様の言葉から時折不穏な言葉が聞こえてくるのは、間違いなく私の影響だろう。私が時折、そういうことを口にしていたからなあ。

 

 エレナお姉様の色々が変わってしまったが概ね予定通りだ。エレナお姉様が音速を超える剣技を会得したことにはびっくりしたけれど、私だって十年分の特訓の成果はある。

 

 後は私自身の得物が届くのを待つだけ。父様とババアに三か月以上交渉して作らせた特注の武器だ。ああ、早く届いてくれないかな!

 

 一週間後にはルミナス学園の入学試験がある。原作だとアリスは礼儀作法や座学で入学したが、今の私は違う!

 

 私が受ける試験は実戦試験一択!!!

 

 当然入る学科も原作とは違うのだけど、それはどうでもいい。私は少しでも強くなれる可能性がある方へと邁進する!!!

 

 他の人が剣や槍を持ち出す中で、私の特注武器をお披露目するのが楽しみだ。ふふふ、エレナお姉様は技を磨いたけど、私はその真逆。

 

 圧倒的パワー! このパワーで目の前に立ちふさがる如何なる障害もねじ伏せる!!!

 

 破滅がなんぼのものじゃい! 今の私は野に放たれたとしても生きて帰れる自信がある!!

 

 ふふふ見ていろ原作展開! 婚約破棄だろうが、追放だろうがかかってこい!

 

 今の私は魔王すらぶっ飛ばせるほどのパワーがある! パワー系悪役令嬢舐めんなよ!!

 

「ふふふふ……血が湧きますね。本当に」

 

 あ、今の強者っぽい立ち回りだった。こういう路線のキャラクターいいな。今後はこういう風に振舞うのも悪くないかも。

 

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