「ねえねえ貴女、名前はなんていうの? あ、あたしはクラリッサ・ブレーメって言うの。よろしくね!」
「私はアリス。アリス・ハーゼンブルクって言いますの。どうかよろしくお願いしますね」
と自己紹介を返したら、クラリッサはぷふっと少し噴き出して笑う。え、私、変な挨拶した……?
「ああ、ごめんなさい。随分と慣れていないような挨拶だったから。無理にかしこまらなくてもいいわよ。あたし、田舎貴族のそれも男爵家の産まれだから」
不意にクラリッサは視線を地面に落として暗い表情を見せる。なるほど、この子、ここにコンプレックスがある感じか。
「クラリッサ……さん。大丈夫ですよ。私もその田舎貴族の男爵家ですから」
「本当っ!? じゃあなおさら、その口調は辞めてよ。もっと親しく話しましょ? ね?」
ウィンクしながらそう言ってくる彼女に、私は心を射抜かれた感じがした。
この子はめっちゃいい子だ。私、この子と仲良くする。
「じゃあクラリッサ。こんな感じでいい?」
「バッチリっ! それにしても貴女、さっきの凄いわねっ! 貴女は魔法科志望なの?」
目をキラキラと輝かせながら、星砕きのことを褒めてくれる! めちゃめちゃいい子じゃないか……!!
もしかしたらエレナお姉様みたく、少し教えてあげればクラリッサもこっち側に堕ちるのでは? い……いやいや、アリス、よく考えるのよ。ここから先は修羅の道。貴族令嬢をホイホイと誘っていいわけがないわ。
「私はそうだよ。クラリッサは?」
「あたしは経済科よ。貴族は横のつながりが大切っていうのが、お父様の教えだから」
ルミナス学園には様々な学科が存在する。
私やエレナお姉様が通う魔法科は、魔法を使って実戦を行なう学科のことだ。なので科の八割は男子生徒で構成されており、ここに通う女子生徒は稀だ。
女子生徒はクラリッサのいう経済科だったり、工芸科、あるいは教養科みたいな学科に行くことが多い。魔法科を選ぶ女子生徒は結構珍しいらしい。
ちなみにこれは原作からある設定だ。原作通り、この世界でもそれは反映されているみたいだ。
「だからあんなにも強いのねっ! 素敵だわ。知ってる? 強い女騎士って貴族令嬢の中では憧れなのよっ!」
「へ、へぇ〜〜。そうなんですね。じゃあ意外とストレスフリーに特大武器を扱えるの……?」
「ん? 何か言った?」
最後だけボソッと口にしたことを聞かれていたみたいなのでちゃんと誤魔化す。
「い、いえっ! なんでもないよ! ちなみにどんな女騎士が憧れなの?」
「そうね、最近だとエレナ先輩みたいな人がみんなの憧れよ! ほら、あそこにいるっ!!」
ゔぇ!? エレナお姉様がいるの!? マジで!?!?
クラリッサの指差す方向に確かにエレナお姉様がいた。なんて凛々しい姿なんだ……。
エレナお姉様は原作だとそこまで背は高くない。マーガレットお母様のせいで栄養が足りていなかったのだ。
しかし今は違う。スラリとした細身の長身。特に脚は長く、今履いているみたいなスラックスがとても似合う。
「エレナ様ごきげんよう! 今日も麗しいですね!」
「エレナお姉様っ! 私、お姉様に憧れてこの学園に入学しましたの!」
「エレナ様。よろしければ午後はお茶会はいかがかしら?」
うおっ、圧倒的女性人気っ! ものの見事に女の子しかそばにいねえ!!
というよりもさっきエレナお姉様って呼んでる生徒いなかったか? その呼び方は私だけの特権だぞ控えろ!!!
うーん、あ、あれじゃ話しかけることもできない……。
「エレナ様、素敵ね……。田舎貴族の希望だわ」
「エレナお姉様ってそんな風に言われてるの? 初耳だった……」
「そうよ。魔法科の成績トップっ! 生徒会にもお声がかかるくらいの優等生なんですもの! ……って、え? お姉様?」
クラリッサが目を丸くしながら私へ聞いてくる。あ、気がついていなかった感じなんだ今まで。
「アリス……ハーゼンブルク……。って、も、もしかして貴女があのハーゼンブルク家のご令嬢なの!?」
「あのハーゼンブルクとは……?」
あのと言われるくらいなんかやったか? いや、心当たりがあるな。ま、まさかあ……!
「魔法科の実技試験で歴代最速の記録を叩き出した伝説の姉妹っ! 今、王都じゃハーゼンブルク家のご令嬢の話題で持ちきりなんだからっ!」
「へ、へえ〜〜〜。そ、そんなことになっていたんだ」
ま、マジでとんでもねえ事態になっているのだが!?
わ、私達そんな有名人なの!? マジぃ!?
というか歴代最速ってなんだよ! あの試験官大して強くなかったぞ!! 私達以外にも手早く倒せる人いるでしょ!!!
「まさかアリスがその一人だなんてっ! 光栄だわっ! 今度、ぜひうちに来てほしいわ! とっておきのおもてなしを用意するからっ!」
「あ、あはは……。そ、それは楽しみにしておくね……」
さっきから思ってたけど、この子押しが強いな!? グイグイと近寄ってくるぞ!?
「もしかしてあの人抜け駆けを……」
「私たちもこうしてはいられませんわ! アリス様をお誘いしませんと!」
「私達だってアリス様にお近づきになりたいですわっ! アリス様、お人形さんみたいでとっても愛らしいですもの!!」
え!? 周りの人達の反応おかしくない!? クラリッサに触発されてないか!?
い、いやもしかしてさっきまで私が感じていた白い目みたいな奴は勘違いで……、本当はみんな隙あらば私に近寄ろうってしていたこと!?
「アリス様、着せ替えとかよさそうですわね。ドレスとか似合いそうですわ」
「先ずはアクセサリーから始めるのも良きですわよ。飾りつければきっと輝きますわ」
「いやいや、アリスちゃんは取り敢えず髪型からでしょっ! あの金髪、どんな髪型だって映えるはずだ! と私の妖精が言ってるわ」
やべえ、ここの貴族令嬢達、なんかキャラが濃いぞ。というか私を着せ替え人形か何かと勘違いしていないか!?
と、まるで獲物を見つけた肉食獣かのような視線が向けられたところで、クラリッサが私の手を掴んでくる。
「ふふっ! ここでのんびりしていたら入学式に遅れちゃいそうねっ! さっ! 急ぎましょアリスっ!」
と言いながらクラリッサは私の手を引いて駆け出す。それを見た周囲の女子生徒達は大きな声を一斉に上げた。
「逃げたわよ! 入学式までの数分! なんとしてでも彼女との繋がりを作るのよ!!」
「ここで逃すわけには行きませんわ!! アリス様を好きに着せ替え……ではなく、先輩として先導するためになんとしてでも声くらいはかけなくては!!」
「ここで逃したら後悔することになる、と私の精霊が言っているっ! なんとしてでも捕まえてあげるんだからっ!!」
「うぎゃああああ!? 追ってきた!?」
特大武器を使うのも考えものだと私は思った。なにせバカみたいに目立つから。
私はただ特大武器をストレスフリーに扱いたいだけなのに、入学初日からこんなことに巻き込まれるなんて……!!
でもこれはこれで楽しいのかもしれない。退屈はしなさそうだし、何より……。
「うふふ、あはははっ! ねえアリス! 貴女って本当に面白いわねっ! これからよろしくねアリスっ!」
目の前で満面の笑みを浮かべる美少女の友人ができたことだ。こんなの前世じゃありえなかった。この身体に転生したからの特権とも言えるだろう。
けど、そんな中でも私はついつい言葉を漏らしてしまう。
「あ〜〜、特大武器、ぶん回してえ〜〜」
流石に今振り回すわけにはいかないからねっ! 早く振り回せる機会が来ねえかなと思うばかりだ。