幻想への恐れが生み出した災い、鏡影──
それは幻想郷の鏡であり影
鏡影が幻想郷の鏡と呼ばれる所以──
それは鏡影の性質にある。
鏡影は成長する災い
始めは概念レベルの、実態を持たぬ怨念と魂の塊
それが大量の負の感情と魂を取り込むことで実態を形成する。
それが鏡影の第一段階開始の合図である。
第一段階ではまず幻想郷の地理及び基本的な情報、そして魔術等の、能力が比較的絡まないものの知識を得る。
加えて、その世界特有の技能などの知識もこの段階で得る。
第二段階──
第二段階は魔術や霊術等の技能を完全習得した時点から移行する。
この段階では鏡影は幻想郷の住民及び、幻想郷に存在する能力の解析をスタートする。
能力の解析により、こちら側の手の内を鏡影は知ることになる。
鏡影を倒すならばこの段階以内に行うべきだろう。
第三段階──
この段階まで来ると、手遅れと言っても過言ではない。
この段階で行うこと──それは能力の再現
第二段階までで得た能力の知識からその能力を再現する。
それは鏡影の能力が増えると同義──
再現は単なる劣化の複製ではない。
それは能力を持つ本人のものと同等、またはそれ以上の精度で作り出す。
加えて、変幻自在の影でもある鏡影は血筋、種族等の本人だからこそ引き出せる肉体的な要因を解決でき、また肉体的要因により起こっていた代償を踏み倒すことも可能にする。
最終、第四段階──
この段階に移行した時、幻想郷の消滅が始まる。
魔力も霊力も、自然も建物も、妖怪も人も──
幻想郷に存在する全てが鏡影の内へと集束し、ついには幻想郷全てを取り込む。
これが、鏡影がもたらす災いの一連の流れ
鏡影は段階を踏む毎にその力も魔力も爆発的に上昇する。
加えて、鏡影自身が目にした場合でも解析は進み、それは段階関係なく行われるものである。
さらに、魂を喰らうことによりその魂に刻まれた能力を手に入れることも可能。
段階を踏むごとに幻想郷へと近づいていき、いずれ幻想郷そのものへと成り代わる。
実像を喰らう鏡写しの幻想郷──
それが、鏡影が幻想郷の鏡たる所以の一つである。
────────
「なっ──」
咲夜はその驚きが、無意識に口から出ていた。
名前を知っている?
何故?
この場で咲夜は
いったい……どういう──
動揺から動きが鈍くなった瞬間だった。
「『
鏡影が左腕を咲夜に向けて伸ばす。
咲夜へと向かって行くその手のひらには、空間が飲み込まれていくようであった。
『空蝕』──
自身の魔力を込めたものの軌跡を捻じ曲げ、抉り取る。
鏡影が取り込んだ妖怪の内の一体が保有していた能力。
手が咲夜に触れる寸前──
鏡影の左腕が宙を舞った。
「──チッ」
鏡影は舌打ちする。
その目の前には──フランがいた。
鏡影の腕を切り飛ばしたフランは、そのまま鏡影の首を狙う。
鏡影はそれを体を反らして間一髪避ける。
鏡影はそのまま地面に手を付いてバク転の要領で後ろに下がりながらフランの顎目掛けて蹴りを放つ。
フランは少し後ろに引いてそれをかわし、すぐに弾幕を作って放つ。
影を壁にして防ぎ、影で作った触手を槍のようにして相手に向けて穿つ。
壁のように展開された影を貫いて放たれたそれを切り落とし、背後にいる咲夜を抱えてその場から離れる。
その直後に鏡影に向かってレーザーが放たれる。
「申し訳ございません、お嬢様」
フランに抱えられている咲夜はそう謝罪する。
「別にいいわ……どうしても謝りたいというなら、これが終わった後に聞いてあげる」
煙が晴れる──
レーザーが通った跡の中に一つの球体がある。
黒い影ではなく、まるで水晶のような球体がガラスのように割れ、その中から鏡影が現れる。
「もう少し持つと思ったんだがな……」
鏡影は左手で頭をかきながらそう呟く。
頭の中で何かが壊れたような音が響いたような気がした。
しかし、感覚で分かる。
今壊れたのは取り込んだ魂だろう。
先の戦いで取り込んでいた魂の多くが壊された。
今壊れたのはその戦いの中でヒビを入れられた壊れかけだった魂。
(手に入れた能力の殆どがもう使い物にならない……)
(最悪の手土産だな……)
鏡影は三人の前に戦った者のことを恨んだ。
足を止め、鏡影は自身の胸を押さえる。
「……」
鏡影がここにたどり着くまでに取り込んだ魂は先の戦闘で殆どが壊され、魔力もかなり消費した。
魔法などを使う余裕どころか、正直、体を保つのも今は負担となっている。
なるべく短期決戦でいきたいな……
フランの側に魔理沙が近寄る。
「攻撃が全然当たらねぇ……どうすんだ?」
攻撃はことごとくかわされ、当たる気配も殆ど無い。
当たったとしても並大抵の攻撃では意味が無いように思える。
何発も当てるのは厳しい……やるなら一撃で決める他ない……
「機を待ちましょう……それよりも、あちらもそろそろ終わらせたいみたいよ」
フランは鏡影を見て言った。
「……みたいだな」
二人の間をレーザーが通り抜ける。
魔理沙は避けながら御札を投げるが、それは鏡影の前で止まった。
それには見覚えがあった。
いや、見覚えしかない。
「……結界」
魔理沙の札は結界によって防がれた。
簡易的な、一時しのぎの防御手段でしかない結界ではあるが、その精度はかなりのものに見える。
フランは距離を詰め、鏡影の張った結界を一撃で叩き割る。
鏡影は即座に魔方陣を展開し、炎を放つ。
それに対してフランは弾幕で相殺する。
フランと鏡影の間で爆発が起こり、その間に咲夜が鏡影へ向けてナイフを投げる。
鏡影がそれを防いでいる隙にフランが接近する。
その時、帯のようになった影がフランに向けて無数に伸びる。
周りを囲んだ影を、次の瞬間にはフランが切り刻んでいた。
魔理沙は鏡影に背後から接近し、手に持った御札を鏡影へ振り下ろす。
鏡影は横に飛んで避け、魔理沙はすぐさま避けた鏡影へ向けてレーザーを放つ。
こちらにはまだ余力はある。
このまま攻め続ける。
────────
「……」
『足手まとい』
──その言葉が頭をよぎる。
自分が二人の足を引っ張っている。
そんな気がしてならない。
私にはお嬢様や魔理沙のように決定打となり得るものがない。
私にあるのはスピードだけ……けれど、時間停止も次通用するかはわからない。
いえ……何を迷っているの?
何を迷う必要があるの?
今やるべきはあれを倒すこと……
お嬢様は私をここに連れてきた。
意味が無いのならそんなことをする必要はない。
お嬢様が私を必要とした……
なら私がすることはただ一つ
たとえこの命を懸けてでも……
────────
魔理沙と距離を取り、鏡影は体勢を整える。
その時だった──
「──っ⁉」
鏡影は咄嗟に腕で防御する。
次の瞬間、鏡影の腕に切り傷ができる。
「………」
その傷を作ったのはフランでも、魔理沙でもなく──咲夜だった。
(全力で二人のサポートに徹するまで……)
鏡影は拳を握りしめ、咲夜に放つ。
しかし、その拳は咲夜に当たることはなく空を切る。
(時間停止……いや、違う……)
鏡影は辺りを見渡す。
しかし、咲夜の姿は見当たらない。
「……」
鏡影の背後の木が揺れる音がする。
近くの地面を踏みしめる音がする。
風を切る音が聞こえる。
その音は背後から……否、そこら中から聞こえてくる。
(早い……)
音の正体──それは咲夜が移動する音。
咲夜が行ったのは時間の停止ではなかった。
先程とは比べ物にならない速度で咲夜は移動する。
「──いいだろう」
そちらがその気なら……
鏡影は地面を強く踏み込む。
(これならば……)
このスピードなら……
時間停止では通用しない。
ナイフで周りを囲んでも、あれにはまるで意味が無い。
ナイフがあれに到達するスピードでは問題なく対処される。
ならば、さらにスピードを上げて……
その時だった。
「──っ⁉」
咲夜の前を何かが通過する。
「まさか……」
咲夜は何かが通り過ぎた方向を見る。
そこにいたのは、鏡影だった。
鏡影は木の側面に着地し、方向を切り替え、木を蹴りまた移動する。
鏡影は咲夜を追う。
速度では咲夜の方が上ではあるのだが、鏡影との差はそこまで大きなものではない。
直線では鏡影との距離は離せるものの、鏡影は咲夜の進行方向を予測し、一直線に向かうなどのショートカットを駆使し、その差を開かせない。
(どういうこと……?何で私を追えているの……⁉)
先回りを多用しているものの、あのスピードは異常だ。
何かしらの能力だろうか?
それとも魔法?
自身を追う鏡影の姿を見る。
それは黒い影か、あるいは黒煙のようなものが移動しているかのような光景。
まるで幻──
そう思った。
幽霊とも言えそうだが、何かが違う。
それは本当にそこにあるのかすらも怪しく思えてきそうな、幻影のようだった。
咲夜はフランを見る。
フランは魔理沙に何かを耳打ちしていた。
「──は?」
「ちゃんと言った通りにするのよ?」
忠告のようにフランは言う。
「まあ、いいが……」
「大丈夫、安心なさい。あなたは私が守ってあげるから」
「………」
魔理沙は一度深呼吸をした後、手に持つミニ八卦炉に霊力を溜め始める。
「………」
その様子を見ていた咲夜には、言葉は交わさずともその意図は届いていた。
再び目の前に現れた鏡影から繰り出された攻撃を避け、ナイフを投げる。
ナイフは顔の真横を飛んで行き、頬に傷をつけてくる。
攻撃を視認し回避行動に移るよりも速く、ナイフはすぐそこにまで迫っている。
(この速度……並大抵の者が避けられるものではないな……)
そう分析する鏡影だったが、一つ気がかりなことがあった。
先程からメイド以外の二人が攻めてこない。
何故だ?
何が目的だ?
このメイドを捨て駒にして何かするつもりか?
ふと二人のいる場所を見る。
「──っ⁉」
目に入ったのは霊力を溜める巫女の姿。
すぐに巫女に向けて攻撃を放つ。
しかし、その攻撃は魔理沙に当たる寸前でフランによって防がれる。
(吸血鬼は巫女の守りに徹するつもりか……)
(ならばさっさとメイドを……)
そう思い振り返るが、そこに咲夜の姿はない。
「……?」
(いな──)
鏡影はすぐに影で自身を被う。
その直後、大量のナイフが影に刺さる。
(……妙な気分だ)
(何だ?この……まんまと思い通りに動かされているような癪に障る気分は……)
(何にせよ、早く終わらせるべきだ……)
影の中で外の様子はわからないが、ナイフで切りつけてくる音が聞こえる。
影を一気に破裂させるようにして、それまでに刺さっていたナイフと共に攻撃するために近づいてきていた咲夜を吹き飛ばす。
刺さりはしなかったものの、何本かのナイフが咲夜の肌を撫でる。
「くっ……」
風圧で吹き飛ばされるが、咲夜は一回転した後に着地する。
微かに体の所々が痛む。
(まだ四肢はある……まだ動ける……まだ戦える……)
腕や足、そして頬から血が垂れるがこの程度なら問題ないだろうと、咲夜は戦闘続行を決断する。
鏡影は魔理沙とフランの周りを回るように移動し、その合間に攻撃を挟む。
あらゆる方向から攻撃を仕掛けるが、ことごとくフランに防がれる。
さらに攻撃の密度を上げようとすると、背後からナイフが飛んでくる。
(こいつ……)
咲夜は鏡影の背後から追ってくる。
攻撃自体はたいした問題ではない。
しかし、完全に援護に回っているためか、そのタイミングが鬱陶しくて堪らない。
今は少しでもダメージを貰うことを避けたいのだが……
「……」
(もういい……この際メイドは無視でいい……)
咲夜よりもあの二人の方が今の鏡影にとっては脅威──
多少のダメージは覚悟して、先にあの二人をどうにかするべきだと鏡影は判断した。
(先に奴等の狙いを……)
鏡影は何か手がかりが無いかを考える。
「……」
(確か……吸血鬼……)
少ない会話などから情報を探る。
(フランドール・スカーレット……)
そうだ、あいつの名前……
今行っている解析を一旦中断して、フランドールの解析に集中させる。
(フランドール・スカーレット──吸血鬼……チッ、無駄に長く生きやがって……)
おかげで解析に時間がかかっている……
仕方ない……必要な情報だけを……
今必要な情報は……
「──チッ……」
飛んできたナイフを弾く。
あのメイド……
(……能力、能力だ……あの吸血鬼の能力を……)
鏡影はフランの能力に焦点を当てる。
(5……4……)
フランは脳内でカウントダウンを始める。
フランは踏み込み、瞬時に鏡影との距離を一気に詰める。
(あいつの……能力……)
解析が終わり、その内容から目的を考える。
「まさか……」
鏡影は何かに辿り着く。
この場から離れなければ……
鏡影は本能で危機を察した。
あの距離ではメイドがナイフを投げてきても問題はない。
だから……吸血鬼の攻撃さえ避ければ……
すぐにその場を離れようとするが、次の瞬間ナイフが周りに現れる。
「あら、お忘れではなくて?」
いつの間にかすぐそこにいた咲夜がそう言った。
(時間停止ッ……!!)
鏡影はそのことを失念していた。
だからこそ、対応が遅れる。
ナイフによって退路を絶たれる。
いや、そんなことはどうでもいい……
鏡影は体にナイフが刺さりながらもその場を離れようとする。
「──っ⁉」
しかしフランがその機を逃すことは無かった。
次の瞬間には鏡影の四肢がバラバラにされる。
「今さら気付いても、もう遅いわよ」
その言葉の後にフランは
「0」と続けた。
その瞬間、魔理沙は体の向きを変えてレーザーを鏡影に向けて放つ。
「あっ──」
フランの体スレスレをレーザーが通り、そこにいた鏡影が的確に狙い打たれる。
灰すら残さぬよう、魔理沙は溜めた霊力を全て注ぎ込んで放つ。
何も言葉を発することなく、鏡影はその体を焼かれながら吹き飛ばされた。
「……」
魔理沙はレーザーが向かった先を見る。
そこにあったのは焼かれた地面と黒い液体のようなナニか。
その黒い液体は再び集まり、形を成そうとするが少ししたら力無く崩れていった。
やがて黒い液体は蒸発するようにして空気中へと消えていく。
「タイミングバッチリじゃない」
フランは魔理沙にそう言う。
「褒めてんのか?」
「褒め言葉以外に何があるのよ……」
素直に受け取ればいいのにとフランは思った。
「終わり……でいいのか?」
何だか釈然としない魔理沙はフランに聞く。
「ええ……もう出来ることは何もないわ」
そう言って、フランは咲夜の方を見る。
「咲夜」
「はい」
「……よくやったわ」
そう言ってフランはこの場を立ち去って行く。
咲夜もすぐにその後を追ってこの場を離れる。
フランの言葉を聞いた咲夜の顔は、どこか嬉しそうだった。
二人が立ち去った後、魔理沙もすぐにその場を後にした。
────────
「はぁ……はぁ……」
再生が遅い……魔力切れか……
魂は……全部やられたか……
鏡影は魔理沙が放ったレーザーに直撃した。
しかし鏡影はその体が完全に消し炭になる前に大部分を犠牲にしてそのレーザーから逃れることに成功した。
その後鏡影は身を隠し、あの場から離れた場所まで地を這って移動してきた。
しかし、自身への恐怖からある程度形がわかるくらいには再生したものの、それだけでは全く足りていない。
今は……休息が必要……
どこか……身を隠せる……
今は身を隠して力が戻るまで待つべきだろうと、鏡影は考えた。
その時だった。
ザッ、という足音と共に前方に何者かの足が見えた。
誰だ……?
鏡影は目の前の何者かを見上げる。
その気配はどこかで感じたことのあるものだった。
「………お前……どこかで……」
それを発した後に気付いた。
「いや……直接の対面はなかったか……」
しかし、その顔には見覚えはない。
印象に残る気配だから、直接会ったように思えただけか……
「──
その言葉と共に、目の前の者は指を天に向け、その先に朱い太陽のような炎を作り出す。
「……はは」
笑っていた。
理由はわからない。
何故だろうか?
思った通りの展開になったからだろうか?
それとも、こういう状況が好きなのか?
死にたかったのか?
わからない……それに、どうでもいい……
「何度殺そうとも意味はない……」
気付けば自然と口が動いていた。
その言葉は誰に向けたものなのかは自分でもよくわからない。
「俺はいつでもそこにいる」
目の前にいる者に向けた言葉なのか……
「姿を、形を変えて……」
ここにいない誰かへの言葉なのか……
「
それは誰にもわからない。
「そのことを忘れるな」
おまけ
鏡影─
様々な怨念や恐怖から形を成しており、その核となるのが幻想への恐れ。
文字通り幻想そのものへの恐怖だけでなく、幻想郷に対しての恐怖も含まれている。
幻想郷への恐怖が生んだ影であり、幻想郷の闇を写す鏡。
変幻自在でありながらも、幻想郷にしかなれない鏡像。
三人と戦った時点の段階は、第二段階初期。
まだ成長しきれておらず、好奇心旺盛な子供のような状態。
感想、コメント等お待ちしてます。